路空会合五話4


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1: 烈風601型 (2003/02/10 09:46:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

「・・・ふっ、七夜志貴か・・・」
俺は先刻まで話をしていた男を人間的に信頼に値すると思い、一族にしか見せない笑みを浮かべていた。
だがその笑みを直ぐに引っ込めると、
「だが・・・奴が時空の穴を使うとすれば、これだけ探しても未だ見つからないと言うのも頷けるが・・・」
「鳳明殿、こんな所で何をしているのかしら?」「紅葉か・・・別に何もしておらんよ・・・で、本命は見つかったか?」
俺が振り向きもせずにそう尋ねると
「駄目ね、今日も雑魚は五匹片付けたけど、未だに奴は姿も見せない」「もう既に奴がこの地を立ち去っていると言う可能性は?」「それは無いわ。奴の僕は奴自身が離れてしまえば一日も経たずに死滅してしまうわ」
「つまり化物達が跳梁跋扈する今のこの状況こそが奴がまだこの地にいると言う何よりの証拠と言う事か・・・」「ええ、そうよ」「まあ、そのような事を考えてもしょうがないか・・・ところで紅葉、セルトセェーレ達は?」
「皆、戻っているわ、・・・全く、なんで遠野の当主たる私が退魔と一緒に行動なんか・・・」
「それは、しょうがあるまい。今のところ俺はあの化物と対等にやりあえるが、貴女達は協力しなければどうしようもない。まあ、この依頼が終わるまでの辛抱だ」
と、ぶつぶつ文句を言う紅葉に俺は苦笑いしつつそう言うとその場から離れ、翠達の待つ所に戻る為に歩を進め始めた。

・・・朝廷よりの依頼を受け既に十四日の日が過ぎた。
翌日から俺と翠・珀、紫晃、紅葉そしてセルトシェーレの六人は夜の巡回を行い、まずは奴の創り上げた化物達の掃討を行う事から始めた。
自分の創った物を次々と叩き潰されば本命がいずれ姿を見せるだろうと言う事だ。
最初俺以外の五人はかなり苦労したが、今では暗黙の内に連携する事を覚えたようで(その事に内心では不満だらけだろうが)まずセルトシェーレが突撃し、その補佐に紫晃と紅葉が回り、翠と珀は後方にて呪念による支援を行う。
この連携攻撃で数多くの化物を葬り去った。
だが、肝心の妖術師は全く姿を見せず、化物の掃討数のみが闇雲に増えて行くだけだった。
そんな時だった、七日目に俺がやはり一人で巡回に回っていた時、人の気配を感じ駆けつけると、そこに彼が・・・七夜志貴がいた・・・。
最初彼を見たとき俺は七夜・・・いや、『凶夜』の本能が今までに無いほどの高まりを覚えた。
そして本能の赴くまま彼を餌食にしようとしたが別の何かが俺の行動を押しとどめた。
そして俺は彼と話・・・正確にはあれが会話であったかどうか自信は無く直接、頭に響いたようなそんな気さえした。・・・をした。
そしてさっきも俺は彼と同じ会話をしていた。
(俺の中に志貴の魂がある・・・いや正確には彼と俺の魂は今共有していると言っていたな・・・急がねばなるまい。俺が死ねば恐らく志貴にも影響を与えるのは間違いないからな)
この魔眼の呪いで死ぬのは俺一人で充分だった。
いくら子孫と言え他人を巻き添えにするのは俺の本意では無い。
「・・・遅いぞ。ホウメイ」「セルトシェーレか・・・済まんな」「この人、また行き止まりでぼーっとしておりましたのよ」「二度目ですよ七夜殿・・・」「ああ、済まない」
合流した俺にセルトシェーレと紫晃は軽く責める視線を送っていた。
ただ翠と珀のみは心配そうに俺を見ていた。
「報告は紅葉から聞いたが今宵も本命は出てこなかったようだな」
「はい・・・」「今宵は小物の方を五匹、それだけじゃよ」「全く、そろそろ出てきてもおかしくないのにまだ追いかけっこしたいのかしら?」
紫晃はやや落胆して、セルトシェーレと紅葉は吐き捨てるようにそう言った。先刻から一言も発さぬ翠と珀も疲労の色が濃い。
「・・・止むを得ん。俺達は奴に関する手掛かりを何一つ掴んでいない。今はこうやって奴を炙り出すしかない。
・・・まあ、犠牲者をあの時から皆無にしているのが唯一の救いだがな・・・ともかく今宵はこれで下がろう。全員かなり疲労しているしな」
俺の力の無い一言に皆頷き、屋敷に戻る事にした。
「・・・鳳明様・・・」「どうした翠?・・・珀まで何だそのしけた眼は?」
ふとその途中で翠が躊躇いがちに、俺に声を掛けてきた。
珀は無言だったが不安に満ちた視線を俺に向けている。
「・・・そ、そのもしかしてお体が・・・」
「大丈夫だ。この前の感応で充分過ぎる程だ。それにお前達も疲れている筈だ。そんなに無茶するな」
「で、ですが・・・鳳明さん最近また顔色が悪くなってませんか?」「大丈夫だ。そんなに心配するな」
「・・・鳳明様どうかご自愛をして下さい」「私からもお願いします、鳳明さん」「ああ、判っているさ・・・」
そう言うと二人に軽く頬にくちづけをしてやった。
その途端二人とも頬を紅く染め潤んだ視線を向けた。

屋敷に戻ると皆、無言で自室に戻り泥の様に眠りだした。
俺もさて眠ろうとすると「・・・ホウメイおるか?」
と返事を聞くより早くセルトシェーレが入ってきた。
「・・・セルトシェーレ何か用か?」「なに、お主と少々話がしたいと思うてな・・・」「そうか・・・で、どんな話だ?・・と、その前に座れ」「ああ、そうさせて貰う」と言うと静かにセルトシェーレは腰を下ろした。
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・おい」「なんじゃホウメイ」
「『なんじゃ』じゃない。何か話があったのだろう。お前が口火を切らないと俺としてもどうしようもない」
「・・・ああ、そうじゃったな・・・すまんお主の眼に見惚れておった」「俺の眼?」
「ああ、本当に不思議な男じゃなホウメイ・・・妾でも時折恐怖を感じる眼だと言うのに普段はどの様なものでも自然に受け入れいておる・・・」
「そうか?俺としては別にそんな特別な事をしているつもりは無いんだが」「その様な事は無い。現にお主は妾を受け容れ、尚且つ自然に接しておる。・・・同じ一族ですら妾と接する時はこうも自然にいる事は無いのに・・・」
そこまで会話が進んだ時、俺は不意にある事を思い出した。
「そう言えば聞いていなかったな。セルトシェーレ、お前の一族とはどの様な一族なのだ?別に言いたくなければそれでも良い」
「・・・そうじゃな、妾の一族か・・・一言で言うなら遠野の一族と同じ様な者といえば良いか・・・」「と言う事は鬼の一族と言う事か?」
「それとはまた少々違う。・・・何といえば良いのか・・・向こうで妾達を滅ぼそうとしている人間どもは『吸血鬼』と呼んでいる」
「?では最初、お前が言っていた『死徒』と言うのは?」「ああ、あの時は少し言葉が不足しておったな。『死徒』とは妾達の血を受け容れた人間と言えば良いか」「血を受け容れる?」
「簡単に言えば妾達が人間の血を吸い、そして人間達に妾達の血を送る。その事でその人間は人間である事を辞め、妾達に極めて近い力と不死の体を持つ様になる。それが『死徒』と呼ばれる者達なのじゃよ。そして妾達は『真祖』。こう呼ばれておる・・・」
「なるほどな・・・ってちょっと待て今不死と言ったな。つまりお前は人と根本的に違う存在だと言う事か?」
「そうじゃな。そうだと言っても良い。じゃが不死と言っても永遠に死なぬ訳では無い。妾達にも無論『死徒』にも死は存在する。現にホウメイ、お主は見えておるのじゃろう。妾の死の線が・・・」
「ああ、だが、普通の奴に比べれば極端なほど少ない。おまけに夜になっちまえば細い上に殆ど見えなくなっている。もはやここまで来れば俺でも勝てないな」
「その割には、さほど悔しそうでは無さそうじゃな」「お前は別格だと思っていたからな・・・?誰だ衝か?」
「御館様お起きででしたか・・・これはせるとしぇーれ様も」「どうかしたか?」「はっ七夜の森より紅装様がお見えです」
「紅装の叔父上が?わかった謁見の間で会おう。済まんセルトシェーレ。話しはまた今度な」「左様か・・・名残惜しいが仕方あるまい。ホウメイ、今宵はまことに楽しかったぞ」「そうか、お前も早く寝ろよ」
そう最後の言葉を掛けると俺は衝と共に謁見の間に向かった。

「鳳明、久しいな・・・」「叔父上も・・・ご壮健で何よりです。どうぞこちらに」
謁見の間には親父の弟にあたり、長老団の中でも若い方に入る七夜紅装が後ろに二人のみを護衛として俺を待っていた。
「鳳明、そこは上座だぞ」「いえ、目上に上座を用意するのは当然の事でしょう」
「いや、これが私的ならばよいが、今回は公としてここにやって来た身。すまんが鳳明、お主が上座に」「・・・判りました叔父上」
上座を勧めようとした俺に紅装はそう言って辞意した。
止むを得ず俺が上座に座ると彼は口調を改め、
「御館様ご壮健で何よりです」「ああ、紅装も壮健で何より、して、この様な夜更けに来訪したのはどの様な用件からか?」
「はっ、実は先日、衝より受けた件について・・・」「?何の事だ。俺は知らんが」
「御館様、申し訳ございません。今回『凶夜』の事が外部に漏れていることを森に報告を入れたのです」「・・・そうか・・・」
俺は申し訳無さそうにそう言う衝を特に責める様な事はしなかった。
普通に考えればそれが妥当な判断なのだ。
むしろ、そこまで判断が行かなかった俺に何らかの非難が来てもおかしく無い事なのだ。
「・・・それで紅装。結果はどうだったのだ?恐らく俺は妖術師の読心の術で漏れたと思うのだが」
「・・・その事に関しましては。御館様、御人払いを」「ここには衝とお前の護衛しかいないがそれでもか?」「はい、お願いします」
「・・・と言う事だ衝、済まないがしばし席を外してくれ」「しかし・・・判りました」「鎧・盾、お前達もだ。私が良いと言うまで部屋にも近付いてはならん」「「・・・」」
紅装の護衛の二人も無言で一礼すると席を立って、衝も名残惜しそうに一礼して、間を出て行った。
さらに紅装は、「お前達もだ」と、天井をを見上げてそう言った。
やがて、この謁見の間周囲は完全な空白の空間となった。
「これで宜しいですか叔父上?」「ああ。済まない鳳明」「で先程の続きですが・・・まさかと思うのですが本当に?」
と、俺は極端なほど声を低めて会話に入った。
ここまで厳重に人払いをしているのだ、よほどここにいる者達に聞かれたくない事なのだろう。
「そうだ、鳳明。おったよ・・・」「一体誰が?」「・・・頼闇(よりやみ)殿じゃった」「なっ!!・・・」
俺は思わぬ人の名を告げられ絶句した。
「頼闇の大叔父が・・・」「ああ、我々の内部調査の結果わかった事だ」
頼闇の大叔父・・・俺の爺様、つまり先々代当主の兄にあたり、人望・実力共に先々代と均衡していた人で長老団でも中核に存在する人だ。
「頼闇殿と例の妖術師は昔から個人的な親交があって、彼の口から『凶夜』の事や鳳明の事を漏らしたと本人が告白した・・・」
「な、なぜ大叔父が・・・」
思わぬ事に俺は動揺していた。
大叔父は俺が子供の頃から良くしてもらった人で、あの人が『凶夜』の事を漏らしたとは考えられなかった。
「それは鳳明お主じゃよ」「俺?」
「左様。鳳明、お主は幼き頃から既に『凶夜』と呼ばれ、長老達もいつでもお主の存在を抹消できる準備を整えていた。ところが、お主は何年経とうとも一向にそのような傾向は見られず、それどころかいつの間にか七夜最凶と最強の名を欲しい侭としてしまった。私や衝は喜ばしい事この上ない事だが他の長老達にしてみればそれは恐怖の対象でしかない」
「俺が長老達に対して反旗を翻すと言う事ですか?」
「左様。お主は若い者達にその人柄と実力から慕われておる。もしもお主が狂い実害を与えれば、長老達もお主を抹殺する良き口実を得る事が出来る。しかし狂いもせず、ただ『凶夜』となる恐れがあるからと言う理由で抹殺に動けば大半の者が私達に牙を剥くじゃろうな」
「・・・だからその危険を回避して尚且つ俺を抹殺することを狙って大叔父は俺を・・・」「いや、頼闇殿はそこまで悪辣に考えた訳では無い。彼にしてみれば率直な不安を古い友人に打ち明けたに過ぎなかったのであろう」「・・・俺はそこまで・・・」
俺はもう言葉も無かった。
結果的には俺は一族に売られた事に変わりは無いのだ。
ただきっかけが故意か偶然かの違いだけ・・・
「すまん鳳明、しかし我らにはこうするしか自らを生き延びさせる術は無いのだ」
「ええ・・・わかっています・・・それで大叔父貴はどうなるのですか?」「どうなるも、こうなるも無い。語る事すら禁忌であるはずの『凶夜』を事もあろうに他人に漏らしたのだ。私が森を発つ直前・・・自害されたよ・・・」
「そうですか・・・」「それと、鳳明、実は後もう一つお主に渡したい物がある」
そう言うと紅装は懐から一本の小太刀を取り出した。
手に取るとすざましく軽い。
この小太刀よりも遥かに小さい七夜槍の方が重く感じるほど・・・
「叔父上これは?」「・・・『凶薙』(まがなぎ)・・・お前も聞いた事はあるだろう?」「こ、これがあの・・・」
『凶薙』・・・俺から見れば五代前に出現した魔を断ち切る武具を生み出す『凶夜』が狂い始め七夜に抹殺される直前、己の全ての技術を注いで生み出した二本の妖刀・・・『凶断』と『凶薙』・・・。
「なぜこれを?」「例の妖術師の造り出し化け物はお主の『死の眼』でも相当苦労すると聞いておったからな、持ってきた」
「ですが・・・叔父上、『凶断』と『凶薙』は門外不出の品の筈。そのような物を持ち出しては」「心配いらん。今回は事が事だからな、特別に一本のみ持ち出しを許されている」
「はあ、ともかくこれは持っておきます。で叔父上、また話は変わりますが、法正はどうでしょうか?」「法正か?真に暗殺者としても人間としてもよき男に育ってくれた。それもこれも鳳明、お主のおかげじゃな」
「俺は特に何もしていませんよ」「そのような事は無い。お主は子供達には絶大な信望を集めている。子供達の大半はお主を目標にしているからな」
叔父がそう言うと俺は少しそっぽを向いて軽く頭をかいた。
「中でも法正はお主を殊に尊敬している。出来れば今回も連れて来たかったのじゃが、長老達の中に法正を使いお主の暗殺を考えていると言う噂もあるからな」
「まあ、それは仕方ないですよ。・・・まあ、できれば俺の体調が完全に近い時に法正とは勝負したかったのですけど」
「・・・鳳明?巫浄の者に感応を受け回復したと聞いているが」「一時的・・・いえ、時間稼ぎにしかなりませんでした。恐らく俺の体は、後一月強がせいぜいでしょう。ですから長老方は俺の事にそこまで神経質になる必要は、無いんですよ」
「なっ・・・ほ、鳳明お主そこまで・・・」「ええ、実の所、俺の体は普通ならとっくに墓場行きの身ですよ。それがまだこういう風に出来るのも今までの鍛錬のおかげと・・・皮肉な事にこの魔眼のおかげでもあるんです。でも・・・もうそれも限界でしょう。明らかに魔眼が送ってくる他の生命力と魔眼が奪い取る俺の生命力の量とを比べたら後者の方が圧倒的な量ですから。むしろ良くここまで持ったものだと誉めたいぐらいですよ」
「じゃが鳳明、お主はそれで良いのか?お主が死ねば確実にお主は『凶夜』として全ての歴史から抹殺される。私は兄上よりお前の事を特に頼むと遺言を受けている。それがこの様な結末を迎えてしまえば私は兄上に・・・」
「そのような事はありません。叔父上は俺の事を本当に気に掛けて下さいました。このご恩は決して忘れる気はありません」「鳳明・・・どうじゃ、このまま巫浄の者に匿われては、あの子達ならおぬしを連れて行くのに躊躇いがあるとは思えんが?」
「いえ・・・いずれは、ばれる事です。それにそのような事をして、最悪の事態になれば迷惑が掛かるのは翠と珀ですから・・・さて、話しはこれで終わりにしましょうか」
そう言いながら俺は手をパンパンと叩き護衛や衝を呼び出した。
が、現れたのは外回りの者だった。
「お、御館様!!一大事にございます!!」「落ち着け!何があった?」
「はっ、れ、例の化物が・・・」「また現れたか・・・で何処にだ?」「そ、それが、い、今この屋敷の前に!!」「なんだと?」
「ただ今、翠様方が中心となり迎撃を取っておりますが・・・」「叔父上!しばしここでお待ちを!!」
そう言うと報告を最後まで聞く事無く俺は七夜槍と『凶薙』を手に謁見の間を飛び出していた。


後書き
   少々遅くなりましたが、いかがでしたでしょうか。
   鳳明の方でも出しました、オリジナル武器『凶薙』。
   本格的な能力に関しては次回にでもお伝えできればと思います。


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