路空会合四話1


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1: 烈風601型 (2002/11/05 18:44:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

「紫晃殿、翠・珀、無事か?」「は、はい・・・」「私たちは大丈夫です。ですが・・・」
屋根から降りた直ぐにそう聞いてきた俺はそう三人に聞いた。
幸い翠と珀には怪我は無い。
しかし、「うっうっ・・・お師匠・・・」
紫晃はその場に蹲り、阿部省晴であった皮を手に低く嗚咽していた。
「「・・・安部様方の魂に冥福を・・・」」
翠と珀はその場で静かに祈りを奉げ、俺もまた一礼し死者達の安らかな眠りを祈った。
「・・・もうよろしいでしょうか?貴方に少々お聞きしたい事があるのですが」
「・・・妾もお主に聞きたい事がある・・・」
祈りが終わるや否や後ろからそんな声が聞こえてきた。
後ろを振り向くとそこには、容姿の全く異なる二人の女が静かに佇んでいた。
一人は、艶やかな赤系統の色彩を持つ着物で身に包んだ、着物の色と同じ位に紅き髪を持った少女。
そしてもう一人は黄金の様な髪と血を思わせる真紅の瞳、肩口の素肌をさらし、下半身には長い布を巻き付けたような奇妙な着物を身に纏った奇怪な、それでいて鳥肌が立つほどの美しい女だった
全く異なる容姿の二人だったが、その内面から吹き上げる、異端の力に七夜の本能を押さえ込むのにかなりの労力を必要とした。
「・・・?貴女たちは?」
怪訝に思いながらそう尋ねると、
「これは大変失礼致しました。私の名は遠野紅葉、遠野家の当主です」
「遠野?もしや、鬼との混血で知られるあの遠野の事か?」「左様です」
こいつは驚いた。
まさかこの様な所であの遠野家の当主にお会いするとは・・・
「・・・で、貴方の名は?」
と紅葉は俺に詰問する形で俺にそう聞いてきた。
「おれは七夜鳳明。・・・まあ、貴方なら知っているだろうが七夜の当主だ」
「あの七夜の当主ですか・・・」
紅葉の表情にあからさまな嫌悪の表情が浮かんだ。
当然だろう。
自分達にとってまさに天敵とも言える存在なのだから。
「・・・でそっちの貴女は?」「・・・妾の名はセルトシェーレ・ブリュンスタッド」
「?な、何?するそしぇーる?」「違う、セルトシェーレじゃ」
幾分気分を害したような声でセルトシぇーレと名乗った女はそう言った。
「成る程な・・・その姿から察するに異国の者か?」「左様、海の向こうの大陸の反対側より来た」
それはまたかなり遠くから来たものだ。
「で、俺に聞く事とは?」「そうでしたね。では私から、鳳明殿、貴殿は先刻屋根に登られましたがそこに何かいたのですか?差し支えなければぜひとも教えていただきたいのですが」
その声には一片の妥協も許さぬものがあった。
「何かがいた。姿は確認できなかったがな」「何か特徴は?」「爺特有のしわがれた声位だ。後はあの悪趣味な化け物を『芸術品』と抜かしていた位か」
「・・・やはりか・・・」
そう呟くと、紅葉の髪が生きているかのようにざわざわと蠢きだした。
「やはり?どう言う事だ?・・・返答しだいでは五体満足で帰れると思うなよ・・・」
紅葉のその声に口調が低くなったのを自覚しながら紅葉に詰め寄っていた。
見ると紫晃も怒りに満ちた目で紅葉を凝視している。
「勘違いしないで下さい。私もあの男を追っているだけの事、それの確認に過ぎません」
「・・・それで、どうして追っていた?」「あの男は遠野の客となっていた妖術師、それが遠野を裏切り、ある秘伝を盗み出した為、奴の処刑を行うべく追っていただけです」
「なるほどな・・・」「それと、いかがですか?私と手を組むのは?あの男、かなりの量の先刻の化け物を使役しております。どうやら目的は同じようですので、共同で事に当たるというのは?」
「・・・そうだな人手は多ければ多いほど助かる・・・良いだろう」
「そうですか助かりますわ」
彼女の腹の内は不明だが、人手は多ければ良いというのは俺の本心だ。
案外狐と狸の化かしあいかも知れないが力を利用させてもらおう。
「さて・・・もう良いか?」
すると今度は入れ替わる様に、今まで黙っていたセルトシェーレが口を開いた。
「ああ、すまなかったな」「では妾からも聞きたい事があるホウメー」「・・・」「?どうかしたのか?ホウメー」
「・・・おい、」「何じゃ?」「なんだその呼び方は?俺の名は鳳明だ。妙な形で伸ばすな」「ああ、左様か・・・ではホウメイ」
「何だ?」「妾の質問にも答えてもらおうか・・・単刀直入に聞く、お主どうやってあれを殺した?」「何?」
「あれを殺す事は妾にも、この遠野という小娘にも不可能じゃった。それをお主は赤子の手を捻るがごとく、いとも容易く抹殺した。それも魂ごと・・・答えよホウメイ。お主は一体どの様にしてあの異形の造形物を作り出したのだ?」
「『子娘』というのは気に食いませんが・・・それは鳳明殿の持つ武器の力では?」
「甘いぞ、この者の持つのはただの槍、何も概念装備をされておらぬ。あのようなつまらぬ物で殺せるようなものでない事など、お主が一番よく存じておると思うが?」
「それもそうでしたね。鳳明殿お答えください」
何時の間にか紅葉とセルトシェーレが詰め寄ってきた。
更に、「七夜殿、教えてください」「鳳明様・・・」「鳳明さん、答えた方が身の為ですよー」
今まで傍観者の立場であった筈の紫晃、翠、珀まで詰め寄り俺は包囲される形となった。
―アア、コウイウノモヒサシブリダ―
??なんだ今の感覚は?
何故懐かしく感じる?
・・・駄目だ、疑問に持った事で感覚が体の奥底に潜り込んだ様だ。
これについてはまた次の機会にだ。
それよりもな・・・
俺は改めて今の状況を確認した。
皆、聞かなければ納得しないな。
しかし俺としてはこの忌まわしき眼のことは誰にも知られたくなかった。
なかったが・・・答えるしかないようだ。
俺は静かに溜息を一つ吐くと
「・・・わかった。信じる信じないのはお前たちの自由だが・・・簡単に言えば俺はこの世のもの全てを破壊ないし抹殺できる眼を持っている」
「??」「えっ?」「ほ、鳳明様?」「えーと、鳳明さん、それって一体・・・」
案の定紅葉、紫晃、翠、珀は俺の言葉がわからず眼を点にしている。
しかし、「・・・ホウメイ、お主それはどういう意味じゃ」
セルトシェーレのみが死線を険しくさせ俺に更にそう尋ねる。
「どういう意味も何も言った通りの意味だ。俺には人でも物でも、切ったり破壊できる部分が判るんだよ線と点でな、線を通せば何でも斬れるし、点を突けば抹殺ないし崩壊させられる。ただそれだけの能力だ。純粋な戦闘能力じゃあお前には・・・なんだ?セルトシェーレその眼は?」
セルトシェーレは無言を守ったまま、膨大な量の殺気を俺にぶつけてきた。
そしておもむろに、
「左様か・・・『直死の魔眼』の所有者とこの様な下らぬ島国で会おうとはな・・・いる所にはいるものじゃな。・・・お主の様な化け物が」
「なに?言っておくが俺はお前のような魔の者に化け物と呼ばれるほど人間離れしてはいないぞ」
「何を申しておる。その眼を有しているだけでも十分化け物じゃよ。何しろ『モノの死を見る眼』など、半ば伝説と化した眼なのじゃぞ」
「??それはどう言う事だ?」「ホウメイお主その眼を『ただそれだけの能力』と言ったな。しかしな、この眼はお主が思っておる以上に危険なものじゃぞ」
「何故だ?」「お主の見ているのは、物ないし人の『死』そのものじゃぞ」「!!死だと?」「そうじゃ、その眼の前では、ありとあらゆる防御手段も無力化される。そしてその眼の力によって、『斬った・殺した・破壊した』と言う結果を先行させて原因を無視する事も出来る。あの化け物もお主に『殺された』と言う結果が先行した為、本来の能力である再生が追いつかなかった用じゃな」
「・・・・・・」「これで判ったじゃろう。お主は自身の眼を下らぬものと思うておるようじゃがお主の眼はありとあらゆる・・・それこそこの世に存在するもの全てを殺せる死神のような眼なのじゃぞ」
「な・・・・」俺に言葉は無かった。
また他の面々も呆然として俺を見ていた。
今まで自覚はあった。
この眼は危険なんだと。
しかしそれはあくまでも自分の経験則による認識。
彼女から言われるまで、ここまで危険かつ恐ろしい能力であったなどとは思わなかった。
「しかし・・・お主には首を傾げる。今のお主の周囲の空気は穏やかなそよ風じゃ受ける者全てに分け隔てなく安らぎを与える。にも拘らず先刻のお主は全てを薙ぎ払う荒々しい暴風のような空気を纏っておった」
「それがどうかしたのか?」「あのような眼の保有者には奇跡に近いと言う事じゃよ。本来であれば精神がとっくの昔に崩壊しても可笑しくないほどの力、にも拘らずお主には崩壊の兆しすら見られぬ。ホウメイお主どうやって己を保っておるのじゃ?」
「ああ、昔は苦労したが今ではどうにか自分の力を制御出来る様になった」
「・・・何?」
あまりに呆然とした声を出すセルトシェーレに俺は少しむっとなり
「だから、俺自身の意思で線を見えにくくしているだけだ。それがどうかしたのか?」
「・・・し、信じられぬ・・・伝説の魔眼をここまで使いこなす人間がいたとは・・・ホウメイお主妾の死徒となる気は無いか?」
セルトシェーレは呆然と呟いた後、聞き慣れぬ事を口にした。
「なに?しと?何だそれは?・・・ともかく、今は依頼の遂行が先だそんな事は後に・・・」
「左様か・・・では妾もそれを手伝うとしよう」「??その提案自体はありがたいがどういう風の吹き回しだ?」
「簡単な事じゃよ、この依頼とやらが終わり次第お主を妾のものにする気じゃからな」
「ああなる・・・うっ」「「・・・・・・」」
俺が思わず頷こうとした時、後ろから冷たい視線が俺を貫く。
確か、翠と珀がいた所だあそこは。
「・・・ま、まあいい、それはそれとして紅葉・セルトシェーレお前達も七夜の屋敷で逗留と言う事にして・・・うっ」
そこまで言った時、急に眩暈を覚え、膝を地面についた。
「七夜殿?」「鳳明様!!」「鳳明さん!!」「・・・す、すまん力を少し使い過ぎたようだ、少し休ませてくれ・・・」
そこまでが精一杯だった。
俺は静かに意識を闇に沈めはじめた・・・

定期後書き
 さて今回はいかがでしたか?鳳明側のヒロインはセルトシェーレ・紫晃・紅葉・翠・珀の五人で以上です。
 誰と誰が重なるのかは、判りきっていると思いますので、省きます。
 ただ・・・良い目を見れる子と、単なる数合わせ(極論)になる子は複数出ると思いますのであしからず。
 さて予定では4話は早めに終わらせます。
 ただ、この物語の中でかなり重要な事が複数出てきます。
 だらける面も出るかも知れませんが、お見捨てせず今後もよろしくお願いします。


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