志貴と四季と夢見姫 第二話
結局は午後の授業はサボってしまい、何故か茶道部の部室で酒盛り
を始める事になった俺達。
座布団を円にして座り、その中心には日本酒のビンが数本と各種おつ
まみが多数。何故部室にこんなモノがあるかは・・・なんでだ?先輩。
「では、復活を祝してかんぱ〜い♪」
やたらと景気の良いポニーテールの少女「御舟 美稀」、実は転生を
果した俺の悪友である四季。
どうやって生まれ変わったかはともかく、文字道理に憑き物が落ちたよ
うな晴れ晴れとした笑顔だ。・・・ま、いいけどね、
「ああ、乾杯」
「では、私も乾杯」
カチ〜ンッ♪ と、俺もシエル先輩も四季の音頭に合わせて酒を入れた
湯呑を鳴らす。
おっと、その前に一つ気になる事が、と、先輩に向き直る。
「そう言えば先輩、さっきはえらく良いタイミングで俺達を見つけたけど
どうして?」
フフッ 、それはですね、とにこやかに種明かしをする先輩。
「お昼を一緒にと思って遠野くんの教室に行ったんですよ」
なるほど、ちょうど行き違いだったのか。
「そしたら乾くんが、
『遠野ならここの生徒じゃない女に呼ばれて校門に行ったよ』
って教えてくれましてね。てっきり何時ものあ〜ぱ〜吸血鬼かと」
―――――!! なんだそれでか。
イキナリ臨戦体制の先輩の登場で四季を始末に来たのかと俺も焦ったけど、
当の先輩もさぞかしビックリしたんだろうな〜。
「ふ〜、そうだったんだ。でも結果オーライと言う事で有彦に感謝かな?」
「クスッ そうですね」
なんて話している内に、ゴクンゴクンと一気に飲み干す四季。
「プッハ〜♪ 美味いな〜、オイ」
と言い、早くも空になった湯呑を俺に差し出す。注げって事か?
「お前、この酒はとっておきの大吟醸なんだぜ?もう少し味わって飲めよ」
トクトクと注がれるその美酒は秋葉の後輩にして酒蔵元の娘の瀬尾晶ちゃ
んがお世話になっているお礼にとくれた逸品、
その銘も「道神祇」。
「硬い事言うなって、今日は思い切り酔いたい気分なんだからよ」
「フフッ。そうですよ、遠野くん。・・・・・」
何かを複雑な表情を笑顔で隠しつつ、先輩がフォロー。
ま、それもそうか。しかし流石に今のシエル先輩の言葉は重いな〜。
と、まあ酒が進む中、思い出話に花が咲く。
「秋葉の奴、昔は可愛かったよな〜。後ろをヒョコヒョコ付いて来てよ。」
「ああ、そうだったな。」
「へえ〜、あの秋葉さんがですか?」
で、その自慢の妹だった当の秋葉に殺されかけたり、日々せっつき回
されたりの兄二人。・・・なんであんなになったんだかと――――
しかし、どの辺りからか子供の頃の話が一転、座敷牢での恨み言を延
々と聞かされるのには閉口した。
「酷いモンだったぜ、――――――― 」
長めのとはいえ、裾がレースになっているスカートで下着が見えない
様に胡座をかくのは流石、和服に着慣れた四季。ま、見えたとしても嬉し
くないが・・・
「わかります、わかりますとも、―――――――― 」
おまけに監禁生活体験者としてシエル先輩まで加わるし・・・ これで
琥珀さんが加わったら俺は逃げるね。
空の酒瓶が2本転がった頃、あまり酒が飲めない俺が適当に会話に相槌
を打っていると、完全に出来上がった四季が絡んで来た。
あ、目が据わっているよ、コイツ。
「なんだ兄弟、全然のんでないじゃねぇかよ〜?」
「これでもいつもよりは無理してお前に付き合っているんだよ」
そんな俺に四季は酒を注ぎながら、しなだれかかる様に肩を抱いてくる。
「さあ飲め、一気に飲め。おらおら〜♪」
「おい、こら止めろ四季! 酒癖悪いな。お前、今は女なんだろ?だったら・・」
端から見れば、ほんのり桜色に頬を染めた美少女に色っぽく迫られている様に
見えるんだろうが、目の前の少女の中身を知っている俺にとっては嫌過ぎた。
「見てのとおりさ。なんだお前興味あるのかよ〜?いやこれがなかなかイヤら
しい身体なんだぜ? なんなら見るか?」
「何言ってんだか ・・・って、おい?!!」
俺の言葉を変に受けとって四季は言うが早いか、おぼつかない足取りで
立ちあがると、服を脱ぎ出した。
・・・イヤな光景が目の前で―――?
パサッ パサッと思いきり良く身に付けた大き目の服を一枚一枚脱ぎ捨て
て行く。
・・・更にイヤな光景が――――?
「どうだい?なかなかエッチだろ〜♪」
俺を見下ろしながら、ホレホレと、自慢するだけはある形の良い乳房を見
せつけるトップレス状態の少女、・・・いや、四季。
――――― この馬鹿!! と、溜息を付き頭を抱えつつ
「・・・・先輩 」
目で合図を送ると、コクン、と酔いが覚めて無表情なシエル先輩が頷く。
俺と先輩は転がっている酒瓶を拾い上げスックと立ち上がり
「それでは下の方、いきま〜すっ♪」
と一人ストリップで盛り上がる四季がスカートを降ろす為、背を屈めた
その瞬間
『ゴンッ!!!』 『ボグンッ!!!』
俺の一撃が四季の額を、先輩の一撃が四季の後頭部を直撃!二人とも微塵
も手加減を加えなかった為、実に良い音が部室にこだまする。
ドサッ!と、畳の上に前のめりと言う実に漢らしく理想的な形で倒れ込む
上半身裸の美少女、もとい馬鹿四季。
―――― ま、不死身なんだし大丈夫だろう、と心の中で言い訳を。
その時の共犯者であるところの先輩曰く、四季を指差しながら
「・・・・馬鹿ですか?」
――― それに対する俺の答えは
「・・・・うい」
如何に中身が四季とはいえ、いやだからこそ、そのままだと文字道理に
『目の毒』なので半裸の少女の上に俺の学生服をかけてやる。
「やれやれだよ、まったく・・・・」
なんて溜息混じりで思うけども、それでも笑い話で済ませられる体験を四季と
共有出来たのは理由なんて関係なく楽しかったかな?―――――
そんな俺をシエル先輩はしばらく優しい目で見詰めていたが、
「遠野くん・・・」
と、正座し直し俺を真っ直ぐ見据える。その目は既に『先輩』ではなく―――
「彼女の―――『遠野四季転生体』の事ですけど」
と切り出され、俺も覚悟を決めて話に入る。
「四季は、こいつ一体どうなるんだ?」
「・・・私が考えるに、この転生には御舟 美稀が大きく関わっていますね」
「―――― え? 」
思わず隣で横たわる少女を見る。確かに、一連の転生劇を考えるなら、御舟
美稀が只者である筈がない。
ハッキリ言ってそれは盲点だった。流石は埋葬機関第七司祭と言うべきか。
「じゃあ、この娘は一体・・・・」
「だから、それをこれから調べるつもりです。彼女が何者なのかを」
『次回予告』
突如としてTV画面に、PCディスプレイに映し出される映像・・・それはこれ
から確実に訪れる事件、事故、そして死ぬ瞬間だった。
起こる事象をデータとして頭に読み込み、更には映像装置にそれを映し出す
予知能力者『御舟 美稀』。
怪奇な事件の裏で少女の身に起こった悲劇をシエルが解き明かす。
「私の所為じゃないわ、みんな勝手に死んだのよ・・・」
次回第3話 「殺人回路」。 ご期待下さい。 うそです。
【 あとがき 】
もともと「御舟 美稀」関連の事件『殺人回路』編は、空の怪奇シリーズと
して考えていた話だったんですよね。
家にいたり、道を歩いていて電気屋のテレビの前にいると、いきなり
自分の身に起こる不幸な出来事が映し出されるという事件が巷で噂になり、
燈子達が関わってくると言ったストーリー。
「御舟 美稀」も四季同様の悲惨なキャラだったので、「志貴と四季・・・」
では救われる形となりました。ま、その分の皺寄せは志貴に行きますが・・・
ちなみに「殺人回路」は怪奇大作戦の第20話のタイトルだったりします。
実は怪奇大作戦には血を吸わなければ生きられない少女の話しがあったりし
て、そのタイトルも「吸血地獄」。