空と月の死期〜捌章・弓射無対・前編〜


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1: 舞姫ますたー (2003/03/04 01:58:00)

「ったく、なんなんだよ、これは!」

 少女は疾駆する。

 白銀の世界。
 
 若干顔を覗かせる地面と木肌が、僅かに世界に異なる色をもたらしていた。

 それ以外は、一面白一色。

 昨晩から振り続ける、羽のように柔らかい雪が、地面に注ぎ固まっていた。

 少し硬い、それでも柔らかい雪化粧の地面が、少女の裸足の脚に絡み付いていた。

 少女は何故裸足なのだろう?

 そして何故、何かから逃げるように複雑に、粗雑に走っているのだろう?

 それら全ての原因は少女の僅か後方、数メートルの木の上を器用に飛び跳ね、追って来る女性にあった。

 ソレは確かに人だった。

 常ならざる動きをしていても、少女にとってその動きは驚きはすれ、理解不能なものではなかった。

 だから信じられた。

 それが人の姿をしたナニカではなく、人であると。

 否、信じたかった。

 少女もまた、「そちらの世界」に属する者であったから。

 


 

 ヒュンと、風切り音を伴い、何かが正確に少女目掛けて飛んでくる。

 女性が放った何かは細身の、大の男の手なら7本は握れそうな剣だった。

 少女は、両儀式はその飛んでくる剣を凝視し、弾道を見切り、木の陰でソレをいなした。

 かなり太めの木の幹は音を立てて燃え上がり、やがて消炭と化した。

 先程からこの様な応酬が続く。

 女性が剣を射たように飛ばす。

 式はソレを避ける。

 照準がつけ難いよう、且つ相手から離れるよう、式は粗雑に走った。

 直線ならばとっくに勝負はついていただろう。

 それほどまでに投擲は正確で、嫌に成る程避けにくい。

 寸分でも読み違えば、串刺しは必至。

 ホントに文句の一つでも垂れなければやってられない。

 幸い、どこぞの妖槍のように自分の手元に呼び寄せられるなんて事は無いらしく、弾数に限りは有るようだ。

 先程から数えて、既に六本。

 瞳の隅に捕らえた奴の姿から、指の間に八本、剣を挟んでいる事が分かった。

 ……残り二本。
 
 逃げ切れるか?

 奴が放つのはいずれも必殺の間合い。

 例えば寒さに足が止まりそうになった時。

 例えば雪の合間から覗かせる小石に躓いた時。

 それでも何とか、本当にギリギリで避けてきた。

 そろそろ足が言うことを聞かなくなってきた。

「あっ!」

 唐突に、雪に隠れて気がつかなかった木の根に足をとられる。

 ヒュン

 風を切って、飛んできた。

 わたしの命を奪おうとする悪魔が。

 ナイフは無い。

 叩き落すのは無理。

 ドクン

 ドクンドクン

 ドクンドクンドクン

 心臓が高鳴る。

 死ぬ。

 このままだと。

 殺される。

 嫌だ。

 いやだ。

 イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ

 シヌノハ…………………イヤダ!

 


 











「……其は何ぞ」


『我は刃。その鋭き鋼の身を以って、敵を斬り裂く者なり』



 



















 地面の雪を掴む右手から音がした。

 キィィィィィンと耳鳴りにも似た、不快な音。

 手が熱い。

 焼けるようだ。

 なにか……在る。

 これは…この感触は……

 ソレが何であるか、理解するのとどちらが早かっただろう?

 私は向かい来る鉄塊に向かって、右手を振るった。

 無意識に、この体に染み付いた業を以って、鮮やかな直線を描くソレを叩き殺す。

 モノクロにも似たスローの世界。

 線は丁度ど真ん中をはしっている。

 点は……柄と唾の間。

 この角度では正確に突けない場所にある。

 ならば、と私は正面の剣の切っ先にソレを立てる。

 其処から寸分の狂い無く、自分でも驚くほど一直線にソレを動かした。

 自身の運動エネルギーと私の振るったモノのエネルギーとの衝突で、本来は火花や音を伴うのだろう。

 しかしその鉄塊は、まるでそれが元からそうだった様に自然に、ソレをその身に飲み込み、意味を亡くした。

 



「ふぅ……」

 どうにかなったか……

 だが安堵はできない。

 残弾数は後、一発。

 直ぐさま踵を返すと、私はまた走り出した。
 






















 蒼髪の女性は、優雅に、舞うように地面に着地すると、その華奢な手に似合わない無骨な鉄塊を拾い上げた。

 チャキと音を鳴らし、女性はそれを回し見る。

 二つに分断された塊はまるで鏡のように、切断面に女性の端正な顔を映していた。

「この切断面は……まさかとは思いますが……」

 綺麗な、美しい、どんな名刀とどんな剣の腕を併せ持ったとしても、実現不可能であろうその断面を創り出せるのは…

「より安全な策をとった方がいいですね……余り気は進みませんが…」

 そして女性はまた、木の幹を駆け上がり、枝から枝へと獣のように駆け抜ける。

 その瞳に、決意の意志と、悲哀の情を浮かべながら…… 


























 どれだけ走っただろう?

 わたしは少し開けた場所に出た。

 先ほどの奴の気配はしない。

 ようやく安心して、体の状態を診ることができた。

 適当なところに腰を下ろし、いつでも迎撃ができるよう自身の感覚を研ぎ澄ます。

 さて……疲労という状態を抜けば、酷いのは足だけか……

 凍傷になりかけている。

 裸足で雪の上を、しかもかなり長い間走ってきたんだ、それも当然か。

 取り敢えずマシだろうと思い、わたしは着物の袖を引きちぎり、足に巻く。

 包帯の代わりと、靴や草履と比べたら雲泥の差だが、それでも足を守るためにはなる。

 左手一本でくるくると長細く切った布を巻いているうちに、さっきの出来事を思い出していた。

 抱えるように足を抱きこんで暖めてもいいが、それではいざという時、動作が遅れる。

 右手には、なぜか先程、突然具現化したナイフが握られている。

 さっきの攻防、完全に虚をつかれだめだと思ったとき、本当に唐突に右手にナイフが現れた。

 綺麗な刀身でかなり年代物なのだろう、年月を重ねてきた、古くもなお輝く美しさを内包している。

 なぜか飛び出しナイフなのだが、妙に手にしっくり来る。

 持った瞬間など、自分の使い慣れたナイフのようだった。

 最もそのおかげで考えるより早く振るえたわけだが……

 今度は左手にナイフを持ち替えると、もう片方の足に布を巻き始める。

 ……今のところ人の気配は無い。

 見える範囲での異変も無い。

 あたり一面、針の落ちる音すらなく静まり返っている。

 くるくるとわたしは布を巻く作業に没頭していた。

 …………………

 












 よし、終わり。

 立ち上がり、もう一度辺りを見渡しても何も異質なことは無かった。

 ……おかしいな…そんな簡単に見逃してくれる筈は…

 ガサッ

 !

 そっちか!?

 わたしは音のした方を見ると、身構える。

 ドクンと普段より余計に心臓が音を鳴らすのが分かる。

 いいさ、来いよ。

 あんな剣ぐらい叩き殺してやる。

 ………

 数瞬の後、音の主が姿を見せる。




 カソックの衣装ではなく、黒一色にまとめられた服装。

 
 
 女の、凹凸のある体では無く、僅かながらも男特有の線の太さを出す体。



 そして何より

 

 蒼ではなく



 漆黒の



 顔の左半分を覆い隠した髪



 忘れるもんか



 忘れてやるもんか



 あいつの顔を


 
 わたしの唯一の人の顔を……誰が忘れるもんか!



 其処には飄々として、あいつの顔が在った。



「……幹也?」



「やあ式」



 ホントに、さっきまでの緊張がバカらしくなるくらいの笑顔を浮かべた、幹也の顔が其処に在った。






















 今だ射止められずに、空の弓は手段を講じた。

 己すら嫌悪するほどの、最悪の手段を。

 死期は…襲来は近い。

















 







【アトガキ】

 YAーHAー(挨拶
 
 ちわっす、だいぶ遅れたけど舞姫ますたーです。

 無事人生の分岐点も終わり、すっかり堕落している今日この頃。

 世間ではマブラブ地雷説が囁かれていますが、当人はまったく関係なく、あしたの雪乃丞2を今更やってます。
 
 しかし…いいね、コレ。

 あきら最高!!

 その後のエンドより、あきらエンド!

 コレ人生の掟なり!

 ……なんのこっちゃ

 でも自分的には大ヒットでした。

 懲りずに1までやりだす始末。

 何度でも言おう!
 
 あきら最高!!

 まあマブラブも買ってあるので、サクラ大戦が終わり次第、手をつけようと思います。

 あ、あと勉強の息抜きに買ったデビルメイクライ2もね。

 え? SSの事?

 うーん……これといって言う事は無いんですが……そろそろ受験組が復活してくるので自分も頑張りますか。

 そうそう、人気投票の件、随分票が伸びてますね。

 できればコメント欲しいなー……

 いえ入れてくれるだけでもいいんですが、どうもコメント数が2ってのは寂しいっす。 
 
 では、感想などお待ちしております。

 長く、全然後書きじゃないアトガキに付き合ってくれてありがとう。

 すんません、鬱憤がたまってたので。

 ほいではまたー

 マッサラーマ!

 あきら最高!!!……シツコイ?









【なんとなくBGM】

 ポルノグラフィティー 「ヴォイス」


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