「・・・の?・・・やどの!・・・七夜殿!!」
御者の声で俺の意識は急速に覚醒した。
「・・・ううっ・・・どうかしたのか御者殿?」「お休みの所申し訳ございません。御所に着きました」
「そうか・・・世話になったな」
俺はそう御者に礼を言うと牛車を降りた。
そこには護衛と思われる薙刀を手に、質素な胸甲を身に着けた宮廷武士が二人待っていた。
「七夜鳳明殿と見受けられるが」「いかにも」「謁見の間までご案内させていただきます」「ああ、頼む」
彼らに軽く一礼すると俺は彼らについて行った。
「・・・そう言えば巫浄の当主殿と陰陽師殿は?」「もうお着きになられて、皆様謁見の間でお待ちです。そこで主上の御声を賜る事になっております」
俺はそうかと軽く頷いたが頭の中は疑問に包まれていた。
(しかし・・・七夜のみならず巫浄・更に陰陽師まで呼ぶとは・・・)
そう考えている内に謁見の間に着いた様だ。
「七夜殿、こちらに」
一人が簾を上げ、俺に入るように促した。
俺は静かに礼をするとそのまま中に入いると簾が再び下がった。
中は薄暗く、また眼も慣れていない為中にいる者の顔は判らない。
しかし確かに中には四人いる様だった。
また相手も逆光で俺の顔が見えなかったらしい
若い女の声で「・・・失礼ですが七夜の当主殿でしょうか?」
と聞いてきた。
?・・・どこかで聞いたような・・・まあ良い、名は名乗らないとな、
「いかにも、七夜の現当主、七夜鳳明と申す、よ・・・」「鳳明ちゃん?!」「鳳明さん!!」
俺が名乗る最中、先程の女とその連れと思われる女から大声が聞こえてきた。
通常であれば非礼の極みだが、その声と懐かしい呼び方、そしてようやく慣れてきた俺の眼がこの二人を認識させた。
「・・・久しいな・・・翠・・・珀」「はい・・・おひさしゅうございます、鳳明様」「鳳明さんもご壮健につき嬉しいです」
この二人の少女の名は珀と翠の姉妹。
巫浄当主の娘だ。
この国では極めて珍しい双子であるという事と、赤毛、そして姉の珀は赤みがかった紫の、妹の翠は青みがかった紫の瞳をそれぞれ有していた為部外者はもとより、一族ですらにも偏見と好奇の視線を受けながら生きてきたという。
俺がこの不思議な双子に初めて出会ったのは精神修行も終わりに近付いたある蒸し暑い夏の夜の事だった。
「うわー綺麗だなー。月夜ってこんなにも綺麗だったんだー」
その時俺は初めて見る線も点も無い風景に素直に感激していた。
と言うのも、まだこの力を制御出来ていなかった頃の俺は、月夜と言うのは大嫌いだった。
月の弱々しい光に浮かび上がる線と点は、太陽の下で浮かび上がるそれよりも遥かに大きい恐怖となって子供の俺を苦しめた。
その為、俺は月が少しでも出ている時は全ての戸を閉め切り、尚且つ布団に頭から被ってぶるぶる震えながら朝を待っていた。
あの、光景の中にいる位だったら、闇に身を潜めていた方が何十倍もましだった。
しかしこの頃になると力も制御し意識しないでいれば線や点を見なくてもすむほどになり、そこで月夜を見てみようと思ったのだ。
今までどんなに人は幻想的だと言う光景も俺の眼から見れば線が眼についてしまい堪能する事など到底出来ないのだ。
しかし、今夜はこの夜空を思う存分堪能し寝ようとした時向こうの草叢から声がしてきた。
「・・・えぐえぐ・・・ちゃん・・・りたい・・・」「す・・・ん・・・なかな・・・」
声の様子から言って俺と同い年位だろう。
気になったのでその草叢に向かってみた。
そこには二人の女の子がその場に蹲っていた。
いや正確には一人が泣きじゃくってもう一人が必死になって宥めているようだった。
「・・・どうして泣いているの?」
俺が思い切ってそう聞くと、泣いていた子が怯えた様にもう一人の背中に隠れてしまった。
そして、「な、なによ!!また苛めに・・・あれ?君誰?」
もう一人の子がその子を庇いながら俺を睨み付けたが後半から首を傾げながらそう聞いてきた。
「僕は七夜鳳明・・・あ」
俺は自分の名を言い終わった後初めて気づいた。
この子達の髪が自分とは違う事に。
「へぇー」「!!!」「なに?どうせ気持ち悪い髪だって思っているんでしょう?」「・・・すごく綺麗だね」
その時俺の目には月夜に照らされて淡く輝く二人の髪が本当に綺麗に見え、そして素直にそう言った。
「「えっ??」」
二人は同時に俺を見た。
「・・・綺麗?私やお姉ちゃんの髪が・・・」「う・うそよ・・・そんなの」「嘘じゃないよこんなに綺麗な髪初めてだ。ねえ触っても良い?」
そう言うと俺は返事を聞く前に二人の髪に触った。それはとても細く、柔らかな髪で、おれはその髪の感触を楽しんでいたが、不意に
「「・・・あ、あのね・・・」」「なに?」「「・・・綺麗なの?本当に?」」
二人同時にそんな事を聞いてきた。
俺は力強く「うん!!」と、頷くと、二人とも同時に俺にしがみ付いてきてしまった。
・・・その瞳からは涙をぽろぽろ零して、「・・・うれしいよ・・・」「ありがとう・・・」
と、呟きながら。
おなじみの後書き
どうも、今回は鳳明視線の主に過去に行ってしまいました。
ばればれだと思いますが翠と珀は鳳明側の翡翠と琥珀に相当します。
名前も一文字抜いただけですし・・・メーミングのセンスは眼を瞑って下さい。
この分だと三話いったい何分割させれば終わるんだろうなぁ〜〜〜
いや、それ以前にあと何ヶ月で終わらせられるんだ?路空会合・・・
まあ・・・飽きなければまた見に来て下さい。