その後、泣いている二人を宥めすかしてようやく落ち着いた所で、二人は自己紹介を始めた。
最初泣いていたのが妹の翠、俺を睨み付けていたのが姉の珀と名乗り、巫浄当主の娘で今日からここ七夜の里に逗留すると言う事だ。
この当時七夜と巫浄は比較的友好的で当主が家族を連れ、それぞれの里に赴きくつろぐ事が慣習となっていた。
そして、この外観の為、同じ一族達には偏見と迫害を受け、この七夜の里でもここの子供達にからかわれ、ここで泣いていたと言う。
その時の俺は”この子達の何処が変なんだ?それを言うなら僕の眼は何億倍も変で怖いものじゃないのか?”
そう思い、この二人の外観の事を翌日には気にしなくなっていた。
そして次の日から、俺は手が空いた時に、この双子姉妹を連れて俺の知る限りの所に連れて行き、また遊び相手もしてやった。
俺は久しぶりに楽しかったが、二人にはそれ以上だったらしく、何時しか俺の事を翠は『鳳明ちゃん』、珀は『鳳明さん』と呼んですっかり俺に懐くようになり最期まで俺の傍から離れようとはしなかった。
・・・ふとそのような回想に浸っていたが、俺は不意に彼女達に礼を言いたくなった。
俺が今日まで『凶夜』とならずここにいられるのも、全ては俺の目の前で懐かしそうに微笑むこの二人に他ならないからだ。
しかし俺の口から出たのはまったく別のものだった。
「しかしここでお前たちに会えるとは思わなかった・・・そう言えばお父上は?ご壮健か?」
そう聞くと「鳳明さん、実は・・・私達が今の巫浄当主なんです」「えっ?」
「父は昨年流行り病で・・・そこで娘でもあり、能力の最も大きい私と姉様が二人揃って当主となったのです。・・・大変申し送れました。巫浄二当主の一人翠と申します」
「同じく二当主の一人珀と申します。七夜殿もご壮健にて何よりです」
「・・・そうか・・・よしなに」
俺が呆然としながらそう言うと、二人とも顔を見合わせくすくすと笑い出した。
そんな懐かしい空気に水を差す者もいた。
「話は終わられましたかな?では席に着かれたらどうか?殺人凶の七夜の当主よ」
「お・・・お師匠・・・」
後ろからあからさまな侮蔑の声と、それを控えめながらたしなめる声が聞こえてきた。
表情を元の冷徹なものに戻すと、後ろを振り返った。
そこには、壮年期に入ろうかと言う男が偉そうにふんぞり返って俺にあからさまな軽蔑の表情で見ている。
よくよく見るとその白を基調とした服装には晴明紋があしらわれている。
「・・・これは失礼した。見知った顔にあったものだからついな・・・で貴殿は?」
「まったく、これだから田舎者はこの私の名まで知らぬとは・・・おい紫晃(しこう)こいつに私の名を教えてやれ」
そう言うと直ぐ傍らに控えていた紺を基調とした服を着た俺と同年代と思われる少年にそう言うと
「は、はい!!・・・え、えーーーこちらにおわせられます方こそ当代随一の陰陽師、阿部省晴殿にございます」
と、しどろもどろになりながらもそう伝えた。
しかし俺の興味はその少年に向いていた。
(眠る力はこの少年の方が大きい・・・磨けばどんどん光るな・・・)
しかしその事はあえてふれず俺はそのまま隅の席・・・珀の隣・・・に座ろうとすると、突然、翠に引っ張られる形で二人お間に座らされる形となった。
それと同時に人の気配を感じ俺は静かに奥に向かい一礼を始めた。
「陛下のご入室ーーーー!!」
侍従の声とそれはほぼ同時だった。
慌てて俺の後を追う様に礼を始めた。
暫くすると
「面を上げよ皆の衆」
その声が聞こえた。
ゆっくりと顔を上げると、奥の簾の向こう側に誰かがいた。
「・・・此度は足労をかけた・・・特に巫浄の当主よ」「「いえ、そのようなお言葉勿体無き事です」」
「阿部殿も苦労を掛ける・・・」「いいえ!陛下の御為ならたとえ千里の果てからでも馳せ参じてございます」
「うむ・・・そして七夜殿も一昨夜は大儀であった」「・・・御意それで帝よ此度は我らを呼び申した件とは一体・・・」
「!!七夜貴様!!陛下に対してなんと言う口を!!」
「よいよい、七夜殿の言葉も至極当然のこと・・・本題に入ろう・・実はな・・・ここ最近、都にて奇怪なる・・・物の怪の仕業としか思えぬ死が多発してのう・・・」
「それを俺達が調べよと?」「いや、正確にはその原因を解明し首謀者を抹消して欲しいのじゃ」
「それで陛下、奇怪な死とは一体・・・」「うむ、話すより実際に見たほうが早かろう・・・誰か!例のものを!!」
「して帝よ、此度は何ゆえ、七夜・巫浄・そして陰陽師とまったく退魔の系統違き者達を?」「それはじゃな・・・きた様じゃな」
俺は待っている間に昨日からの疑問をたずねて見た。
しかし、それに答えようとした時にそれがやってきた。
「・・・・・姉様・・・・」「だ、大丈夫だから・・・翠ちゃん大丈夫だから・・・」「むむっ!!こ、これは・・・」「ひ、ひいっ!!」「・・・これは・・・」
それを見た俺達五人は一様に、絶句し悲鳴を上げていた。
それも無理も無かった。
そこにあったのは一見すると乞食が身に纏うぼろだったが、それを着ていたのは・・・人の皮膚だった。
そう・・・正真正銘、目玉も歯も爪も・・・人間を形つくる全ての内部をごっそり抜き取られ、かろうじて髪が残る哀れなる死体・・・
「・・・このような死体が羅生門を中心に都全域にて発見されておる。すでに都の警備隊・陰陽師までもが餌食となっておる」
(なるほど・・・)
俺は人知れず納得した。
なぜここに俺達が呼ばれたのかが・・・
すると、
「陛下!!お言葉ですが、これは明らかに朝廷に恨みを持ちます怨霊の仕業!!疑いようもありませぬ!」
省晴がそう叫んだ。
「ご安心を陛下、この省晴、陛下の宸襟を騒がせる輩退治してご覧に入れます」
「お待ちください、安部殿お一人ではあまりにも危険、怨霊でございましたら我ら巫浄も助太刀・・・」
「その様な必要は無い!!」「しかし安部殿!」「下賎の退魔士ましてや卑しき暗殺者の手など借りぬ!!・・・陛下私はこれにて失礼いたします。これより都の大掃除がございますゆえ!!」
そう言うと省晴は俺たちに一瞥を与えると大股で謁見の間を退室いていった。
その後ろにはあの紫晃と呼ばれた少年も一緒だ。
「・・・で帝よ、かの死体、都全域に存在するとの事ですが・・・」「うむ・・・羅生門に集中しておるが全域におる」
「そうなると都全域を狩場としているか・・・複数いるということか・・・帝よこの依頼謹んでお受けいたします」
「良いのか?安部殿は亡霊の仕業と言っておったが」「確かに怨霊の仕業でしたらこれは安部殿や巫浄殿の役割。ですが原因が違えばおのずと七夜の役割となりましょう」
「そうじゃな・・・ではよろしく頼むぞ七夜殿」「御意」
そう俺が一礼するとすっと簾の向こうの気配が動き部屋の外に出て行った。
後書き
一言・・・宮廷の言葉使いは無視してください。
自分も自信ありません。
しかし、かなりの容量を会話で費やしてるなぁ。
もう少し内容濃いものにしないと。