ある晴れた日の夕べ


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1: SHU (2002/11/18 02:41:00)

あの日、姉さんが自殺しました。とてもよく晴れた日のことでした。
私は買い物のために少し、ほんの数十分、屋敷を離れただけでした。
それなのに私が戻ったときにはすでに姉さんはヒトではなくなっていました。どうしてそんなことになったのか・・・その理由は別に問う必要はありません。
なぜなら、私には何年も前からわかっていたはずなのだから。本当は自分でもわかっていたはずなのに見て見ぬフリをしていました。
直視してしまったら何かを壊してしまいそうで・・・こんな私の独りよがりな思い込みでまた姉さんの大切なものを1つ奪ってしまったような気がしました。
本当に私は人に守られて、その上、私は人を傷つけて、ひどい人です。

そんな私が夕食の片づけをしていたときです。
夕食といっても、インスタント食品と志貴さまが作ってくださった味噌汁とご飯だけです。
私が料理を作れないばっかりに志貴さまの手を煩わせてしまい本当に恐縮です。でも、そのようなことも志貴さまは進んでやってくださいます。

「俺がやりたいからしているんだ。俺の勝手だろ。」

いつもそのようなことをおっしゃいます。
私は何度もおとめするのですが、全く聞き入れようとはしません。
勝手な人・・・私までもがそう思ってしまいます。でも、そう思いつつも、自分でメイド失格だなあ、と、思いつつもやっぱり嬉しい自分がいるのです。
やっぱり私は身勝手なんだなあ、と、つくづく思います。
そんな私を一度もお咎めになられない志貴さまも愚鈍だと僭越ながら考えてしまうんです。

その日もそんなことを考えていました。
まあ、片付けといっても食器を洗いラックに立てかけておくだけ料理のできない私にも出来ることです。志貴さまはこれさえも手伝うとおっしゃられたのですがこればかりはお断りしました。
・・・私の仕事がなくなっちゃうじゃないですか・・・!
仮にも私は志貴さまお付きのメイド。本当ならば志貴さまの手を煩わせることなどあってはならないのです。
そう教育されました。
今でもそれは正しいことだと思っています。
そして、志貴さまにもっと頼ってもらいたいものです。
でも、頼ってもらえないのは私が頼りないからなのか・・・姉さんだったら笑顔でなんでも相談に乗ってあげたのでしょうか・・・やっぱり私は・・・

「なあ、翡翠・・・」

そんなことを考えていたときです。
志貴さまは突然厨房に入ってきて、私に声をかけられたのです。
姉さんは、私たちの主人である志貴さまはこのような場所に立つべきでない、と何度も言っていたものです。
姉さんは料理が上手だったのでこのようなことを言っても説得力がありましたが、料理の出来ない私が言っても何の説得力もありません。
また、洗い物の手伝いを申し出なさるのかな、と思っていたら・・・

「最近、翡翠さ、何か悩み事ないか?」

「そう見えますか、志貴さま」

「う〜ん、なんていうか、疲れてるというか、元気ないというか・・・」

「と、いいますと?」

「・・・まだ琥珀さんのこと引きずってないか?」

確かに姉さんのことはまだしこりのように残っています。
姉さんはああなるしかなかったのか、姉さんはなぜ私を頼ろうとしなかったのか、私はなぜ姉さんを救えなかったのか・・・。
やっぱりいつも姉さんのことが頭をぐるぐる巡っているような気がします。それに料理とかほかにいろいろなことで姉さんにはできて私には出来ないことがあります。そんなものがあるために志貴さまに迷惑をかけてしまいます。
そのようなコンプレックスを抱えていることも確かです。でも・・・

「私の顔、そう見えますか?」

極力隠していたはずなのに・・・

「なんとなく、ね。俺も最近ようやく翡翠の表情がわかるようになってきたんだ。
・・・正直言うと、最初、俺がこの屋敷に戻ってきたとき、翡翠って無表情だなあって思ってって、全然感情とかわからなかったんだけど、何日かして気づいたんだ。
翡翠って実はわずかな変化だけどいろいろ表情変えてて、感情豊かなことに気づいてさ、それから、結構翡翠の気持ちがわかるようになってきたんだ。」

あの日から私は機械に、何も感じない機械のようになってしまったと思っていたんですけど、結局は何も変わっていなかったのかもしれない。
・・・こう思って、少し安心しました。

「それで、今の翡翠、すごく無理してる感じがする。
なんか、一人で2人分背負っているような・・・俺としてはもっと楽にしてほしいし、俺を頼ってほしい・・・!」

私はドキッとしました。

「それに、・・・」



「・・・翡翠には生きてほしい。琥珀さんの分も、秋葉の分も・・・」


そして、最後に


「これは翡翠の主人としての最初で最後の命令だ」

そう言って、私を抱きしめました。
・・・志貴さまは私にとても残酷な命令をしました。
生きること。この心に開いた空洞を抱えながら生きていく・・・
秋葉さまがお亡くなりになってからもつらかった。
姉さんが死んでからはもっとつらかった。
私を半身を失ったような深い悲しみが襲いました。
しかし、志貴さまがいます。だから、今までがんばれました。
でも、志貴さまは高校を卒業されて、大学も卒業された後には、いえ、もしかしたら高校を卒業されたらすぐに、一人暮らしを初めなさるかもしれません。
最初で最後というのですから主従関係を断つ、すなわち、私を解雇するというのでしょう。そうしたら、私は生きる糧を本当に失ってしまいます。
それでも私に死ぬという選択肢を与えてくれないのですか・・・!




    ・・・結婚しよう・・・




そのときです。志貴さまの口から出た、その一言で私の中の何か石のような塊がとろとろと、まるで氷のように溶けていくのがわかりました。
その塊から流れる雫が、心をつたい、目から流れ落ちるのを感じました。
今まで何を考えていたんでしょう。
あの夜、志貴さまがおっしゃられたことをどうして、今まで忘れていたのでしょう。

「純粋に翡翠が好きだ。」

あっ、その言葉に甘えちゃってもいいんだ・・・
今更ながら、志貴さまが大きな存在に見えました。
私を包んでいつまでもどんなことでも守ってくれる、そんな大きくて強い存在に。
そして、ようやく理解しました。
さっき、おっしゃられた、最初で最後の命令。もう主従でなくなるワケ。


もう立ち止まらない。私は一人じゃないんだから。





「翡翠・・・俺の気持ち受け取ってくれるか?」






「はい、志貴さんっ!」


the end


あとがき
 にーはお。SHUです。初投稿です。話が突然思い浮かんだので載せたくなり載せました。(安直)
 拙い文章ですが(推敲してないので)、読んで頂いた方々には感謝です。しぇしぇ。


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