仮面の復讐騎 舞台裏の散歩者編


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1: ししりい (2002/05/21 02:03:00)[yurikamome6 at hotmail.com]

      舞台裏の散歩者編

「どうした?私がアルクェイドの真似事をしているのがそんなに可笑しいか?」
 
 空に浮かぶ白月を染めるかの様に飛び散る死者達の鮮血。
 その噎せ返るような血風で身を纏う白い衣装を彩る『ソレ』は
    
  ――――『朱い月のブリュンスタッド』―――

「・・・あの時と、同じ・・・です、ね」
 それは誰に聞かせるでもない独り言。 
―――かつて私を殺した彼女と同じ顔が、あの時と同じく死者の街で私と対峙
する事になるなんて。
「あの時?フフフ、そうか。お前がロアだったあの時の事か」
「――――――――!」
 そう、この目の前の『ソレ』はアルクェイドを通してあの時の事を見ていたのだ。
何故なら『ソレ』とアルクェイドは一つの存在だったから。
  ―――しかし―――
「―――何故?貴女がここに?」
 そらならどうしてこの『朱い月』はここにいるのだ?
 ・・・・嫌な予感がしてくる。とても嫌な。
「フ・・・、お主が知りたいのは私がココにいる理由ではなかろう?」
 朱い月は見透かした様に私を嘲笑う。しかし、
「クッ・・・・」 
 そうだ、私が知りたいのは――― 
「遠野志貴。・・・で、あろう?」
 その名前に、ぴくりと反応する私。
 直死の魔眼を持つ彼、ソレが制御出来なくなり、誘発される様に七夜の
衝動が彼を苦しめ・・・ある日、遠野志貴は姿を消した。
 それと同時に真祖の姫君「アルクェイド」と彼女の居城「ブリュンスタッド」も
何処かへ姿を消し―――――

「遠野くんが、何処にいるのか、・・・知っているのですか?」
 彼女は体重など無いかのヨウナ動作で 何時の間にか私の目と鼻の先に
「―――消えたよ」 
 ス―ッと、動揺する私の眼を、まるで正面から獲物を射抜く様に見据え
「――――っ?!  な・・・?」
 二ィ・・・ と、比類無き美しいその顔で私に笑いかけながら
「遠野志貴はもうこの世界の何処にもいないのだ。ロアの娘よ」
 嘘?・・・嘘よ、嘘です―――   そんな事が?
「いや、今は『小娘』の犬か?」 

―――――――!!!ッッ―――――――

 『 ワアアアアアアアー――――――――――っっっ!!!!!』
 その一言で完全に頭に血が上った。逆上した私は何も考えられない!
ジャキー―――ッッンンンン!!!!
 
 バッ と、後ろに飛び退き間合いを取る。同時に暗器術で8本の黒鍵を取り出し
その全てを目の前の女目掛けて投げつけた。
   しかし
ヒュイイイイイイィィィィィンンンンンンン 
 と、黒鍵は軌道を不規則に変え、標的である筈の朱い月はソレを舞うような動作で
全てその手に受け止めた。
「所詮はこんなものか? 埋葬機関の第7司祭、いや今は小娘の『狗』?、どちらにし
ろそんなモノでは私にキズ一つ負わす事は出来ぬぞ」
 ゴゴゴゴンゴンゴン!ゴン!ゴンッッ!!
 投げ返された黒鍵が私の周りの地面を深く抉る。その圧倒的な膂力で投げつけられた
ソレは鉄甲作用など及びも着かない威力だった。
「チィッ!!」
 どうする? 一旦間を置いたとしても長引くだけこちらが不利。それならっ!!!
 ザンッッッ!!!!!
 と、そのまま相手との距離を詰めるべく地面を蹴る。意表を突かれる朱い月。
「ほぅ?」
 一気に相手の懐に飛び込み、一撃でカタを着けるべく暗器術で切り札を出す!
ガシャンッ! 銃身が螺旋状に巻きついた異様なソレ、『火葬砲典』。
 臓物の如きグロテスクなオブジェにも似たそれは試作型なので一発しか装填出来な
いがその威力は対戦車カノン砲並!
「いっけぇぇぇぇぇー――――!!!!!」
 まだ私を侮っているのか零距離で突き付けられた銃口を避け様ともせず余裕の表情を
浮かべている朱い月
 ――ッッバチィィンンッッ!!
 引き金を引き法術処理を施した銀の弾丸が凄まじい反動と共に飛び出す。
「?!!!っ えっ!?」 
が、同時に銃身が暴発した。
 ―――――ゴゴンッ!!!!
 
 『キャアアアアッッ!!』 爆風と熱風を浴びて吹き飛ばされる私。朱い月は?
「―――はあ、はぁ・・・!? そ・・・そんな?」
 叩き付けられた地面から顔を上げ、私が見たものは――――――
「いやはや、まさかこの様な手の込んだ玩具で来ようとは。さすがは錬金術でもある
ロアの記憶を受け継ぐだけはあるな」
 螺旋状の銃身から加速され放たれた弾丸は何事も無かったかのように朱い月の白い2
本の人差し指と中指で受け止められていた。
「―――― 化物、」
 私の呟きを気にも止めない様子で銀の弾丸を指で弾き、私の元へ歩み寄ってくる。
月明かりの中、金の長い髪を揺らし、それは余りにも美しくて。
「では、お主は何なのだ?不死の娘よ。」
 さっきと同じ様にその紅い双眸で私の目を居抜く。
「私?」
「その身にロアを宿し、ロアと為りてそして死に、更には不死と為りて生き返るその
矛盾の果てにある『お主』は何なのだ?」
「――――――――!」
 突き付けられたその問いはあまりにも重かった。それは私が『シエル』なんかでは
なく。ましてや『エレイシア』でもない、『ロアの娘』である事を再確認させたからだ。
「私は・・・・・」
 何時の間にか殺気めいた物が朱い月から消えているのに気が付いた。
「認めろ、お主は『ロアの娘』なのだ。しかし、ソレは深い業ではあるが今、お主に必
要な力でもある。受け入れねば求めるモノに辿り着く事は叶わぬ」
 そう、笑って見せたその顔は紛れも無く私にとって馴染みの深い彼女の・・・・
「・・・それを言う為に、わざわざこんな真似を?」
「まあな。このままあの小娘の思うが侭、となるのが癪だ。というのもあるが、どうせ
なら楽しんで見ようというのも本音だがな」
――――――なんですって?
「私は本当に殺されるかと思いましたが?」
「なに、お互い不死身なのだし本気で殺し合ったとしても何ら不都合はなかろう?」
――――――猫と鼠の何とかじゃ有るまいし、なかよく喧嘩しなっ♪ですか〜?


生きた人のいない街。もう何をするでもなく、ただ頭上の月を仰ぎ見る二人。
・・・というか興が冷めたというか、これ以上付き合いきれないというか。

「先ほどまでのお主はまるで死に場所を探している様に見えたが、少しは目が覚めたな」
 先程とはうってかわった和やかな雰囲気。声には出さずにお蔭様でと溜息をつく。
「・・・私がこの死徒の街で貴方に会ったのは、やはり偶然ではなかったのですね?」
 長い髪を掻き分けながらクスリ、と眼を伏せ
「どのような意図があったかは知らぬが、間違い無くあの小娘の目論見道理になった
であろうな」
 ・・・・琥珀さんの目的が私と朱い月を合わせる事だとしたらそれは何の為に?
死ねない身体同士ぶつけ合った所で何の意味があるというの?
「さもなくば、目的はこの身との接触、確認で、お主はそのスケープゴートだったとも
考えられるが?」
「!? 」

―――そうか! 私は理解した。私がココに派遣された理由の全てを あの悪魔の意図を。

「では聞こうか、ロアの娘よ。ココにいる『私』は何だと思う?」
 私にしか確認できない事。私と目の前の人物との共通点、それは―――
「―――― 過去の  具現化? 」
 もし私の推測が正しければこの朱い月の存在は 世界の意思に他ならない事にな
る。そう、この私の「身体」が死を迎え入れないのと同じに・・・だとすると、
「貴女は消えたアルクェイドの「影」 なのですね?」
 そう、未だ世界が認識しているアルクェイドの存在が生んだ強制力の「カタチ」
「ほう? 流石はロアの知識を受け継ぐだけの事はあるな。」
 ソコに辿り着いた私に感嘆する朱い月。でも、もしそうなら
「じゃあ、逆にとれば貴女の片割れであるアルクェイドは、消えたブリュンスタッド
城はこの世界に復活できる?」
 しかし、彼女は静かに目を伏せ否定の意を伝える。
「残念だが今の私はブリュンスタッドたる『力』を振るう事は叶わぬ。」
「そ、そんな?」
「だが、もう一人のブリュンスタッドがいるであろう」
 もう一人、死徒の姫君。血と契約の支配者。アルトルージュ=ブリュンスタッド。
しかし彼女は――――
「でもアルトルージュさんは『空想具現化』を使えない筈です。」
「確かにアレは死徒としては最高の芸術品。だが真祖としては私をその身に宿す事
が叶わぬほどあらゆるモノが足りぬ。―――しかし手はあるがな。」
「なんですか?それは」
「お主も知っているだろう?小娘の双子の片割れ、遠野邸使用人の『感応者』を。」
「――――?! まさか、翡翠さんをアルトルージュさんの死徒に?」
 翡翠さんは姉の凶行を止める為に、そして遠野君を取り戻す為、間違いなく自分を
差し出すだろう。しかし、あの月明りの様に優しく儚げな少女は――――


     【あとがき】
 え〜と、予告編2話の続きになります。
 琥珀さんはイレギュラーである朱い月の意思確認の為にシエル先輩を埋葬機関から
引き抜いて二人をぶつけたという事です、ハイ。(笑
 シエル先輩は錬金術を習得していたロアの記憶から情報を得て色んなアイテムを
造っているという設定です。青い髪と暗器術からドラ○もんと化して大活躍!かな?
 ちなみに試作品の火葬砲典は威力と引き換えに真っ直ぐ飛ばない為2メートル近づか
ないと当りません。おまけに一回撃つと銃身は暴発!元ネタあれです、
 「三軒、二軒半・・・まだだ、まだまだ・・・・!! パチィンッ、ドゴー―ンッ!!』 

 さあ、次こそはアルトルージュ編を!


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