死徒の月姫と黒猫と 第2話


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1: ししりい (2002/05/27 03:35:00)[yurikamome6 at hotmail.com]

 
   琥珀さん劇場 その1「夢見る七夜さん」

「七夜さん、しっかりして!」
 うなされていた七夜さんを起こす。
「あ、志貴さん・・・あれは夢だったのですね」
 ま、まさか?心配になった俺は
「なんの、夢を見たの?」
「私じゃない、私の夢でした・・・」
 そんな・・・思い出してしまったのか?
「その夢の中で私はコ―――」
 や・・止めてくれ七夜さん。そんな事は思い出さないで
「私はコブラと呼ばれる宇宙海賊でした」
――――なんですと?!
「アーマロイドレディを相棒に宇宙を又にかける―――」
・・・・・・え〜と
「でもですね、ある日 ギルドのバイケンがですね♪」
「もういいですよ、琥珀さん」 

    つづく・・・かな?
―――――――――――――――――――――――――――――――――

【 死徒の月姫と黒猫と 第2話】
 

 学校帰りの商店街。とある一角で、やけに道行く人の意識が集中していた。
―――――。なんとなくこの後の展開が読めるな〜・・・
「あ、志貴〜。久しぶり〜」
 ほらやっぱり・・・。俺を見つけたワル目立ちの元凶が知ってか知らずか
俺に手を振ってくれる。
「・・・おっす、なんだココでずっと待ってたのか?」
 へへ〜♪と嬉しそうに俺の所に駆けて来る絶世の美女。慣れたとはいえ、
周りの視線がな〜。
 と、言う事でアーネンエルベに寄り道決定。もちろんアルクェイドの驕り。
 
 アルクェイドは、この店特製の深炒りブレンドをアイスコーヒーで。俺は
小腹がすいたのでお手製アップルパイをケーキセットで。


「お前、アルトルージュって娘,知ってるか?」
 アルクェイドはストローで氷を転がす手を止め、いきなり聞かされたそ
の名前に複雑な顔をする。

「・・・なんで志貴がアルトルージュを知ってるのよ」
 そう切り返されて今度はこっちのケーキをつつく手が止まる。
 いや、質問を質問で返されても――。
「ちょっと、な」
「ちょっとって、あの娘はね、ああ見えても死徒27祖の事実上の首領なんだから」
「ほんとかよ?」
 ついガタッと椅子をならしてしまった。しかし、俺の記憶の中の彼女はどう考え
てもそんな豪の者には思えなかったな。

「う〜ん、アルトルージュは連中を束ねているっていうより、あの娘の下に
強力な実力者たちが何時の間にか集まったって感じね。」
 
なるほど、それなら何となく判る気がする。
「魅了の魔眼とかじゃなくて、持って生まれたカリスマみたいなもんか」
 その透き通るような金髪を微かに揺らし、頷くアルクェイド。
「そういうこと。最古参の死徒三人があの娘の下僕として仕えているし、さ
らに古くから人間の財界に深く食い込んでいる第14位の死徒までが後見人に
なってるもんだから付いた二つ名は『血と契約の支配者』ってわけ」
 
コーヒーを一口啜りながらその二つ名を反芻する。
そして思い出すのは、はにかんだように可愛らしく俯く少女の顔。 
 ・・・誰が付けたか知らないけどあの少女のイメージに全然合わないな。

 気が付くと真剣な眼差しでアルクェイドが俺を見ていた。
「・・・志貴があの娘を知っているって事は、この街に来てるのね?」
「先日、レンがお前に会いに来たその娘と知り合ってな」
「フ〜ン。で、志貴ともお知り合いになった訳?」
 ジト眼で俺を睨むアルクェイド。
「そんなんじゃないよ。会話らしい会話もなかったし精々お互いの顔を
覚えたくらいさ」
「・・・あの娘、綺麗だったでしょ?」
「――― ああ、確かに。」
 濡れた様に艶やかな長い黒髪、整いつつも幼さを残した美しい容貌を持っ
た人為らざる少女、か・・・・
 なんて事を考えていると、それに負けないくらい綺麗な顔がム〜、と膨れ
ていた。・・・その顔を見て、ふと気が付いた。
「―――? そういえば何処と無くお前に似ていた気がするな」
 と、続けたら
「そ・・・そお〜?」
 ストローでブクブクとコップの中を吹きながら、あからさまに視線を逸ら
すアルクェイド

「あ、確か別れ際にブリュンスタッドって名乗ってたけど?」
 天井を仰ぎ、観念した様にフ〜、と溜息を一つつき
「・・・・あの娘ね、私の姉妹みたいなものなのよ」

―――― !? そういえば以前、朱い月が自分を受け入れるにまで足る事が叶わ
なかった器がどうのって言ってたっけ。アレの事か?

「? 驚かないのね、私に姉妹がいるって聞いて」
 ずいっと身を乗り出し、俺の顔を覗きこむ。
「あ、ああ・・・。で、アルトルージュってどんな娘なんだ?」
 曖昧な俺の態度を訝しがりつつ話しを続けるアルクェイド。

「昔、私の力がロアに騙されて奪われた時にあの娘、力を奪い返そうとして
たった一人でロアに戦いを挑んで返り討ちにされた事があったわ」
「へ〜、姉妹思いの良い娘じゃないか」
「その後も何回か逢いに来てくれたんだけど、ほら私、志貴に会う前は死徒を
狩る事それだけだったから、その度に喧嘩吹っかけちゃって・・・」
 
 ・・・な、なんか悪い男に騙されて、挙句グレまくった不良娘を更正させようと
必死になっている母親みたいだな、と思ったり―――。
「―――― でもさ、今度会ったら少しは違うんじゃないか?」
「・・・・うん」
 アルクェイドはアルクェイドなりに思う所もあるんだろうな・・・きっと。

「じゃあね、志貴。約束だからね」
「ああ、分ってるって。今夜11時にいつもの公園な?」
振り向かずに手を振ってアルクェイドと別れる。なんでも一人での夜の見回り
が寂しいので俺に一緒に来てもらいたいとの事だそうな。
 又、厄介ごとに巻き込まれると分っているのに俺も人が好いと言うか・・・



「志貴さま、お帰りなさいませ」
「ただいま翡翠。いつもご苦労さん」
遠野邸の正門で俺の帰りを待っていた翡翠はその言葉に頬を微かに染めつつ、
深深とお辞儀をして鞄を受け取る。
「いえ、それより今日はお客様がいらしておりますのでお着替えが済み次第
リビングルームの方へお顔を出す様にと秋葉様が」
「客?珍しいな。」

 俺が遠野の家に帰ってきてから親類縁者さえ寄せ付けなかったのに何処の誰
が来たんだか?平日だから浅上での秋葉の友人じゃないだろう。

 着替え終わり一階に降りて来るとお茶を載せたお盆を持った琥珀さんがいて
「あら志貴さん、お帰りなさい。」
「ただいま、琥珀さん」
 満面の笑みで、ツツツッと小走りでにじり寄って来て
「お客様がお待ちですよ〜♪それも可愛い女の子なんですから〜♪」
このこのっ♪ と肘で突付いてくる。

「そ・・・そうですか・・・」
嬉しそうな琥珀さんを見て、なんとなく秋葉が不機嫌な事が会わなくても見て
取れた。

「で、その女の子はどこの誰なんです?」
「確か遠野財閥と縁の深いヨーロッパの貴族だか財閥だか縁のご令嬢だとかでし
て〜、日本に留学したいので年の近い秋葉様にお会いに来たとか」

 なるほど、要するに企業間系がらみのお客様な訳だ。なんて考えてると琥珀さん
がジ〜っと俺を見ていて
「い・・言っておきますけど俺は知らない人ですからね」
「ホントにそうですか〜?あ、でもこれからちょっかい出すんですよね?」
「・・・しません」
「うふふ♪ では失礼します〜」
 相変わらずの調子で捲くし立てるとそのままスタスタと行ってしまった。

琥珀さん、俺と言うキャラをなんか勘違いしてるんでは?

 あれ?件のお客のいる部屋の前では少女の姿をしたレンが壁に背を持たれ掛け
させて俺を待っていた。
「どうしたレン?こんなとこで」
―――『大事なお客様だから邪魔しちゃ駄目って言われたの』
 何かを目で必死に訴えるレン。なるほど、秋葉から締め出されたか。
 不安そうに俺を見上げるレンの頭に、ポンッと手を置き
「そうだよな、レンも皆と一緒にお客さんに挨拶したいよな」
―――『うん、志貴と一緒に行くの』 
 キュッと志貴の腰に抱き付き、可愛らしくコクン、と頷く大きな黒いリボンを
付けた少女。
・・・まあ、レンは見た目の幼さとは裏腹に大人びた気品みたいなのがあるから、
遊びに来ている分家のお嬢様とか言って紹介すればいいか。

コンコンッ!とノックをする。部屋の中から返事、一呼吸してからドアを空け
「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。遠野家長男、遠野志貴です」
―――『いらっしょいませなの』
 まあ、遠野家長男の挨拶としては及第点だろう。レンも行儀良くチョコンとお辞
儀する様が抱きしめたくなる程いじましい。 
 
 部屋の中には秋葉、翡翠と琥珀さん。そして客人と思われる黒い服の使用人らしき
人物に伴われた中学生くらいの年頃の長い黒髪の小柄な少女。
 
「あ、兄さん。こちらの方は・・・・」
 ――――秋葉に促され、俺に挨拶する為に少女がゆっくりこちらを向く。
 どこか儚げな印象は8年前の秋葉を思い出させる綺麗な子だ。そしてその紅い瞳――!?

――――『後日、改めてお伺いします』 まさかあの時の言葉道理に? マジですか?

「アルトルージュ=ブリュンスタッドです。・・・また、お会い出来ましたね?志貴、
それに子猫さん。」
 はにかんだ様な笑顔で俺を見詰めるその少女。
「や、やあ・・・ アルトルージュ」
―――『うん♪ こんにちはなの』
 あっけに取られる俺の隣では、友達に再会できたレンが普段無表情な顔をパアッ
と、ほころばせる。
 
―――――そう来たか〜。 しかもこれ以上ないくらいの正攻法で?

「あら?兄さんとは、お知り合いなのですか」
「あら〜♪やっぱり志貴さんとは、お知り合いだったのですね〜♪」
 ・・・なんなんだ、この秋葉と琥珀さんの反応の違いは。やっぱりって何?
 ついでに疑わしげな視線を俺に向ける秋葉に対してこれからの展開をあからさまに
期待する琥珀さんの態度はなんでだ? ひょっとしてこれは琥珀さんの策略か?
「・・・・・・。」
 無表情を装っている翡翠も言いたい事があるんだろうな〜。

 なんて思っていると、突然
「あ〜〜〜〜!?」
 ガチャ〜ンッ!! と窓からの乱入者、アルクェイドの声が・・・・・



    【あとがき】
 よく考えたらこのほのぼのとした話の後が「仮面の復讐騎」なんですよね。
 
 アルトルージュと翡翠。 エンハウンスと琥珀。 シエルは表向き琥珀側。
 ブルーと秋葉。  番外の鬼札である朱い月(ブリュンスタッドではない)。
 交わらない存在の燈子と式。 そして殺人貴と子供アルク(未定)。 
と、組みながら実に良い感じで敵味方に入り乱れてくれます。(笑)

 絶対的カリスマ、悪魔の策略、それらを相手に自らの意志の力、精神力で真
っ向から対抗しようとしているのが復讐騎エンハウンス。

 あ、ちなみに「夢見る七夜さん」は十七夜さんとこの掲示板に書いた物です。


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