「・・・黒き血か・・・」
衝が姿を消し暫く経ち俺はふと今まで頭を突っ込んでいた瓶に視線を移した。
月明かりしかないが、瓶の中が漆黒の水に満たされているのが良くわかった。
この症状が現れたのは俺が都に上り二つ季節が過ぎた頃だった。
仕事を終えた俺は突如胸に圧迫感を覚えその場で吐血した。
周囲の者達は驚き焦り、都中の医者と言う医者に診察を依頼したがその全てで原因不明とされ匙を投げられた。
その間にもおれは断続的に吐血を繰り返し、その血は黒みを帯び、ついには墨の様に黒血と化した。
周囲の者は原因に首を傾げたが、俺はその原因を本能で悟った。
おそらくこの眼だろう。
どうやら俺のこの眼は俺自身や周囲の者が思っていた以上に持ち主に危害を加えるものらしい。
漠然とだが俺はこの眼がありとあらゆる死を見せるのと引き換えに寿命を削り落としている様が浮かんだ。
「ふう・・・ふう・・・爺には大丈夫と言ったが・・・今夜がやばいかも知れんな・・・うぐっ・・・」
自室に戻り横になっていたが、だるさと継続的な嘔吐感と闘っていた。
いつもなら暫く横になれば収まったが今回はその兆候すら見えない。
「うううう・・・・ここまで・・・か・・・?誰か・・・いるのか?」
「・・・鳳明さん・・・失礼してもよろしいでしょうか・・・」「・・・珀か・・・それに翠もいるな・・・お前達を拒絶する道を俺は持っていない・・・いいぞ」
俺が気力を振り絞りそう言うと、すっと襖が開き翠と珀が静かに入ってきた。
気のせいかその表情には何か決意を感じられる。
「どうかしたのかお前達?こんな時間に?」「・・・」「・・・」
俺のその問いに二人は言いにくそうにしていたがやがて意を決したように
「鳳明様・・・」「鳳明さんはどこを患っていらっしゃるのですか?」
「!!・・・爺に聞いたのか?」「はい・・・」「鳳明様が・・・もう・・・もう永くないと・・・」
「そうか・・・すまんがこいつは病じゃあない・・・生まれついてのものだ。医者と言う医者に匙を投げられたよ」
俺はそう言うと力なく笑った。
すると珀は静かに俺を見つめ、翠は涙ぐんだ瞳を俺に向けた。
それを見た俺はある予感がした。
(まさか・・・)
「鳳明さん・・・私達なら鳳明さんを治せるかもしれません」「お・・・お願いです・・・鳳明様・・・私達をだ、だ、抱いて・・・」
「待て二人とも」
俺は翠の台詞を途中で遮った。
「えっ?」「鳳明様?」「・・・お前達の気持ちは嬉しい。しかし、俺はお前達を道具として抱きたくない・・・それに・・・お前達も好きな奴はいるだろう?だったらそう無理を・・・」
「そんな・・・そんな人いません!!!」「私も姉様もずっと・・・ずっと鳳明様だけをお慕いしておりました!!!」
今度は二人が俺の台詞を遮った。
いつもの二人からは想像出来ないほどの大声で。
「!!・・・翠・・・珀」「鳳明様・・・私達ずっと覚えております・・・あの時の約束を」「鳳明さんが・・・私と翠ちゃんを奥方にして下さると」
「えっ?・・・ああっ!!」
最初は何の事かわからなかったが、唐突に思い出した。
あの日俺達三人が交わした幼かったが純粋な約束を・・・
今年最期の後書き
予定ではこれで四話を終わらせ、年明けから五話のつもりでしたが・・・結局尻切れトンボとなってしまいました。
つくづく、予定通り事を進めるのは難しいと実感しました。
こうなれば正月中に四話を終わらせよう!!
一応今後の予定としては春か梅雨時期には路空会合を完結させます。四話も終わればいよいよ終盤ですから。
それとこんなssに感想を送ってくださった方々にこの場を借りて深くお礼を申し上げます。
では今年も三十分を切りましたのでこれで失礼します。
皆さん良いお年を