路空会合3話一


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1: 烈風601型 (2002/06/27 11:18:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

あれは・・・そう俺がこの世に生を受けて十五回季節が巡った時だったか・・・
先代、つまり俺の親父が病で急逝した事を受け兄者たちを差し置いて俺が当主に就く事が長老達の意向で決まった。
おれはその報告を聞いた時、意外に思った事をはっきりと覚えている。
確かに俺の眼には全てを断ち切れる線が見えるのは事実だが結局はその程度の力では無いのか?
技術では兄者たちに到底及ぶものでは無い。
なのに何故俺が・・・
しかし、長老達の意向に背ける訳も無く、俺は当主継承の前夜までこの疑問が渦巻いていた。
そんな時であった。
衝が俺の部屋に来たのは・・・
「鳳明様・・・いえ、明日からは御館様ですな」
「爺、よしてくれ。貴方にまでそのような事を言われると悲しくなる・・・親父も母者ももういない今とあっては、貴方が親父みたいなものなのだから」
「はっ・・・そのようなもったいなき御言葉」
そのような軽い会話をしていたが俺は不意に悲しくなった。
この人も明日には俺を他人行儀で『御館様』と言うのだ。
当時の俺には到底耐えられるものではなかった。
「・・・で爺、一体どうしたんだ?こんな夜遅く」「はっ、今宵参上しましたのは御館様の遺言をお伝えする為・・・」
「・・・親父の?」「はい・・・鳳明様のその双眸について・・・」
俺と衝の間に重い空気が満ちていく。
しかし衝はそんな空気を振り払うように
「鳳明様・・・鳳明様は『凶夜(まがや)』をご存知でしょうか?」
そんな聞きなれない言葉を口にした。
「なに?『凶夜』?爺なんなのだ?その『凶夜』と言うのは?それよりも・・・」
「関係あるのです鳳明様。御館様の遺言とこの『凶夜』と言うのは・・・」
「・・・」
余りの衝の迫力に俺は口をつぐんだ。
「何から話せば良いのか解りませんが・・・まずは御館様の遺言を、『決して力に魅入られるな。お前は七夜鳳明なのだから』との事です」
「そうか・・・『力に魅入られるな』と言うのは解る。俺は今でもあの光景を夢に見るからな・・・しかし後半の『お前は七夜鳳明なのだから』と言うのはどう言う事だ?」
「では次に『凶夜』について・・・『凶夜』それは・・・いえ、彼らは七夜にありながら魔に墜ちた者・・・」
「!!」「元々彼らは生まれながらにして魔と真正面から対等に・・・時には魔をも瞬時に抹殺する力を有していた物達で七夜に何代に一人、必ず生れ落ちました」
「・・・それで」
俺の本能はこの先を聞きたくなかった。
しかし理性が聞く為に続きを促した。
「彼らは最初こそ七夜の最高傑作として、神の生まれ変わりだとして一族に敬われ、当主となりました。・・・しかし彼らは例外にもれる事無く・・・狂ったのです」
「狂った・・・」
俺を冷たすぎる汗と大きすぎる恐怖が襲い掛かった。
「口伝では最初の『凶夜』は七夜のみならず、魔であろうとも人であろうとも区別無く殺戮に興じ、彼一人を殺すのに、一族だけでも現役の者達の大半の命が失われました。
・・・そしてそれ以来そのような力を有した者達を我等は正常であれば当主として祀り上げ狂う傾向が見られれば・・・一族の中で殺し、その後・・・惨い話ですが彼らは、
この世に存在したと言う証全てを奪われ歴史の闇に葬り去るのです・・・そして何時の頃からか、彼らの事を七夜では、七夜に禍をもたらす七夜・・・禍々しき七夜と言う事で
禁忌の意味をこめ『凶夜』と呼ばれる様になりました」
「・・・何故・・・そこまで・・・」
俺はその言葉にぼそりと呟いた。
今俺の体を支配しているのは疑問と衝撃、そして怒りであった。
「我等は暗殺者として・・・また退魔として頂点にあるからこそ生きてこられた一族。
もしもこのような事を他の一族に知られれば七夜は滅ぼされる。それゆえの恐怖でしょう」
「・・・そして・・・俺もまたその『凶夜』と言う事か・・・」
そう言う事しか出来なかった。
「はい・・・鳳明様が『凶夜』に堕ちた時には、ご長男双影様のご嫡子法正様が当初となる事が既に決定しております」
「手が早いな長老は・・・」「何時『凶夜』と成り果てても良い様にと言う事でしょう・・・」
「そうか・・・仕方ないか・・・爺済まないな貴方にこのような辛い事を・・・」
「ほ、鳳明様・・・その様なもったい無きお言葉など・・・」
その時俺は強く動揺こそしたが周囲にあたったり、憎悪する気持ちは無かった。
いや、そうしようと思えば出来た筈だ。
でもそれは出来なかった。
親父や母者そして、今俺の眼の前で俯いている衝が俺に厳しい中にも愛情を注いでくれた事を思い出すと、その様な気持ちになれなかったのも事実であった。
そして俺は自身に誓いを立てた。
(狂うなら狂うでそれは構わない。その時まで俺は俺の思うがまま生き抜く)と・・・

そしてあれから五つ季節が巡った。
俺は時の天皇にその殺しの腕を見込まれ、朝廷御用達の退魔師兼暗殺者として、一族から選び抜いた二十余名を連れて(目付けとして衝も同行した)
この平安京で主に朝廷からの依頼を次々とこなしていく。
そして、七夜の森の長老達にとっては意外な事であり衝にとっては喜ばしい事に俺は未だ狂う事無く七夜の歴代当主の中でも最凶と最強の名を欲しい侭にしている。
もしかしたら・・・俺は狂わずにいられるかも知れない。
その代わり・・・

後書き
  さすがにこのスピードでは完結させるのに後どれ位掛かるかわかりませんから月2から、月3にする事にしました。
  さて・・・『凶夜』ですが・・・はっきり言って造語です。
  思い付きです。口から出まかせです。
  ただ、人として限界の力を有していたのだから、人どころか討つ敵である魔をも凌駕する者が存在してもおかしくないのでは?
  と、思い、気が付けばあっと言う間に『凶夜』の設定が出来上がりました。
  次から物語はいよいよ本番に突入します(少し寄り道するかもしれませんが・・・)
  期待は・・・そこそこしながら待っていてください。


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