「えっ?」
俺が慌てて下を見ると、そこには一匹の黒猫が何時の間にか俺の足にじゃれ付いていた。
「アルクェイド、まさかこの猫が?」「ええそうよ。レン挨拶しなさい」
その言葉と同時にその黒猫がポンという擬音が出てきそうなくらい警戒に、その姿を猫から見た目十歳位の少女に姿を変えた。
その姿は黒のドレスを身に纏い、やはり黒いリボンで水色の髪を纏め、アルクェイドと同じ紅い瞳で俺を見上げていた。
しかしその表情は、とてもその姿からは想像出来ないくらい大人の女性のものだった。
少しの間俺の顔を夢見心地で見ていたがやがて「・・・志貴さま始めまして、アルクェイドさまの使い魔をしておりましたレンと言います・・・」
と何故か過去形で自己紹介を始めた。
それにアルクェイドも気が付いた様に「ちょっとレン、なんでそこで私との関係を過去形にする訳?」
と、幾分気分を害したような声で声で言ってきた。
「・・・」レンちゃんはじーっとアルクェイドの顔を見ると一言「アルクェイドさま・・・長い間御世話になりました」
その一言を言うと俺のズボンにしがみつきだした。
そしてその光景は無論の事だが五つの火薬庫に火を点けたも同然。
「レン・・・それってどういう意味?」
「レンちゃんですか・・・いけませんよ遠野君を人外よりにしちゃあ・・・」
「さすがは未確認あーぱー生物の使い魔ですねいきなり人の兄をかっさらおう何て、主人そっくりですね」
「志貴様・・・まさかそのようなご趣味が?」
「いけませんよー志貴さん。こんないたいけな女の子を手篭めにしちゃうなんて」
皆口々に、そんな事を言いながら、ここ一帯の生物をあの世に叩き送れそうな位強力な殺気を浴びせ掛けてくる。
俺としては何とかして抗弁したかったがこの殺気に対抗するには並大抵のことでは出来ない。
しかし、そんな人外魔境の空間で、平然と口を開いた者もいた。
「アルクェイドさま、私は今日から志貴さまを主人とさせていただきます」
「なっ!!!」
そんな一言にアルクェイドは思わず絶句し、他の者は殺気を全開にして俺にジリジリと近付いて来る素振りすらある。
琥珀さんなんて表面上の笑顔すら無くなっている。
「レン・・・あなたまさか・・・志貴に惚れたとか言うんじゃないわよね?」
「はい」レンちゃん・・・眼が金色寸前のアルクェイドにそこまでしぅかり言えるのか?
「駄目よ!!妹達にも言っているけど志貴は私のものなんだからね!!」
「ですが、志貴さまは未だどの方を最も愛しているのかは不明です。ですから私にもその資格があるものと確信しておりますが」
すごい・・・本気になる寸前のアルクェイドにあそこまで言い返せるなんて・・・
ふと、周りを見ると先輩達も唖然としてこの口論を見続けている。
「レン・・・私が貴方を消すと言っても譲らないのね?」
「はい」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
凍りつきそうな沈黙があたりを支配した。
しかし暫くするとアルクェイドは大きく溜息を付くと、今度は一転して穏やかな声で、「あなた・・・本気なのね」
「はいアルクェイドさま。初めて志貴さまをお目にした時、どうしようもない衝動が全身を襲いました。今までの孤独だった時を全て忘れさせてくれるほどの暖かい衝動が・・・そしてこれをなんと呼ぶのか解っています」
「そう・・・わかったわ・・・志貴レンの事お願いできるかな?」
「えっ?まあそれは別に構わないが、良いのか?お前の使い魔なんだろう?」
「それは良くは無いけれど、この子がここまで自分の我を貫いたなんて始めてだもの。もうどうしようもないわ」
その言葉を聞くと俺は、「そうか・・・じゃあレンちゃん、よろしくな」
そう言いながら頭を軽くなぜてやった。
「・・・(真っ赤)」
「さてとそれじゃあさっさと行くとしようか。秋葉、確か十時の新幹線に乗らないといけなかったよな」
「ええ、そうですっ!!」
秋葉は極めて不機嫌そうにそう言うと俺達を置いてさっさと行ってしまった。
「・・・」見るとアルクェイドとレンちゃんを除く皆も似たりよったりな表情でさっさと行ってしまった。
「?・・・なんなんだ?」「ほらほら志貴!早くしないと置いて行かれちゃうわよ!!」
「ああ!!解った。そう言うと俺は慌てて皆の後を追い始めた。
ちなみに皆が機嫌をようやく直したのは新幹線に乗る直前だった・・・
時間はもう三時になろうとしている。
新幹線から地元の在来線を乗り継いでの列車旅行だ。
俺達の乗っている、この車両と言うよりもこの列車自体、俺たち以外乗客も無く、ほとんど貸し切り状態でくつろいでいる。
そして今俺達はカードゲームをやっていた。
「そう言えば秋葉今日から俺達は何処に泊まる事になっているんだ?」
ふと今になって思い浮かんだ疑問を俺は秋葉に聞いた。
「今更何を言っているんですか?七夜の森の近くに遠野の管理する別荘がありますからそこで過ごします。もう食料も七人分用意されてますし・・・って兄さん!!なに人のカードを覗こうとしているのですか!!」
残念、俺のカードの内容が悪かったのでちょっと見せてもらおうと思ったのだが・・・
しかし秋葉の奴見事にデコイに引っ掛った。
(志貴さま皆様がお持ちのカードをお知らせします。アルクェイドさまには、ばれてしまい失敗してしまいました。
それと琥珀さまはお気を付けてください。何か企んでいるご様子です)
(ああ解った。ありがとうレンちゃん)
そんな事を頭の中の会話で話し合っていると、
(志貴面白い事しているねー、どう?私と手を組まない?妹達をビリッケツにするチャンスだよー)
(こら、そこの馬鹿女、勝手に人の頭を覗き込むな。しかしお前と組むのは有効だな・・・よし秋葉達を悔しがらせてやるか)
(うん!そうしようー!!)
かくして俺達の策略は成功するかに見えたが、先輩は本能で危険を回避し、琥珀さんは既にこの策略を察知したのか悠々と脱出に成功、翡翠も琥珀さんとのアイコンタクトで辛くも逃げ延びた。
その結果、見事に最下位となった秋葉は逆切れ(正当な怒りかもしれないが)して、電車丸ごと略奪に走ろうとしたが、琥珀さんがこんな所にまで持って来たのかと言わんばかりに睡眠薬を使い何とか事なきを得た。
その後は皆それぞれゲームをしたりしながら楽しんでいた。
俺はと言うとレンちゃんが疲れて眠ってしまった為、その様子を見ながら、少し離れた所で皆の様子を見ていた。
そこに「志貴さんどうぞ」と言いながら琥珀さんがジュースを持ってきてくれた。
それを受け取ると俺はさりげなく蓋が未開封かどうかを調べた。
「それにしても志貴さん、レンちゃんを使ってイカサマしてましたねー」
そんな事をニコニコしながら言ってくる。
「はは、なるべく解らないようにしたんだけどやっぱりばれてました?」
「志貴さん表情がころころと変わるんですもの、少し注意すれば、ばればれですよ」
「そうか、もう少し表情を隠さないと駄目ですかお師匠」
「志貴さん酷いです、どうして私がお師匠なんですか?」
「ははは、ごめんごめん」
そんな事を話していたが、不意に琥珀さんは真剣な表情で俺と向かい合うと俺が一番触れられたくない事を聞いて来た。
「志貴さん・・・一つ御伺いしたいのですが・・・志貴さんは一体どなたが一番お好きなのですか?」
後書き
ご無沙汰しています。
お待たせしましたと言って良いのかどうかはわかりませんが、レンちゃんを出してしまいました。
本当は出る予定はありませんでした。
でも気が付けば出てしまいました。
まあ、私めの気紛れ次第では後一人か二人ぐらい強行的に出演すると思います。
ではまた、今月中には次を叩き出しますので気長にお待ちください。