千年錠の男・第一話


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1: 猫乃真 (2003/03/02 12:05:00)[NEKONOSIN at jp-n.ne.jp]









「何ですって!!?」

黒い部屋の中、法衣服を着たシエルがそう叫ぶ。
その顔は驚愕の色に染まっていた。

『残念だが、これは事実だ。コーバックアルカトラスがフランスで確認された』

シエルの視線の先――――部屋の中に置いてある姿見から男の声がする。
暗がりでよく見えないが、そこには本来映るはずのシエルの姿が無く、男らしき影が映っていた。

「馬鹿な・・・彼は確か己が作った固定空間に封じ込められたはず」
『確かに彼のモノは己で作り上げた空間に閉じ込められていた。
 が、しかし、現実にコーバックアルカトラスによって被害がある。我が埋葬機関の一員も何名かやられている』

姿見に映っている男がシエルにそう言い放つ。

「わかりました。彼が現世に出現した、それはいいでしょう。でも、何故それを私に?」
『それだがな、シエル。どうやら、コーバックアルカトラスは日本、それも君がいる街に向かったそうだ』
「な――っ!?」

男の言葉に驚きの声をあげるシエル。

「それは本当ですかっ!?」
『うむ。真祖の姫君が狙いのようだが・・・』
「アルクェイド・ブリュンスダッドに?」
『ああ。機関の情報部の話によると、おそらく』

男の言葉に黙り込むシエル。
刹那の間の後、シエルは姿身に映る男に言葉をつむぐ。

「・・・それで? 私にどうしろと?」
『それでこそ、埋葬機関第七位の『弓』だ。話が早い。
 今回の君の任務は真祖の姫君の監視および、可能であればコーバックアルカトラスの殲滅をしてもらう』
「わかりました。では、今夜からアルクェイド・ブリュンスダッドの監視を開始します」
「ああ、頼む。精霊と御名の下において、アーメン」

男が指を十字に刻み、そう言うのと同時に姿見から掻き消える。

「コーバックアルカトラスですか・・・」

はぁ・・・と、溜息を吐くシエル。
彼女は部屋の中を歩き、窓辺に立つ。

「司教はああ言ってましたが、おそらくコーバックアルカトラスの狙いは遠野君でしょうね」

シエルは窓から、まん丸と光輝く満月を見上げる。

「まったく・・・遠野君に会ってから休む暇もありませんねぇ・・・」

そう苦笑しながら、シエルは穏やかな表情をしている少年の姿を思い描いた。










月姫サイドストーリー
〜千年錠の男〜











「ん・・・」

不意に目が覚める。
季節は秋。
肌寒さのせいか、いつもならすぐに覚醒しない思考がすぐに動き出す。
どこだろう、ここは? と、目が覚めた状態のまま、視覚に入ってくる光景を分析する。
どうやらここは学校らしい。しかも、時間も時間らしくあたりは真っ暗で、今が夜だという事を教えてくれた―――――――って!

「うわ!? 何で外が真っ暗なんだ!!?」

そう叫ぶように言って、席から立ち上がる俺こと遠野志貴。
俺は首を激しく動かして、あたりを見渡す。
もちろんの事だけれども、すでに教室の中には誰もいない。
そこまで経って、全てを思い出し、理解する。
俺は深い溜息を吐く。

「・・・まったく、誰か起こしてくれていいもんじゃないのか?」

頭をぽりぽりと掻きながら、そう一人愚痴る俺。

(まあ、昼後の授業から今まで寝てた俺も俺だけどさ。)

「――って、そんな悠長な事考えている場合じゃない!」

俺は暗がりの中にある時計を見る。
そこには門限間近の時刻が記されていた。
遠野家のまでの道のりを考えると、8時まで帰宅する事は無理っぽい。

「はぁ・・・、また秋葉に叱られるな。それと、翡翠にも」

がっくりと肩を落とし、溜息を吐く俺。
まあ、落胆してても良い方向に運ぶ事も無いんで、さっさと帰ることにしよう。
俺は心の中でそう思い、鞄を持って教室を出た。
秋葉と翡翠の怒り顔を頭の中で想像しながら。








玄関を出ると、外はシーンと無音の世界が広がっていた。
空を見上げると、数多の星星も見ることが出来る。
もちろん、まん丸のお月様も。

「――――――」

そんな寒空のグラウンドに1人の男が立っていた。
まるでそこにいるのが当然かのように、けれど男の存在は俺にとって不自然だった。
そう、七夜が疼くのだ。

「始めまして、遠野志貴君」

遠くのはずなのに、男の声は酷くよく聞こえた。
俺はポケットに手を入れる。

「誰だ・・・」

小さく呟く。
けれど、男には聞こえたらしく。

「私は君達が言うところの吸血鬼さ」
「へえ・・・その吸血鬼様がいっかいの高校生の俺に何のようだい?」

俺がそう言うと、ゆっくりと足を進め始める男。
俺は奴の動きを注意深く見ながら、ポケットにある短刀を握り出し、眼鏡を取り外した。
手元からはパチンという音が響く。

「ほう・・・」

――――すると、男は立ち止まった。

「物凄い殺気だ。・・・なるほど、ゼルリッチが言っていたことも本当らしいな」
「ゼルリッチ? 二十七祖の一人か?」

以前先輩が言っていた二十七祖の名前を思い出し言う。
いわく、彼の祖はアルクェイドの分身とも言える、紅い月――――俺がアルクェイドの夢の中で彼女を封印した存在らしい。
そして、現存する魔法使いの一人とも。
コーバックアルカトラスは俺がゼルリッチの名前を知っていた事に驚いたような表情をする。

「ますます、興味深い存在だな、君は。まさか、我盟友の名を知っているとは」

くくっと笑う男。

「盟友? ――――って、まさか!?」
「そう、我も二十七祖の一人。名はコーバックアルカトラス。以後、お見知りおきを」

にっこりと微笑み、そう言うコーバックアルカトラス。
瞬間、空気が重たくなった。

「これは・・・まさか結界!!」

以前、先輩が結界を張っていた結界内での感覚を思い出し、そう叫ぶ。
と―――――――――

「ビンゴ。正解だ」
「――――!!?」

突然、近くでそんな声が聞こえた。
俺は何だと思うよりも早く、七夜の部分の警告に従い横に飛んだ。
地面を一回転して後ろを振り向く。
と、そこにはいつの間にかにコーバックアルカトラスがいた。

「ほう・・・今の一撃を避けるとは、流石は二十七祖を滅し者だ」

首だけを俺の方に向け、感嘆の声をあげるコーバックアルカトラス。
馬鹿な、あの一瞬で・・・一体、奴は何をしたんだ?

「その顔だと理解して避けたわけではなさそうだな」

こちらを振り向きながら、俺のことを分析するコーバックアルカトラス。
と、コーバックアルカトラスは不意に「ふむ」と頷く。

「遠野志貴よ。君には特別に私が何かしたかを教えてやろう。私はな、転移したのだよ」
「転移、だと?」
「そう言葉の通り移転だ。まあ、詳しく言えば、魔術的なものだ――――」

そう言うと、コーバックアルカトラスの姿が一瞬にして消えた。

「そう、このようにな」
「――――――――!!」

背後から奴の声がした。
俺は咄嗟に裏拳の応用でナイフを叩きつけようとするが――――――――

「無駄だ。眠れ」

そう言い放ち、俺の首をなで上げる。

「なっ・・・」

瞬間、体の力が抜け、目の前が真っ暗になった。







一方、これより数時間後の遠野家では――――――――






「まったく! 兄さんはいつになったら帰ってくるのよっ!!」

腕を組み、ソファーに座って鬼の形相をする遠野家当主こと遠野秋葉。
時間は午前11時。既に門限から3時間も時間がすぎている。
おかんむりの御当主を、あらあらといった感じで、使用人である琥珀が微笑む。

「まあまあ、秋葉。志貴さんの帰宅が遅いの今に始まった事ではありませんし、そんな怒られてもなんですよ〜」
「それはわかっているわよ。けど、連絡くらいするのが世の中の理でしょうっ」

ドンとテーブルを叩く、秋葉。
その反動でテー物の上に載っているティーカップが一瞬中浮く。

「ん〜それもそうですね〜。あ、でも志貴さんは携帯電話をお持ちでありませんし」
「それだったら公衆電話からでもすればいいでしょうっ?」
「秋葉様。残念ながら、最低限の所持金しかお持ちになっていない志貴様にはそれは不可能かと」

それはまで黙っていた琥珀の双子の妹・翡翠が秋葉にそう助言する。
秋葉は翡翠のその言葉にうっと呻き声をあげる。

「し、仕方ないでしょう! 遠野家の長兄として、最低限のお金でやりくりできなくてどうするのっ」
「確かに、秋葉様が言うことは最もなことです。けれど、一日300円は今時の高校生には酷くかと思われます。
 それにいくら志貴様が少食だとしても、パン一個は100円はいたしますし、もちろん、食事には飲み物が必要です。
 それに先ほど申しましたように志貴様は現役の高校生です。言うなれば、男性として最も力がつく歳でもあります。
 私達女性に比べそれなりの量を食べるでしょう。
 それに、前に志貴様にお話を聞いた時に、大体昼食にはパン二個に飲み物を一個を買うそうです。
 そうすると、必然ながら金額は所持金の玄関の300円となります。
 そんな志貴様に公衆電話から連絡をしろというのは、到底無理な事だと思われます。
 もし、それでも志貴様に連絡をしてこいと言われますなら、
 毎日志貴様に渡す金額を増やすか、携帯電話を持たすかしたほうがいいかと」

息もつかぬスピードで一気にそう言う翡翠。
これが世にいう『多弁』というものだろうか?
兎に角、翡翠=無口な女の子、と完全否定するような喋り方である。
当然ながら、秋葉はそんな翡翠を見て言葉を失って驚き、琥珀は目を爛々とさせて嬉しそうにしていた。
翡翠はそんな二人を無視し、軽く息を吐く。

「まあ、それは兎も角。私も、志貴様が早く帰ってこないことに対する気持ちは秋葉様と同じです」
「あ、そ、そう」

すっかり翡翠に毒っ気を抜かれてしまった秋葉。
琥珀はそんな二人を見ながら、ふふっと微笑んでいた。
と―――――――

ちーん

突然、屋敷の中にベルの音が鳴り響く。
というか、なんとも可愛げのある呼び鈴である。

「琥珀」
「あいあいさー」

秋葉がそう短く言い放つと、琥珀は一目散にリビングを出て玄関に向かっていった。








程なくして、琥珀は金髪の女性と法衣服の青髪の女性を連れて戻ってきた。

「やっ、妹。ひさしぶりだね」
「夜分遅くお邪魔しますね、秋葉さん」

金髪の女性――――――アルクェイド・ブリュンスダッドと、
法衣服の青髪の女性―――――――シエルが秋葉に向かって挨拶をする。
すると、秋葉は瞬時に眉間に皺をきざみ、ソファーから立ち上がる。

「あら、アルクェイドさんにシエル先輩がこんな夜遅くに私に何か用でしょうか?」

言葉の節々に刺があるようだが、シエルは秋葉のそんな言葉づかいをさらりと無視し、
アルクェイドにいたっては気づいていない。
結局のところ、人外には回りくどい事は通用しないのだ。
そんなことは兎も角、アルクェイドは憮然としている秋葉の前に立つ。

「ねえ、妹」
「アルクェイドさん? その妹というのは止めてもらえませんか?」
「えーでも、妹は妹だよ」
「前にも言ったとおり、あなたに妹呼ばわれされる言われはありません!」

髪を真っ赤にして、アルクェイドに怒鳴り散らす秋葉。
と、そこに誰かがアルクェイドと秋葉の間に立つ。

「はい、お二人さん、そこまでです。私たちは秋葉さんに聞きたい事があってきたんです」

シエルはそう言って言い争いになりそうになった二人を止め、秋葉に向けて真剣な眼差しを向けた。
秋葉はそのシエルの目を見て、こほんっと咳をした。
ちなみにアルクェイドのほうは元々言い争う気はなったようで、シエル越しにニコニコと秋葉の事を見ている。

「私に聞きたい事って何ですか?」
「はい。秋葉さんに聞きたいこととは、遠野君は居場所です」
「兄さんの? さあ、そんなこと私が知りたいくらいです」

怒りに満ちた表情でそう答える秋葉。
どうやら、先ほどの怒り(志貴が帰ってこないからくる怒り)がよみがえってしまったようだ。

「では、もう一つ聞きます。遠野君は今日一度でもこの遠野家に戻りましたか?」
「さあ、私はわからないわ。琥珀、翡翠。どうなの?」

秋葉は後ろで控えていた琥珀と翡翠に向かって言葉を放つ。

「志貴さんですか? いいえ。私達が知る限りでは一度も戻ってきていませんよ。ねえ、翡翠ちゃん」
「はい。私も志貴様の部屋を何度か行きましたが、帰ってこられた様子はありませんでした」
「って、ことのようですけど?」
「そうですか・・・」

琥珀と翡翠の言葉を聞き、難しい顔をするシエル。
その様子に秋葉をはじめ、琥珀、翡翠は頭の中で首をかしげる。
そして、少しの間難しい顔をしていたシエルは秋葉達に向かって言い放つ。

「唐突ですが、遠野君はさらわれました」
「「「え・・・?」」」

















第一話完
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猫乃真・月姫SS第二段!!
さてさて、いきなりさらわれちゃった志貴君。
この後の展開はどうなることやら。
あんまりストーリは考えてないけど、なるべく軽くもなく重くもないバトルモノを創っていこうと思います。
ついでにいうと、私はあんまり長く話は書かないというか書けないというか、兎に角書く事がありません。
というわけで、恐らくは前回の『吸血鬼の姉妹』と同じくらいの長さになると思います。
ちなみに更新はかなり遅くなると思うんでそこんとこよろしくお願いします。
なにせ、来年度から受験生名もんで。(汗汗)

おおっと追記としてこれを。

27/コーバックアルカトラス
千年錠の死徒。
魔術師が研究の果てに死徒になったモノ。
誰にも進入できない宝物庫を作り上げるも、そこから出られなくなったお茶目さん。
二十七祖ではお笑い担当と言われている。
が、その能力は――――まあお笑い担当である。
ゼルレッチとは旧知の仲。
魔法使い一歩手前の大魔術師。

ってことなんですか。
自分の小説ではかなり強くしています。
何故って? 誰も侵入できない宝物庫を作り上げれる人が、
お笑い担当だけで終わるはずがないというわけです。
実際、魔法使い手前の大魔術師だし。
いうなれば、ゼルリッチを除けば二十七祖の中で、「 」に最も近いわけであるわけだし。
それに、この話だと宝物庫から脱出できてるしね。
ああ、そうだ。これまた追記だけど書いときます。

4/ゼルレッチ
魔道元帥。とんでもねえほど傍若無人かつ正義のひと。
某、空条ジョータローみたいな人で、
気に食わなから朱い月のブリュンスタッドにケンカを売ったとかなんとか。

ちなみにうちのサークル局長の一番のお気に入りだとか。
本当に好きだったか、あんまり確かでないけど。

とまあ、いい加減にしないと抗議が来そうなんでここらへんでお暇させていただきます。
でわでわ〜。

著者:猫乃真


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