俺が別荘に帰ってみると、
「あら志貴、遅かったわね」「せ、先生?」
何故か先生が優雅にお茶を飲みながらすっかりくつろいでいた。
「あっ志貴さんやっとお帰りですか?」「うん、ただいま琥珀さん。ごめんすっかり遅くなっちゃって」
「志貴さん、そう言う事でしたら私よりも翡翠ちゃんや秋葉様に言ってください。二人ともさっきからそわそわしていたんですから」
にこにことそんな事を言う琥珀さんに秋葉と翡翠は「琥珀!!!」「姉さん!!」
顔を真っ赤にして怒り出した。
「あはは〜良いじゃないですかー本当の事ですし」「良くないわよ!」
秋葉がそう一喝すると今度は俺に冷たい視線を向けると、「それで兄さん随分と遅いお帰りですが一体どこで油を売っていたのでしょうか?」
「い、いや・・・」
まずい、そう言えば三十分くらいで戻ると言っていたんだ。
しかし、あの光景をどう説明しろと言うのだろうか?
だけど、迂闊な嘘だと必ずばれる。
そうなればここは間違いなく焦土と化す。
おれが困っている所に思わぬ救いの手が差し伸べられた。
「秋葉さん、そんな事より私はなんで遠野君が現存する魔法使いの一人のブルーと顔見知りなのかを聞きたいのですが」
「ああ、そうでしたね。こちらの方が重要ですね」
「志貴、私は貴方のその眼鏡がブルーに貰ったものと言う事は知っているけど、志貴とブルーが対等に話せる仲と言うのは聞いていないわよ」
「志貴様・・・」「志貴さんちゃっちゃっと、吐いてくださいね」「・・・・・・」
・・・助かった。
皆、俺と先生の関係を見事に邪推している。
とはいえ、別に先生との関係と言われても・・・
「関係といってもな・・・子供の時に色々と教えてくれて、この眼鏡と生きる意味をくれた人だよ。俺にとっては正真正銘の恩人で先生」
「むぅー、でも志貴が別の女に信頼向けていると思うとなんかむかつく〜」
アルクェイドの言葉に皆が一斉に頷く。
「ふふっ人気者ね、志貴」「冗談は止めて下さいよ先生・・・で、どうしたんですか?先生?」
「ええ、少し君に話があるのよ。少し座ってくれない?」「はい」
俺は先生の表情が真剣なものになったのを見ると、静かに頷き先生と対面する形でソファーに座った。
「志貴、昨夜言っていた、タイムホールのこと覚えている?」「はい」
「あれね・・・一刻も早く封印しないといけなくなったのよ。そうしないと志貴が志貴でなくなる恐れがあるのよ」
「??それは一体・・・」「君、最近妙な・・・『七夜鳳明の夢を見る』と言っていたよね。あれ・・・正確には夢じゃあないのよ。
「ええっ!」「ここにいるお姫様にはもう話したんだけど・・・」
そう言うと先生は静かに話し始めた。
今、俺の体内に七夜鳳明の魂が眠っている事、それがタイムホールとの接近による、魂同士の融合だということ。
そして・・・このままだと俺と七夜鳳明が融合もしくは、消滅の恐れすら含んでいると言う事・・・
「そうなんですか・・・」「?志貴・・・あまり驚いていないようね」
「そりゃ当然ですよ。今までは何が原因なのかわからなかったから怯えていましたから。それに比べれば遥かにましですよ」
「なるほどそうね」「しかし・・・まさかアルクェイドの言って事が現実になるとは・・・」
「??ねえ、志貴私何か言った?」「・・・はあ・・・お前な、少しは自分の言った事覚えていろ。お前が言っただろうが。俺の中に七夜鳳明の魂が在るかもって?」
「あれ?わたしそんなこといったっけ?」「「「「「「「・・・はあ・・・」」」」」」」
「ちょっと!!何よその溜息は!!」「あの純白の吸血姫がねえ・・・ここまで変わっちゃう者なの?」
「それは俺に言われてもなんとも・・・ともかく話はわかりました。つまりは俺に手伝えと言う事ですか?」
「ええ、本当は君を巻き込みたくなかったんだけど・・・」「わかりました。俺も七夜鳳明も融合を望んでいませんから・・・」
「ありがとう志貴」「じゃあ、すみませんが先生少し出ます」「??どこに行くの?」「ええ、少し気になる事がありまして・・・」
「あっそれじゃあ志貴私も行く」「何言ってやがるんですか、このアーパー吸血鬼は、遠野君そう言った調査はお手の物ですから私と行きましょう」
「お待ちなさいそこの泥棒猫二匹、私が兄さんと一緒に行くに決まっているでしょう」
あっという間に騒々しくなった居間を尻目に俺はそっと別荘を抜け出した。
「ふう・・・まさか本当に七夜鳳明の魂が在るとはな・・・」
俺はそんな事を呟きながらゆっくりと、小春日和の道を歩いていた。
目的はただ一つ、あの池を調べる事だ。
(あの時あそこに現れた人影は確かに七夜鳳明と名乗った。あれが本当に七夜鳳明なのか・・・確かめないとな)
そう呟いている内に到着したようだ。
周囲はうっそうとした茂みに覆われて、水もどんよりと濁っている。
池というより、沼と言った方が適切かもしれない。
「なにも・・・ある訳無いか・・・」
何も変哲の無いただの池、おかしい所などある訳が無い。
「やれやれ、とんだ取り越し苦労だ」
そう呟き軽く苦笑して、さて戻ろうかと言う時、近くの農道に地元の人だろうか?農家の人が集まって、しきりに騒いでいた。
「また出たぞ!!」「こりゃあ三丁目の良平爺さんじゃねえだか?」「警察には連絡したぞぉー」
空気が尋常ではない。
俺は何事かと思いそこに引き寄せられるように歩き出した。
しかし近付くにつれ言い知れぬ不安が頭をよぎり始めた。
見てはいけないものを見ようとしているような気がする・・・
しかし気が付けば俺はもう人の輪の外側に立っていた。
そこから俺は必死に中心を覗こうとするが、既にそれには毛布が掛けられ見る事が出来ない。
「ん?なんだね君は?」暫くすると一人が気づいたようだ。
俺に詰問する形を取った。
「あっすみません。何事かと思いまして・・・近くの別荘に来た者です」
「おお、遠野の別荘の人か・・・」「で、何かあったんでしょうか?」「何って、あんた殺人だよ殺人」「!!!」
俺は、凍りついた。
「さ、殺人ですか・・・」「ああ、ここ二週間で七人だよあんた」「違うだろ今回で八人目だよ」
「おお、そうじゃった、そうじゃった」「それに死体が恐ろしい事になっているしのぉー」
「恐ろしい事?」
俺がまさにそれを尋ねようとした時だった。
不意に突風が吹き、それを覆い隠していた毛布をめくってしまった。
そして俺は確かに見た。
農作業用の服を着てベルトに手ぬぐいを挟み込んだ人間の皮膚を・・・
そう、目玉も歯も爪も・・・何もかもが消失した皮膚と体毛のみの死体を・・・
「・・・・・・」「ああ、いかん!!」「おい、あんた!!」「!!・・・は、はい・・・」「大丈夫か?真っ青じゃあないか」
「無理も無い。あんなものをみた日にゃあ・・・」「何なら送っていこうか?」「い、いえ、大丈夫です・・・すみませんが・・・これで・・・」
それが精一杯だった。
俺は後ずさるようにその場から離れると後は振り返ることなく、その場を後にした。
後書き
二週間ぶりでしたがいかがでしょうか?
前回予告した武器もろもろは、次回に書きます。
追記
メルティ・ブラッドでまさか似た能力が出るとは思いませんでした。
絶対偶然でしょうが、思わぬ偶然もあるものですね。