刻一刻と  第三話


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1: 神人 (2002/07/22 01:20:00)[yakushijin at mx1.tiki.ne.jp]

 チャイムが鳴ると騒がしかった教室も静かになっていく。
 それでも喋りつづける人もいるが。
 先生が教卓に立つと、それに合わせて日直の人が合図をする。

「起立。気を付け・・・礼!」
「お願いします」

 何処の学校もさほど変わらない挨拶。
 それが終わると、先生はくるりと黒板へ向き、文字を書いていく。
 カツカツカツカツ・・・。
 書かれていく文字の羅列をノートに写していった。
 メモみたいな走り書きもすべて記入する。
 別段これといって意味は無い。
 ただ、書かないよりは書いた方がいいと思うからだ。
 授業の内容を先生が説明していたが、全く頭に入らなかった。
 午前中は涼しかったのが、午後になると一転してとても蒸し暑くなったのだ。
 ねっとりした熱さが思考を奪っていく。
 弓塚さんを見ると、平気な顔でスラスラと書いていた。
 凄いな、とか思ってると突然頭に衝撃。
 振り向くと先生が立っていた。

「遠野、昼ご飯を食べたら次はお昼寝か?」
「え、あ。」
「先生が特別に出題してやろう」

 そう言って、先生はにやりと笑った。。

「・・・・・・はい」

 渋々ながら頷く。
 提示された問題を見ると、かなり易しい問題だった。

「これでいいですか」

 淀みなく黒板に書いていく。

「おう、遠野。・・・正解だ」

 先生にはそれが意外だったらしい。少しながら驚いているようだった。
 俺は席に戻った。



「ふぃ〜、やっと終わった・・・」

 授業が終わり、先生が去って行くと、緊張が解けたのか少しずつクラスもざわめいていく。
 それでも部屋の熱気にやられて、そのまま机にへばりついている人もいた。
 俺が机に突っ伏していると、女子が何かを持って教室から出ていっていた。
 次の時間のことが気になって、有彦に聞いてみる。

「次は体育だったと思うぞ」
「ああ、わかった。サンキュ」

 さっそく席に戻ると、体操服を取り出して着替える事にした。
 カッターシャツのボタンを一つずつ外して・・・、二つめのボタンを外した所で手が止まった。

 ――――――・・・ああ、今まで忘れていた。

 顔からだらだらと汗が流れてくる。
 Tシャツの合間から見えるモノは見間違いではなく、現実だろう。
 胸には白い布が巻いてあった。朝、急いで巻いてきたものだ。
 汗をかなり吸っていてかなり緩んでいるようだった。
 今まで気付かなかったのが不思議なくらいだった。

「早く着替えないと遅れるぞ」
「―――っ」

 有彦が着替えを終えてきていた。
 はっきりいって心臓に悪い。鼓動がドクドクと早鐘を鳴らしている気がした。
 必死に平静を保ちながら返事をする。

「遅くなりそうだから、先に行っててくれ」
「おう、まあ早く来いよ」
「後でな」

 有彦は訝しげな顔をしたが、教室から出ていった。
 暫く思考した結果、Tシャツの上からだったら分からないだろうと、着替える事にした。
 教室には数人、人が残っていたが、怪しまれる事もないと思ったから気にしなかった。
 運動場に向かう途中、思わず溜め息をついた。


 ―――――なんで―――こんなことに―――なったのだろう――――――



 乾いた笑いが廊下に響いた。



 ・・・
 ・・・・・・

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

 グラウンドを走る。
 炎天下の中、延々と走る。
 額から、頬から、首筋、胸、背中、至る所から汗が吹き出してくる。
 服がべったりと張りついてきて不快感が募る。

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

 熱い。
 そう思いながら前方を見ると、何人かのクラスメイト達が整列していた。
 それを通り過ぎてから俺は立ち止まった。

「ふぅ、・・・終わった」

 額の汗を腕で拭って、息を整えながら整列の輪に加わる。

「遅かったじゃねえか、運動不足か?」

 声を掛けられた方を向くと、有彦が立っていた。

「ん、多分違う」
「そうか、だいぶ調子が悪そうに見えるだがな」
「この天候で元気なお前が不思議だ」
「いい天気じゃねえか。太陽が輝いて気持ちいいだろ」
「それ以前に熱すぎる・・・」

 汗が気持ち悪い。
 少しでも通気性をよくしようと、体操服をパタパタと引っ張る。
 が、やめた。体操服を引っ張ろとしたら、中のTシャツが思いっきり透けているのが見えたからだ。
 今日、何回目の溜め息だろうか、思わず口から出る。
 Tシャツを引っ張るのを止めた。有彦を見ると、汗があまり出ていなかった。

「お前は熱くないのか?」
「ふふーん、鍛え方が違うんだな。これくらいでへばるようじゃ、まだまだだぞ」
「その鍛え方やらを教えて欲しいくらいだな」
「ふふふ、そうか・・・・・・」

 有彦の唇の端が急に吊り上がったかと思うと、邪悪な笑みを浮かべた。
 即刻拒否する事にした。

「いや、やっぱり聞かなくていい」
「・・・・・・遠慮しなくていいぞ」

 有彦は聞いて欲しそうな顔をして、俺を見る。

「いらん」

 一言で一蹴してやった。
 もの凄く残念そうな顔だった。断って正解だったと思う。

「それでは、散開して下さい」

 体育委員の人が言った。有彦と話している内に全員走り終わったらしい。
 この学校はラジオ体操第一を準備体操の一環としてすることになっている。
 全員が所定の位置につくのを確認すると、準備体操を始めた。
 掛け声に合わせて、こなしていく。
 一通り終わると、また整列する。
 それを見て、先生が今日の授業の事について指示をする。

「今日は勝たして貰うからな」
「その言葉、そっくりそのままかえしてやるぜ」

 有彦が不敵な笑みを浮かべる
 体育の授業では何人かにチーム分けをしてゲームをする。
 有彦とは敵同士であり、今のところ引き分けである。

「ふふふふふふ」
「あははははは」

 二人して睨み合う。
 降着が続くかと思われるが、二人ともすぐに離れる。
 だが、両人ともが笑みを絶やさないため不気味だった。
 二人が離れると、ホイッスルが鳴りゲームが始まった。



 今回は有彦に負けた。ギリギリの僅差である。
 最後の最後に気を許して逆転されたのだ。

「どうだ、この実力」

 誇らしげに有彦が笑う。

「ああ、そうだな」

 感慨げも無く呟く。

「これで奢り決定だな。財布は大丈夫か〜」
「・・・大丈夫だ」

 それを聞いて有彦の顔がさらに笑みが浮かぶ。

「くっくっく・・・強がりはいかんな〜、遠野。
 そんなこの世の終わりみてえな顔してたらまるわかりだっつの」

 有彦を恨めしげに見ると、言った。

「今更後悔しても変わらないし、勝負に負けたんだから約束は守るよ」
「それは殊勝な事で」

 俺はガックリと肩を落とし息を吐いた。
 ゲームに負けた方が奢るという変な不文律が有彦との間にはできていた。
 食堂の食券一回奢るだけなのだが、それは深刻な問題。
 小遣いを貰えない身としてはとても痛い。

「まあまあ、そんなに気を落とすな。最後だって偶然だったようなものだったしな」
「ちくしょー!!」

 だからついつい本音が出てしまう。
 有彦はまた笑った。



 教室に戻ると、まだ着替えている人は少なかった。
 自分の席に戻ると、体操服の中を覗く。
 見間違えでないことはわかるのだが、それでも落胆する。
 Tシャツは今だ汗を吸って胸に張りついていて、巻いている布がはっきりわかるくらい透けていた。
 布も結構緩んでおりいささか不安が過る。
 仕方ないので体操服の下から、制服に着替える事にした。
 体操服から両方の腕を抜いてから、Yシャツに腕を通す。
 胸を重点的に見られないように隠して一気に着替えた。

「アルクェイドにでも相談してみようか・・・」

 制服に着替えて余裕が出来たからだろうか思わず口から出る。
 自分の体に起こった事は何なのだろう?
 どうして変わったのだろう?
 彼女なら何か知っている気がした。
 だけど不安になって胸を押さえる。帰ってきた感触は以前の硬いというよりはふにゃっと柔らかい。

「本当、なんでこんな事になったんだろうな」
「そうですねぇ、遠野くん」
「先輩!?」

 前を見るとシエル先輩が立っていた。

「どうして、ここに?」

 まだ着替え中だったはずじゃあ・・・。
 回りを見ると、全員着替え終わっていた。だいぶ時間が立っていたらしい。

「遠野くんに聞きたいことがあるからですよ」
「聞きたいことって・・・まさかっ」

 顔から汗がだらだら流れていく。

「はい、多分遠野くんが思ってる通りです」
「先輩、わかってたんですか!?」

 先輩は少し困った顔をして言った。

「・・・ここで話す内容でもないですし、部室にいきましょうか」

 言い終わると俺の手を持って、教室を出ようとする。

「まだ、授業が終わってませんよ」
「大丈夫です。誰も遠野くんがいなくなっているとは思いませんよ」

 先輩は俺の手を持ったままにこにことしている。
 先輩が言うことは本当なのだろう。断る理由も無いから渋々ながら従う事にした。



「ちょっと待ってて下さいね」

 先輩は部屋の隅に行くと、積まれてある座布団を二枚だした。
 好意に甘える事にして、出された座布団に座る。
 俺は先に切り出す事にした。

「先輩は俺が女性の体になっているのをいつから気付いていたんですか?
「お昼休みのときに気付きました」

 そう言って先輩は苦笑する。

「遠野くんは女性になったのはいつです?」
「今日の朝、起きたらなっていましたよ」
「原因はわかる・・・わけありませんよね」
「はい」
「・・・そうですか」

 一呼吸置いて先輩は唐突に言った。

「じゃあ早速ですが脱いで試て下さい」

 先輩を見たまま少し固まる。

「・・・聞き間違えですか先輩?
「いいえ、あってますよ。どうなってるか見てみないと分からないじゃないですか」
「そんな、ご無体な」

 先輩は手をワキワキさせながら近付いてきたと思うと、俺を押し倒した。

「ふふふ、先輩が脱がして上げますよー」
「いやだー」

 抵抗も虚しく、どんどん脱がされていく。

「観念して下さい、遠野くん」

 先輩は服を一枚脱がす度に頬を赤く染めていく。

「先輩、どうか気を確かにして下さい!おかしいですよ!?」
「駄目です。途中で投げ出すのは男らしくありませんよ」

 俺の胸がはだける。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

 一瞬、時が止まったように無音になった。

「・・・・・・・・・立派な胸ですね」

 先輩が一言。
 その一言で俺の頬がボッと燃えるように熱くなった気がした。
 それに構わずペタペタと胸を触ってくる。

「形もいいですし、揉みごたえも中々・・・感度のほうはどうでしょうか」

 胸の中心あたりをいきなり摘まみ上げられる。

「ひゃんっ」
「ふむふむ、良好ですね」

 膠着がとけた。

「――――――っ、先輩、何を―――しているんですか!!!!!!」

 茶道室に大声が響く。

「何って、遠野くんの胸を揉んでいるんです」
「揉む必要があるんですか?」

 先輩をジト目で見る。

「えっええ、もちろん・・・必要ありますよ」

 不自然に瞳を泳がせながら先輩が答えた。

「遠野くんの体が本当に変わっているか確かめるために必要だったんです」
「見るだけでわかるんじゃないですか?」
「ちゃんと原因を探るために調べてみないといけないんですよ」

 先輩が早口で捲し立てていく。

「その原因は分かりましたか?」

 俺の言葉に先輩の動きが止まった。

「えっ」
「先輩?」
「・・・もうちょっと調べてみないことにはわかりませんね」
「今の間はなんですか」
「気のせいですよ」

 先輩は立つと、茶道室の窓の前に歩いていった。
 何故か先輩の背中が震えていた。


後書き

 なんか・・・・・・ダメダメです・・・。
 気分は憂鬱。


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