「指輪と私(」(M秋葉 ジャンル、ほのぼの)


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1: D (2002/11/12 20:27:00)[hotandcold20 at hotmail.com]

「指輪と私」


二人で出かけようと無理やり連れ出されて数時間がたっている。
そして夏もとっくに過ぎ人気のなくなった夕方の砂浜を私と兄さんの二人は歩いていた。
「ねえ、兄さん、海に来るのには時期が遅すぎはしませんか?」
肌にあたる潮風が寒くてついそんな文句が口から出る。
本当はさっきから二人っきりと言うだけで心臓は異常なほど鳴り響いている。
そんな私を気にしないかのように兄さんはいつものように私に笑いかけると
「どうせ夏に来ても秋葉の水着姿、見れないだろ。だったらいつ着ても同じかなって」
確かに胸の大きさにコンプレックスのある私は水着に着替えないかもしれない、だけど
「兄さんが見たいって言ってくれればいつだって見せてあげるのに
それに・・・私以外の女性の水着姿だったらいくらでも見れるじゃないですか」
少しのとげに少しの本音、兄さんだったら・・・超えられない壁かもしれない
そんな私に少し困ったような表情を向けて
「うん、確かにそうだね。琥珀さんも、翡翠はすごく恥ずかしがるかもしれないけど
きっとかわいく見えたんだと思う。確かに少し残念かな」
「だったらいつものように私たちを無理やり引っ張ってでも海につれてくればよかったんです。
きっと、いえ絶対に口では文句を言ってもすごく嬉しいはずですから」
少し間抜けな顔、私がこんなことを言うのはそんなにおかしいだろうか
しばらく無言でたたずむ兄さん、そんな兄さんにすこし私も見とれてしまったから
恥ずかしくて、太陽に目を移した。
「きれいですね。」
「ああ、」
だんだんと紅く染まる空、少し前までは私のようで嫌だった。
兄さんはそんな空より私のほうばかり見ている。
「秋葉、さっきさ、無理やりでも嬉しいって言ったけどさ。今日はどうだった?」
答えの決まっている質問。言うまでもない答え、それでもそんな当然の答えを兄さんは欲しているのか
「はい、すごく楽しかったです。隣に兄さんがいるから、
あっ、それより空があんなにきれいですよ。見てください兄さん」
少し恥ずかしいことを言っただろうか、照れくさくなって話をそらしたのは露骨だったのだろうか
それでも兄さんの視線は空ではなく私を見つめていて
「はあ、兄さんったら私ばかり見て、どうせ『あの空よりも秋葉のほうがきれいだよ』
とか言うんでしょう。お世辞には引っかかりませんからね」
少し怒ったような口調で兄さんをたしなめる。そんな私に兄さんは微笑みながら
「うん、秋葉の言う通りだね。秋葉のほうがきれいだ。」
私はドキッとしてしまう。
「兄さん、そんなこと言ったって妹の私は口説けませんよ
そういう言葉は好きな方にいうものです。」
照れ隠しにそういうと兄さんはまた少し困ったような顔をして
「兄妹じゃないんだけどな。」
「それでも戸籍の上では兄妹です。」
「それにね、秋葉」
少し言い聞かせるような口調でゆっくりとそしてはっきりと
「俺は好きじゃない人にはそんなこと言わないよ。」
心臓が止まるかと思った。
「兄さん、冗談にも程があります!」
「冗談じゃないよ、秋葉、嘘だと思ったら俺の眼を見てごらん」
すごく優しく微笑む兄さんの顔、私の好きな顔
「嘘です。だって兄さん笑ってるじゃないですか」
「うん、だって秋葉と二人で本当に幸せだから」
「っ!」
その表情は反則です兄さん、そんな顔、翡翠とかの前でしたら
間違いなくおとせますから、
「ほら、黙ってないで教えて欲しいな。秋葉が俺のことどう思っているかを」
いたずらめいた笑み、でも悪い気はしない、だから
「好きです。」
そう答えた。でも兄さんはそれだけじゃ満足しなくて
「どういう意味の好き?俺は秋葉のこと一人の女性として愛している。」
もう死んでもいいくらいの幸福に今私は包まれている。だから私も
「私も兄さんのこと、一人の男性として好きです。ずっと前から
屋敷に帰ってくる前から、ずっと、でも私は・・・」
「それ以上はいいよ。俺、すごくうれしいからさ」
口を指で軽く抑えて兄さんはそういって笑った。
「でも兄さん」
といいかけた私をまた手で静止させる。
「違うよ秋葉。俺は兄さんじゃない。だからね『志貴』って呼ばないと
それとね。今日二人きりになるようにしたのは・・・あれどこいったかな。ちょっと待ってくれよ」
いい雰囲気になったのに突然ポケットをあさりだす兄さん、こんな時兄さんらしいと感じてしまう。
そして私はそんな兄さんのことが・・・
「いや、あった。ごめんせっかくいいムードだったのにさ。」
と一つの箱を取り出した。片手にのるような小さな箱、どう見ても
「指輪・・・・」
「いや、サイズは一応琥珀さんに聞いたんだけどさ、はめてみてくれないかな。
なんてねどうした秋葉、泣いたりしてやっぱり迷惑だったかな」
私は泣いていた。嬉しくて、こんな日が来るとは思いもしなかったから
「いや、駄目だったらいいんだ。ただそれはもういらなくなるだけだから、さ」
そして兄さんは箱をしまおうとした。その手を私はつかんで
「そんな訳無いじゃないですか、だからニブイって言われるんです。
いいですか、これはもう絶対に返しませんからね。」
「うん、秋葉」
そして私は箱を開けるために震える指を蓋にかけた。


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