路空会合四話7


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1: 烈風601型 (2003/01/06 23:00:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

その出来事は翠と珀が巫浄の里に帰る日の朝起きた。
その時俺は、翠と珀が今日帰る事を知っていたが、あえて別れの言葉を言っていなかった。
父に口止めされていた事もあったし、照れ臭くもあった。
だが、何よりも俺自身がまた会えると信じていた為、別れの言葉を言いたくなかったのが最大の理由だった。
何か別れの言葉を言うのが永遠の別れの様で気が進まなかった。
そして俺はいつもの様に精神修行に入ろうとした時、突如衝が血相を変えて入って来た。
「ほ、ほ、鳳明様!!」「えっ?どうしたの?爺、僕これから・・・」「そ、それは後で!今はとにかく来て下さい!!」
そう言うと俺の手を取ると屋敷の方に駆け出した。
「な、何?父上が・・・」
その途中、俺の台詞を遮る様に、屋敷から、
「いーーーーーーやーーーーーーー!!!」
「やーーーーーーーーだぁーーーーーーーー!!!」
麓にまで届くような大声が聞こえてきた。
俺がその声に唖然としていると、屋敷の入り口の到着したようだ。
そこには父や母、巫浄の当主その他屋敷の者が大半が皆、共通した表情・・・途方に暮れた表情・・・でそこに立ち尽くしていた。
「御館様、鳳明様をお連れしました」「うむ、ご苦労だったな衝・・・鳳明、すまんがお前に頼みがある」
「何ですか?父上」「うむ実はな・・・」
その時、門から派手な音を立てて、一族の者と思われる若い男が二人まさに叩き出された。
「おお、どうだった?」「駄目です。翠様も珀様も興奮状態でわれわれの言葉に耳を貸してくれません」
「お二方とも『鳳明さん以外とは絶対に会わない!!』・『鳳明ちゃんと今日も遊ぶーー!!』の一点張りです」
「そうか・・・ご苦労だった」
そう言うと父は彼らを下がらせると俺と向かい合い
「つまりこう言う事だ」「翠と珀が帰るのをぐずっているのですか?」
「ああ、私達が二人に帰る日まで言わなかったのがまずかったようだ。今日帰ると聞いた途端我々を追い出して、屋敷に篭城してしまった。衝すら拒絶された以上、もうあの二人を説得できるのはお前しかいないんだ。出来れば強引に連れ出す事は避けたい。鳳明、やってくれるか?」
「・・・わかりました。駄目で元々でやってみます」
そう言うと俺は静かに屋敷内に入っていった。
「・・・すごいな・・・これ」
屋敷に入って最初の台詞はこれだったが、それは仕方なかった。
屋敷はそこら中いろいろな物が散らかりまさに台風状態だ。
「翠?・・・珀?いるの?・・・僕だよ、鳳明だよ。いたら・・・」
その後の台詞は言えなかった。物陰に隠れていた珀が俺を確認するなり、俺の手を取りそのまま奥の部屋に俺を連れて行ってしまった。
その奥の部屋には翠がいたが俺を見るなりぱっと明るくなり
「鳳明ちゃんだぁーーーー!!今日は何して遊ぶの?」「鳳明さん私またお花を摘みたい」「お姉ちゃん駄目!!今日は翠と鳳明ちゃんが遊びに行くの!!」
呆然とした俺を尻目にいつもの姉妹喧嘩を始めてしまった。
「ま、待って・・・」「「??」」
そこでようやくおれは二人に口を挟む形でいつもと同じ口調で尋ねてみた。
「・・・二人とも、何でこんな事したの?伯父さん達困っているよ」
しかしその途端二人とも、泣き出すと
「だって・・・ひっく・・・だって・・・里に帰ったら・・・また苛められるもん・・・」
「やだよー里に帰る位ならここで鳳明さんといるー・・・」
そう言ってきた。
「で、でも・・・」「ひっく・・・鳳明さんも帰れって言うんですか?・・・ひっく・・・私達の事・・・嫌いですか?」
「う・・・うううわぁぁぁぁぁん!!ここに居るの!!ここに居る!!鳳明ちゃんとずぅぅぅぅぅぅっとここに居るの!!」
「私も・・・私も・・・わあああああん!!ここに居たいよーー!!鳳明さんと翠ちゃんとずっとここに居たいよーー!!」
「・・・・」
俺は自分にしがみ付きながら泣きじゃくっている二人にどう言葉を掛けて良いのか分からなかった。
そしてその挙句とんでもない事を口走ってしまった。
「じゃあさ・・・二人とも大きくなったら一緒に居よう」
「えっ?」「ひっく・・・鳳明ちゃん??」「だからさ、僕達まだ小さいけどさ、大きくなったら、僕と翠と珀、皆で一緒に居よう」
・・・俺自身も自分に呆れ果てるような話だがその当時、俺に結婚の考えは無かった。
ただ、俺にしがみ付いて泣きじゃくる二人をどうしても安心させたくて、こんなとんでもない事を口走ってしまった。
「それって・・・鳳明さん・・・」「ひっく・・・鳳明ちゃんの・・・ひっく・・・お嫁さんにしてくれるの??」
「えっ?・・・う、うん!!そう、そうだよ!!」
俺のその言葉に二人は泣き笑いの表情になると
「わーい・・・ひっく・・・鳳明さんと一緒に居られるんだ・・・」
「鳳明ちゃん・・・私・・・ひっく・・・大きくなったら鳳明ちゃんのお嫁さんになるから・・・」
「うん・・・だからさ、笑ってさよならしよう。僕、二人の笑顔見たいからさ・・・」
そう言うと二人はしっかりと頷き、俺との約束どおりその後は泣かず笑って里を後にしたのだった。
しかし、俺はその直後二人にあんなことを言った己を激しく責め、後悔した。
と言うのも、七夜では血の純潔を保つ為、直系の者は別の一族との婚姻は禁じられ、更には『凶夜』になると、性交そのものを禁じていた。
(これは、『凶夜』が二代続く事を恐れた為の処置であるという)
「・・・お前達、あの約束を・・・」
”おぼえていたのか?”最期の台詞は言えなかった。
「はい・・・里に帰ってから私達はやっぱり里の男の子達に苛められました」
「でも、以前に比べると希望はありました。鳳明様との、あの約束がありましたから・・・」
「そして、私達が大きくなってくると私達の容姿をからかう子は皆掌を返して私達の容姿を褒める様になりました」
「ですが私も姉様も、どう言われても少しも嬉しくありませんでした。あの時の鳳明様以上のお言葉なんて・・・」
「でも私達知ってしまったんです。七夜が一族以外との婚姻を許さないと言う事を・・・でも、それでも鳳明さんを諦める事なんて出来ませんでした」
「ですから、私と姉様とで決めたんです。『巫浄の当主として鳳明様を婿として迎えよう』と・・・」
「な・・・・」「お願いです・・・鳳明様、私に・・・いえ、私と姉様にお優しいご寵愛を下さい・・・」
「一度で良いんです。私達の事を玩具と見てくださっても構いません。鳳明さん・・・私達にお情けを・・・」
「・・・いいのか・・・お前達はそれで・・・俺は」「構いません。私も姉様も鳳明様に生きていて欲しいのです・・・」
おれは一度は拒絶しようとしたが、翠の最期の一言に覚悟を決めた。
二人に対してこれ以上は失礼だ。
二人がどういった心情で、ここまでいったのかわからない。
しかし、ここまでの覚悟で俺の前にいるのなら・・・俺は何も言わず二人の気持ちを受け止めよう。
後悔なら・・・後でいくらでも出来るのだから・・・
そして俺は・・・二人を抱き寄せると静かに翠から口付けを交わした。

「・・・ふう・・・二人とも、もう大丈夫か?」「はあ・・・はあ・・・は、はい大丈夫です・・・」「ほ、鳳明ちゃん・・・体調はどう?」
「ふふっ・・・そんな不安な声を出すなよ翠・・・恐ろしいほどの好調だ」「良かった・・・」
事が終わり、俺達三人は、一つの布団で先刻までの性交の余韻に浸りながら、そんな事を言い合っていた。
「そう言えば、何故、二人とも外で・・・そのなんだ・・・出されるのを嫌ったんだ?」
「そ、それは・・・契約のためです」「契約?」「はい、私達巫浄の者が、感応を行う為には異性同士でなおかつ、体液を交換し合わないといけないんです」
「その割には必死だった様に思えるんだが?」「そ、それは気のせいですよ・・・」「??そうか・・・じゃあ寝るか・・・お前達相当疲れただろう?・・・で、お前達ここで寝る気か?」
「はい・・・ほら、覚えていませんか?小さい頃良く寝ていたじゃあないですか・・・」「駄目なの・・・」
「頼む、別に寝ても良いからそんな悲しそうな顔をするな」

夜もだいぶ更けてきた。
今俺の両隣には翠と珀が本当に幸せそうに寝ている。
「翠・・・珀・・・済まない」
そう呟くと俺はそっと二人を起こさない様に寝床を抜け出した。
空には月が薄くあたりを照らしている。
その月を見ながら俺はそっと胸に手を当てた。
「・・・感応を持ってしても・・・押さえ込む事は不可能か・・・」
そう、翠も珀も、強力な感応能力を持っていた。
さらに二人がかりでそれを行ったのだ。
しかし・・・それでも俺に残された時間は短かった。
この魔眼の呪いは俺の想像を遥かに上回っていた様だった。
「しかし時間は出来た・・・」
それこそ三日が二月強に延びたに過ぎないがそれでも時間は出来た。
あの妖術師を始末し、この職を辞し法正に当主の座を譲るのには十分な時間だ。
(その後はどうする?死ぬか?ふふっ・・・馬鹿らしい・・・その後はその後だ、俺は俺らしく思うままに行けばいい)
「・・・どちらにしろ、明日の事に思いを馳せるには、今日を生き延びる事が先決だ。さっさと寝るか・・・」

後書き
  五日遅れましたが、新年おめでとうございます。
  さて今回、『十八禁か?』思われた方すみません。
  あえて書きませんでした。
  手を抜いた訳ではありません。
  下書きをした際にあまりにもお粗末な出来にもう少しそう言った関係で腕を上げたら十八禁を出そうと思います。
  早めに終わらせるはずの四話が結構伸びました。
  これでようやく五話に入れます。
  五話から一気に話をすすめます。
  戦闘場面も今までより多いはずです。
  オリジナルの武器、技も出ます。
  楽しみにしてください。


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