空と月の死期〜序章〜
「黒桐、仕事だ」
昨日の夜、燈子さんにそう言われ、僕は調べ物をしていた。
頼まれたのは、遠野という家について、解る範囲で全て。
家族構成から過去、現在、とにかく解る事は全部、だそうだ。
「まったく、うちの所長は人使いが荒いんだから」
などとぼやきつつ、結局調べている僕も僕だろう。
すっかり燈子さん専用の探偵となっている。
しかも無償で・・・・
「はあ・・・」
こっちは二人分の生活費を稼がなきゃいけないっていうのに。
・・・・あれから一年の月日が流れていた。
この一年、それほど変化があったわけではないが、一つだけ、
式が一緒に住むようになった。
お互いのアパートを行き来しているうちにそうなったのだ。
もちろん鮮花には内緒で。
それでも、式と僕はそのままだった。
式は相変わらず男言葉だし、 深い関係にもなっていない。
まあ、しばらくはこれでいいかなんて思っている。
時間はたっぷりあるのだし・・・
調べ物を済ませ、燈子さんの事務所の前まで来た。
と、誰かが事務所から降りて来た。
僕の知らない人だ。
その人は燈子さんと同じ、青髪に眼鏡をかけていた。
すれ違う時、その女性はにっこりと微笑んで会釈をした。
それは挨拶を返すのを忘れるぐらい、優しい微笑だった。
「うーん、燈子さんにも見習わせたいな」
「誰に見習わせたいって?黒桐」
「うわぁっ!・・・・いたんですか燈子さん」
気づかなかったけど、燈子さんは事務所から降りて来て、外にいた。
「いたよ。さっき来た客の見送りに来たところだ」
「珍しいですね、所長が見送りなんて」
燈子さんの性格から考えると、こんなことは稀だろう。
たとえ大会社の社長でも見送りなんてしないだろうに。
「ああ、正確に言うと『見張り』だ。結界が壊されてはたまらんからな」
「壊すって、さっきの人がですか?」
とてもそんな人には見えなかったけど、
燈子さんの知り合いなら見た目を信じるのは止そう。
「黒桐、今なんか失礼なこと考えなかったか」
「いえ、なにも」
この人はエスパーか魔法使いだろうか?
時々こっちの考えを読んでくる。
・・・・よく考えればばうちの所長は魔術師だった。
「そうか、ならばいい。
それよりあいつには気をつけろ。
あいつの前で奇怪な行動はとるなよ。
異端憑きで始末されるぞ」
「あの人はエクソシストかなんかですか?」
「そんな生易しいもんじゃないが、まあいい。
それより頼んだ仕事はできたか?」
燈子さんはそれまでの話題を変え、仕事の話をした。
その続きに興味はあったが、
また長くなりそうなのでこちらも聞かないことにする。
「まあ、表の顔は何とか」
僕は表の顔という言葉を強調して言った。
「ほう、裏の顔があるとでも?」
燈子さんは真顔で聞き返してくる。
そうなのだ、この遠野という家は何か胡散臭い。
「はい、おそらく」
「ではそれを聞かせてもらおう。
そうだな、とりあえず上がるか」
「はい」
僕と燈子さんはこの廃ビルみたいな仕事場を上がって行く。
いつも通りの日常だ。
でも次の日からしばらく僕、黒桐幹也はこの日常を失うこととなった。
青い髪の女性は町の喧騒の中を歩いていた。
何か独り言を言っているようだった。
「まずいですね、まさかこんな近くに封印指定の魔術師がいるとは。
しかも、あのオレンジ色の人形師ですか・・・・
でも大丈夫でしょう。以外に友好的でしたし、
魔術師は基本的には、自分のテリトリーを荒らされなければ、
手を出してきませんし・・・・
聞いてますか、アルクェイド?
そういうことで彼女には手出し無用です」
彼女は虚空に向かって言う。
そこには誰もいないように思えたが、そのはるか頭上、
ビルの頂点には金髪の女性がたたずんでいた。
「わかってるわよ。私もそれほど馬鹿ではないわ。
ただ、もし志貴に危害を加えるようなことがあれば、
そのときは容赦しない」
その女性は周囲の空気を振るわせるほどの殺気を放っていた。
それはまさに純白の吸血姫、アルクェイドと、
埋葬機関の弓、シエルだった。
空と月。
交わる筈の無い、しかし似かよった二つの物語が今、交わろうといていた。
続く・・・・
ういっす、舞姫ますたーです。
どうでしたか?今回の物語。自分では結構良さげです。
何話になるかわかりませんが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
ではまた一章で。