路空会合三話5


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1: 烈風601型 (2002/09/13 11:49:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

屋敷があらかた燃え尽きるのを見届けた俺はいったん皆の所に戻ることにした。
無論だがあの木箱を手にしてだが・・・
理由は簡単だ、俺としては一刻も早くあの中身を見てみたかったのだ。
おそらく・・・いや間違いなく、俺の求める七夜鳳明の記録はあると確信していた。
「出来れば食べながらでも見たいが・・・汚れたらまずいよな・・・それに秋葉に殺されかねん・・・我慢するか・・・」
本当は一刻も早く中身を見たいが、腹もすいたし、何よりも後者の結末を考えるとそれを行う勇気もわかない。
ひとまずは我慢しよう。
俺が皆の所に戻ると、早速「志貴さまぁ〜」とレンちゃんが俺に纏わりついて来た。
それに俺は軽く頭を撫でてやると、
「ごめん皆遅くなっちゃって早速ご飯に・・・な、何しているのでしょうか・・・皆さん」
皆が琥珀さんを囲んで睨み合っているこの光景はかなり怖い。
赤の他人なら無視したい。
思わず二・三歩引くと俺の姿を確認した琥珀さんが、いつもの笑顔に戻ると、
「あっ志貴さん、では早速ご飯にしましょうねー」
と言ったが目はまったく笑わずそれどころか何かどす黒いものが見えた気がした。
それを見て他の皆もぎこちない笑みを浮かべていたが、どうにか体裁を整えると、ビニールシートに皆が座り、豪勢な食事が始まった。
「それで遠野君、探し物は見つかったのですか?」「うーんどうだろう。ひとまずあれの中身を確認してから残りの本を回収して帰るけどね」
「こらーレン!志貴の膝に乗っかってご飯を食べるな!!ずるい!」「お言葉ですが、これが出来るのは私が他の皆さんに比べて体重が軽いからです。それに私は志貴さまのお食事の邪魔をしておりません」
「兄さんにあれが欲しい、これが欲しいと言って取って貰う事も邪魔ではないと言うのですか?」
「はい、これはあくまで志貴さまのご好意に甘えているだけです」「志貴様・・・どうぞ」
「ああ、ありがとう翡翠」「志貴さんどうですかー」「うん、美味しいよ琥珀さん」
「こらーーー!!そこも抜け駆けするなーー!」
と皆で談笑しながら楽しい食事を取っていたが、俺としては早くあれの中を見たくてうずうずしていた。
そして、「琥珀さん、ごちそう様」「あら?志貴さんもう良いのですか?」「本当のところはもう少しって、感じなんだけど・・・早くあれを見たくて・・・」
そう言うと、まず、木箱を封印していた鎖を手刀で断ち切ると、すっと木箱を開けた。
そこにはかなり厚い大学ノートが収められている。
しかし今までの書の様に表紙に代が記されていない。
俺が首を傾げながらそのノートのページを一枚めくるとそこに『凶夜録』と代が書いてあった。
「??凶夜?ねえシエルーこれって何かわかるー?」
いつの間にか覗き込んでいたアルクェイドがそんな事を、やはり反対側から覗き込んでいた先輩に尋ねてきた。
「私に解かる訳ないでしょう」「そうかなぁーこのイメージってシエルにぴったりだと思うんだけど」
「・・・貴女にこそふさわしいと思いますよ『凶夜』なんて」「先輩、アルクェイドこいつは『きょうや』と読むんじゃない。『まがや』と読むんだよ」
「あれ?志貴さん知っているんですか?」「えっ?」「兄さん『えっ』ってご自分で訂正されたではないですか」
「・・・そうだよな・・・でも・・・なんで・・・」
そう、俺は二人が『きょうや』と読んでいたので自然に『まがや』と訂正した。
「と、ともかく、『凶夜』が何なのか調べないと」
俺はそう言いながら嫌な予感を強引に捻じ伏せて書を読み始めた。

「・・・ない・・・」
俺は呆然としてそう呟いた。
最初のページの序文でも俺は、あまりの衝撃に撃ちのめされたがそれを上回るほどの衝撃だった。
確かに『凶夜録』には俺の想像を遥かに超える能力者がいた。
異界の武器を呼び出しそれを使い戦った者もいた。
西洋の黒魔術に近い能力を保有した者もいたし、死者を何千体同時に操る者もいた。
極め付きは敵対する魔を召還して使役するものまでいた。
先輩やアルクェイドは「極東の島国にこんな能力者がいたなんて・・・」「恐ろしいわね。どれもこれも人に扱いきれない能力ばかりじゃないの」そう感嘆の声を発していたが・・・
しかし、最後のページをめくると俺に希望が戻った。
そこにはこう書かれていた。
・・・この様に私は後の子孫の為、本来であれば禁忌の『凶夜』の名を背負いし者達を記憶として書き残し、それを子孫達が見ることだろう。
しかし、この録には記すことの無い『凶夜』がただ一人存在する。
いや、正確には記す事の出来ないと言った方が正しいだろう。
と言うのもこの物には正確の記憶は一切存在せず僅かな口伝しか残されていない。
私の能力をもってしても見る事は出来ず、一族も彼の事のついては最大の禁忌として口を開く者はいない。
しかし私はあえてそのタブーを破り知る限りのことは記そう。
最強と最凶の名を欲しい侭にした、最悪の『凶夜』・・・七夜鳳明の事を・・・
「いた!!!」
俺はそう叫ぶと、そのページに挟まっていた折りたたんだ紙切れを手にすると、震える手を抑えゆっくりと開いた。

七夜鳳明・・・彼が何故『凶夜』の中で最強と呼ばれるのか、その理由は二つある。
まず一つは彼の能力である。
彼の能力は『悪神の眼』『全てを知る瞳』『死の眼』と呼ばれ一族の中でも恐れられた。
・・・本人の言葉を借りれば彼には常に全てを絶ち、切り裂く線と全てを崩壊・消滅させる点が見えていたと言われる。
そして二つ目には彼のみが何故名を書かれているかに関係する。
実は彼は正確には完全な『凶夜』ではない。
彼は狂う事無くこの世を去った。
彼がどの様にして、『凶夜』に堕ちる事が無かったのか?これは今尚謎に包まれている。
しかし彼は『凶夜』としては最初でただ一人、己の能力を完全に制御した人物だと言える。
しかし・・・これも不思議な事だが彼が何時、何処で最後を迎えたのかそれに関する記憶は一切無い。
彼は七夜と呼ばれるには大きすぎる力を持ち、『凶夜』と扱われるには心があまりにも平穏だったため、七夜でも、『凶夜』でも無い中途半端な扱いを受けその結果、七夜でも『凶夜』でも口伝のみに語られる伝説の七夜当主となってしまった・・・
その先には何も書かれていない。
いや、書く事が出来ないと言うのが正しいだろう。
つまり口伝の中ですら七夜鳳明に関してはこれだけしかないと言う事なのだ。
「でも・・・収穫はあったよな・・・」
七夜鳳明が実在すると言う事、彼が俺と同じ『直死の魔眼』を保有しさらにはその能力を完全に制御していたと言う事。
そして、七夜の歴史の裏に『凶夜』と呼ばれるその超異能力ゆえに存在すらも消された者が存在したという事。
道理で家系図にも乗っていない筈だ・・・
「・・・み、皆・・・もう少しゆっくりしてて良いよ。俺向こうに置いてある本を回収に行って来るから・・・」
俺はそう言うと未だ呆然状態の皆に背を向けて屋敷に向かった。
「・・・・!!」「・・・!」「・・・・」後ろで皆の声が聞こえた気がした。
しかしわき目も振らず、全力で走り抜け、気が付けば俺は屋敷の焼け跡に辿り着いていた。
まだ火は燻っているが、ここまで燃え尽きていれば後は自然が灰や炭を自然に還してくれるだろう。
俺は本を回収する事もせずただ呆然と立ちすくしていた。
(俺も『凶夜』になる可能性があるのか?)
そう、今俺の頭を支配しているのはこの恐怖だった。
『凶夜』という者がどういう者なのか、わかった今、それに平然としていられる程俺は自分に自信を持っていなかった。
そして、半年前のあの事件の時、アルクェイドを初めとして何故全員に以上とも取れる殺意を覚えたのか?その答えも提示された気がした。
きっと、七夜としての本能以上に俺の中で眠る『凶夜』としての本能が発露されたのだ。
ダッテ・・・イチ番最ショの・・・まが・・・夜ハ・・・ナンビャク人のひとヲ・・・コロしたんだから・・・
そう・・・まデモ・・・退マデモ・・・メニついたモノは・・・ヒトリのこらず・・・ころしタンダカラ・・・
そう思いながらゆっくりと意識が離れ、地面に伏せようとする自分を上から眺めている誰かの背線を確かに感じていた・・・
いやもしかしたら・・・それは俺本人だったかもしれない・・・

後書き
   いろいろアクシデントはありましたがどうにかここまで来ました。
   次回は久しぶりの鳳明視線です。
   こちらも話がいよいよ動き出します。
   それと『凶夜録』ですが、時間が空いたら余話として序文を掲載します。
   すぐかも知れませんし、かなり後かも知れませんが必ず乗せます。
   要請があれば早めに書きますので感想など一緒にお書き下さい。
 


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