空と月の死期〜四章・月の眼鏡と交わる魔眼〜


メッセージ一覧

1: 舞姫ますたー (2002/05/10 01:43:00)[09060087356 at jp-t.ne.jp]

空と月の死期〜四章・月の眼鏡と交わる魔眼〜



青と橙。

世界に同時に存在しえない色。

夕日は青空を橙に染め、決して交わることは無い。

ここに、これと同じ二人の姉妹がいた。

蒼崎。古よりの魔導の家系に連なりし姉と妹。

姉は魔術を極めし“真なる人形師”

妹は魔法を極めし“破壊の魔女”

決して交わることの無かった接点が一つ、在った。

“直死の魔眼”

交わりの時、今まさに・・・・


「遠野志貴です。よろしく」

俺は失礼の無い様、かつ少し大人っぽくそう挨拶した。

これなら秋葉も文句は無いはず。

いろいろと小言が多いからな、あいつは。

ベッドではあんなに素直でかわいいのに・・・

っと、いけない、回想に浸ってる場合じゃなかった。

改めて見回すと、お客は四人。

少し秋葉に似た、俺と同い年ぐらいの女性。

着物を着、中性的な顔立ちの美人の女性。

全身に黒の服を纏い、左目を髪で隠した眼鏡の男性。

そして、シエル先輩より淡い色の蒼髪をした女性。

(なんか、先生に似てるかも・・・)

外見とかではなく、オーラというか、なんと言うか。

たった数回、時間にすれば一日にも満たない時間を一緒に過ごした女性に、

どこと無くその人は似ていた。

と、その女性の表情が怒りのものに変化しているのがわかった。

(ん?俺の顔になんかついてるかな・・・)

ペタペタ。自分の顔に触ってみると、眼鏡以外は何もなし。

「遠野・・・志貴とか言ったな。貴様、それをどこで手に入れた」

女性が指したのは、俺の眼鏡。

この眼鏡を知っているという事は・・・・まさか。

俺は怒りに対する感情ではなく、純粋に期待の念を込めてこう言った。

「この眼鏡を・・・いえ、これを持っていた人を知っているのですか?」

また先生に会えるかもしれない。その時、俺にはその想いしかなかった。


その少年、遠野志貴くんの返答は意外なものだった。

普通、あんな事言われたら呆然とするか、逆に切れるかどっちかだろう。

最も切れ返したら、命は無いだろうが・・・

だが、彼は違った。

期待に胸膨らませた少年のように、質問したのだ。

橙子さんに気圧されず、立ち向かう勇気があるなんてすごいな・・・

当の橙子さんといえば・・・こちらも冷静に返す。

「知っているも何も、それはもともと私のもんでね。

 昔うちのクソ妹に奪われたまんま、行方知れずだったんだ」

「それは十年ぐらい前ですか?」

「ちょうどそのくらいだ。そうか貴様あいつからさらに奪ったのか。

 しかしまさかあれが負けるとはね・・・

 その頃にはたいていの物体は破壊し得たのだが」

「いえ、奪ってはいません。もらいました」

「もらっただと・・・換わりに何をやった?

 人生か、それとも家族の命か?」

「見返りは何も渡していません」

「はっ、バカな!
 
 自慢じゃないが、あれの性格は最悪でね。姉の私が保証するよ。

 あいつが見返り無しに何かをやるなんてありえないな。

 正直に言え、何をやった?」

どうもこの事は橙子さんの妹に関わりがあるらしい。

そういえば鮮花が言ってたっけ。

橙子さんに妹の事を聞いちゃだめだって。

なるほどこれほど怒った顔をした橙子さんをみるのは初めてだった。

「亡くしたものはありません。しいて言うなら虚栄心と弱い心を」

「どういうことだ」

「先生にはたくさんのことを教わりました。

 いくら性格が最悪でも、あの人は俺にとって唯一の『先生』です」

眼鏡越しに見る彼の目はとても澄んでいて真直ぐだった。

嘘をついてる目じゃない。

正面から橙子さんを見つめるその瞳は、男の僕でも見惚れるほど綺麗で力強い。

あんな目ができる人を僕は知らない。

強く優しい意志を持った、いい目だ。

それに押されたのか橙子さんはふうっとため息をついて落ち着いた。

どうやら大事にはならなかったようだ。

「・・・負けたよ。あいつが善い事をしたなんて信じられんが、

 君の言っている事は信じよう。

 別にあいつにかかわった全ての人間を憎むわけでもない。

 そんなにあいつを想ってくれているなら、その想いに免じてこの事は水に流す。

 その眼鏡も返してくれなくていい。ついでに正式なルーンで再構成してやるよ。
 
 あのバカは魔術はてんでだめだからな」

ポリポリと鼻の頭をかきながら、橙子さんは照れていた。

こんな橙子さんは初めてだ。正直、怖い。

ま、まあ何事も無かったんならそれでいいか。

でもまだ遠野くんはまだなにか聞きそうだった。

「あの、ありがとうございます。
 
 それとあなたは・・・」

「蒼崎橙子だ。橙子でいい。」

「橙子さんは先生の行方を知っているのですか」

「いや、知らん」

「そうですか・・・」

それを聞いた遠野くんは心底がっかりしているようだった。

よほど大切な人だったのだろう。

「そうがっかりするな。生きている限り会うことも有るかもしれない。

 人間の縁なんてそんなもんだ。

 それより折角だから座らせてくれないか?

 さっきから後ろの視線が痛いんだが・・・」

橙子さんが指したのはメイドの少女と依頼人の秋葉さん。

二人ともこっち、特に橙子さんを睨んでいる。鬼のような形相で・・・

な、なんか怖すぎる・・・

「す、すいません。ほら、お客さんなんだから秋葉も翡翠もそんな顔しないで」

「・・・・はい、兄さん」

「・・・・はい」

まだどこと無く表情が硬いけど、何とか収まってくれたようだ。

息苦しいのはどうにか終わったみたい・・・

「じゃあ翡翠、琥珀さんに言ってお茶をもらってきてくれる?」

「はい、かしこまりました」

「ん、ちょっと待って・・・・よし、とれた」

遠野くんは少女の頭に残っていた雪を払いのけると、頭をなでた。

まるで駄々っ子をなだめるように、優しく。

少女は気持ちよさそうに目を細めると、それを受け入れていた。

秋葉さんはものすごーーくうらやましそうにそれを見ている。

「あ、ありがとうございます」

少女は恥ずかしくなったのか、終わると足早に部屋を出て行った。

僕らは改めて自己紹介をすると、それぞれの位置に座った。

さっきのメイドの少女は翡翠さんというらしい。

あとはこの場にはいないが、翡翠さんの姉で同じくメイドの琥珀さん、遠野くんに秋葉さん。

この四人が遠野家の現在の住人だそうだ。

「とりあえず、一通り自己紹介は終わったか。

 ではこちらから二、三質問があるのだが・・・いいかな?」

「俺たちに答えられることなら何でも」

「ではまず、これはごく個人的な質問なんだが・・・
 
 『魔眼殺し』を着けているということは、君は何らかの魔眼の保持者だろう。

 その正体が知りたい。

 それがわかればそいつ無しでも君の目を何とかできるかもしれない」

「この眼・・・ですか」

彼は沈んだ様な顔をしてそう言った。

あまり聞かれて気持ちのいいもんじゃないらしい。

「話したくなければいいが・・・」

「いえ、お話しましょう。

 先生の姉さんにあえたのも何かの縁でしょうし、できればこの眼は何とかしたい。

 そちらの三人も他言無用に願います」

こくっと頷くと皆、彼に注目した。

「いいのですか、兄さん」

「ああ、この人たちなら大丈夫だと思う。

 では、理論的には良く分からないので実践して見せます」

彼は眼鏡をはずした。

そこに在ったのは黒い瞳ではなく、蒼い二つの瞳だった。

そしてそこにあった高そうな灰皿を持ち上げると、ポケットからナイフを取り出す。

カキンと音がして飛び出したナイフの刀身は業物の日本刀のように綺麗で、

刃物が好きな式ならずとも魅入られてしまった。

「・・・いきます」

遠野くんはナイフを灰皿の横から当てると、それを沈めていった。

ほとんど力をいれず、刃はそれを真っ二つにした。

ゴトッとテーブルに落ちた灰皿の片方は、

最初からその状態だったかのような綺麗な切断面をしていた。

さらに彼は持ったままの灰皿の片割れにナイフと突き刺した。

また力を入れたようでも無く刃は灰皿に吸い込まれ、それを貫いた。

そしてその灰皿は砂となって彼の手から消滅していった。

「・・・・まさかな。どうだ式、『視た』感想は」

「線も点も正確になぞられていた。たぶん間違いないだろう」

「そうか。君も“直死の魔眼”の保持者か」

「『君も』?じゃあ・・・」

「ああ、ここにいる両儀式も“直死の魔眼”を有している」

式はテーブルにあった灰皿の片方を持ち上げ、それを『殺した』。

何の因果か、彼の眼は式の眼と同じものだという。

名前に続き眼も式と同じその少年を、僕は少しうらやましく思えた。

僕はその世界を見ることができないから・・・・


この人は俺と同じものが見れる。でも・・・

「何で『魔眼殺し』なしで正気でいられるんです?」

「ああ、私はある程度の『視る』、『視ない』は自分で制御できる。

 この魔術師にいろいろ教わったからな」

橙子さんを指し、彼女はそう言った。

両儀さんはこの眼を制御できるという。

それは、ずっと俺が望んでいたこと。

できるならば普通の眼に戻りたい。

「“直死の魔眼”とわかったところで訊きます。

 これは何とかできますか?」

無理かもしれないけど、俺は少しの可能性に賭けたかった。

これを直せば、愛する人たちとの時間を長く一緒にすごせるかもしれないから。

「・・・・残念だが、無理だ。こいつは特別な家系の生まれでね。

 しかも『両儀式』という名にはしかるべき意味がある。

 対して遠野は両儀の家系と違い、異端な物を吸い寄せる。」

確かに遠野ならそううだろう。遠野なら・・・

両儀という名には聞き覚えがあった。

「・・・・退魔の家系ですか」

「ほう、よく知ってるな。確かに両儀は退魔の家系だ。

 そして遠野は人と魔の混ざった家系。敵対するのは必然というわけだ。

 近年になってからはお互い表面上は仲が良い。

 式が遠野を知っているのも昔、面識があったからだろう。

 ちなみに両儀の家の最終目的は人間以上の人を創り出すことらしい。

 これは遠野の家と変わりないが、やり方が違うだけで敵対するようになったんだ。

 純粋か、そうでないか。退魔か、魔か。違いは大きい。
 
 そういうわけで“直死の魔眼”みたいな魔の力を制御するには、

 魔を調伏させる力、退魔の力が必要だ。

 遠野では魔に引き込まれ、戻ってこれんぞ」

「・・・・それなら大丈夫です」

「なぜだ?」

「秋葉、良いね」

「兄さんが良いなら」

「・・・ありがとう」

俺は全てを話すことにした。

この忌まわしい眼を封ずるため。


今、境界は崩れようとしていた。

死期は近い・・・・

                       続く・・・




ちわー、舞姫ますたーです。四章をお届けいたしました。
なんか、志貴くんと橙子さんだけしか喋ってないような・・・
ま、まあ気にスンナ!あ、それといつも通り設定はオリジナルです。
違うことがあっても怒らんといて。
そういやこのごろやるもんが多いです。インパクト、サクラ4、水月、WIND。
誰か時間をくれ〜〜〜〜(いいのか受験生?)
この続きは早ければ今月中に。
感想くれるとスピードアップ!掲示板とメールで。
『月姫放浪』もよろしく。そっちも早く書かないと・・・
そいではここらで、また伍章で。アディオス!       


記事一覧へ戻る(I)