路空会合1話二


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1: 烈風601型 (2001/11/15 11:22:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

「・・・翡翠・・・泣いていたな・・・」
あの翡翠がそこまで言ったのだ。
今朝の俺はよほど酷いのであろう。
しかし・・・俺は一体どんな夢を見た?さっきは一体何を考えていた?
「俺が遠くに?どういう意味だ?」
俺は首を傾げずに入られない。
確かに今の俺の境遇は5人の美女に(全員人外の能力の持ち主だが)に
いろいろと迫られている生活を送っている。
その内二人は「ねえねえー志貴〜私の死徒になって二人で死徒退治しようよー」
「なっ、何言っているんですか!この不届きあーぱー吸血鬼!
その様な事私が絶対に許しませんよ!」
「ぶーシエルうるさいーあんたの許可なんか要らないわよー」
と言う風に、毎日飽きもせず言い争いを続けている。
まあ、そんな事はどうでも良い。
時間も何時の間にか7時になろうとしている、翡翠との会話やぼーっとしてた所為だ。
そろそろ着替えて朝飯を食わないとマジで遅刻になってしまう。
それに、そろそろ起きないとやかまし娘3人組がここにやってくる。
さて着替え終わったしそろそろ・・・おっといけない眼鏡を忘れた。
もうこいつの世話になる事も無いのだが、やはりこれが無いと少し困る。
というもの、半年前のあの事件で俺にとっての過去の清算が終わった後、8年前
に奪われたままであった俺の命の半分が元の持ち主に還って来た。
それに関係しての事なのかは全く不明なのだが、俺の体が丈夫になりだし、以前の
様に貧血でしょっちゅう、ぶっ倒れる事も無くなった。
それはそれで喜ばしい事なのだが、それ以上に驚いた事に、俺が直死の魔眼の
能力を完全に使いこなせられる様になった事だ。
以前は線を見るたびに感じた頭痛が今では皆無であるし、それどころか、アルクェイド
の奴に言われた『鉱物の死』すらも、多少の吐き気さえ我慢すれば楽に見ることが出来る。
更に言えば俺は、もうこの眼鏡を使わなくても、自分の意思で線や点を見えにくく
する事すら可能とした。
その事をアルクェイドが知るや否や”もうそんな物捨てちゃえー”と言っていた。
やはり先生(あいつはブルーと呼んでいる)の物を俺が大事に持っている事を
あいつはかなり気に入らないようだ。
でも・・・俺はこの眼鏡をする気は無い。
万が一俺がまたこの能力をコントロール出来なかった際こいつが必要となるのは
間違い無いからだ。
それに、これを失うという事は遠野志貴を形創っている、根源のような物を失いそうで怖かった。
・・・この眼が何である事すらも知らずただ怯える事しか出来なかった自分に
色々な事を教えてくれた人。
まだ幼かった俺に漠然としていても道を示してくれたあの日々・・・
あの時に俺は先生と会っていなければ、今の俺は存在していなかった。
眼鏡を捨てるという事はそんなかけがえの無い日々すらも失ってしまいそうで、
怖かった。
それに物の意味の恐怖もある。
もし、俺が殺人貴となった時それを食い止める術が俺にはこの眼鏡しか思い浮かばなかった。
こいつが最後の砦なのだから・・・
「まあ、色々理由はあるけど、こいつが無いとしっくりこないんだよな」
そう・・・きっとそれが一番の理由。
確かに最初は必要だったからこそこれをかけていた。
しかし、時が経つにつれこいつは何時の間にか俺の体の一部として
無くてはならない物になってしまっていた。
この感覚はなんと言えばいいのか。
そう言えば、俺が有間の家にいた頃近所に古本屋があって、よく啓子さんや
都古ちゃんと一緒にしょっちゅう中を覗いては漫画や小説を立ち読みしていた。
しかし、中学二年の頃都市計画の一環とやらであっさりと閉店し今ではそこは
住宅地の一角となっている。
店の取り壊しを間近で見た俺の心に寂寥感があった事は今でも、はっきりと覚えている。
眼鏡を失うという事はそれに似ているのかもしれない。
いつも顔を出し、自分にとって生活サイクルの一部であったあの店。
それが無くなった時、ポッカリと空いた時間の空白は一体何の為に使えばいいのであろうか?
ともかくこの眼鏡が俺にとって体の一部である事は間違いない。
「まあ・・・体の一部といえば」そこまで思いを巡らせた途端、連想的に俺はある物を
思い出し、鞄を手に取ると中を覗いた。
そこには勉強道具と一緒に『七ツ夜』と刻まれた10センチ程度の鉄の棒が
さも当然と言わんばかりにあった。
遠野志貴と七夜志貴を結ぶ唯一の品
俺は思わず苦笑した。
半年前のあの事件の時は嫌と言うくらいこいつの世話になったが、
無事平穏となった今ではこいつを捨てる事も部屋の机の引き出しの奥に封印
する事も構わない。
しかし、学校に行くときも、何処かに出掛ける時も、気が付くとこいつを必ず
身近に忍ばせている。仮に眼鏡が遠野志貴にとって平穏の象徴であると言うのなら、
この短刀は七夜志貴にとって殺戮の象徴なのかもしれない。
だから、象徴を失ってしまえばどちらかの人格は間違いなく消滅してしまうだろう。
これは予感ではなく確信だ。
生まれた時から7歳まで生きていた七夜志貴も、今の遠野志貴も、俺にとっては大切な一部だ。
まあ、その途中には七夜の一族皆を遠野の一族に滅ぼされ俺自身も殺されかけ、
その反動でこの世に存在する全ての物の死を見れるようになってしまった。
しかし、それが無ければ、俺は今知っている人との大半の絆は存在しなかったに違いない。
七夜一族が遠野一族に滅ばされたからこそ俺は秋葉や翡翠琥珀さんそして・・・四季
皆に出会う事が出来た。
そして、8年前四季の奴が反転(実際にはロアの発現であるが)によって俺が殺されかけなければ
俺と四季はよき親友でいられたのだろうか?今となってはそれは永遠の謎だ。
しかし、殺されかけたからこそ俺は先生に出会う事が出来たし、今の自分でいられた。
そしてこの眼が無ければ半年前のあの事件に巻き込まれなかったであろう。
しかし、あの事件に巻き込まれなかったら、俺は遥か昔に犯した原罪の償いの為
たった一人で居続けた純白の吸血姫にも、たった一つの願い、「普通に死にたい」
の為に体がぼろぼろとなっても戦い続けた埋葬者とも出会わなかった。
そしてこんな甲斐性なしの兄貴の為に自分の命を半分投げ出して俺を助けてくれた妹。
そして、たった一人の肉親の為に自らの身を差し出してきた姉と
その姉の為に心を閉ざし続けた妹。
そんな心の悲しみを俺は触れる事は出来なかったに違いない。
そして彼女達の十字架を俺はこの眼があったからこそ開放させる事が出来た。
「・・・人生万事、禍福は縄の如し・・・塞翁が馬か・・・結局神様が存在するとしたら
粋な計らいをしてくれたと言う事か・・・」
つまらない結論を出すと俺は鞄を床に置くと部屋を後にした。


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