「せ、先生・・・ですよね?」
俺は半ば呆然としてそう呟いた。
本当に驚いた、まさかこんな所で会うとは・・・
「それはこっちの台詞よ、志貴。まさか君にまた会うなんてね・・・で、どうしたの?こんな時間にこんな所で」
「いえ、俺はみんなと一緒にちょっと旅行でここに来てまして、それで夜の散歩を・・・」
「ふーん・・・で志貴?」「はい?」「何か悩みがありそうね。どう?また私に話してみる?志貴が嫌ならそれはそれで構わないけど」
「・・・」
俺は一瞬躊躇した。
この話をしても良いのかどうか・・・
しかし、他の皆に話せない以上、今こんな事を相談できるのは先生しかいない。
「・・・聞いてくれますか?実は・・・」
気が付けば、俺は何故ここに来たのか、その発端から始まり、更には自分の奥底に封じた、『凶夜』への恐怖もまとめて話していた。
それに先生は冷やかす事も茶化す事も無くただ、真剣に聞いてくれた。
やがて話が終わると、
「へえ、君の他にその眼を持っていた者がいたなんて初めて聞いたわ。それに・・・『凶夜』ね・・・私も名前は知らなかったけど、”この世界のどこかに人でありながら異端の力を極めた一族が存在する。と言う程度だけど噂で聞いた事があるわ。」
「そうなんですか?」
「ええ、でも私が聞いた話だと最期には自らの手で命を絶つと聞いたんだけど・・・まあ、噂だから途中で捻じ曲がったんでしょうね・・・で、志貴?君はその『凶夜』となるのを恐れているの?」
「はい・・・もしかしたら俺もこの力でアルクェイド達を殺そうとするんじゃないかと思うと・・・」
「君の気持ちは良く分かるわ。でも志貴、私の知っている能力者で自分の理性を保ち、力の使用を戒めた者の中で発狂したのなんて一人もいないわよ。ましてや君には私が渡した眼鏡もある。そんなに神経質になる必要なんて無いわよ」
「ですか・・・正直な事を言うともうこの眼鏡なしでも大丈夫なんです」
「どう言う事?」
「半年前先生とお会いした直後に俺の体内で封印された七夜の記憶と力が戻ったんです。それに平行してこの『直死の魔眼』まで眼鏡無しでも制御出来る様になったんです・・・今までは『もうこの線に怯えなくてすむと喜びました。でも今から思えばこれは俺の中の『凶夜』が目を覚ましつつあるんじゃあ無いかと思うと・・・」
「そんな事は無いわ」「先生?」
「志貴、君は自分の力を過小評価しすぎよ。正直言って七夜の力がこれほどとは思わなかった。もし君が望めば最凶の退魔士となる事だって可能よ。それに・・・君は自分がどんな立場に追い込まれ様ともアルクェイド達を・・・お姫様達を守るんでしょう?」
「はい、こいつは俺が自分自身で決めた事ですから」「だったら迷っている暇は無いわよ。怖がっている暇も無い。君は君らしくまっすぐ先を見据えなさい。それでも駄目だったら私が君を止めてあげるから」
そう言うと先生は小さく笑いかけ、俺はその笑顔に恐怖が和らいだ。
「ありがとうございます先生、で先生は何でここに?」「私?私は仕事よ・・・うーんそうね君だったら話しても問題無さそうね・・・志貴これから話す事は他に言っちゃあ駄目よ」
「はい」「よろしい、・・・実はね最近世界各地で時空間の壁が薄くなっている所があるのよ」
「時空間の壁?」「ええ、ほら漫画とかにはあるでしょう?大昔や未来に行くって言うのが、でも、本来は時空と時空の間には何物も越える事の出来無い壁が存在するの」
「それは当然ですよね。そんな簡単にされたんじゃあ、たまったもんじゃあないですから」
「ええ。でも、最近になって世界各地でその壁が薄くなった箇所が人為的なのか自然的なのか知らないけど、多数出現しているのよ。だから力の強い者・・・たとえばアルクェイドとかはその穴の状態によっては二つの時代を自由に行き来できるようになるのよ」
「ええっ!!そんな事になったら・・・」「ええ、間違いなく歴史が狂っちゃうわね。まあ、今の所は協会の魔術師が総力を挙げてその穴・・・『タイムホール』を補強しているから実害は無いんだけど」
「あれ?教会は何もしていないんですか?」「ええ、『起こるかどうか分からない事態に対応する様な暇はこちらには無い』なんて抜かしてね。壁が壊れたら死徒退治所じゃあ済まなくなるのに・・・まあ、そんなことだから私はアジア方面を主に調査しているのよ。幸いな事に今までは何も異常無かったんだけど・・・」
「けど?」「最近になってここの近辺に極めて強大な『タイムホール』の存在を確認したのよ。それで昨日からここの調査に乗り出したの。最もまだ発見できないけどね」
「ですが先生、それだけ強力だとしたらすぐに分かるものじゃあないんですか?」
「残念だけどそうでもないのよ。『タイムホール』なんて言っても、普段は周囲の風景に溶け込んでいるから私達でも発見できるのは穴が空いた時位なのよ。それ以外はまったく分からないわそれに『タイムホール』の強さは大きさじゃなくて時空間の密接度なのよ。これの理屈はわかるわよね」
「はい。・・・先生手伝いましょうか?」
俺は少し躊躇した後、そう言ったが、
「うーん、気持ちは嬉しいけど、でもこれの調査って素人じゃあ殆ど役に立たないのよ」
「そうですか・・・」「ええ、とりあえず気持ちは受け取っておいてあげるから君は君の出来る事をしなさい」
「出来ること?」「せっかくの休日なんでしょ」「妹さん達とのんびりしていなさい」
「ふふっ・・・はい先生」「よろしい。じゃあ志貴、縁があったらまた会いましょう」
その言葉と共に一陣の風と共に先生は消えてしまった。
「先生・・・本当にありがとう」
俺はもう誰もいない空間に一礼と共にその言葉を口に出していた。
先生はあの日と同じ様に俺に道を示してくれたのだ。
同時に何か吹っ切れた感じだった。
(『凶夜』になろうが七夜のままであろうが俺は迷わない。その時までは俺らしく生きよう)
その瞬間奇妙な違和感があった
「・・・?あれっ・・・何か前にもこんな誓いを立てた様な・・・気のせいか・・・」
俺はそう呟くとそのもやもやを押し込むと別荘に戻るべく歩き始めた。
不定期後書き
どうも、お久しぶりです。今回はいかがでしたでしょうか?
前回のラストと今回先生を登場させ、話をさせてみましたが、多分、拙い所はかなりあったと思います。
さて、次回は志貴と『タイムホール』の意外な接点を第三者視点でやります。