具間禄:月姫 〜第五章〜


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1: 間桐 恭二 (2003/07/14 13:04:00)

「殲滅・・・ですね」

 シエルはそのまま黒鍵を取り出した。腕をクロスさせ、投げる瞬間に黒鍵に文字を刻み、投げる。 その数、6本。

「・・・むっ!」

 瞬時に危険と判断し、左腕を前方に突き出す屍樹。左腕が溶けて腐り、丸い盾のように広って固まった後、黒鍵がそこに突き刺さった!

「くっ・・・無理でしたか・・・」

「やはりな。 黒鍵に細工をしようなんざ・・・」

 屍樹の言葉が止まる。 左腕が燃えているのだ。

「なっ、火葬式典だと!?」

「ええ、腐食の力を持つ貴方であろうと身体が燃えるのならば、直射と堂等の力で攻撃できますからね・・・まして、貴方の正体も似たようなもの・・・」

「志貴が気絶しているからいいものの・・・みすみす見逃すわけにはいかん・・・!」

 左手の炎を消化し、元に戻す。

(やはり、根本的な『核』を破壊しなければ・・・遠野君の直死の魔眼で腕を切り落としても、アモンの腐結で完全に修復される・・・これを想定してアトラスの技術を得たわけですか・・・)

 シエルは胸中で察知した。

 つまり、直死の魔眼で死の線を切られても、腐結で切られた部分を作り、そこに擬似神経を通せば切られた部分は完全に修復出来る。最も、擬似の神経なので複雑な動きを命令することは身体に負担をかける原因となるが、死徒である屍樹には関係なかった。

「さて、遠野君を返してもらいましょうか・・・」

「ククククク・・・」

「?」

「・・・フハハハハハハハッ! そうか、そうか、そうすればいいわけか!」

「なっ、何です!?」

「・・・志貴は返してやるよ・・・お望み通りにな!」

 屍樹が指を鳴らすと彼の右目が細い手となった。

「これは、『腐変』と呼ばれる腐食魔術の一つ。物質を別のモノへと変換させることが出来る。 ―――約束通り、志貴は返してやるよ」

「遠野君!」

 シエルが駆け寄り、志貴の元へ近づこうとするが・・・

「邪魔だ。 引っ込んでろ」

「!?」

 両サイドの壁を腐変でハンマーのような腕に変え、シエルを弾き飛ばす!

「がはっ・・・・・・」

 地面に叩きつけられ、右膝を突きながらも立ち上がろうとする。

「プレゼントだ・・・受け取りな」

 屍樹の右目の手が志貴の両目を覆う。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 叫ぶシエル。 彼女にはその先が見えていた。

「離しなさい! 今すぐに!」

 黒鍵を何度も何度も投げるが壁の手がソレを遮断する。

「俺が志貴になれないならば・・・『志貴』そのものを司る原因を消せばいい。埋葬者ぁ・・・残念だったな。 お前の望む切り札は・・・残念ながら、ゲームオーバーだ」

「くっ・・・くぅっ・・・」

 屍樹が志貴を投げ捨てる。 志貴の両目は腐食により潰されていた。正確には腐食が始まったと見てもいい。

「ロシアンルーレットの例え話だ。三人の参加者が居て、銃弾が一発だけ込められた弾倉が六発分ある拳銃がある。 自分のターンに弾丸が回ってくるのは2ターン目。 自分は死にたくないし、生きたい。 他の参加者に弾丸が回ってきた時も同じように考えるだろう」

「・・・・・・・・・・・・」

 今の現状に口を閉ざすシエル。

「弾丸が回ってきた参加者は・・・ロシアンルーレットと言うゲームが行われている今を『無かったことにする』為に他の奴らを殺す。今の俺がそうだ。 このまま、志貴を逃せば、いつか、俺を殺す。 だから、・・・『直死の魔眼を腐らせて、奴の根源たる存在を無かったことにする』為に手を下したのさ」

「この・・・外道が・・・!」

「何とでも言うがいいさ。 お前はゲームに負けた。敗れた。 つまり、勝つチャンスを見失った・・・哀れだ」

 そして、シエルは志貴を担いで裏路地から出た。

 それは、光が差し込まない空間で行われた真っ昼間の戦いだった・・・





/5:百の足を持つケモノ



「おかえりなさいませ、志貴・・・シエル様?どうかなされたのですか?」

 屋敷の門に居た翡翠がシエルに対して訪ねる。

「屋敷に入れてもらえませんか?遠野君が大変なことに・・・」

「わかりました。 お怪我をなされているのなら・・・」

「私は大丈夫です。 それと、秋葉さんには内緒にしておいて下さい。彼女には余計な心配をかけさせないようにしたいので」



 志貴の部屋にはシエルと翡翠、琥珀が居た。

「どうですか、遠野君の容態は・・・」

「はい。 体力的には衰弱していますが大丈夫です。3日間の安静が必要ですが・・・やはり、両目が問題ですね」

 琥珀は淡々と言う。

「眼球の状態も見て見ましたがコレといった変化はありません。しかし、シエルさんの話を聞く限り、腐食は時間をかけて全身に回ると見てもいいようですね―――出来る限りの対処はします」

 そして、シエルは部屋を出た。

「埋葬者・・・いたのですか?」

「シオン・・・」

 シオンと鉢合わせになるシエル。

「貴女には・・・呆れましたよ、埋葬者」

「!」

「事実です。 もし、私が貴女の立場であったなら・・・志貴を8割の確率で救出することが出来ました」

「私には・・・出来ないと?」

「当然。 今の貴女や先程の貴女では無理・・・以前に無駄です。敵の言動の一つ一つに誑かされ、志貴を救出するチャンスを失った貴女は完全な敗北者・・・と、言いたい所ですが、今はアモン・ヴィオーラーベルのことを話するのが先です。来て下さい」



 そこは、シオンに宛がわれたシオンの部屋だった。

 本棚には様々な本が並び、観葉樹も置いてある住むには最適な空間だ。

「そこに、腰掛けてください」

 と、奥にある茶色のソファーを指差す。

「・・・」

 無言で座るシエル。 シオンも分厚い辞典のような本を持って、シエルと向き合うようにソファーに座った。

「で、貴女はアモンのことをどれくらい知っていますか?」

「・・・死徒27祖の26番目、6年前に教会が彼を捕らえ、贖罪。ですが、2年前に脱走。 生命力は微弱ながら死ぬほどではなかったと記憶しています」

 シエルが説明する。

「ええ、大方の説明はそれで補えます。肝心な所は、彼の正体とその目的。 そして、対処方法ぐらい・・・ですね」

 シオンは奥の棚から一つの生物の足のようなものを取り出した。黒く鋭い長さ1メートルはある鈍く光る爪だ。

「これは?」

「アモン・ヴィオーラーベルが残した彼の一部です」

「・・・・・・!」


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