路空会合四話4


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1: 烈風601型 (2002/12/09 23:00:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

夕食も終わり、全員が就寝した深夜、志貴の部屋に音も無く忍び込んだ一匹の猫がいた。
レンである。
実はこの旅行直前アルクェイドら五人は抜け駆けを警戒し、『深夜に志貴の部屋に入る』事を禁止した。
無論の事だがレンにも通達されている。
しかし、レンの方はと言えばそう言った事などお構い無しに、部屋に侵入したのだ。
そのままレンはベッドの脇まで来るとレンは人型に姿を変え志貴の隣になる様に布団に潜り込もうとした瞬間、
誰かにひょいと引っ張り上げられた。
「レ〜〜〜ン〜〜〜〜私は確か志貴の部屋に入るなと言ったわよね?」「・・・あアルクェイド様・・・」「まったくいい根性をした使い魔ですね」「化け猫の分際で兄さんの布団に入り込もうなんて百年早いですよ」
「・・・・・・」「あはは〜レンさ〜ん明日はお仕置きですよ〜」
いつの間にかアルクェイド達五人がいた。
「まったく・・・いくわよレン・・・レン?どうしたの?」
レンをつれて部屋を出ようとした時そのレンが表情を強張らせ、真っ青な顔である一点を見ていた。
そして、それにつられる様にアルクェイド達もその視線を追い、そして全員蒼白となった。
志貴のあまりにも白すぎる顔色に・・・
全員志貴の睡眠が深い事を知っている。
しかし、これはどうだ、今の志貴には血の気と言うものが一切感じられない。
まさに正真正銘の死体を思わせるものだった。
「し、志貴・・・随分と深い眠りについているわね・・・」「と、遠野君・・・」「兄さん?」
あまり志貴の寝顔を見ていないアルクェイド達はいつもの事と思いたかった様だったが、最も志貴の寝顔を見続けて来た翡翠はかつてないほど青くして今にも卒倒しかねない。
「ちょっと志貴・・・・!!」
業を煮やしたのか、それとも不安に押し潰されそうになったのか、アルクェイドが志貴の手をとろうとしたがその瞬間、びくっとしてその手を離した。
「どうしたのですか?」「う、うそ・・・」「だからどうしたのですか!!アルクェイド!!」
「し、志貴・・・志貴の体がね・・・冷たいの・・・」「「!!!」」
その言葉に秋葉と翡翠が本当に気絶しそうになった。
がそれでも気力を振り絶たせると
「兄さん!!兄さん!」「志貴様!!」
半ば半狂乱で志貴を起こそうとしたがその時、
「無理よ今の志貴はどうやっても起きないわよ」
冷静な声が後ろから聞こえてきた。
振り向くとそこには
「あーーーーっ!!!ブ、ブルー!!」「はい、お姫様お久しぶりね」
「な、なんで『協会』の・・・そ、それも現存する五人の魔法使いの一人の貴女がこんな所に?それに遠野君を知っているんですか!!」
「それは当然よシエル、志貴のかけているあの眼鏡、ブルーからもらった物よ『直死の魔眼』を抑える為の・・・で、ブルーあんた何の用なの?まさか志貴に眼鏡の代金を請求しに来たんじゃあないでしょうね?」
アルクェイドが殺意を漲らせブルーと対峙する。
「まさか、私がここに来たのはあくまでも別件。それについてはもう貰っているしね・・・それよりも何故志貴がこうなったのか知りたくないの?」
「!兄さんがこうなった理由、を知っているのですか!!」「ええ、あくまでも推測であって確信じゃあないけれど・・・まあまずは順序だてて説明させてもらうわよ。冷たい様だけど今の志貴に関しては私でもどうしようも出来ないから」
そう言うとまずは自分が何故ここにいるのか、時空の壁が薄くなり穴が発生する事などを詳しく話し出した。
「『タイムホール』??」「ええ、正確な呼び方は不明だから呼びやすくと言うことでね」「そんなこと初耳ですよ貴女の嘘出まかせじゃあないのですか?」
「ああ、それは当然よ、教会に応援を要請してもてんで出て来ないんだから。やっぱり頭が固いと未知の状況に対処できないようね」「・・・その点に関しては否定できません」
その辛辣な台詞にシエルの表情は曇った。
現に彼女自身埋葬機関、いや、教会の上層部の原理主義の頑迷とも言える固執ぶりにはいいかげん辟易していた。
つい先日など志貴の断罪を彼女に命じようとしたほどだ。
その罪状は『直死の魔眼を有した罪』ただそれだけだった。
「そんなことより!!兄さんはどうしたんですか!」
いつまでたっても本筋に入ろうとしないブルーに秋葉が声を荒げた。
「失礼ですが、秋葉様の仰られるとおりです。今はそのような話は関係ないと思われますが」
続けて発せられた翡翠の非難の言葉に小さくかぶりを振ると、
「いいえ、志貴のこの状態と『タイムホール』実は無関係じゃあないのよ・・・たぶん・・・今の志貴は・・・幽体離脱の状態よ・・・それもかなり特殊・・・いえ、異常事態ともいえる状態のね」
「幽体離脱?異常事態?ブルー、それってどう言う事?」「これはあくまでも私の推測なんだけど・・・志貴って、多分二・三ヶ月くらい前ここに来たんじゃあないの?」
「!!そう言えば・・・志貴さんが最初を訪れたのもそれくらい・・・」「それね。その時に誕生したばかりの『タイムホール』と接触してしまったのよ。その時に志貴の魂がタイムホールに引っ張られたのよ」
「ですが、それだと遠野君はずっと・・・」「話は最後まで聞いて。でも志貴の魂は『タイムホール』から脱出して志貴の体に戻った。でも・・・その時にとんでもない偶然が重なったのよ。その『タイムホール』の向こう側の時代でも志貴に極めて似た魂を持つ人物も魂を引っ張られて・・・よりにもよって志貴の魂と結びついてしまった・・・」
「それって・・・もしかして・・・」「そう多分・・・いえ、十中八九、七夜鳳明の魂と結びついたのよ」
「で、志貴はこれからどうなるの?」「これは私にとっても未知の領域に属する事よ。分からない事が多過ぎるわ。でもこれだけは言える。このまま症状が進行していけば、志貴と七夜鳳明、二つの魂が一つに完全に融合してしまう。・・・いえ、最悪の時には二人の魂は時空の狭間に落ちて消滅と言う事もあり得るわ」
「そ、そんな!!」「ブルー!!何か手は無いの!!」「今私達が出来る事と言えば一刻も早く『タイムホール』を見つけ出し、封印する事しかない。そうすれば、結びついた二つの魂は自然に離れていくはずよ・・・おそらくは」
「おそらくですって!!」「妹、落ち着いて、つまり今はそれしか方法が無いのね?」「ええ、私も調べては見るけど・・・でもこうなったら志貴に何も話さない訳にはいかないわ。明日なりに私から志貴に伝えておくから・・・志貴には休暇をゆっくりと楽しんでもらいたかったけど」
「少し癪だけど、志貴はあんたに絶対的な信頼を寄せているから・・・それでお願い」「ええ、分かったわ。それよりも貴女達ももう寝なさい。まだ大丈夫だと思うから。私はもう少し場所を絞らせてもらうから」
その言葉と共に部屋に風が吹き上がるとブルーは消えていた。
「・・・アルクェイド、貴女ブルーの言葉をそのまま信用するんですか?」「ブルーはいろいろと癇に障る相手だけど今回に関しては信用できる相手なのは確かよ」
「本当に信用できるのですか?」「少なくても志貴を殺したがっている連中に比べたらはるかにね。仕方ないわ私達も寝ましょう」
「ですが・・・」「気持ちはわかるけど、ブルーの言うとおり今の私達には出来る事は無いわ。それよりも明日私達も『タイムホール』を探しましょう」
アルクェイドのその言葉に全員(発言した本人も含めて不満だったが)不安を抱えながらも志貴の部屋を後にした。
そして、自室に入ろうとした時、琥珀が発した一言が全員の心情を過不足無くあらわしていた。
「志貴さん、・・・絶対に明日も目を覚ましてくださいね。おいしいご飯作って・・・待っていますから」


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