真夏の終わりに・・・


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1: グリフィンドール生 (2003/01/02 23:33:00)

時間は大体午後の4時、真夏なのでまだとても明るい。
今の俺は緑色の半袖と青色の薄い長ズボンに軽い荷物の入ったリュックという姿だ。
三咲町に入ったのは大体3時頃。もう、一時間くらい歩いた事になる。
坂を登る。この先にこれからお世話になる<遠野家>がある。
おそらく、当主の秋葉さんは俺が記憶を取り戻して<異端の血筋>の事を知っているとは思っていないだろう。
まあ、表面上家族にならないといけないからこういう話題には触れない方がいいだろう。
小さい頃ここに来た事を覚えていてくれているだろうか。あの時遊んだ皆さんはどうしているだろうか。
・・・もしかしたらかなり変わっているかもしれない。一応ここは金持ちなのだ。性格が歪んでいてもおかしくない。
(テレビノミスギジャナイノカ?。)(・・・そうかも。)
最近そういう金持ちの醜い争いの事件物を良く見る。・・・考えすぎかもしれない。
とにかく、今の俺の最大の問題は・・・

      結局、<さん>と<様>どちらで呼ぶのか、という事だ。(・・・オイ。)

まさに、死活問題。(ナ、ワケガアルカ。)
(だって、目上なんだし・・・。)(ソレハイイカラ、チャントクラセルカ、カンガエロ。)
・・・最もな意見だ。
何て俺自身と話している内に・・・大きな門に辿りついた。

まず、<デカイ>というのがこの屋敷の第一印象だった。
屋敷の周囲を囲む高い壁。外からでもわかる中庭の森林。来る人全てを威圧する広大な土地。
小さい頃とイメージが大分違う。・・・まあ、暮らせばなれるだろう、と考えながらチャイムを鳴らした。
ピンポーン・・・沈黙・・・声が聞こえた。
「はい、どちら様でしょうか?。」
女の人の声だった。
「あ、はい、あの・・・今宮隆一ですが・・・。」「隆一様ですね、お待ちしておりました。お入り下さい。」
門に手をかけ中に入る。・・・門から屋敷のドアまでかなりでもないが離れている。
「やっぱ、他の異端者や退魔の襲撃を恐れてこうなったのかな?。」
ありえない事ではなかった。
タ、タ、タ、タ・・・ゆっくりと周りを見ながら歩く。・・・そしてドアの前に立つ。
コンコン、ドアを叩く。・・・ガチャ、ドアが開けられた。
「ようこそおこし下さいまし・・・た。」
ペコリと頭を下げられる、が途中で止まりこちらをじっと見ている。声からしてさっきの女の人だろう。
久我峰家でも頭を下げられる事はあったが、じっと見られたのは始めてだった。
「あ、いえ・・・こちらこそこれからよろしくお願いします。」
こちらもリュックを下ろして頭を下げる。
「は、あ、いえ、おやめ下さい、隆一様は今日から私の主の一人になるのですから。」
じっと見るのをやめたが、今度は困っている。・・・よしだったら。
「じゃあ、主として命令します。自分にも敬語で話させて下さい。」
そう言うと、向こうはさらに困ったような顔をした。
久我峰家でも同じ事をした。まあ、大抵どこでもこんな事を言えばこうなるだろう。
「・・・それは・・・その・・・。」
・・・ちょっとふざけすぎたかもしれない。・・・ま、この事は後でゆっくり話そう。
「それではしばらくの間よろしくお願いします。翡翠さん。」
今度は驚いた顔をした。・・・まあ、名前を覚えていた事に驚いたんだろう。

「・・・居間で秋葉様がお待ちです。お荷物はお持ちいたします。」
リュックを渡し翡翠さんの後について行く。・・・と言っても目的地の居間にはすぐに着いた。
ま、予測していた通り、なかなか手の込んだ造りだと思う。しかもかなり広い。そんな空間を一人で支配するかのように一人の女性が座っている。
「あ、え・・・お久しぶりです、秋葉・・・様。」
居間の入り口でお辞儀する。が、なかなか返事が返ってこない。顔を上げる。
「・・・ええ、久しぶりね隆一。・・・そこにお座りなさい。」
言われた通り秋葉・・・様の目の前の椅子に座る。何故だろう、この人も驚いた顔をした。
「隆一、まずあなたに言っておく事があるわ。」「はい。」
例えるなら<透き通った声>、という感じだった。
「久我峰家で何をしていたかは聞かないわ。でもここは遠野家、勝手な振る舞いは許さない、わかったかしら?。」「はい。」
覚悟はしていた。・・・ま、理由はどうであれ、学校の校長と担任を殴ったんだ。退学ではなく転校としてくれただけ感謝しないといけないのだ。
「そう、わかってくれればいいわ。それと・・・。」
秋葉様は少し笑みを浮かべた。
「<様>ではなく<さん>でいいわ。」「・・・はい、秋葉さん。よろしくお願いします。」
もう一度頭を下げた。

「さてと、翡翠。」「はい。」「兄さんを呼んできて。」「わかりました。」
<兄さん>・・・おそらく<志貴さん>の事だろう。最近、二人の漢字の名前を知った、というかさすがに知らないと不味いと思い調べた。
「琥珀ー。」「・・・はい、秋葉様。」
秋葉さんが呼ぶともう一人別の部屋から女性が出てきた。・・・確かこの屋敷に使用人は二人しかいないという事だったはず。おそらくもう一人のほうだろう。・・・って言うか、この人を俺は知っていた。
「・・・あ、隆一様ですね。私、この屋敷に仕える琥珀と申します。」
また頭を下げられる。・・・でもこの人も一瞬沈黙した。
「はい、お久しぶりです、琥珀さん。」
こちらも頭を下げる。
「は?、どこかでお会いしましたか?。」
どうやら忘れているようだ。・・・まあ、チラッと見ただけだから。
「はい、小さい頃屋敷の外から琥珀さんの事を見ました。まあ、覚えていなくて当然ですね。」
笑ってみせる。
「あはー、そうなんですか?、よく覚えてますね〜。」
向こうも笑った。・・・でも何故だろう、何となく目が笑っていない気がする。
「はい、でもそれほど強く覚えてる訳・・・。」「秋葉様、志貴様をお連れしました。」
翡翠さんが戻って来た。・・・そして後ろに男の人が居た。

「君が隆一君・・・だね、秋葉の兄の遠野志貴だ、よろしく。」
手を出される。
「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします。」
こちらも手を出し握手する。
「いやーでも志貴さん雰囲気変わりましたね。」
それが率直な意見だった。・・・どこをどうと聞かれても困るのだが。
「あ、まあね、隆一君こそ変わったんじゃないか?。」
そうかもしれない。・・・<色々>あったから。
「そうですね・・・でも志貴さん。」「なに?。」「できれば昔みたいに呼び捨てにしてくれるとうれしいんですけど・・・。」
そう、その方が何故か気が楽になる。
「・・・わかった、じゃあ隆一、なれないかもしれないがお互いよろしくな。俺も帰って来た時は大変だったし・・・。」「兄さん。」
秋葉さんが止めに入る。・・・ああ、その事か。
「いいですよ、志貴さんがどうして当主に成れなかったか聞きましたから。」
その言葉に皆沈黙した。・・・そんなに不思議かな?。
「へー、誰がそんな事説明したんだ?。」「斗波さんです。確か事故で体が弱くなって・・・その・・・追い出された・・・とか。」
その言葉に秋葉さんが反応した。
「そう、久我峰が・・・。」
苦々しげ、という感じだ。まあ、あの人の部屋にあった・・・いや忘れよう。

「それでは隆一様、お部屋へ案内します。」「あ、はい。それじゃ皆さん、また。」
そして俺は居間を出ていった。
俺の部屋は館の東館の二階だった。案内された部屋に入る。・・・で。
「広い・・・。」
まあ、予測はしていた。でも、実際に入ればやはりこう言ってしまう。しかし、久我峰家の部屋より広いとは・・・。
「どうされましたか?。」
翡翠さんは平然としている。・・・改めて遠野家の資産の凄さがわかった気がした。



「ふーう。」
俺はさっきまで隆一が座っていた席に座った。
「しかし、驚きましたね〜。」
琥珀さんだ。
「ええ、驚いたわ。」
秋葉だ。
「俺もだ。」
一応騙すのは気が引けたがそれよりも・・・。
「似てますね。」「似てるわね。」「・・・ああ、そうかもな、翡翠が言っていたけどまさか本当とはな。」
そう、似ているのだ。
髪型や細かい所は少し違ったが・・・。
あれは・・・。
あの時に・・・。
学校でアルクェイドと戦った後に・・・。
会った奴に似ていた。
     

       
        七夜志貴・・・つまり俺自身に・・・。

後書き
 書きました〜。実は隆一の人物設定を書かなかったのはこの時のためです。要は隆一は、シエルのトゥールエンディングの時に出てきた赤い着物を着た少年、七夜志貴に似ているのです。ちなみに髪は黒髪で志貴より少し短め、という感じです。(よくわからないかな?。)それでは〜。 


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