路空会合五話5


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1: 烈風601型 (2003/02/12 18:55:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

俺が屋敷の正門に到着した時には戦闘に一つの区切りがついていた様だった。
セルトシェーレの空想具現化の能力により最後の一体であろうか、一片残らず消滅させている所だった。
「御館様!」「衝、被害は?」「はっ、せるとしぇーれ様方のご尽力による事と、元々の数が少なかった事もあり犠牲者はおりません」
その報告に俺は頷くと、「鎧、盾。貴殿たちは紅装の叔父上の護衛に戻ってくれ。それに衝、お前もだ」
「で、ですが、奴がまた来る可能性が・・・」「心配するな、俺達で迎撃する・・・こいつの力も知りたいしな」
「!!御館様、それは・・・もしや」「ああ、『凶薙』だ。心配するな衝。俺は必ず生きて帰ってくる」「・・・ははっ、全員屋敷に戻れ!!」
その一声で、俺達六人を除く者達は全て屋敷に入っていった。
「七夜殿、・・・その刀は一体何なのでしょうか?」「ほ、鳳明様・・・その刀には何かおぞましい力を感じます」
翠と紫晃が俺の手にある『凶薙』を見るや怯えた様子で、俺に訴えかけてきた。
「心配は要らない」
俺はただそれだけ言うと、前方を見据えた。
闇の中から月明かりに微かに照らされまたやって来たからだ。
しかし、「なんだ?・・・あれは・・・」
そう、その化け物はいつもの奴ではなかった。
形的には同じ巨大な鞠だが、色が毒々しい緑ではなく血のような真紅。
さらには触手には何かぶら下がっていた・・・全身を貫かれた元が何であったのかも判らない死体を・・・
それを触手はまるでぼろきれの様に無造作にほっぽり投げた、さらにそれを護衛するようにいつもの緑色の化け物が現れた。
それらは俺達の手前で止まりその上から、「おやおやこれは紅葉様お久しゅうございます」と人を小ばかにしたような優越感に浸った声が聞こえてきた。
見ると、真紅の化け物の上に小柄な老人が危なげなく立っていた。
声とあの時に微かに見えた影の輪郭、そしてこの空気・・・間違いない。
奴がこの化け物共を生み出した妖術師・・・
「お前は!!」見ると紅葉はその老人の顔を見るなり髪を一瞬で紅く染め上げ更には彼女自身の能力『檻髪』を使い、あの老人を略奪せんとしたが、その手前で真紅の方の触手が髪を断ち切った。
「ははっ無駄ですよ紅葉様、こいつは鷲の最高傑作品。今までの奴のように吸収こそ不可能ですが、この触手はありとあらゆる物を壊せます。さらに、こいつは遠野の秘術も応用させてもらった。つまり夜の時のこいつには七夜鳳明すらも太刀打ちできないと言う事じゃよ。はははは!今まで鷲の芸術品を壊し、鷲の目的を妨げた罪を償ってもらおうか」
「紅葉、どう言う事だ?」「・・・奴は紅赤朱の秘術を盗み出したのよ」
紅赤朱・・・聞いた事ある。
遠野の様な混血者達の中で反転しもう戻れなくなった者達の末路・・・
その際には己の肉体が極めて強固になり人の手では到底破壊出来ぬまさに異端と呼ぶに相応しくなると言うが・・・
「なるほどな・・・2・3聞きたい」
納得すると俺は不意に口を開いた。
「なんじゃ?まあどうせお前達は直ぐに死ぬから何でも答えてやるが」
得意満面になっている奴に目掛けて俺はさらに冷たい口調で、
「まずは・・・こいつに関しては単刀直入に聞く、お前の目的は何だ?」
「簡単な事じゃよこいつらは全て鷲の血と土から生み出されたもの、こいつらが吸収した生命力は全て鷲の生命力となる。・・・ここまで言えば判るじゃろうて」
「・・・つまりは不老不死と言う訳か?・・・とことん俗物だな・・・」そう呟くと俺は一歩奴に近づく。
「で・・・最後に一つ。こいつが最も重要なものだが・・・お前七夜頼闇を知っているな?」
「ああ鷲の古い付き合いじゃな」「・・・頼闇の大叔父貴から俺の事や『凶夜』の事を聞いたんだな?」
「その通りじゃよ・・・でそれがどうかしたのか?」「・・・その為に大叔父貴が死んだ。その事に関してどう思う?」「・・・」
不意に奴の饒舌が止んだ。
その死を悼んでいるのかと思った瞬間、
「・・・くくくくっ、左様か・・・はーっははははっは。」「・・・爺、てめえ何がおかしい?」
「くく・・これが笑わずにいられるか。頼闇も、もう少し世渡りの上手い奴かと思ったが所詮は七夜の下らぬ掟に縛られた愚か者と言う事か・・・、まあ、良い。どうせ生き残っていたとしてもそのような者など必要ないからな」
「貴様・・・大叔父貴とは古い友人ではなかったのか?」
「ああそうじゃ。古い付き合いだが、向こうは鷲を友人と思っていたようじゃが、鷲は奴を都合の良い道具としか見ていなかったからな」
俺の中で何かが切れた。
「・・・ならねえ」「?何か言ったか」「我慢ならねえ・・・てめえの様なくずがでかい面でのし歩いてあまつさえ不老不死?・・・ふざけんじゃねえ。てめえを・・・この場で・・・殺す・・・」
俺は生まれて初めて心の底から殺意の衝動に駆られた。
多分これが『凶夜』の衝動なのだろう。
(この様な衝動を『凶夜』は常に抱えていると言うのか・・・)
俺の中の冷めた部分が、ふとそのような下らぬ事を考えた。
だが俺の体は殺意の衝動に身を任せていた。
気が付けば俺は『七夜槍』の片割れと『凶薙』を手にしていた。
使い方はもう既に『凶薙』自身が教えてくれている。
「ははっ、愚かな。この量の鷲の芸術品に勝てると思っておるとはな、せいぜいその浅慮をあの世で悔やむが良い。かかれ!」
その妖術師の一声で緑色の奴が俺達に襲い掛かってきた。そのうちの一体が俺目掛けて転がってきた。
「・・・くだらん・・・」
俺はそれに向かってたった一言そう言うと無造作に触手をかわし、何気ない動作で『凶薙』を本体に突き刺した。
そこが死点と言う訳では無い、本当に無造作に突き刺しただけの何気ない刺突。
だがその瞬間奴は全ての動きを止めた。
そして俺が再び無造作に『凶薙』を引き抜くと、その瞬間奴は砂へと還っていった。
「なっ!!!」この光景が信じられないらしい。妖術師が絶句している間に俺は翠と珀を追い詰めようとしていた一体に音も無く近付くと再び『凶薙』を奴目掛けて突き刺し、直ぐに引き抜く。
再び、奴の体は砂へと還る。
「き、貴様何だ?その刀は???」二体がまとめて砂に還っていったのを見てようやく我に帰ったのだろう。
俺にそう詰問してきた。
「・・・ふっ」だが俺はその質問に冷笑で返した。
別に特別な事など何一つ行っていない。
『凶薙』が化け物に突き刺さった途端奴の生命力を根こそぎ奪い取っただけだ。
周囲を見回すと、今までセルトシェーレ達に襲いかかろうとしていた化け物達が全て俺に狙いを定めた様だった。
「・・・今度は束で来たか・・・何匹来ようとも結果は同じ事・・・」
そう呟くと俺は最も近い化け物に『凶薙』を突き刺し今度は頭の中で燃焼を思い浮かべていた
その途端、鈍い光と鈍い音を発して木っ端微塵となった。
『凶薙』が溜め込んだ生命力の一部を凶暴な性質に変えて放出し爆発したのだ。
そして俺が後ろを振り返り一歩近づく度に奴らは後ろへと転がっていく。
ふと横目で確認すると、妖術師もまた表情を強張らせこの有様を唖然として見ている。
当然だろう。
絶対の自信を持ってこの屋敷を襲撃したにも関わらずこの結果なのだから当然と言えば当然だ。
しかし、奴の望みにこちらが合わせてやる義理は無い。
「ほう、貴様らでも恐怖は感じるか・・・安心しろ。すぐに感じなくなる・・・無になるからな・・・」
そう呟くと、突撃を開始した。
後はもう一方的な戦闘・・・いや殆ど虐殺に近かっただろう。
『凶薙』が振るわれる度にある化け物は元の砂へと還り、ある化け物は木っ端微塵に吹っ飛ばされる。
触手の攻撃も人の死の段階にまで開放した魔眼によって薙ぎ払われた。
半刻の1割にも満たぬ時間で緑色の方は全滅していた。
「さて次は・・・」「七夜殿!!奴が逃げ出しました!」
呆然からいち早く抜け出した紫晃の声で俺は周囲を見渡すとあの紅い奴に乗りこの場を逃げ出そうとしていた。
「・・・逃がすか・・・」
俺は奴の後を追う代わりに『凶薙』を前方に突きつけると、雷を強く思い浮かべる。
その途端『凶薙』から真紅の雷が噴出し真紅の化け物目掛け襲い掛かった。
そう、『凶断』『凶薙』、この二本の妖刀は魔の力を吸い取るだけでは無い。
その生命力を使い、持ち主の思い通りに操る事すらもまた可能としている。
いわば妖力の具現化能力とでも言えば良いだろうか?
しかし、妖術師もまた危険を察知したのだろう。
地面を妖術で盛り上がらせ雷を防ぐとあの生暖かい突風を巻き起こした。
「・・・同じ手が二度三度通用すると思うな・・・」
今度は『凶薙』から細かい真紅の針が無数に噴出し奴目掛け突進を開始した。
風が止むとやはり奴は姿を消していた。
しかし地面を見た俺はにやりと笑った。
そこには先程の針が一本地面に深々と突き刺さった状態になっていた。
それを確認した途端、俺は『凶夜』から七夜鳳明に戻っていた。俺は『凶薙』を鞘に仕舞い込むと、振り返り、「皆、無事か?」
「ああ、ホウメイ。妾達は大丈夫じゃ」
「全て、鳳明殿の手で終わりましたから」
「鳳明様!!お怪我は無いのですか?」
「宜しければ私、御手当てしますが」
「七夜殿!!奴は追わなくても良いのですか?」
「大丈夫だ紫晃殿。手は打っている。俺はこれから奴を追う・・・奴は許しちゃおけねえからな・・・」
そう呟くと、俺は脇目も振らず走り出した。
「・・・良い具合に残っているな・・・」
俺がそう呟いて少し前に突き刺さっている針を見た。
この針が一本ずつ一定の間隔を置いて突き刺さり、奴を追跡している。
「・・・待っていろ・・・直ぐに貴様を・・・?」カタ・・・
なにか音が聞こえた。
「気の・・・」カタ・カタ・・・
やはり聞こえる。
カタ・カタ・カタ・・・
周囲には何も無い。
カタ・カタ・・・カタカタカタ・・・
音が断続無く聞こえてきた。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ・・・ガタガタガタガタガタ・・・・
オトガドンドンオオキクナッテキタ・・・
ノウリニナニカ・・・コウケイガウカンデキタ・・・

後書き
   いかがでしたでしょうか?『凶断』・『凶薙』の能力は?
   少しでも戦闘が迫力有るものになれば幸いです。
   今回・前々回に出した以外にも具現化能力を複数用意します。
   次回では遂に・・・と言うべきでしょうね。
   志貴と鳳明、二人の七夜が時空を越えて会合します。
   しかしここまで時間が掛かるとは思わなかった・・・


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