吸血鬼の姉妹 完結編
アルトルージュとのちょっとした事件から数日後。
先輩はアルクの協力もあり、どうにか一命は取り留めた。
というか、次の日に会った時には体には傷一つ無く、ぴんぴんしていたりする。
正直、人外なことを何度も体験してきた俺でもビックリした。
が、後でアルクに聞いた話だが、先輩は不死の体ではなくなってはいるが、
肉体に能力向上の魔術をかけているので、回復力が高く、常人よりも生命力があるらしい。
アルクから言わせれば、それは『単に生き汚いだけ』らしいが。
兎も角、俺は先輩が助かった事に心底ホッとし、安堵した。
それからアルトルージュとはいうと、あれから俺達の前に姿をあらわしていない。
最後に怒った声で叫んでいたあたり、いつの日かリベンジに来るとは思う。
もし、今度対峙することがあったら、俺一人では恐らく勝てないだろう。
それに後に聞いた話だが、ビルの屋上にいた二人はアルトルージュ御付きの護衛だったらしい。
しかも、どちらとも二十七祖であるからびっくりものだ。ちなみにその二人とはやおい野郎と犬であるらしい。
アルク曰く、犬のほうと対峙した場合、志貴でも恐らく勝てない―――だということだ。
犬の名はプライミッツマーダー。霊長の殺人者、白い獣といわれている。
魔犬としてアルトルージュにのみ従うガイアの怪物で、
死徒ではないが、アルトルージュを真似ているうちに人の血を飲むようになり。
ヒトに対して絶対的な殺害権利を持つが故に最強の一つとして数えられるらしい。
ちなみにガイアというのは、人間が滅びそうになると地球もやばいので、とりあえず人類を滅ぼしかねない存在を消滅させる怪物。
ぶっちゃけな話、地球が大丈夫なら人類はどうなってもかまわないという存在らしい(歌月掲示板参照)。
まあ、そういったことは兎も角、なんというか彼女は嵐のような少女―――じゃなくて女性だったな。
あった日の夕方には殺しあってんだから、まったくお笑い種である。
俺はそんなことを思い苦笑しつつ、教室の窓から空を見上げた。
空は晴れており、一筋、どこまでも続く長い飛行機雲が漂っていた。
坂を上がりきると、翡翠がいつもどおり門の前で出迎えてきてくれていた。
彼女は俺が帰ってきたことに気づくと、足早に俺の元へ来てペコリ、とお辞儀をする。
「お帰りなさいませ、志貴様。御鞄をお持ちいたします」
「ああ、ただいま翡翠。いつもすまないね」
「いえ、志貴様にお帰りをお待ちするのは遠野家のメイドとして当然の事ですから」
そう言って、俺の手から通学鞄を受け取る翡翠。
「それと志貴様。志貴様にお客様が参っております」
「客?」
「はい。日中頃からお持ちしておりますので、少しばかりお急ぎになった方が良いかと」
「ん・・・わかった。ありがとう翡翠」
俺は翡翠ひ礼を言い、その待っている客に会いに一足先に屋敷に向かおうとする。
「志貴さま」
と、翡翠がその動きに待ったをかけた。
俺は踏み出そうとした足を止めて翡翠に向き直る。
「ん? 何、翡翠」
「どうかご無事で」
「え・・・? それってどういうこと?」
「言葉どおりです」
「?」
俺は翡翠の物言いに釈然としないながらも、先に一人で屋敷へ向かっていった。
リビングに入って早速後悔した―――というか、翡翠の言葉の意味が分かった。
なんで、翡翠がこれから戦闘機に乗って、特攻かけていく恋人を見送るような目をしていたのか。
「兄さん。どういうことか説明してくださるかしら?」
腕を組み、とても冷たい目で俺のことを睨みつけてくれる秋葉。
ああ、なんか久しぶりに秋葉のこの声を聞いたな、と心の中で思う。
・・・しかし、兄としてはあんまり聞きたくない妹の声である。
なぜなら、この声のときの秋葉は下手をしたら俺を殺しかねんからだ。
「んー、この紅茶意外に上手いね」
「あはー、お褒めに預かり光栄ですね」
それもこれも、俺の横っちょで琥珀さん談笑しているこいつのせいである。
俺はそいつの顔を見ながら、深い溜息を吐く。
長くて金色の色をした髪の毛。まるで一本一本、本物の金の様だ。
小顔で猫みたいな大きな瞳。それと、少女らしい小さな体と雪のような白い肌。
そんなギャルゲーヒロイン適正合格な少女――――アルトルージュ・ブリュンスダッドを横目でチラリ、と見る。
なんでこいつが何食わぬ顔でここでいるのか、わかる人がいるのなら教えて欲しい。
恐らく、それは誰にも答える事のできない難題だろう。
それとも所詮、こいつもアルクの姉だったというわけか?
「兄さん」
俺が心の中で葛藤をしていると、秋葉が髪を羽ばたかせながら、俺の名前を呼ぶ。
もちろん、髪の色は赤くて、おでこの部分は全部影に埋め尽くされている。
まあ、わかり易く言うと。髪を赤くして、片手を顔の部分まであげている例の立ち絵の格好である。
「・・・秋葉さん。今すぐ説明いたしますから、檻髪だけは止めて頂けませんでしょうか」
「ええ、兄さんが罪を悔い改めてくれましたら、止めて差し上げても構いませんよ」
にやり、ととても冷たい笑顔をする秋葉さん。
「あのー・・・秋葉さん? 何かとんでもない勘違いをしているように思うんですが・・・」
「あら。私がいったい何を勘違いしてしますのかしら? 幼女に手を出す兄さんに教えて欲しいものですわ」
「いや、そもそも今まさに秋葉が言った事が勘違いなんですけど―――」
「前例のある人が何を言っているのですか」
ぎらり、と秋葉は俺を一睨みする。
秋葉が言う前例とは恐らくレンのことだろう。
これは余談だが、アルクの馬鹿が舌を滑らせて、その事実を秋葉はもちろん、翡翠に琥珀さん、そして先輩のいる前で大声で喋りやがった。
あの時は良く生き抜けられたなっと、今心底思う。実際、先生が仲裁に出てきてくれなければどうなっていたことか・・・。
まあ、そういった話は置いといてだ。
「で、アルトルージュ。いまさら一体何の用事だ」
「にゃ?」
手でケーキを豪快に食べているアルトルージュに詰問する。
口の周りにクリームがついてなんとなく間抜けだ。
「何の用事って・・・責任を取ってもらおうかと」
「責任!? 何の!?」
「何のって・・・志貴君ったら、私のことをあんなにめちゃくちゃにしたじゃない」
ぽっと、頬染めて、小さな手で頬を挟むアルトルージュ。こいつ・・・あの時最後に叫んでいたのは怒っていたからではなかったんかい。
しかも、短絡的かつ誤解されるような言い方は止めい。ただでさえ勘違いしやすい人がいるという――――背中に寒気を感じた。
「に・い・さ・ん」
あはは・・・、なんだか地獄のエンマ大魔王様の声が後ろからしてくるの気のせいだろうか?
恐らく、遠野志貴はこれほどの殺意を今までに感じた事がない。
ぎぎ、とギャグマンガ特有の音を出しながら、俺は首を動かし、後ろ振り向く。
そこには―――――
「さあ、めちゃくちゃ、というのはどういったことか、教えてもらいましょうか・・・」
檻髪全開の修羅が世に恐ろしい笑顔でこちらを見ていた。
俺はこういう時に出てこないシエル先輩とアルクに、心の中で非難しながらフェイドアウトしていった・・・。
なんとなく、完。
後書き。
・・・不完全燃焼? しかも、短っ!!
まあ、そんな些細な事はどうでもよくて、というわけで『吸血鬼の姉妹 完結編』。
なんか、あってもなくても良かったような感じですね。
しかし、『吸血鬼の姉妹』という題名を最後まで無視するのもなんでしたので、ラストはこういった感じに仕上げてみました。
何が、こういった感じかわかってくれたら幸いです。全話で総文字数は・・・20222。
みゅー・・・微妙じゃ。兎も角、またの機会がありましたらSSを投稿するのでその時は見てくださいね。
では、SEE YOU AGAIN♪