「・・・兄さん、お父様達は・・・七夜を滅ぼす為昔、ここを登られたのですね」
「・・・ああ、と言っても俺はあの時の事はあまり・・・と言うかほとんど憶えていないんだ」
森に入り始めて暫くすると、いままで無言を貫いていた秋葉がそんな事を口にしていた。
先程から元気が無いと思っていたが、やはり自分の一族の犯した罪の現場を見るのは辛い様だ。
「・・・あの日、俺が目を覚ました時屋敷には誰一人としていなかった。・・・寂しかったんだろうな・・・俺は何も考え無しに外に出た。そして見たんだよ・・・」
俺はその後の事を口に出来なかった。
今なら・・・七夜の記憶を取り戻した今ならはっきりと思い出せるあの光景・・・
遠野や軋間によって在る者は原型が何であったのか判らないくらいズタズタにされ、
在る者は人形の様にいとも簡単にバラサレ、在る者は生きたまま焼き殺された。
それはまさに殺戮の見本市と化した凄惨な場所だった。
そして・・・母さんは・・・俺の本当の母さんは俺を庇って死んだ・・・
その際に叫んだ俺の名が、皮肉にも俺の寿命を延ばす結果にもなった訳だが・・・
そんな俺の表情に皆無言となった・・・しかし、
「ねえねえーー志貴!!これなーーーにーーーー?」
最後方から場違いなくらい能天気な声が聞こえてきた。
何事かと思って後ろを振り向くと、「ねえねえ〜〜しーーきーーー!!この変な縄なーーーにーー!」
「バ、バカッ手を離せ!!そいつは・・・」
言い掛けたが既に遅かった。
「えっ?・・・う、うにゃああああああ!!」
今まさに、アルクェイドの周辺で罠が発動された。
倒木が倒れ込み、何処からとも無く岩が降り注ぎ、矢やら、槍が雨の様に降り注ぐ。
形容しがたい轟音が響き渡り、それが止むと、あたりは凄惨な状況となっていた。しかし・・・
「いったー志貴ーー何よいまの?」
・・・何故怪我どころか服すらも破けず平然としている?
いつもこいつの天然ボケばかり見ていた所為か忘れがちになるが、こいつはこのメンバーの中では最強なんだよな・・・
「・・・皆も見たようにこの森には今のランクの罠がそれこそごろごろしてるから、あの反面教師を見習い注意する様に」
「むぅぅーー志貴何よ!その『はんめんきょうし』って?」
「言葉のままだ。・・・それとお前、知識だけは俺の何十倍もあるんだからそれくらい漢字で言え」
俺はそれだけ言うといまだ膨れっ面のアルクェイドを尻目に登山を再開した。
それから暫くは罠もほとんど発動せず、(発動してもアルクェイド達のおかげで無傷)俺達は中間地点まで到着した。
「あれ?遠野君あの薄ぼんやりと光っているのは何なのですか?」
先輩がそんな事を聞いてきた。
確かに俺達の左手前方にぼんやりと何かが光っている。
「ああ、あれはこの森で死んだ七夜や遠野の怨霊」「!!に、兄さん・・・嘘ですよね」「うん、嘘」
秋葉が恐る恐る聞いてきたので俺は軽く返した。
「・・・兄さん・・・」「で、でも似たようなもんだぞあれは『怨霊の門』の入り口さ」
「七夜の罠密集地帯ですか?」「そう、ああやって人家の様にして侵入者を騙すんだよ。たいてい襲撃は夜だったし相手も連続的な罠の襲撃に疲弊していたから、簡単に引っ掛かったんだよ」
俺のその言葉にアルクェイドがいきなり
「ふーん、やっぱり七夜って極悪なんだねー志貴と同じで」
と、とんでもない事をぬかした。
「おいこら、そこの馬鹿女今なんてぬかした?何で俺がいきなり極悪人になる?」
「だってさー志貴私だけじゃあ飽き足らずシエルに妹それに翡翠に琥珀まとめて・・・しちゃったんでしょう?どう考えたって極悪人だよー」
しまった・・・
さらにこれに呼応する様に、
「そうですね。確かに遠野君はケダモノだと思いますね」
「・・・私の時も何の容赦もありませんでしたから」
「・・・・・・・(真っ赤)」
「そうですねー、でも志貴さんの場合、鬼畜と言っても差し支えありませんよー」
「ああ!!と、ともかく!!もう少しで里に着くから・・・い、急ぐよ!!」
身の危険を感じた俺は、会話を強制的に打ち切ると再び歩き始めた。
(・・・志貴さま・・・志貴さま)(??)(志貴さま・・・私にも他の方と同じ事を・・・)(・・・・・・・・・)
レンちゃんのその一言により俺は止めをさされた・・・
それから三十分後俺達は一転して開けた平原に着いた。
「志貴さん、ここは?」「七夜の里・・・普通・・・と言うか、一般の七夜はここで生活していた」
琥珀さんの問いに俺は言葉少なくそう言った。
よくよく見れば、確かに所所、柱の跡らしきものが見える。
しかし結局はその程度のこと、今は何も無いただの平原・・・
しかし最初ここに来た時俺を待っていたのは無数の白骨だった。
どうも遠野はあの後一族の死体をそのまま放置したようだった。
その為俺は、その人骨を一箇所に纏め一族の墓を造った。
盛り土をした粗末な墓を・・・
「で・・・遠野君、問題の屋敷は?」「!!あ、ああ、この先だけど、皆はここで休んでいて。後の事は俺一人でするから」
思案していた俺に先輩がそう声をかけてきたので、俺は慌てて笑顔を作るとそう言った。
「ええーー!!志貴ー私はまだまだ元気だよ!緒に行こうよー」「だめ!!お前も休んでろ!」「・・・兄さん」
「秋葉・・・これは俺の・・・俺だけの儀式なんだ。たとえ皆でも邪魔して欲しくない」
皆何か言い掛けたが口を噤んだ。
「・・・一段落したら戻るから皆休んでいて。琥珀さん戻ったらお昼にしましょう。お弁当楽しみにしていますよ」
おれは口調をやや軟らかくしてそう言うと、返事を聞く前に身を翻し森に入っていった。
不定期後書き
やっとつき・・・いえ、着かせましたよ七夜の里に。
本来でしたらもう少し早く到着させる予定が大きく遅れました。
この調子では完結に一体いつまで掛かるか・・・とほほ・・・
月三にしましたが・・・すぐに月四に軌道修正しないと・・・
すみません、端から愚痴ばかりで、そろそろバトルも・・・入るかもしれません・・・
まあ期待せずに待って下さい。
次回は遂に志貴も『凶夜』の秘密の一端を!!・・・見るかもしれません(汗)