刻一刻と  第二話


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1: 神人 (2002/07/15 03:24:00)[yakushijin at mx1.tiki.ne.jp]




 ゆさゆさゆさ

 ・・・・・・。

 ゆさゆさゆさ

 ・・・・・・うっ・・・。

 ゆさゆさゆさ

 ・・・・・・うん?
 誰かが俺の肩を揺さっている?
 寝ぼけ眼で起き上がると、有彦がいた。

「・・・・・・」
「起きたか、遠野」
「・・・・・・うん?有彦か。何か用か」
「もう昼なんだが」

 どことなく呆れ顔で有彦が言う。

「俺、そんなに寝てたのか」

 と、いつの間に外していたのだろう、机の上にある眼鏡をつけて立ち上がる。
 俺が起き上がると、有彦はそれを待っていたかのように口を開いた。

「ああ。それで今日はどこで食べるんだ?」

 時間を見ると、まだ授業が終わってから三分くらいしか経っていなかった。
 ちょうどお腹も空いている気がした。
 今日は・・・どうしよう。
 食堂にいきたいけど、なるべくお金を節約したいから・・・パンにしようか、
 でも食堂もやっぱし捨てがっ・・・。
 財布の紐と相談していると、誰かに手を引っ張られた。
 唐突だったから体のバランスを崩して、倒れそうになる。

「食堂にいこう、遠野くん」

 俺を引っ張った張本人は振り向いて、微笑んだ。

「弓塚さん!?」

 弓塚さんは俺の手を握って走っていく。

「ちょっちょっと」
「どうしたの、遠野くん?」

 上目づかいに弓塚さんが聞いてくる。
 うっ・・・。
 その笑顔に一時凍結。
 断っても無駄なんだろうなと考えてしまう。
 彼女の事だから食堂で一緒に食べることはもう決定されてるのだろうと。

「いやっその・・・。まあ、何でもないよ」

 俺が弓塚さんと一緒に走っているのが珍しいのか、
 それともただ廊下を走ってるのが目立っているのか、
 廊下にいる人達が俺達を見ていた。
 やっぱし俺は弓塚さんに手を握られているわけで、かなり恥ずかしかった。

「おいっ遠野!ちょっと待て」

 後ろから有彦が追いかけてきている。
 すぐ追いつけれるはずなのに来ないという事は、
 さてはこの状況を楽しんでいるのだろう。

 ドンッ

 ちょうど曲がり角で誰かと衝突した。

「きゃっ」

 短く、でも聞き覚えのある声。
 そこには眼鏡をかけている年上の先輩がいた。

「・・・先輩、ごめん」
「遠野くん、そういう事を言うなら早く引き上げてくれませんか」

 先輩の手を握ると一気に力を込めて先輩を起こす。
 同じように転んでいた弓塚さんも起こす。

「ありがとうございます」

 嬉しそうな顔をしながら、先輩は言った。

「遠野くん、ごめんね」

 先輩とは対照的に弓塚さんは落ち込んでいた。

「気にすることないよ。それに謝るのは僕にじゃないと思う」
「あっ」

 弓塚さんは口に手を当てて小さく声をあげた。
 恥ずかしそうに先輩をちらりと見る。。
 先輩は、微笑みながら弓塚さんを見ていた。

「ごめんなさい、先輩」
「いえ、いいですよ弓塚さん。・・・・・・それより弓塚さん達も食堂に行くんですか?」
「はい、そうですけど、先輩も一緒に行きますか?」

 と、思案顔で口に指を当てて先輩は考える。
 妙に様になっていて同時に可愛いと思う。

「そうですねぇ・・・、私もご一緒させて頂きましょうか」
「本当ですか?」
「ふふっ、それに大勢で食事をした方が食べ物も美味しいといいますし」
「はい!」
「じゃあ、決まった事だし早く行こう」

 驚いたのか、弓塚さんが俺を見る。けどすぐ笑顔で頷いた。






「それじゃあ、席を取っていてください」
「はい、わかりました」

 先輩はいつも通りに顔に微笑を浮かべて俺達を見送った。

「遠野、今日は何を食べるんだ?」
「いや、まだ決めていない」

 有彦と話しながら、食券を買いに行く。
 全体的にけっこう安いのだが、いつも悩んでしまう。

「お前はどれにするんだ?」

 俺が聞くと、有彦はすぐに答えた。

「毎日同じものでも飽きるからな、日替わり定食を頼む事にした」
「そうか・・・」

 なんて高いものが頼めるんだ・・・。
 ニヤニヤ笑う親友を恨めしげに、思わず見てしまう。
 結局、俺はきつねうどんにした。

「おばちゃーん、きつねうどん二つとカレーうどんお願いします」

 食券を学食のおばさんに渡すと、すぐに作ってくれた。
 お盆に三つを乗せて食堂内を見渡す。
 弓塚さん達は食堂の中央あたりの席に座って俺達を見ていた。
 人ごみを難なく交わして弓塚さん達のところに行く。

「はい、おまたせ」
「どうも。遠野くんはきつねうどんですか」
「私と一緒だね。えへへ」

 弓塚さんと先輩にそれぞれの料理を渡す。
 俺と同じ品なのが嬉しいのか弓塚さんは笑顔だった。
 先輩は俺からカレーうどんを受け取ると、早速割り箸を割って、

「いただきます」

 と言って、食べていた。
 俺がきつねうどんに手をつけるのと同時に有彦と弓塚さんも食べ始める。
 先輩はうどんをカレーにをたっぷりと絡めてからつるつると吸い込む。
 それを何度か繰り返してる内に、俺の視線に気付いたらしく頬を赤くした。

「遠野くん、そんなに見られたら恥ずかしいですよ」
「すみません。先輩ってカレーうどん美味しそうに食べるなぁって」
「そうですか?」
「うん。こっちが食べたくなるくらい」

 うどんを食べている先輩が可愛いかったので見惚れていました・・・なんて言えるわけない。
 先輩はカレーうどんを見ながら悩んでいた。
 三十秒くらい経つと、何か納得した様子で頷いたかと思うと、
 カレーうどんを差し出して、頬を桃色に染めながら言った。

「・・・えーと、それじゃあ・・・・・・遠野くん。食べますか?」
「先輩の分が無くなりますよ」
「気にしなくていいですよ」

 カレーうどんを差し出したままという事は、俺が食べるのは決定事項みたいだ。

「それとも・・・食べるのが嫌なんですか?」
「そっそんなことありませんよ」

 慌てて俺は答える。

「もうっ、じれったいですねぇ。遠野くん」
「なんですか」

 すると先輩は箸でうどんを掴んで、

「あーんして下さい」

 と口元に差し出してきた。
 鼻にカレーの香ばしい匂いが充満する。
 先輩は笑顔のままで俺が食べるのを待っている。
 恥ずかしくないんですか・・・、先輩。
 俺の顔は多分耳まで真っ赤になってるだろう。

「なっ、なっ・・・」
「ほらほら、先輩の言うことは素直に聞きましょうね〜」
「・・・・っ」

 いきなり先輩が俺の口に箸を差し込んできた。
 瞬間口腔がカレーで犯される。

「「あーーーーーーっ!!!!!!!」」

 先輩と俺のやりとりを傍観していた二人が叫ぶ。

「どうです?お味の方は」
「・・・・・・ええ、美味しかったですよ」

 半ばヤケクソに答える。

「遠野くんも何普通の対応してるの!?」
「先輩と何してんだてめえ」
「いや、これは不可抗力であって・・・」
「あの時約束したことも嘘だったの?・・・そうなんでしょ。酷いよ、遠野くん」
「弓塚さん!そんな誤解を産むようなことを・・・」

 ぐわしっ

「遠野、先輩とだけじゃ飽き足らず弓塚にも手を出してたんか」

 有彦が青筋を立てて、俺の頭を掴む。
 口は笑っていたけど、目が笑っていない。

「許さん」
「おい、やめろって有彦」
「問答無用!!!」

 有彦が俺を押し倒す。
 抵抗するのだが、それも虚しく有彦が俺の上に馬乗りになる。

「お前絶対勘違いしてるぞ。確かに二人は好きだけど、それは友達としての好きであって、けっして・・・」
「言い訳はいい。遠野、小便はすましたか?神様にお祈りは?部屋の隅でがたがた震えて命乞いする用意はOK?」
「俺の話を聞けー!!!!!!」

 俺と有彦を敬遠しているかのように半径三メートルくらいに輪になって人だかりが出来ていく。
 有彦は俺の顔を両手で掴むと、不敵に笑って、次の瞬間頭の中が真っ白になった。

「ふふふ。どーだ遠野、きいたか」
「おかげさまでな」

 どうやら頭突きをかましてくれたらしい。
 この不条理な行為に段々と腹が立ってくる。
 先輩と弓塚さんはというと、それぞれ自分の食事を持って避難していた。

「漢代表として貴様を粛正してくれる」
「何をする有彦、その手はなんだ!?」
「拷問」

 手をワキワキさせながら、俺の脇腹に近づけていく。

「ひゃうっ」

 有彦の指が俺の脇腹をつついた。

「うりうりうりうりうりうり」
「あはははははっはうっ・・有彦、やめっ」
「それは無理な相談だな〜」
「ひぅっはははっははははははっ・・・あっありひこ・・」
「まだまだ続くぞ〜」
「くはははははっ・・・・」



 ――――――ぶちん。



 細い糸が千切れたかのような音が脳の中でした。

 どんっ

 どこにそんな力があったのだろう、有彦を押しのけて立ちあがる。
 有彦は驚愕していたようだが、俺の笑顔を見るとみるみる内に顔を蒼白にしていく。
 そのまま俺はにっこりと微笑えんだ。

「気は済んだか?有彦」

 有彦の肩をポンポンと叩く。
 いつの間にか食堂内は騒然というよりは静観とした空気になっていた。
 俺が有彦に近づくたびに、有彦も一歩ずつ後ろに下がる。
 近づくといっても顔と顔が30cmくらいしか離れておらず、
 タイミングぴったりで動くものだから、傍から見たら踊っているようにも見えた。
 有彦の肩が食堂の壁にあたる。

「冷静になれ、遠野。深呼吸した方がいいぞ。ほら、息を吸って吐いて・・・」
「うん、心配しなくてもいいよ。俺は十分冷静だ」
「俺には全然そう見えないぞ」
「多分目の錯覚だろう」
「もしかしてとても怒ってないか?」
「気のせいだ」

 ぶんっ

「うげっ」

 有彦にボディーブローをあげた。
 とても嬉しそうにその場で倒れてくれた。今度からもあげようと思った。
 食堂は堰を切ったかのようにざわめき始める。
 席に戻ると、弓塚さんと先輩が延々と笑っていた。
 きつねうどんは少し冷めてたけど、美味しかった。
 食べ終わるとちょうどチャイムが鳴った。食堂のおばちゃんに食器を返すと教室に向かった。

「それでは、また後で」
「はい、先輩も頑張って下さい」
「ばいばーい、先輩」

 階段の所で先輩と別れる。
 廊下を歩いていると弓塚さんが言った。

「まさか、食堂であんなことになるとは思わなかった」
「本当、災難だったよ・・・」

 食堂での事を考えてげっそりする。

「遠野くん?」
「・・・ああ、ごめん。どうしたの、弓塚さん」
「ううん、遠野くんぼーっとしてたから大丈夫かなって」
「ありがとう」

 教室につくとそれぞれ自分の席に戻った。
 弓塚さんの顔は妙に淋しげだった。





 続く


 後書き

 始めまして又はお久しぶりです。
 神人と申します。
 更新がとても遅れてしまいました。すみません。
 もう少し早くさせていくよう努力したいです。
 書く事もあまり無いのでこれで失礼させて貰います。
 これからも宜しくお願いします。


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