空腹を感じた俺は、一旦作業を中断した。
「・・・琥珀さんに何か軽めの物作って貰って出るか」
そう・・・いくら家系図や当主録を徹底的に調べても七夜鳳明の名は一言も出てこなかったのだ。
家系図と当主録を虱潰しに調べれば何か手掛かりが掴めると思っていたが、結果は藁一つ掴む事は出来なかった。
しかし・・・気になる点が一つだけあった。
それは家系図の内数十箇所、年代的には平均で五年から十年、その間の当主が空白となっていたのだ。
まるでその間の歴史を故意に抹殺したかのように・・・
同じ事は当主録にも言えた。
こちらもやはり空白の歴史には最後の一文『七夜には余人が触れてはならぬ闇が存在する』
これ以外は何も言及していなかった。
(もしかしたらこの空白の当主の中に七夜鳳明がいるかもしれない)
俺はそう希望を持つ事にした。
しかし・・・(しかし何故ここまで七夜鳳明にこだわるのだろうか・・・)
わからない・・・しかし、彼を調べろと七夜の本能がそう囁いている。
「まあともかく、あそこにある中に資料があるかもな」
そう俺は七夜の森に行くつもりだった。
どうせ、あそこには行くつもりでいた。それが早くなっただけの事だった。
「ともかく、何はともあれ飯だ」
俺が居間に入ると秋葉達が少しばつの悪そうな表情で俺を同時に見た。
皆、さっきの事を気にしているのだろう。
俺の方はそれほど気にはしていなかったので、「琥珀さんすみません。ちょっと軽めの物お願いします。少し腹が減っちゃって」
と、琥珀さんに普通に話し掛けた。
「あっはい、判りました。では雑炊でもお作りしますね」
声と表情はいつも通り、目だけは不安をたたえながら琥珀さんが台所に入っていった。
俺がソファーに座ると「・・・」不安の色の濃い翡翠が俺に紅茶を渡す。
「秋葉」「はっ、はいっ!!」俺はひとまずぼけっとしている秋葉にそう声を掛け、
秋葉は、びくっとして俺を見た。
「すまないけど食事が終わったら少し出るから」「志貴〜何処かに行くの〜?」
俺がそう言うとアルクェイドが早速、自分も連れて行けーとばかりに迫ってきた。
「あのなアルクェイド今日は遊びに行くんじゃないぞ。それにあの森には何も無いぞ」
「森?遠野君、一体何処に行くと言うのですか?確かここの近くには森と呼べる物は無いと記憶していたのですが」
しまった!!口を滑らせた。
「兄さんどちらに行かれるのですか?お忘れかもしれませんが、私達は一応体調を崩して学校を休んでいると言う事になっています。
まさか兄さんこれ幸いに遊びにいかれるのでは無いでしょうね?」
秋葉も視線を鋭くして俺を見る。
「だから秋葉、遊びじゃあないって言っているだろう」「どうでしょうか兄さんはよく嘘をつかれますから」
うっ、かなり痛い所を突いてくる。
確かに半年前は結構、秋葉達には迷惑をかけたからな・・・
今回の事は別に言っても言いと思うがその行動手段を聞いたら秋葉や先輩は本気で怒りそうだ。
「・・・本当に遊びじゃないから」俺はその一言だけいった。
それでも秋葉が言い寄ろうとしたが、その時、「志貴さ〜ん出来ましたよ〜」救世主の声が聞こえてきた。
俺はこれ幸いと席を立つと、「じゃあ少し遅い飯を取ってくる」「兄さん!話は終わっていませんよ!それにそのような言葉使いは止めて下さいと」
「ああわかったから」俺はひとまず秋葉の追及を逃れ食堂に退避した。
さて、何とかして、秋葉達の目を盗んで出ないとなと、そんな事考えながら雑炊を食べ始め、
「志貴さんどうですか?」
もう半分以上食べ終えた所で琥珀さんがニコニコ顔でそう聞いてきた。
「うん、美味しいよ。流石、琥珀さんだね」俺は自然にそんな賛辞が出た。
何しろ、朝は翡翠を除く四人の瞬殺の視線を受けて殆ど味もわからなかったのだから。
「ところで志貴さん、少し出かけられるとお聞きしたのですが」「あれ?琥珀さん、誰に聞いたの?」
「いえ、秋葉様達の声がよく聞こえましたから」「ああ、なるほど」「それで志貴さんどちらに出掛けられるのですか?」
「ああ、それは・・・」あれ・変だな・・・なんで喋りたくなるんだろうか?
「うふふ」そんな俺の表情を琥珀さんは楽しそうに見ている。
「こ、琥珀さん・・・」「はい、なんですか?」
琥白さんは相変わらず笑顔を絶やさないがこの笑顔以前の能面の笑みに近い・・・
「ぞ、雑炊に何か入れた?」「はい、志貴さんが気持ち良くお話出来る様に少し強力な自白剤を」
気持ち良くお話出来ないと思うぞ俺は!!しかしもう時遅し、琥珀さんはどうやら痺れ薬まで混ぜたようだ思うように体が動かない。
「秋葉様〜志貴さんがお話してくれるようですよー」
違うだろ!!と、叫びたかったが、叫んだが最後強制的に毒薬を飲まされかねない。
結局、俺は琥珀さんに引きずられる形で『遠野志貴包囲網・完全版』に座らされた。
「で・・・兄さんどちらに出かけられるのでしょうか?」
秋葉が余裕たっぷりにそう聞いてくる。
「・・・七夜の森に行って来る」結局自白剤には敵わず俺は目的まで洗いざらい吐いていた。
「じゃあ志貴の故郷なんだー私も行く〜」
「さっきも言ったが、あそこにはもう何にも無いぞ。朽ち果てた屋敷と野原だけだからな、それにその屋敷だって目的が済んだら焼くつもりだしな」
「えっ!!」「志貴様それは・・・」
何故と翡翠が目で訴えてくる。
「・・・俺なりの過去の決別の方法さ。どうしても心に引っ掛るのも事実だから・・・
それにこれは、俺の本当の親父や母さんそして一族皆の鎮魂の意味もある・・・」
「「「「「・・・・・・」」」」」
皆しゅんとなってしまったのを見て、すこしおどけて「こんな風になっちゃうから言いたくなかったんだけどな。
・・・さて、やっと痺れも取れた。じゃあ秋葉早速だけど出るよ」
そう俺が立ち上がろうとすると、「で、ですが兄さんもう今日も遅いです。ここは後日になさったらどうでしょうか?」
「えっ?あっ本当だ。もう四時に近いな。これじゃあ帰って来れるのは夜の12時過ぎちまうな」
「あれ?志貴さん七夜の森ってそんなに近くに在りましたっけ。確か、一日かけて行く所だと思ったのですが」
やばい!!またもや口を滑らせた。
見ると穏やかになりかけた秋葉と先輩の視線が鋭い物に変わっている。
「そう言えば・・・まだ聞いていませんでしたね。遠野君はどのような手段でそこまで行かれるのでしょうか?
差し支えなければ是非とも教えて下さい」
せ、先輩・・・目が『とっとと言わないと・・・』って脅迫しているよ・・・
「志貴もしかしてあの力で行くの」
アルクェイド・・・今お前を十七と言わず百ぐらいに分割してやりたい気分に襲われたぞ・・・
俺がそう説明していいか判らない事をあっさりと・・・
「兄さん・・・まさかあのような事を街中で行う気ですか?止めてくださいそのような所を見つかったらどう責任を取られるつもりですか?」
秋葉が冷たい視線と冷たい声でそう言う。
「心配は要らないって町なんか一気に突っ切るし前にやった時も全く気付かれなかったし」
「以前・・・前もやったのですか?」しまった!!秋葉が髪を赤くして俺を凝視する。
「い、いや・・・落ち着け秋葉、やったのは一回だけだしな・・・」「・・・なるほど、兄さんには少々御仕置きが必要ですね」
あわわ・・・秋葉の殺気が俺に・・・
「じゃあさ、志貴明日二人で行こうよ!!」
そんな時アルクェイドがそんな事を言ってきた。
「は?お前聞いていなかったのか?あそこは・・・」「別に良いよー私は志貴と一緒だったら何処でもいいしーそれのそこ誰も来ないんでしょう?」
「ああ、あんな所好き好んで行く奴なんていないからな」
「だったさなおさら行こうよ!!恋人同士はたまにはそんな静かな所でデートって何かの本に書いてあったよ!!」
その台詞は思わぬ方向に会話を向けた。
「遠野君!!」「兄さん!!」「志貴様!!」「志貴さん!!」「はっ、はい!」
「遠野君私も行きます。七夜の歴史ですと教会の新たな力の資料があるかも知れませんから」
「兄さん今回の事は私を七夜の森に連れて行くことで不問にいたします」
「志貴様、実は明日からの連休に皆様全員で旅行に行く予定でした。この際ですのでそこに行く事にしましょう。」
「そうですねー翡翠ちゃんの言う通りです。それに私も志貴さんの故郷を是非とも見てみたいですし」
「えっ??・・・連休・・・ああ、そうか・・・」
そう言えば明日から5日間の連休・・・俗に言うゴールデンウィークと言う奴だったな
それだったら明日から言っても差し支えないか。
そう思った所へ「えーっ!!私志貴と二人っきりで旅行したーい!!」
やはりと言うべきかアルクェイドが不満の声を上げた。
それを何とかなだめると、「では明日の八時屋敷の前に集合としましょう」
おいおい、いつの間にか秋葉が幹事役やってるよ。
「はーいっ!!妹しつもーん!!」「アルクェイドさん・・・いい加減にしないと本当に殺しますよ。
で、なんですか?」「うん!!あのさ、私が飼っているペット・・・と言うか使い魔がいるんだけどその子も連れて行っていいかな?」
「使い魔?」「うん、ほら、あの時志貴に送った夢魔」「あーっ!!お、お前あれを連れて行く気か!!」
「大丈夫よ。あの子なんか志貴の事気に入っちゃって、ロアを消滅させた時も御礼しようと思ったんだけど拒否しちゃって、初めてよ私の命令を拒否するの」
「そうですか、まあ迷惑を掛けないと言うのでしたら特に文句はありません」
「やったー!!ありがとう妹!!」「いいえ、それほどでも」そう言いながら秋葉もまんざらじゃあない顔をしている。
「あ、あの秋葉さん、おやつは一体いくらまでいいのでしょうか?」
「あのね先輩、修学旅行じゃあないんだからそんなの特に・・・」「一銭も許しません」「えっ?」「へっ?」
「食べ物でしたらこちらでご用意します。それに先輩はおやつと言ってもカレーパンぐらいなのでは?」「うっ!!」
あっ、図星だった様だ。
「しかしな秋葉、おやつゼロ円は余りにも哀れだぞ。せめて五百円ぐらいは認めてやってくれないか?」
その落ち込みようは余りにも可哀相だったので俺はそう助け舟を出した。
「しかし・・・」「秋葉別に研修旅行じゃないんだからそれぐらいはな」
「ふう・・・判りました五百円だけ認めましょう質問はそれだけですね」そう疲れた声で言うと、秋葉は席を立ち
「私も早速準備を始めます。翡翠・琥珀あなた達も食事の用意が終わったら今日の仕事は終わりでいいわよあなた達も準備しなさい」
そう言うと秋葉は部屋を後にした。
「では私はおやつ買ってきます」「私あの子に伝えてくるー」そう言いながら先輩達も出て行った。
「さて、俺も少し出るよ」「志貴様はどちらに?」「うん、リュックが必要な事思い出してね、それを買ってくるよ後灯油も」
「灯油なんて何に使うんですか?」「屋敷の火葬用にね、翡翠・琥珀さん何か必要な物ある?一緒に買ってくるけど」
「いけません!志貴様そのような事私が・・・」「翡翠ちゃん、どれが灯油かわかる?」「・・・」
「大丈夫だってそれに灯油なんて危ない物女の子に持たせる訳には行かないから」「あっ・・・」
「じゃあ志貴さんいっしょに行きませんか?私も翡翠ちゃんも私服が無い事をすっかり忘れてました」
と、あははと琥珀さんが笑った。
「ああ、それ良いね。そう言えば俺も二人の私服見た事無かったなじゃあさっそくいこうか?」
そして・・・夜、
夕食も終わり、俺は買ってきたリュックとナップザックに着替えを一通りと灯油、ペットボトルに4本とその他諸々。
そして先輩と以外にも秋葉が買ってきたおやつをつめていた。
「・・・確か五百円だよな」俺はそう呟かずにはいられなかった。
二人とも明らかに五百円を大きく超えている。何しろ登山用のリュックが灯油とおやつだけでパンパンになってしまっていた。
「しかし、楽しみだな二人の私服・・・」
準備をしながら俺は翡翠と琥珀さんが買ってきた私服がどんなものなのか想像してみた。
と言うのも、俺は二人がどんな服を買ってきたのか、まだ知らない。
その時、俺はリュックを買っており合流した時にはもう買った後だったのだ。
どんな服か聞いても、「志貴さんそれは明日のお楽しみですよー」と言って見せてくれなかった。
一通りの準備が終わったので少し早いが寝る事にした。
「・・・七夜鳳明か・・・」ベットに潜り込んだ時にふとそう呟いた。
皆旅行気分で浮かれているが今回の目的はあくまでも彼の事を調べる事。
「一体どんな奴なのだろうか・・・」
そう呟くが早いか、俺の瞼は自然に閉じ瞬く間に睡魔に落ちていった。
後書き
やっと1話の志貴視線、終わりました。
ですが、1話自体は後もう一人の視線になります。
今後も話しは志貴・もう一人の二人の視線と第三者的な視線で進めていきます。
あと、この話しはあくまでも志貴ともう一人の二人主役制でやっていきます。
ヒロインはどちらかと言えば脇になるかと思います。
抗議は一切受け付けませんので、あしからず。