日常における朱い月 その3(リビングデッド編)
『あ、琥珀さん。レン見ませんでしたか?』
『さあ?、レンちゃんなら夕方は私の部屋でTV見てましたけど』
『レンがTVですか?』
『ええ、耳の無い大きな青い猫さんが眼鏡を掛けたご主人様をお助けするアニメ
がスッゴイお気に入りなんですよ〜』
『・・・あれって最後に嫌なオチが着くから参考にして欲しくないな』
『あはは〜、そうですよね〜♪』
―――おい、アンタが見るように仕組んだんかい!・・・
さて、この日の遠野家のリビングは実に優雅だった。
賓客として迎えられた美しい姫君。そのお茶のお相手をするは、やは
り遠野家当主でもある秀麗な美少女。
そしてその後ろに控える使用人の少女二人も申し分無く美しく、その
空間は一つの絵画の様である。・・・・尤もその実体は地獄絵図だったりして。
「・・・と、まあそう言う訳だから皆よろしく頼むよ」
「―――」「―――♪」「―――!」
あ、返事がないし。そりゃ納得してもらえるとは思ってなかったけどさ〜。
「ではお聞きしますがこの方は本当にアルクェイドさんなんですね」
「そうだな。ぶっちゃけて言えばアルクェイドの凄いバージョンかな」
「・・・具体的に言ってもらえますか?」
「軌間の当主を目からビームで瞬殺できるくらい凄い。」
呆れたのか驚いたのかポカンとする秋葉。まあ、多分前者だろう
「あはは〜、凄いんですねぇ」
琥珀さんには受けたらしい。いやマジな話なんですが――
「お茶を淹れ直しますが、ダージリンでよろしいですか?」
流石に翡翠は平然としたもんだ。あるいは無視しているのか
「なんだ?やってみれば良いのか。それなら―――」
朱い月の眼が金色に光る。視線の先は俺かよ!?
「やめてくれ・・・・」
なんか疲れた。しかし朱い月もどこか天然なんだよな〜。
「え〜?止めちゃうんですか〜」
チェッと残念がる琥珀さん。あ、見たかったですか?ってオイ!
「皆さん、お茶を用意いたしました」
―――――あれ?以外に馴染んでる様に感じるのは気のせいか。
二杯目のお茶が入れられる。流石に秋葉お嬢様も朱い月が相手では実にやりにくそうだ。
なによりアルクェイドの変わり様が未だに信じられないらしい。
―――と言うか認めたくないのだろうな〜。
「で、ではアルクェイドさんとお呼びすればよろしいのですね?」
朱い月を前にいつになく控えめにな秋葉。
「かまわん。アレとこの身はブリュンスタッドを介在する過去と未来であるからな」
「良くわからないのですが?」
「本来なら『私』はこの様して存在しえぬ筈。考えられる要因は当主の兄君と見て
いるのだがな。お主、心当たりがあろう?」
なんか含みがある言葉を笑みと共に投げてよこす。
「お、俺が?」
はあ? と、一斉に俺に視線が集まる。
朱い月はアルクェイドと同じ紅い瞳で俺の目を射抜く様に見つめる。ついでに他の視線も痛い。
「お主のその「眼」は生まれながらの物ではあるまい」
!・・・それって、もしかして―――
「じゃあ、俺がこの「眼」を手に入れたのと同じ理由でお前とアルクェイドが?」
死を体験したが故に根源と繋がり見えるようになったモノの死。ソレと同じ事が?
「な・・なんてこった」
誰にも聞こえない様に呟く。あああ、やっぱ俺の所為かよ〜。
「でもそうなるとアルクェイド様は、その、今のアルクェイド様に入れ替わったと言う
事なのですか?」
不安と寂しさが浮かぶ顔の翡翠。アルクェイドは翡翠にとって数少ない友人ともいえる存在
だったのかもしれない。
「いや、アレと私が繋がったのだ。アレには元から感情など無かったのだからそう考え
るべきだろう」
「感情が無い・・・ですか?」
その言葉に驚きを隠せない琥珀さん。
「そう。ただ使命を、為すべき事を為す為だけが生きる証しとされ、言葉も感情も
外の世界の事さえも知らぬが運命として存在を許されたのがかつてのアレだ。」
「あいつ、俺達と過ごすようになって初めて笑う事を知ったって言ってたよ」
子供の様にはしゃぐアルクェイドを思い出す。アイツを道具として扱った真祖達がアイツ自身
の手で滅ぼされたのは当然の報いだ。
「哀れな人形としての片割れ。そしてお主達の知る今のアレ。私はその姿を見ていたのだ。我
が事の様に感じながらな」
朱い月の告白に、アルクェイドの過去に琥珀さんは声も出せなかった。
「姉さん・・・・」
翡翠が姉の肩にそっと手を置く。その妹の手に自分のを重ね
「私が救われた様に、アルクェイドさんも志貴さんに救われていたのですね」
しっとりとした素敵な表情を俺に向ける琥珀さん。凄く暖かい雰囲気がとても
心地良かった。それなのに――
「そうなるのか?そこの男は出会うなり私を殺してくれたのだぞ。ナイフで切り刻んでな」
――――ピシッ!! その瞬間 確かに時は止まった――――
凍り付く遠野家の人々・・・・・ そして時は動き出す
「兄さん?」 「志貴さん〜?」 「・・・志貴さま」
――――ああ、和やかな雰囲気が一転、空気が重い。
「あ・・・あの〜、朱い月さん?」
ひょっとしてまだ怒ってらっしゃいますか?
「部屋に押し入った後、抵抗する間も与えずに事を終えるとは、見事な手口だった」
どうやら賞賛してくれているらしいよ。そんな事誉められてもな〜。あああ、視線が痛い。
「で、でも次の日、平気なカオして俺を待ち伏せてたしお前不死身だし」
どうせこの地球が無くならない限り死なないくせに、なんて考えていると
「―――――――」
えっ? 気が付くと朱い月は上目遣いに拗ねた顔で俺を見る。
「・・・痛かったのだぞ。私とてあの様に切り刻まれると――」
う・・こいつ、普段は慇懃無礼なクセにいちいち可愛い反応するんだよな。
「わ・・・悪かったよ。今更だけど、もうお前を傷付けたりしないから」
「うん・・・責任をとるのだったな?」
それは俺の本心だ。俺はブリュンスタッド城でこいつとアルクェイドを救うと誓った
んだから。
しかし、そんな心温まる光景を白い目で見る一団が。
「志貴さん・・・貴方も槙久さまと同じなのですねぇ・・・」
ヨヨヨと、袖で涙をぬぐう――振りをする。あ、いつもの琥珀さんだよ。
「志貴さまが何をしたとしても、私は志貴さまを信じております」
いや、俺が殺人鬼だってのを肯定されてもな〜
「どうせなら完全に息の根を止めればよろしいのに。にいさんも半端なんだから」
ボソッととんでもない事を。俺達のやり取りにキレたらしい。お〜い、秋葉。
「愛されているな、お主」
秋葉の呟きを気にした様もなく、ニヤソと笑いながら朱い月。わざとか?そのコメントは
完全に時期を逸してるわ!
【あとがき】
ほのぼのした話を書きたかったんですけど・・・・あれ?