路空会合五話3


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1: 烈風601型 (2003/01/30 15:56:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

「はあ・・・はあ、な、なんでだ?なんであれが出るんだ?」
俺は逃げて逃げて、気が付けば森の中、蹲りがたがた体を震わせていた。
「あ、あれは・・・夢・・・いや違う・・・過去の事・・・でも、でも、なんであれが今・・・」
そう呟いている内に、「あの・・・死体を作れる奴は過去のもの・・・ま、まさかあれは・・・!!!」
ある恐ろしい結論にたどり着こうとした時、無機質な殺気が俺に降り注いだ。
俺は半ば本能でそこから後方に跳躍した瞬間、あの夢で見た毒々しい触手が一瞬前まで俺の首があった空間を切った。
俺は眼鏡を叩き落す様に取り、懐からはナイフを取り出し構える。
「・・・出てきやがったな・・・化け物が」
そう呟いた時には、俺の人格は遠野志貴から七夜志貴に変わっていた。
今まさに草むらから姿を現した獲物は幸運な事に夢で見た奴に比べたら遥かに小さい。
しかし、それでも並みの子供位の大きさを持つ鞠だ。
そしてあの触手は俺を捕らえ中身を全て奪わんとザワザワと蠢いている。
「ふん・・・ワンパターンな」
俺は面白くなさそうにそう呟くとナイフを逆手に構えると一気に突撃を開始した。
下手に距離をおけば逆にあの触手に翻弄されかねない。
ここは危険を覚悟の上で接近戦に持ち込み一気に勝負を着けねばならない。
何しろだいぶ克服できた俺でも『物の死』を見るには相当の負担を脳が強いられるのだ。
多分もって一分・・・だから短期決戦に持ち込まないといけなかった。
化物の方も最初は戸惑ったようだが、直ぐに俺から全てを奪わんと触手を次々と伸ばしてくる。
俺のナイフは次々と触手を叩き切るが触手は次々と再生していき次々と襲い掛かる。
「ちっ!!ナイフ一本じゃあ無理か・・・ならば!!!」
俺は咄嗟にそう判断すると奴との距離を一旦離すと、上着で隠す様にベルトに挟んで装備していた一本の小太刀を引き抜いた。
『凶断(まがたち)』そう柄に掘り込まれたそれは七夜の里の地下書庫で見つけたものの一つだ。
この片手でも楽に扱えるほど軽い小太刀を誰があそこに残したのかそれはわからないが今のこの状況では役に立つ事この上ない。
そして俺は構えもそこそこに再び、化物めがけ突撃を再開した。
化物の触手が俺を追いかけて来た為だ。
しかし触手はナイフと『凶断』によって全て叩き切られ、俺は奴の懐に入り込むと同時に、魔眼の力を一段階上げ、咄嗟に見えた二本の線を同時に通した。
化物は三等分され、俺は更に中央の奴に現れた点を左右から同時に貫いた。
それで全て終わった、三つに分割された化物は瞬く間に崩れ落ち、三つの砂の塊と化していた。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
俺は荒い息を吐きながらまず周囲に新手がいないか確認を取ると、ゆっくりと眼を閉じ、力を緩やかに押さえ込みに入った。
この状態に入った眼の力を強引に押えようとすると、ひどい頭痛が俺を襲うのだ。
だからこうやって車のエンジンブレーキのようにゆっくりと力を押さえ込む。
丸々一分使い、ようやく力を完全に押えると、地面に落ちている眼鏡の汚れを拭いてから掛け、そしてナイフの刃をしまい懐に収め、最後にベルトから鞘を引き抜くと『凶断』をおそるおそる鞘に収めた。
やがてパチンと、小気味のいい音を発しながら『凶断』を納刀すると再びそれをベルトに挟みこむ。
そして俺はゆっくりとある場所に向かった。
そこはあの沼。
何故ここに来たのか、わからないがなんとなく予感があった。
そして、それは正しかった。沼は夜の様に暗く、そこにはあの人がいた。
     ”久しぶりだな”
                    ”そうですか?俺はそうでもないですけど”
  ”そうか・・・まあいい。今宵は何かお前に会えそうな気がしていたからな志貴”
              ”貴方もでしたか、”
                           ”まあな・・・で何の用だ?まさか世間話ではあるまい”
      ”はい、貴方がおっている妖術師の化物の事です。・・・俺の時代にまで現れました”
”!!何だと・・・そいつは巨大な・・・”
                 ”はい、巨大な鞠の化物で、触手で捕らえた獲物の中身を全て奪い尽くす・・・”
              ”間違いない、そいつだ。しかし何故奴が?・・・それと志貴お前今妙な事を言ったな、『俺の時代』と・・・”
   ”はい・・・実は・・・”
そして俺は彼・・・七夜鳳明に全てを話した。
彼の時代と俺の時代は過去と未来なのだと言う事。
今『タイムホール』と呼ばれる、時空間の穴の影響で俺達二人の魂が繋がった状態であると言う事。
そしてこのままだと俺も鳳明さんも消滅の危険性があると言う事・・・
             ”なるほどな・・・ではあの時姿を現したのはお前だったのか志貴”
       ”貴方も見たんですか?あれを”
                  ”ああ、あの時漠然と考えたのだがな『遠き過去のものなのか?それとも悠久の時を越えた未来なのか?』とな”
   ”そうでしたか・・・”
        ”しかし・・・そうなると疑問が残るな。奴がどうやってその時空間の穴を見出したのか・・・”
                          ”えっ”
           ”お前でもここまで見つけるのに苦労する代物を奴が見つけたと言うのがな・・・”
  ”偶然ではないでしょうか?”
                    ”考えられる話だが・・・それを偶然見つけるとは到底思えん”
         ”では貴方も・・・”
                         ”ああ、考えられる可能性は一つだな”
そう、それはあの妖術師が『タイムホール』を操っていると言う事・・・
        ”そうなると・・・志貴気を付けろ。あれが一匹で終焉とは到底思えん”
                   ”ええ、こっちでも既に八人犠牲になっています。明らかに複数でしょうね”
             ”こっちでも今で小物を四・五十、大物は十ほど葬ったからな。
     ”そ、そんなに・・・ですが大丈夫なのですか?いくら感応で力を貰っていると言っても・・・”
                        ”心配するな、セルトシェーレや紫晃、それに紅葉にも手伝って貰っている”
        ”そうですか・・・” 
  ”ああ、心配するな、・・・さて、ここで打ち切るとしよう。このままだと何を言われるかわかったものではない”
             ”そうですね。俺も秋葉達にどやされちまう”
                                     ”くくっ・・・”
   ”なんですか?その笑いは?”
                      ”いやすまん、お互い女難に悩まされているようだなと思ってな”
”ああ、はははっ、確かに・・・”
             ”そう言う事だ、じゃあな志貴”
        ”ええ、鳳明さんもお気を付けて”
その会話が打ち切られると同時に人の気配は消え、周囲は瞬く間に明るくなった。
「・・・まだまだわからん事だらけだがとりあえず戻ろう。今頃になって眠くなってきやがった・・・」

「ただいまぁ〜・・・って先生?皆は?」「あら志貴お帰りなさい、お姫様達なら『タイムホール』探しよ」
「そんなに簡単に見つかるものじゃあないでしょう?」
「ええ、そうなんだけど皆、志貴にいなくなって欲しくないみたい。必死になって探しているわよ」
先生以外誰もいない居間でそんな事を言い合いながら俺はソファーに腰掛けた。
「それで、志貴何か見つかった?」「いえ、すみません、俺の思い違いでした」
「そう・・・まあしょうがないわね」
一瞬落胆の色を見せたが先生は直ぐにいつもの表情に戻った。
俺は俺でベルトに挟んでいた『凶断』を引き抜いてテーブルに置く。すると先生が
「あら?志貴その刀は?」「ああ、これですか?以前七夜の里で見つけたものです。軽くて重宝しますからついつい持っているんですけど」
おれは苦笑しながらそう言ったが先生は『凶断』を見るなり表情を一変させ
「志貴・・・ちょっとそれ見せなさい」「??はい・・・」
俺は先生に『凶断』を手渡す。
先生は刀身を暫く眺めていたが、
「間違いないわ・・・七夜って本当に恐ろしいわね・・・こんなものを自らの知恵だけでここまで精製するなんてね・・・」
と、ぶつぶつ言い始めた。
「えっ?先生、これが何なのか知っているんですか?」「この刀と言うよりこの刀の元となった鉱物についてよ」
「どう言う事ですか?」「この刀の鉱物はね魔の力を吸収して自らの力としてしまうのよ。教会や私達はこれを『魔殺鉱』と呼んでいるわ。
だけどこれ実は、採掘される場所が極めて限定されているのよ。東ヨーロッパの東方、南米南部、そして日本、現在確認されているのはこの三ヶ所しかないわ。
しかも『魔殺鉱』は精製も困難なのよ。普通の鉱石より融解温度が高い上に、扱いもデリケートだから並みの職人の腕じゃあろくな武具が出来ないわ。
おまけに精製に魔力を使おうとするとその魔力をも『魔殺鉱』は吸収してしまう。
だから『魔殺鉱』で造られた武器・・・『魔殺武具』は極めて少ないわ。でも数少ないそれは最高の退魔の武器となるわ。何しろ小物ならかすり傷一つでも致命傷となるし
お姫様のような真祖でも重傷は覚悟しないといけないわ。
しかも・・・この刀はそんな『魔殺武具』の中でも最高ランクの代物ね、武器としての性能はもちろん、装飾品としても完成の域に達している。
そんな、『魔殺武具』なんて聞いた事が無いわ。もし、教会がこれを知ったら『譲れ』・・・多分『よこせ』でしょうね」
俺は先生の説明を呆然として聞いていた。
「そういえば・・・」
不意に思い出した。
『凶夜録』に自ら精製した退魔の武器で魔の者と戦う『凶夜』がいた事を、
その『凶夜』が抹消される寸前、己の最高傑作といえる刀をこの世に残した事を・・・
(それがこの『凶断』なのだろう)
俺はふとそんな事を考えていると
「ただいまぁ〜〜」「あらお姫様たちが帰ってきたようね」「はい・・・」
そんな声を聞いても俺は上の空で、手にした『凶断』をただ眺めていた。
「あら兄さん、帰っていらしていたんですか?」「?志貴様どうなされましたか?」「ああ大丈夫よ、志貴の体調はどこもおかしくないわよ」
「あら、志貴さんその刀は何ですか〜?綺麗な刀ですねぇー」「!!志貴さま・・・その刀怖い」「ブルーあんたまた志貴に、妙な物渡したのね」「と、遠野君その刀は・・・」
「ええ、お察しの通り『魔殺武具』よ、それも最高ランクのね」
「遠野君!!!!」「はっ、はいっ!!!」
俺の上の空は、先輩の大声で終わりを告げた。
「遠野君その刀ぜひとも譲ってください。これさえあればあのアーパー吸血鬼を完全に抹殺できます。何しろ掠めただけでも大量の力を抜き取る代物ですから」
「ほら言うと思った、志貴駄目よそんな性悪女に、その刀を渡しちゃあ」
険しい表情でそう言うアルクェイドだったが不意に満面の笑みを浮かべると
「・・・でも志貴が私の死徒になったら『魔殺武具』を持った死徒かぁー」
「!!な、何を戯けた事を抜かしているんですか!!!兄さんを貴方みたいな未確認アーパー生物に渡さないと何度言えばわかるんですか!!!」
「「「・・・・・・」」」(同感だと言わんばかりに頷く)
俺はそんな騒ぎの中、俺はゆっくりと立ち上がると『凶断』をゆっくりと引き抜いた。
そのとたん全員の視線が俺に集中する。
俺はそんな視線を気にせず眼鏡を取ると一瞬にして窓から飛び出しある一点に『凶断』を突き立てていた。
そこにはあの化物がいた。
別に点を貫いた訳ではない。ただの何気ない刺突だったがこれの場合それで十分だった。
貫かれた瞬間、物陰からアルクェイド達を襲おうとしていた触手の動きが止まり、刀に何かが吸い込まれる感覚がしてきた。
「!!っこ、これは・・・」
その感覚は直ぐに消えたが今度は刀自体がぶるぶると震え出した。
咄嗟に柄を握り押えようとしたがその瞬間『凶断』自身の意思が流れ込んだ。
「・・・そうか・・・お前、放出したいのか?この醜い化物を木っ端微塵にしたいのか?」
そうだと、『凶断』が伝える。
「・・・わかったわかった・・・直ぐにやってやるよ・・・」
そう呟くと俺は柄を両手でしっかりと握り込むと頭の中で爆発のイメージを浮かびあがらせた。
その瞬間鈍い音、鈍い光を発して、化物は粉々に吹き飛んだ。
そしてその場には『凶断』をしっかりと握り締めた俺だけが立っていた。
別に特別な事をした訳ではない。
『凶断』が俺の浮かべたイメージに合わせて刀身に凝縮された力の一部を凶暴な攻撃性を有するエネルギーの奔流と変えて奴に注ぎ込んだ為だ。
ふと振り返ると皆唖然として俺を見ている。
訳のわからないものを立て続けに見た所為だろう。
俺は内心(やばい)と思いながらも平然とした表情で窓から再び居間に戻ると、『凶断』を納めてから、眼鏡を掛けると
「じゃあすみません、少し寝ているから」
と未だ呆然とした皆に一声掛けるとそのまま自室に逃げる様に飛び込んで、鍵を掛けた。
「ふうっ・・・危なかった・・・あれの説明なんて今は出来ないからな」
そう言いながら『凶断』を机に置くと、ベットに横になった。
実際昨日今日と相当早かった為本気で眠いのだ。
(皆には悪いけど起きてからしっかりと説明するとしよう・・・俺のわかる範囲で・・・)
そして俺はゆっくりと眠りに落ちていった。
その寸前
「志貴ぃーーーーー!!!開けなさいーーーい!!!」
「あはは〜開けないとこちらから開けちゃいますよ〜」
そんな声が聞こえた気がした・・・

後書き
   ついにというかやっと出しましたオリジナル武器の『凶断』。
   名前のイメージはやっぱり『凶夜』からでしょうね・・・
   「こんな物認めん!!」と言う方もいらっしゃるかと思いますが、毎度毎度ですが寛容なご理解を。
   


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