階段まで差し掛かると俺はゆっくりと周囲を見渡し誰もいない事を確認した。
そして音も無く階段の手すりに飛び乗った。
そして天井目に向かって飛び跳ねると、体を反転させ足を思いっきり屈伸させて
天井を足場にすると今度は足をばねの様に天井を蹴りつけ一階の床目掛けて、
急降下を開始した。
そこで更に俺は体に捻りを加え更に反転宙返りをしてやはり音も無く床に着地した
実は、遠野によって封印された七夜としての俺の記憶は半年前、あの事件の直後
全て開放された。
それが関係してるのかは不明であるがそれから俺の体に少しづつだが変化が起こり出した。
貧血が起こりにくくなり体が丈夫になった事も一つだが何よりも七夜の能力なのか、
体が急激に身軽になり軽業師でさえ不可能だろうと、思える事を平気で行えるようになったのだ。
そして時折何かの衝動に駆られるように俺は庭で尋常では考えられない修行をも、
行うようになった。
たとえば五・六メートルはあろうかいう木に軽い助走だけで一気に上まで駆け登り、
今度はそこから木から木へとまるでムササビの様に飛び移る。
これを六・七時間ぶっ通しで行うのだ。
この様な事を行っている事は皆には絶対秘密にしてきた。
が、先日翡翠に偶然見られてしまい翡翠はその場で気絶。
その後の事は言うまでもない事が起こった・・・。
そして俺は庭の行為を禁止にされてしまった。
「うーん、もう庭は使えないからな、そうだ、いっそのこと深夜にビルの屋上でやるしかないか」
「あら兄さん、一体何をやろうとしてのでしょうか?」「!!!」
俺が不注意にそう呟いた途端、居間方向から冷たい声にびくりとして、それでも
ぎこちなくまるで錆びたドアのようなギギィィと音が、聞こえそうなくらいぎこちなく
その方向に顔を向けると、予想通り不機嫌な表情の上、髪を七割紅くした妹がいた。
「ああおはよう秋葉。今朝は随分と早いんだな、まだ紅茶を飲んでいるのに」
俺が努めて明るい口調でそう挨拶してその場を凌ごうとしたが、
「ええおはようございます兄さん。余りにも何処かのお寝坊さんが遅いものでしたから
私自ら起こそうかと思いまして」と、さらりと返された。
あ、あの・・・秋葉さん、笑顔とは裏腹にどんどん赤くなる髪が本当に怖いんですが・・・
「あ、秋葉・・・なんで髪をそんなに紅くしているのかな?」
「はい、先程の兄さんの独り言が気になりまして、兄さん一体ビルの屋上、それも
深夜に何をなさるおつもりでしょうか?まさかとは思いますが、後ろでこそこそ
している未確認あーぱー生物や殺戮修道女と同じ事をしようというのでは無いでしょうね?」
えっと、思わず俺が後ろを見るとそこには、いつもの如く空想具現化の能力を発動寸前
だったアルクェイドと第七聖典をまさに打ち出そうとしていたシエル先輩がいた。
「ぶーぶ、なによー妹ーその未確認あーぱー生物ってー」「わ、私はそんな危険な者ではありませんっ!
不浄の生物を断罪して廻るエクソシストですっ!!」「・・・」
そんな二人の言葉に秋葉が深く溜息を付いた。
「未確認は未確認です。最も、ここ半年の不本意極まりない同居で貴女が正真正銘のあーぱーであることも
はっきりと判りました。それとアルクエェイドさん何度も何度も言っておりますが、
その妹と言うのは辞めてください。例え兄さんがなんと言おうがあなたと兄さんを結婚させる気はありませんので
それとシエルさん、本当にエクソシストでしたら早急にこの未確認生物を退治して
屋敷から御引取り下さい」
そう、実はこの二人事件の後二人同時にこの屋敷に住み始めたのだ。
その理由を尋ねてもアルクェイドは『志貴と一緒に住みたいからっ!!』と、
簡潔に答えるし、先輩は先輩で『このあーぱー吸血鬼が人を襲わない様に監視します!』
言っている。
それにしても秋葉の奴・・・最近になって、二人への攻撃がかなり厳しくなってきたな・・・
まあ、これくらいでへこむような二人の訳は当然だが無かった。
「良いじゃないのー私は志貴と一緒なら別に文句は無いんだし、妹も私との同居に
なれないと駄目だよー」「なっ、何無法な事を言っているんですか!!」
「そうです、第一貴方が普通に生活できる訳無いでしょうが!!」
そんな笑顔で言い放ったアルクェイドに先輩と秋葉は同時に噛み付いた。
そして先輩はさらに秋葉に向かって、「退治出来ないのはしょうがありませんっ!!」
はっきり言ってこの生物を退治できるのは過去・現在・未来において遠野君しかいないのですから
私では残念ながら封印が精一杯です。遠野君さえ貸してくだされば直ぐにこれを退治して
おいとまいたしますっ!・・・まあ最もその時には遠野君も一緒に連れてゆきますが」
「なっ!!」「むっ!!」
そんな先輩の一言に秋葉の髪が赤くなってザワザワと蠢き、アルクェイドは本気で眼を
金色にしかけている。
「ふざけないでくださいっ!!どうして兄さんを連れて行かないといけないのですか!!」
「その点に関しては妹と同意見ね。あんな石頭ぞろいの所に志貴を連れて行ったら、志貴が
どんな扱いを受けるか貴方判って言っているの?」
そんな殺気むんむんの二人に対して先輩は、「あはは、何言っているんですか、
誰も遠野君をあんな所に連れていくなんて言っていませんよ。私はアルクェイドを処分した後遠野君と
一緒に暮らしましょうと言ってんですよ。化物の手の届かない所に」
ぷちと、そんな音が聞こえた気がした。
「シエルー!!化け物って何よー」「貴方達二人に決まっているでしょう!!」
「ふざけないで下さい!!どうして私がこんな野良猫の様な未確認あーぱー生物と同列なんですか!!」
「ぶーぶー、だから妹ーそれってにゃによー」
俺はもはや遠野家の朝の一部となりつつある口喧嘩を居間のドアの前で静かに聞いていた。
口喧嘩が不穏な空気になったと見るや俺は秘密裏に脱出に成功していたのだ。
ただ、これ以上ここにいるとあの三人の標的が俺になるのは間違いない。
俺は小声で「三人ともー屋敷壊すなよー」と言うと、静かに居間に体を滑り込ませた。
「あっ志貴さんーおはようございますー」「おはよう琥珀さん朝ごはん出来てる?」
居間に入ると、ちょうど秋葉の紅茶のカップの片付けをしている琥珀さんに挨拶をした後、
俺はそう尋ねた。
「はいーもう出来ていますよー。志貴さん今朝は少し早起きですねー」
と琥珀さんは笑顔でそんな事を言ってくる。
「ええ、今朝は何とか翡翠の呼びかけ一回で・・・って琥珀さんそう言えば翡翠は?」
居間には翡翠の姿はいなかった。
そう言えば朝起こしてもらって以降一回も翡翠も姿を見ていない。
「あっ、はいはい、実は志貴さんその事について秋葉様が志貴さんに直接お尋ねしたい事があると言う事ですが、
秋葉様とはもうお会いになられましたか?」「ああ、あきはならいつものどとくだよ。
・・・って、俺に尋ねたい事?」俺は思わず首を傾げた。
「はいーですけど志貴さんが余りにも起きるのが遅かったものですから、秋葉様の
堪忍袋の尾が切れちゃいまして、志貴さんを居間に強制連行する気だったんですよー」
こ、琥珀さん・・・あははーと笑ってますけど、そこ笑う場面じゃないですよ・・・
(目がまったく笑っていませんよ、琥珀さん!おまけにその眼に殺意を感じるのは俺の気のせいですか?)
「まあ、心臓に良くないお話は朝ご飯の後にしましょうねー、私もぜひ聞きたいですし」
「あっ、あの琥珀さん!お、俺ちょっと急用思い出したから朝食は・・・だ、駄目ですよねぇー」
「はいー、もう秋葉様が志貴さんと秋葉様は体調が悪い為今日は休みますと、伝えています。
それにそんな悲しい事を言ってしまいますと、昨夜の晩御飯が最後の御食事になってしまいますよー」
そんな事を言いながら琥珀さんはいつもの『琥珀さん怒っています』のポーズをしたが、
俺は確信していた(マジだ!!)と。
七夜の遺伝子も(アキラメロアキラメロ)の大合唱をしている。
「ハイ、ワカリマシタコハクサン。デハアサドハンヲオネガイシマス・・・」「はいーわかりました」
結局俺は見えない鎖で何時の間にか全身をぐるぐる巻きにされた事を確信しつつ
琥珀さんに連れられ連れられ食堂に入っていった・・・
お詫びの後書き
最初に申し訳ありません!!十二月は多忙につき書く事が出来ませんでした。
何とか月二回にペースだけは今後は守り通しますので今後もよろしくお願いします。