蒼ノ姫 月ノ香 ソノ、カケラ


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1: into (2002/03/27 06:22:00)[terag at pop06.odn.ne.jp]

 深い深い森の中。
 一歩歩くたびに、自分が無くなっていくのが判る気がする。
 どうして俺はこんな所に居るんだろう?
 否、それ以前にここは何処だろう?
 俺の周りは高い、高い木々で覆い尽くされていて、木洩れ日は僅かしか森の中を照
らしださない。日陰の部分はこの世とも思えぬほどに寒くて、なのに俺はまるでそれ
を感じていないかのように何処かへと向かっていく。
 立ち止まりはしない。
 見通しは暗く、もし今が夜ならば完全に此処は闇と化してしまうだろうと予想する
のは容易かった。
 七夜の森とは違った静けさを漂わすこの森は、喰人の森と呼んでも差し支えないと
さえ思う。
 なのに。
 俺は其処で怖がるという事が初めから出来ないかのような、それでいて意識が麻痺
しているというわけでもなく、鮮明なのに何処か現実感が無いという変な感覚を味わ
いながら淡々と歩いていた。
 音はない。
 木の葉が擦れ合う音も、鳥や虫の鳴き声も。
 まるで死んでしまっているかのよう。
 なのに、森だけは生きているのだ。美しいとさえ思える鮮やかな碧の葉を天に張り
巡らせて、この森を世界から切り離している木々達はどうしようもなく生きている。
 この言葉にし難いほどに雄大な森は決して人の手が入っていないからこそだろう。
人が此処で開発を始めていたならこれ程の森は残っていまい。
 否。
 人が入り込んだら、この森はそれを殺してしまうだろう。そして、その血や肉でさ
え養分としてさらに大きくなるのだ。
 ならば、俺はもう駄目だろう。戻る路さえ分からないこの森で、俺は死んでしまう
のだ。
 足元を見るとさっきまで土だと思っていたモノは人だった。否、人ではない何かだ
った。もう何十年も前に死んでいるであろう其れは、白骨になることなく腐ったまま
で土の替わりになっている。
 成る程。この森がこんな風になっているのはこの、人ではない死体の上にあるから
なのだ、と俺は勝手に推測した。おぞましいとは不思議と思わなかった。
 人ではないと言っても大した違いがあるわけではない。ただ、見た瞬間にこれは人
ではないと分かってしまうだけだ。勘と言ってもいい。
 何処へともなく歩いていく。凡そ一歩先は闇の森の中でどうして躓かずに歩いてい
けるのか、自分でも分からなかった。
 操られるようにして、言い方を変えると導かれるようにして、俺は喰人の森を歩い
ていった。
 ぺきっと音が鳴って、足下の細い枝が折れた。




 ふと。
 眼前に小さな社が現れた。
 どこからどう見ても、捨てられてしまった場所だった。
 壁は至る所ひび割れ、瓦が敷いてあったであろう屋根は長い年月の下に禿がされて
しまっている。あれでは風雨を凌ぐコトは出来ないだろう。
 見ると壁からは名も知らぬ草が生え、木々はそれを押し潰さんが如くその社に迫っ
ていた。
 人の気配はない。否、何の気配もない。風の気配も、死体の気配すらない。
 無。
 それだけが、その中にあるような……そんな、圧迫感。
 恐い。それは間違いない。膝のふるえが止まらない。
 だけど。
 何故か、懐かしい。
 何かに憑かれるようにして。
 もしくは、糸で繋がれた操り人形のように。
 中を、覗いた。

 先ず見えたのは薄く光る蒼い双月。それから白い雲のような肌。真っ黒の服でも着
ているのだろう、顔と手と足首から下の裸足しか見えなかったけれども。
 纏めてみれば、それは少年だった。
 先ず連想したのは、“鬼”だった。
 そう、目の前にいる少年ほど“鬼”という言葉が似合う子供も珍しい。
 恐いとは思わなかった。むしろ、居るのかどうかも疑わしく思う。今眼前に、少年
はいるのに。
 気が付くと喉がカラカラになっていた。目の奥も痛い。頭がひび割れて粉々になり
そうに、軋む。
「貴方も屍鬼か?」
 そう、少年は切り出した。
 違う。
 頭痛が酷くて返事ができない。
「……? ……遠野、四季? どうして此処に?」
 驚きの声。
 そんなこと、知るものか。
 頭が軋んでいる音が聞こえる。まるで機織り器が鳴る音のよう。
「いや、違うか。貴方は此処に迷い込んだんだな? 流石、と言うべきか。貴方は現
存する最強の鬼になれるからな。才能というヤツか?」
 無邪気とは程遠い少年のセリフ。まるで俺が其処にいるのが嬉しいとでも言うかの
よう。
「でも残念ですね。此処には屍鬼しかいない。そして、屍鬼からは何も得られないの
でしょう?」
 そう、少年は言う。そして、大地に転がっている何かを軽く蹴飛ばした。
 シキ?
 目で追うとそれは、ヒトの生首。
 それが、今踏みしめている死体の山のことだと言うことに気が付いた。
「そして、俺は鬼じゃない。残念ながら、ね。だから貴方の肥やしにすらならないよ」
 また、笑う。
 頭が痛い。
 壊してくれ。
 俺を、此処を壊してくれ。
 少年は笑う。笑う。笑う……




 そして、俺は夢から覚めた。









 どうも。intoです。
 最近スランプです。どうしてくれよう。
 内容に関しては……済みません。インターミッション的な場所。
 ちなみにこのお話では四季は滅茶苦茶強いです。多分。その予定。
 書いてて思うんですが、カケラと本編併せてどれくらいになるんだろう?
 自分にも解りません……


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