永久への誘い(とわへのいざない)


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1: 夜想 (2001/12/18 01:26:00)[bscoi220 at try-net.or.jp]







 死の線が見えるようになって数年。

 俺は今最も幸せな時間を過ごしている。

 死に身近すぎた人生の中で、最も幸せなこの一時。

 まるで燃えかけたロウソクの最後の輝きのように、俺の人生で最も輝ける一瞬。

 そんな時に起こった先生との再会・・・

 その懐かしい草原で遠野志貴は天に輝く月を見上げていた・・・







「どうしたの志貴〜、こんな所で♪」

 草原に寝転がっている志貴を覗き込むように白い影が視界を遮る。

「アルクェイド?」

 志貴は寝転がったまま驚いたようにアルクェイドを見つめる。

「月が綺麗だったから、志貴と会えるかなって思って」

 気持ち良さそうに月を見上げながらアルクェイドは志貴の隣に腰掛けた。

「そうか・・・綺麗な月だな・・・」

「うん、そうだね・・・」

 二人は静かに月を見上げていた。

 どの位の間、二人で月を見上げていただろうか?

 不意に、アルクェイドは向きを変えると、そっと、志貴の瞳を覗き込むようにしながら言葉を発した。

「ねぇ志貴、お願いがあるんだけど・・・」

「え?・・・ああ、別にかまわないけど・・・」

 月に見惚れていた志貴は声をかけられ一瞬驚くが、すぐに笑顔で答える。

「立って」

「え?」

「だから、わたしの前に立ってって言ったの」

 志貴は困ったように寝転んだままアルクェイドを見上げている。

 アルクェイドは志貴から目を離さず、じっと志貴が動くのを待っていた。

 そんな彼女の表情は泣き出しそうで、迷子の子供のような表情だ。

「ごめん、アルクェイド・・・体が思うように動かない・・・」

 志貴がアルクェイドから目を逸らしながら呟く。

「やっぱり、ブルーと話してた事、ほんとだったんだ。」

 アルクェイドは当って欲しくない予想が当ったと、辛そうな表情だった。

「聞いてたんだな・・・だんだんきちんと体が動く時間が短くなっているんだ。多分、脳かどっかの神経が切れかけてるんだろうな・・・」

 寂しそうな、そして、心配かけて済まなそうな表情をして志貴は静かに月を見つめていた。

「ねぇ、志貴・・・死ぬ事が怖くないの?人間ってもっと死にかけてる時は取り乱す物じゃない?」

 アルクェイドは不思議そうに志貴を見つめている。

「そうだな、多分、今まで死がとても身近だったからじゃないかな・・・俺はずっと死に触れていたんだ、つまり、自分の死についてずっと覚悟が出来てたんだろうな・・・あ、やっと動くようになった」

 志貴は手を開いたり握ったりしながら少しづつ動かして調子を確認すると、そのまま起き上がり、自分のほうをじっと見つめるアルクェイドに笑みを向ける。

「ただ、こんなポンコツな体で迷惑をかける翡翠や琥珀、それに秋葉に悪いとは思うけどね。」

 志貴が肩をすくめながら、そう言った瞬間、アルクェイドは自分を指差し、頬っぺたを膨らませて志貴の方に顔を近づけると言った。

「志貴〜わたしは〜・・・一応、恋人でしょ」

 そう言うアルクェイドに志貴は困ったなという表情でアルクェイドを抱き寄せる。

「それを言ったら、未練ばっかだよ・・・ごめんな、置いて逝っちゃってさ」

 身を斬るような志貴の笑顔・・・

 それを見ながら、アルクェイドは何か決心したかのように、志貴の目を静かに見つめる。

「ねえ、志貴・・・私があなたの血を吸ったら、あなたは怒る?」

 真剣な表情のアルクェイドに志貴は訝しげな視線を向ける。

「アルクェイド?」

「ねえ、志貴・・・怒る?」

 アルクェイドは志貴を抱き締める腕に少しづつ力を込めていく。

「ちょっと待て、アルクェイド・・・俺は・・・」

 沈痛な表情でアルクェイドを振りほどこうとする志貴。

 しかし、アルクェイドの腕は微動だにしない。

「やっぱ、嫌だよね・・・でも、志貴なら嫌がっても、怒らないって判ってる・・・ずるいね、わたしって」

 アルクェイドの瞳はまるで血のように紅く、満月のように金色に輝く。

 そして、アルクェイドの視線は志貴の瞳を捕らえた。

「アルクェイド・・・おまえ・・・魔眼を・・・」

 志貴は諦めたように力を抜くと、本当に困ったな・・・そう言いたげな表情で、アルクェイドを見つめる。

「ごめんね・・・わたし、志貴を失いたくない・・・誰にも、それが例え死だとしても・・・あなたを渡したくない・・・」

「アルクェイド・・・」

「ごめん、志貴・・・ずっと・・・ずっと一緒に・・・」

 志貴は泣きそうなアルクェイドの顔が近寄ってくるのをじっと待つ。

 もうその表情には迷いはない。

 ただ、静かな湖の底のような蒼い瞳で月光の中の美しいアルクェイドを見つめている。

「良いよ・・・お前となら、永遠だって歩いていけるさ」

 アルクェイドが志貴の首筋に口付けする。

 そして、ふと夜空を見上げるとアルクェイドをよりしっかりと抱き締める。

 涙を流しながら志貴の首筋に顔をうずめるアルクェイド。

 まるで一枚の絵画のように、二人の姿は荘厳さに満ち溢れていた。

 ただ月だけがその絵画のたった一人の観客だった。







 白き吸血姫と七つ夜の殺人貴・・・

 二人の永久の道標(とわのしるべ)はここから始まり・・・

 そして・・・

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後書き

こんばんは、夜想丹宮です。
この作品は「殺人貴」と言う以前投稿した作品の過去・・・
つまり、志貴君が吸血鬼になった理由(わけ)のSSです。
七夜の退魔の衝動が志貴を吸血鬼にする訳が無いとか・・・
そう言う突っ込みは無しよって事で・・・
では、またの機会に・・・


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