具間禄:月姫 〜最終章〜


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1: 間桐 恭二 (2003/07/14 13:08:00)

 弾き飛ばされ、入り口近くの木に激突する。

「遠野君!」

「埋葬者、今は志貴の心配より、目の前の現実を直視して下さい! 彼も一人の人間です。貴方の手を借りずとも起き上がります」

「ええ、そうでしたね。 心配をしすぎていたようです。 ―――ですが、もう、恐れません。 やるべきことはわかっていますから」

 黒鍵を連続投射し、ムカゲの影を集中的に攻撃する!

「ちっ! このアマ・・・がっ・・・身体が・・・動かん!」

「『止葬式典』―――触れた者の動きを完全に封じる黒鍵に刻む文字の一つです」

 口にし、低空姿勢でアモンの懐に入り込むシエル。そこから、顔を蹴り上げ上空へと浮き上げる。 シエルもまた空中に飛び、拳と蹴りの嵐をアモンに浴びせる。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 恐れ戦いた人間が・・・矛盾を包装していた人間が・・・」

「人間は恐怖を克服することにより、どこまでも強くなれます。貴方のように単純に強さを求めているような存在では・・・」

 アモンの身体を両手で締め上げ、頭から地面に叩き落す!空中からバックドロップを決めたのだ。

「人間には勝てません」

 着地し、ホコリを払うシエル。その目つきは、殺気というより闘争心で満たされていた。

「く、俺は・・・俺は・・・俺は・・・惨めなのか・・・くそ!くそ! くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 立ち上がり、アモンは叫んだ。

 そして、影がアモンと同化し、本来の姿へと戻る。

 それは、クモの口を持った黒いムカデのような生物だった。大きさにして10メートル前後。 足はどれもが1メートルを超える長さである。

『あの時、腐食の力を持っていたガキに憑依し、周囲には二重人格だと思わせ、ガキが持っていた魔術の才能を引き上げた・・・シオン、あの時、お前が俺を殺していてくれたお陰で、俺は錬金術と魔術の両術を操ることが出来る完璧な人間となったのさ!この際だ・・・テメェら、まとめて喰らい尽くしてやる!』

 アモンは口から糸を吐いた。 糸がかかった地面は腐り始め、最終的には鉄のように固まった。

「危険ですね・・・アルクェイドが3週間かかると言っていた理由が良くわかります」

『ククク・・・恐れ戦け! 弱らせてから喰ってやるからよぉ!』

「そうは・・・させない」

『?』

「志貴! 気づきましたか!」

 シオンが後方を見ると、志貴が立っていた。ナイフは手に持ったままだ。

『ほぉ、直撃を受けてもまだ生きていたのか・・・面白い!お前を真っ先に喰らうとしようか!』

「出来ればの話だけどな!」

 アモンの尾っぽが志貴の左腹部を狙う。が、志貴はソレを鮮やかに後方に避けた。

『何ぃ!? ・・・腐食で目は潰したはず!何故、そこまで動ける!?』

「・・・忘れていましたか? 私の武器を・・・」

 シオンがエーテライトを街頭の光を利用して見せる。それは、志貴の後頭部に繋がっていた。

「何も言われずに繋がれたのはさすがに驚いたけどね」

 志貴が笑って言う。

「安心して下さい。 コントロールは100%成功しますので。貴方はアモンを倒すことだけに集中して下さい」

「わかった!」

『くそがぁぁぁぁぁぁぁっ! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!』

 糸を固まらせ、ハンマーのようにして振り回す!

「無駄です。 興奮による貴方の攻撃は決して当たりませんから」

 エーテライトを巧みに動かし、志貴をアモンの攻撃から回避させる。

『しゃぁぁぁぁぁぁっ!』

 口から吐かれた糸が志貴のジャケットの左腕に絡みつく!

「しまった!」

 シオンが思わず声を上げる。

『ククク・・・油断したか。 慢心が己の敗北を呼ぶとはな・・・』

「そうでもありませんよ。 貴方は結局、単なる狂心者でしかなかったのですから」

『!?』

 背後の気配を察知するアモン。そこには、『何か』を携えたシエルが居た。 第七聖典を構え、冷めた視線でアモンを見る。

『貴様如きにぃぃぃぃぃぃぃっ!』

「今度は逃げ出せない場所に送り込んであげます―――永遠に・・・逃げ出せない・・・奈落に!」

 第七聖典の引き金が引かれる!背中に直撃を受け、前のめりに倒れるアモン。

(奴の死の点は・・・胸部の中心!)

 アモンの胸部に当たる部分に点があった。人間体の時には決して見えなかった『点』―――そこを中心に全体に『線』が回っている。

 直死の魔眼を発動した志貴はナイフを右手で持ち、一直線上に構えた!

『俺が・・・お前に・・・殺されるのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

「あばよ・・・もう一人の俺。 ・・・そして、哀れな・・・俺」

 死の点を屍樹のナイフが貫いた―――それは、ほんの一瞬のことだった。

『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 叫び・叫び・叫ぶ・・・アモンの身体は徐々に灰となり、数分後には完全に消滅した。





/7:EPILOGUE



 翌日、志貴の目は完全に完治した。

 アモン・ヴィオーラーベルが消滅したことにより、腐食が完全に消えたのである。

「ふぅ、一時はどうなるかと思ったけど・・・本当、助かってよかったよ」

 志貴はベッドの中で呟いた。

「志貴様、失礼します」

 翡翠が部屋へと入ってくる。

「具合の方はどうですか?」

「うん、あれから身体の方も治ったし。傷もバッチリ・・・で、先輩は?」

「シエル様はイタリアへ・・・」

 あれから、シエルは教会からの別の仕事で日本を出発した。シオンもアルクェイドも着いていってしまったらしい。

「で、帰ってくる予定は?」

「来年か・・・気が向いた時に・・・だそうです」





あの時、アモンの死の点はあっさりと具現した。

理由はわからない。

考えられるとするなら、恐らく、アモンに憑依された罪の意識に悩まされた少年が自らの死を望んだ結果なのか・・・

それとも、アモン自身が己の死を知っていたからなのか・・・





今となっては、それが良かったのかすらもどうかわからない・・・





「お前なぁ、あの時勝手に帰ったのか?」

 商店街で有彦に突っ込まれる志貴。彼の話によると、2時間後に落ち合う場所に行っても志貴が来なかったことに憤慨して帰ってしまったらしい。

「悪い。 じゃあ、今日の晩飯は俺がおごるよ。手持ちは少ないけどな」

「昼飯はおごらないのか!?」

「・・・あのなぁ、俺の小遣いは秋葉が管理してんだ。残っている分でやりくりしないと・・・駄目なんだけどな」

「じゃあ、晩飯はどうするんだ?」

「高田君の兄さんが来るまで待つしかないだろ?」

「・・・機動屋台が来るまで暇つぶしかよぉぉぉぉぉ〜」

 嘆く有彦を尻目に天を仰ぐ志貴。



空は、気持ちが良い位に青く・蒼く・広がっていた・・・・・・



The FIN


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