路空会合七話前編


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1: 烈風601型 (2003/03/13 15:05:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

「へぇ〜それにしても本当に志貴にそっくりー」
「人をじろじろ見るのは失礼ですよ」
「そんな事を言って鳳明を凝視しているのは誰かな〜」
「でも兄さんとは少しだけ空気が違いますね」
「あは〜、それは当然ですよ〜志貴さんのような雰因気をお持ちな方なんてそうそう、いらっしゃいませんよ〜」
「はい・・・私も姉さんと同じ意見です」
今、俺は志貴の義理の妹やら志貴付きの侍女やらに囲まれ、まるで見世物小屋の珍獣の様に言われたい放題言われている。
まあ最も向こうでも、
「鳳明様と違うのは・・・髪形・・・」
「あと翠ちゃん、性格も少しだけだけど違うよ」
「じゃが本質は同じじゃな。こやつにもホウメイと同じ空気を感じる」
「確かに見ているだけでも安堵しますね。七夜殿と同じです」
「本当ね。でもまさか、私達未来に来ていたとは思わなかったわ」
内心(俺はサーカスの珍獣か)と、文句を言いたいが鳳明さんも似たり寄ったりなので何も言わないでおこう。
さて、何故こうなったのかと言えば、あの後、アルクェイド達は俺にあの化け物はなんだったのか?
あの自分達にそっくりな女達は誰なのか?
そしてなにより志貴にそっくりな彼は誰なのか?
と次々と詰問を浴びせ掛けてきたのだ。
そして俺もセルトシェーレらに今ここは何処なのか?
向こうの奴らは一体誰なのか?と追及が始まった為、一旦この屋敷に入って説明と言う事になったのだ。
そして一通りの説明が終わると納得した女性陣は次に俺達の顔をじろじろ見始めたのだ。
「そっかー七夜鳳明って本当に実在したんだー」
「おいこらそこの馬鹿女、俺が今まで嘘付いていたとでも言いたいのか?」
「うにゃああ!!痛い痛い志貴〜こめかみにグリグリは止めて〜」
「そこまでにして置け志貴、本気で痛がっているぞ」
「大丈夫ですよ鳳明さん。こいつは体を十七分割されても死ぬような奴じゃないですから」
「ふう、情けない。同じ真祖として恥ずかしい」
「ですが、セルトシェーレさま。アルクェイドさまはお変わりになられました。・・・志貴さまのおかげで・・・」
「レンは今のあやつと昔のあやつどちらが良いというのじゃ?」
「もちろん今の方が断然良いです」「ふむ、そうか・・・」
と、こんな風に馬鹿話をしていると、
「皆さーん、ご夕食にしましょう」
「ん?そうか・・・それじゃあ志貴、名残惜しいが・・・」
「ちょっと待ってください鳳明さん。鳳明さん達もご一緒にいかがですか?」
「え?だが・・・」「鳳明さん。琥珀さんの料理は絶品ですからぜひとも食べていってください」
「しかし、時空の穴をあのままにしておけまい」
「それなら大丈夫よ」「先生!!」「ああ貴女は・・・しかし大丈夫とは?」
「ええ、元々あそこは夜、人なんて殆ど通らないし、念には念を押して人避けの結界も張ったからね、よっぽどの事が無い限り被害は出ないから」
「そうか・・・では少し頂いてゆくか」
「はいはい。ではこちらにどうぞ」と琥珀さんは嬉しそうに皆を食堂に案内する。
食堂には豪勢な食事がテーブルに所狭しと並べられている。
「琥珀さん、随分と豪華ですね」
「はい、ここでの滞在も明日のお昼までですから、思い切って奮発しちゃいました」
「えっそうなのか?」
「はい、もう兄さんもここでの目的も達せられましたし、本来でしたら今日はもう屋敷に戻るつもりでしたから」
「そうか・・・」
「ほらほら〜志貴早く食べないと無くなっちゃうよ〜」
「ああ・・・」
「この料理は何かしら?」
「うわ〜翠ちゃん見て見て〜お魚の御刺身〜」
「本当だわ、姉さま。こんなにも新鮮・・・」
「ふむ・・・確かに不味くは無いようじゃな」
と言いながら食事は楽しく過ぎてゆく。
暫く経つと料理はあらかた無くなり女性陣は酒を飲みながら談笑を始めている。
そんな光景を俺と鳳明さんは部屋の隅で静かに聞いていた。
「・・・しかし秋葉の奴、飲ませ過ぎだ」
「すっかり、あいつら皆酔い出しているな・・・」
俺達二人は互いに苦笑するしかない。
すっかり出来上がった秋葉は、酒を飲むのを避けていた紅葉や翠達にも酒を勧め始め、飲まないと性質の悪い絡みをするのだ。
その為、次々と酔い始め今や、酔っていないのは全員の介護をしている琥珀さんとレンちゃん、そして自分のペースを守って淡々と飲んでいる先生しかいない。
もはや談笑と言うよりも秋葉ら酔っ払いの管の巻き場と化していた。
「・・・やばいな・・・鳳明さん」
「どうした志貴?」
「一旦ここを脱出しましょう。間違いなく次の標的は俺達です。それに少し話もしたいですから」
「そ、そうか・・・じゃあ、中庭に行くとするか。今宵は月が綺麗だからな」
危険を察知した俺のそんな言葉に同じ事を感じていたのか、鳳明さんは少々引きつつも直ぐに了承した。
俺達はそっと中庭に出ると、別荘からなるべく離れ、適当な場所を見つける。
すると、
「志貴、どうだ一杯だけ」
と鳳明さんは猪口に日本酒を注ぐと俺に差し出す。
「そうですね一杯だけ頂きます」
と俺はそれを受け取ると鳳明さんは楽しそうに自分の分にも注ぐと、
「じゃあ、乾杯」
「乾杯」
軽く目線まで猪口を掲げ、俺達は静かに一口ずつ飲むと、それを皮切りに話を始めた。
「・・・志貴、今宵は本当に世話になった。おかげで俺達の依頼も果たせた。礼を言う」
「いえ、礼を言うのは俺の方です」
「ふっ、しかし真にお前は俺に似ている。恐らくお前は俺の血を引いているのかも知れんな・・・」
「そうですかね・・・あっ、それで少し聞きたい事があるんですけど良いでしょうか?」
「なんだ?俺にわかる事なら可能な限り答えるが」
「鳳明さんはこんな眼を持って気が狂いそうでしたか?」
「そうだな・・・最初の頃は、線を見るだけで気分が悪くなり何日でも絶食した。もう線を見るのにも嫌気がさして、眼を刳り貫きたい衝動にも駆られた事だって何度もあった。それでもこの眼と上手くやってこれたのは、俺を心底愛してくれた親父や母者、兄者達・衝、そして翠や珀がいたからこそだと思う。出なければとっくの昔に俺は『凶夜』として、処分されていた。・・・志貴お前に質問だが、俺達七夜が『凶夜』となる条件は何だと思う?」
「えっ?やはり生まれながらにして異常としか思えない能力を有すると言う事でしょうか?」
「それもあるな・・・しかし俺は後もう一つ条件があると思う。それも恐らくそっちの条件の方が重要なんじゃないかと言うくらい重要な・・・」
「それは一体・・・」
「愛情さ。もう過去の『凶夜』の詳しい記録が無いから俺も詳しい事は判らないが、恐らく過去の『凶夜』はただ単に道具としてしか見られず、道具としてとしか存在価値を許されず、一片の愛情も注がれなかったのでは無いだろうか?それゆえにやがて心を失い、最終的には狂い『凶夜』に成り果てるのではないかと俺は思う」
「・・・・・・」
「現に俺は先にも言った両親や兄弟の愛情を受けて『俺は道具なんかじゃあない。人間、七夜鳳明なんだ』と確信をもつことが出来たんだ。それに・・・それに関しては志貴お前も同じだろう?」
「えっ?」
「お前は確かに『凶夜』となる者としては特殊かもしれない。生まれた時には普通の七夜であったにも関わらず瀕死の重症を経て俺と同じ眼を持つに至った。しかしその後はどうだった?」
「そういえば・・・」
確かに、俺はこの眼を持って最初に先生に出会い、自分の生きる意味、この眼の存在する意味、そして俺自身を守る為の眼鏡をくれた。
そして退院すると俺は遠野の家を事実上追放されたが、恨むよりも秋葉や翡翠・琥珀さんの事が気になった。
さらに養子として出された有馬の家でも俺は本当の息子のように接してくれていた。
「そうですね。確かに俺も沢山の人から愛情を受け、大切な人の心配もしました」
「その心さ志貴。その心がある限り、七夜は『凶夜』となることは絶対に無い。だからお前も自分の思うがままの道を行け。そうすれば後悔も少ない筈だ」
「はい・・・」
俺に自然な笑いが零れた。
が、直ぐに表情を引き締めると、
「次ですけど・・・」
「なんだ?」
「鳳明さんから見て俺はそんなに長くないと思いますか?」
「?どうしたんだ?そんなしけた質問」
「実は・・・」
と言うと志貴は自分が俺と同じ黒き血を吐いた事を告げた。
「そうか・・・志貴お前がそれを吐いたのは今日が初めてか?」
「はい」
「吐く前にはお前は、俺が吐血する夢を見た」
「その通りです」
「・・・大丈夫だ。俺から見て志貴、お前は俺ほど短くは無い」
「えっ?」
「きっと、その吐血は俺に引きずられたのだろう。魂までも共有しているのならば、不思議は無い。お前がその吐血をしたのは初めてなのだろう?だとしたら俺の影響だ。俺もここまで酷くなる前は血も赤かったからな・・・それだけか?」
「あっ後もう少し、・・・鳳明さんにとって『死』とは何だと思いますか?」
そう・・・色々と聞いてきたが、これが一番聞きたかった事・・・この眼を持った時から抱き続けていた苦悩・・・
こんな質問アルクェイドにも先輩にも秋葉や翡翠・琥珀さん、それにレンちゃん・・・誰にも聞けない事。
俺と同じ死を見る眼をもった人だけに聞ける質問だった。
「・・・」
俺の質問に鳳明さんは少し困った様だった。
だがそれでも静かに
「その答えは・・・俺にも判らん」
「そうですか・・・俺はこんな眼を有していますが未だに『死』と言うものが何なのか判らないのです」
俺が若干落胆しながら言うと鳳明さんは更に言葉を繋げた。
「それは違う。多分その答えを俺達は持ってはならないと思う」
「えっ!!」
「俺達に限らずどの様な生物と言うものは常に死と言うものを意識しながら生きるしかない。ましてや、この世のどの様な生物の中でも最も『死』に近い所で生きているのが俺達だ。そんな俺達が偉そうに『死』について、しゃべる事事態がおこがましいのでは無いのでは無いだろうか?『死』が何なのか?それは人が、死を得る時に初めて悟るものなんだと俺は思っている・・・自らの命と引き換えにな」
「近すぎる場所にいるから、かえって見えにくい真実もあると言う事ですか?」
「そんなところだ。まあそんな深く考えるな、この問題は多分、人だけ・・・俺達だけでわかる問題じゃないからな」
「・・・・・・」
そんな神妙な表情の鳳明さんに、俺は口を挟む事無くただ静かに聞いていた。


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