ふとした瞬間。
例えば朝目が醒めて学校に向かうまでの僅かな時間。
そう・・・本当に僅かな時間。
「・・・・・」
遠くで何か音がする。
恐らく掃除等の家事の類。
目の前で紅茶が冷めていく、それが室温と変わらなくなるまでじっと待つ。
カップは二つ。
例えば学校からの帰り道。
夕焼けに照らされた坂道で。
周囲に家が少なくなれば途端に自分が1人きりでいるのが怖くなる。
傍に居てほしい。
休日は嫌いだ。
否応無しに迫ってくる喪失感に気が滅入る。
気遣う二人には悪いが私の焦燥と苛立ちは治まりそうに無い。
気が付けば酒を嗜む事も稀になっていた。
決して嫌いになったわけでも飲めないわけでもない。
ただ、虚しくなるから飲めない。
飲んだらきっと・・・・泣いてしまう。
ごたごたは有ったが私は結局学院の寮に帰る事にした。
あの静かで落ち着きの無い学内に居れば屋敷に居るよりは気が紛れると思ったから。
乾さんは何か言いたそうに頭を掻いていたが最後に笑顔で苺牛乳を手渡された。
変わり者だけどきっといい人だったのだろう。
学園に戻ればそれなりに気は紛れた。
そう。
それなりにだったけど・・・。
結局気が紛れたのはほんの僅かな間だけ。
降り積もった喪失感が顔を出し結局私は何事も楽しめないでいた。
兄さん。
私は元気です。
ただやっぱり寂しいです。
多くは望みません。
帰ってきてください。
声を聞かせてください。
傍に・・・・居て下さい。