世界はこんなにも単調で美しかっただろうか……
林に点在する木の葉の緑と、その上にデコレーションのように積もった雪が二人の存在を際立たせていた。
白と緑、美しいグラデーションはまるで人の手で創り出したようで、
真っ黒な服と、鮮やかな和服との対比は、それこそ名画と呼ぶに相応しい美だった。
雲に覆われた灰色の空を見上げると、悠久の時を掛けてゆっくりこの世界を飲み込むかのような雪が降っていた。
ただそれだけが世界の全てのようだ。
ああ、それはどんなに素晴らしい事か。
小さな箱庭で、彼と二人、永遠に生き続ける。
それはきっと至福の時間だろう……
でも、今はまず……
少女は、自分に似合わないであろう童女じみた夢想を打ち切ると、目の前の人物に視線を戻した。
「オマエ……幹也じゃないだろう……」
いきなり確信を突く質問。
いちいち遠回りな問いただしをしている時間は無い。
先程は突然の事に驚いたが、今は冷静になって事態を処理できる。
結論から言うと、眼前の人物は幹也で在り得ない。
人が知覚できる全ての情報を統合しても、彼は間違いなく黒桐幹也と断言できるだろう。
ああそう、そういう点で言えば、彼は間違いなく私の思い人だ。
しかしまあ……ずいぶんとあからさまな罠を用意したもんだ。
なめているのか……罠と解っていてそれに引っかかるほど、両儀式は脆くは無い。
「いくら幹也を見せても無駄だよ。この状況に、ココに、こちら側に幹也は存在できない」
「……非道いね、式は。僕を疑うのかい?」
「もういい………その声で他人が語るな。虫唾が走る!」
感覚が戻った足に力を込め、雪ですべる地面を掴み、溜めた力を爆発させた。
力は地面を弾け、疾駆する動力となる。
彼我の間隔は約3メートル。
『今』の自分でも、充分一呼吸で相手を両断できる距離だ。
一瞬に足りるかどうかの時間を経て、式はソレの間合いに入った。
後は腕を振るうだけ。
ナイフを握った腕を少しだけ振り上げ、最短の距離で『線』をなぞる。
腕の運動エネルギーと、重力とで加速した刃物は弧を描き、音も立てずにそれの中にのみ込まれた。
否……のみ込まれるはずだった。
無骨な鉄片は虚しく空を斬り、動作後の硬直と驚きとで式は動けなくなっていた。
今……何が起こった…?
……避けた?
否……断じて否。
今の斬撃は、人の神経伝達速度の限界を、人の反応速度の壁を超えた一撃。
勘か、完全な予測の外に避ける手立ては無いはずだ。
更に言うならば、私は確かに捕らえていた。
明確な殺気を込めたあの一撃を放つ、その寸前まで……
どういう……事だ……
「それはね、式。こういうことだよ」
ハッと驚き、頭上からした声の主を捜すと、太い木の枝に座る幹也の姿があった。
何が面白いのか、両の腕をあごに当て子供のようにニコニコと笑顔を携えている。
「ほら、こっちにも……」
今度はまた、別方向から声がした。
自分の真後ろを振り向くと、そこにはまた同じ笑顔の幹也がいる。
「こっちだよ…」
「ここにも…」
「横だよ…」
無数の方向からアイツの声がする。
気が狂いそうだった。
『僕は…ココにいるよ』
そういう……ことか。
「ふん、数できたか……いいぜ幻影だろうがなんだろうが、全部殺してやる!」
式は憤怒の表情で、無数のターゲットに向かっていた。
愛するヒトを愚弄したモノを滅殺するため……
「はあ……はあっ、はあっ」
……疲れた。
攻撃したら霧散するとはいえ、量がかなりあった。
雪の中動き回ったせいか、先程巻いた布は意味を無くし、足はまた赤く腫れ上がり感覚がない。
どのくらいの時間、斬っていただろうか?
幻影に隠れ攻撃を加えてくるかと思ったがそれもなく、最早奴はここら辺にはいないかもしれない。
となると、橙子のところに行ったか……
一応、捜してはみるべきだろう。
力が入らない足を無理やり駆動させ、立ち上がる。
式は周りを見渡すと、うんざりといった感じで歩き出した。
普段のしっかりとした足取りではなく、よろよろと老人のような危なっかしい歩を数回繰り返したところで、式は異変に気付いた。
なにか、いる。
真後ろ、確かに気配を感じる。
「まだ…残っていたか……いい加減消えろ!」
余力を全て込めた足を踏みこみ、先程と変わらぬ速度で体は舞った。
斬舞の途中、体を捻り目標を正面にとらえる。
予想の通り、そこには男のニセモノが在った。
……許さない
幻影とはいえ、何度私に幹也を殺させるつもりだ。
脳はショートし、正常な判断が出来ない。
触覚は既に無いに等しい。
私の全感覚はオカシクナッテイル。
そう、私は既にどこかオカシイ。
何故、それがニセモノと解ったのだ。
……どうでもいいか、今はアイツの隣でゆっくり眠りたい。
神速の踏み込みを以って射程範囲内に収まると、今までと同じように技を振るった。
刃音を伴う斬撃で、対象を袈裟に切り裂く。
ハヤクシネ
ハヤクシネ……ニセモノ!
ざんっ
手に伝わる肉の感触。
飛び散る血飛沫。
分断された上半身と下半身とが壊れた人形のように脈動する。
真っ赤に染まった口はシキとどこかで聞いた名前を繰り返す。
どこかで見たソイツは、私の好きなアイツだった。
「ミキ……ヤ…?」
「いやあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」
哀惜の慟哭は虚しく、広いセカイの空に吸い込まれ
木々は慰めることなく、ただ存在していた。
セカイはこんなにも単調で残酷だっただろうか……
答えるモノはこの箱庭のセカイに存在しない。
【アトガキ】
えっと……スイマセン(挨拶
遅くなって……あと、いろいろと。
いやね、スパロボが面白くて……あー、そこ黒鍵投げないように……
さて……まあ内容については触れません。
感想くれると嬉しいです。
そして、新たなコーナー(?)
オススメSS第一弾!
え? いらんて?……固い事は言いっこなし。
ここで紹介せずとも知ってるヒトはいっぱいいるでしょう。
40%の60Lさんの「愚か者達の優しいワルツ」。
シエル好きなら見れ!
語り尽くせぬ内容の面白さと、魅力あるオリキャラが素晴らしいよー。
あ、ちなみにこれは独断でやってるんで、作者さんの許可はとってません(ぇ
問題あるようでしたらすぐ消します、64さん。
あと、感想停滞しててスイマセン。
まとめて必ず。
では、またー
マブラヴはアンリミ派な舞姫ますたーでした。
「ラーゼフォン 多元変奏曲」はグッドでした。
ヘイドー!
【なんとなくBGM】
菅野よう子feat.坂本真綾『Toto』