路空会合2話四


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1: 烈風601型 (2002/06/05 16:00:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

俺達がようやく別荘に着いたのは夕方の六時だった。
駅では俺達(主には秋葉・先輩・アルクェイドだが)が大破させた電車の事で、お説教をくらい後日損害賠償することでようやく解放された。
更に別荘に向かう途中では、翡翠が慣れない歩きだったのか、それとも靴に慣れなかったのか、軽い靴擦れをおこし、結果として俺が翡翠をおんぶして行く事になった。
その間、皆の視線はかなり危険な物だったが・・・
「へえ、この別荘本当に森に近いな」
別荘を一目見て、俺はそう感嘆の声を発した。
ここから七夜の森はまさに目と鼻の先、裏手はもう森だ。
「はい、あの後、お父様はこの地をご自分の物とされたのです。本来は森全てを崩すつもりだったそうですが、
あの森の中にある多数の罠によって死傷者が多発した為、止むを得ずこのまま残しているそうです」
なるほどな、確かにあそこには普通の人が入るのは危険だしな。
何しろここは地元の人からは『禁断の森』と呼ばれているから。
そんなこんなで俺は夕食の席で、
「皆、取りあえず明日にも俺は七夜の森に入ろうと思うけど、ここで留守番して欲しいって言ったら・・・」
「ちょっと志貴、冗談は抜きよ」
「そうですよ遠野君、私も七夜の森に入る事が目的なんですから」
「私もです兄さん」
「はい・・・」
「そうですよー、せっかく買った登山用の服が一回も着ないでタンス行きじゃあ、服が可哀相ですよー」
「私も志貴さまについて行きます」
やはりと言うべきか皆から反対された。
「じゃあ皆、今から言う事は守って欲しいんだ」
そう言うと俺は早速、七夜の森が罠と罠で埋め尽くされた、難攻不落の自然要塞だと言う事を伝えると、
「えー、そんなの大丈夫だよ志貴、そんな罠私が、片っ端から壊していくから」
「あのな、お前は突っ込んでも大丈夫だと思うが、先輩や秋葉達にレンちゃんに怪我したらどうするんだよ」
「ぶーっ志貴、私の心配してくれないの?」
「当たり前だろ。十七分割されても生き返る奴を心配しても、こっちが胃痛起こすだけだ」
俺がそう言うとお姫様はすっかり、いじけた様だった。
「志貴の意地悪・・・」ぶつぶつ呟きながら爪でのの字を書いている。
「それで遠野君、その罠は一体どれ位あるのですか?」
アルクェイドを放って置いて、話が再開された。
「そうだな・・・詳しくは解らないけれど、十年前の遠野家の襲撃の時も六千近くあったから、
恐らく相当数の罠がまだ残っていると思う」
「そんなに・・・」
「何しろあれだけ広大な森にも関わらず、比較的安全に通れる道はたった数箇所だから・・・
幸いこの別荘に近くにその道一つがあるから今回はそこから行く」
「でも遠野君、それだけ量があると一つや二つ掛かってしまいますよ。やはりここは、まだいじけているあーぱー吸血姫に任せた方が良いのでは無いのですか?」
「いや」
俺は頭を振った。
「それに関しては三つの理由から止める事にした。一つ目として、ここの罠は単独での発動はせずに常に複数なんだ。
下手するとアルクェイドの手にも負えないんだ」
ぴくんと、アルクェイドの耳が反応した。
「二つ目に七夜の森には『怨霊の門』と呼ばれる、罠の密集地帯があるんだ。ここに足を踏み入れたら多分最期だと思う。
何しろ一度に百近い罠が大歓迎してくれると言うから・・・そして三つ目は・・・まあ、これが一番大きい理由だけど、やっぱりアルクェイドに無理させる・・・」
「志貴ィ〜」
俺に最期まで言わせる暇も無く化け猫に抱きつかれてしまった。
「だからひっつくな、ともかく明日はそう言う風にするから、取りあえず俺もう休むよ。明日は八時に出発するから」
「ねえねえ志貴一緒に・・・」
アルクェイドが何か言おうとしたが先輩と秋葉が引き剥がし、双方とも無言で、庭に引きずり出した。
その直後轟音が庭に響き渡る。
「ふう・・・取りあえず翡翠、琥珀さん、レンちゃん先に休むから」
そう言うと俺は別荘の三階にある俺の部屋に戻った。
自室に戻ると俺は明日の準備に入った。
リュックから不要な物を取り出すと、懐中電灯、コンパス、灯油、自分で書いた森の地図を準備していき、終わって気がつけばもう夜の十一時になっていた。
「やば、もうこんな時間か、水飲んで寝るとしようか」
そう言うと俺は一階のキッチンに下りると、水をコップに注ぎ一息で飲み干した。
「ふう、美味い。都会の水とは大違いだな」
さて寝ようとキッチンを出ようとした時、俺の足が急に止まった。眼の前の洗面台の鏡に釘付けとなったのだ。
何故?そこにあるのはただの鏡、何処にでもある何の変哲も無い鏡。
なのに何故?何故足が急に止まった?
では何故だ?何故俺はあの鏡を見る事を恐れている?
(見たい・・・鏡から・・・を見たい)自問の答えのように俺の心で何かが囁く。
気がつけば俺は洗面台に俯いた状態でいた。
少しでも顔を上げれば鏡を見れる。
(見るな!!)
俺がそう念じるが体が何かに操られた様に俺はゆっくりと顔を上げる・・・
・・・何処だここは?
・・・今俺がいるのは室内だろう?
・・・何故月が見える?何故満天の星空が見える?
・・・何故日本家屋が見える?
・・・何故・・・何故・・・俺にそっくりな男がいる?
こいつは何者だ?俺は何者だ?俺はこいつなのか?こいつが俺なのか?
この風景が夢なのか?
それとも・・・イマイルコココソガ・・・ユメナノカ・・・・
・・・ワカラナイ・・・
・・・ワカラナスギル・・・
デモ・・・
一つ言えるのは・・・
これ以上・・・
これ以上・・・
ここには・・・
居ては・・・
居てはいけない!!
俺はようやくそこまで考えがまとまると、脇目もくれず、自室に飛び込むと明かりもそこそこに布団に包まった。
体は今ごろ恐怖を思い出したかのようにがたがた震えている。
何だあれは?
煌々と輝く月、満天の星空、古い日本家屋・・・そして俺に瓜二つの顔の黒い着流しの男・・・
彼もこっちを見て唖然として見ていた。
きっと俺もこんな表情をしていたに違いない。
俺は震える体を強引に押さえ込み一秒でも早く眠りにつく為必死に目を瞑った。
(あれは悪い夢だ!!)そう自分に言い聞かせながら・・・


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