「・・・ま。・・・き様。・・・志貴様。起きてください。」
自分を呼ぶ声に俺はゆっくりと目を開けた。
まだ意識は完全には覚醒せず、ベッドの上で、半身を起こしてもまだぼけっとして、
窓の景色を見た
もうすっかり日も昇り、今日もいい日和になりそうだった。
「志貴様」と傍らから俺を呼ぶ声がする。
その声の方向に目を向けると、半年前から自分こと遠野志貴をずっと
起こし続けてくれているメイドの翡翠が静かに無表情でこちらを見て立っていた。
「おはようございます志貴様」と彼女はいつものように深深と一礼した。
「ああおはよう翡翠。毎朝本当にありがとう」
おれがそう挨拶と共に感謝を込めてそう言葉を返すと翡翠はうっすらと頬を染め、
「いえ、私の仕事はこれです。その様なお言葉などとんでもございません」
とかすかな笑顔を見せていつもと変わらない台詞を返してくれる。
実はこういった朝のやり取りが俺の密かな楽しみでもあるのだが。
・・・？ん、翡翠が笑顔を引っ込めると、何か心配そうな表情で俺を見ている。
「どうしたの？翡翠？・・・あっ！もしかして時間もうヤバイ？」
そう言いながら慌てて時計を見ると、6時前・・・。
時間はまだまだ充分にある。と言うかこんな早い時間に目を覚ますなんて珍しい。
「い、いえ・・・・時間ではなく・・・その・・・」
「あっひょっとして俺、何か寝言で誰かのこと言っていた？」「・・・」
翡翠が頷いた。
「えーと、そう言えば、・・・」そうだ。
そう言えば、俺は確か、夢を見た。
それも大切な夢を・・・。
しかし、それはどんな夢だ？誰が出た？何よりも内容は？
夢を見たのは間違いない。
でも、肝心の事に関しては何一つとして思い出す事が出来ない。
「志貴様・・・・」あ、まずいあまりにも、気難しい表情をしすぎたのであろう。
翡翠がこちらを本気で心配そうに見ている。
「あ、ごめん翡翠。少し考え事しちゃって」「・・・いえ、志貴様、・・・その・・・
大丈夫でしょうか？今朝の志貴様はあまりにも違いすぎましたもので・・・」
「違いすぎた？俺は思わず首をかしげた。
「その・・・上手くは言えないのですが・・・最初お部屋に入った時にはいつも通りでした。
・・・ですが、そのうち段々と不安になってきたのです」「不安？でも翡翠、俺の
様子はいつも通りだったんだろ？だったら何で・・・」「はい・・・今となっては
なぜあんな心配が沸き起こってきたのか今でも判りません。・・・でも・・・
あのままほおって置いたら・・・志貴様が・・・私達の手の届かない行ってしまいそうな
そんな不安が湧きあがって、それで慌てて志貴様をお起こしして・・・そうしたら・・・」
「・・・俺が直ぐに起きた・・・」「はい・・・」と言って翡翠は俺の顔をじっと見つめている。
微かに瞳が潤んでいるように見えなくも無い。
「・・・」まあなんだ、翡翠が俺の事を心配してくれたのは本当にありがたい。
でも・・・おれが何処かに行ってしまう？それはどういう意味なんだろうか？
確かにあの夢はほとんど記憶は無いが、俺にとって重要なものであった事は
間違いない。
しかしあの夢にはそんな危険なものは無かった筈だ。
―ダッテ、アノユメハ―
―トウノシキニトッテ―
―イイヤ―
―ナナヤシキニトッテ―
「・・・サマ！志貴様！！」翡翠の珍しい位の大声で俺ははっとした。
どうやらぼけっとしていたようだ。
「ああごめん翡翠どうも体が『おいおい、もう少し寝ていろ』って反抗しているみたいだ」
「・・・」冗談で誤魔化そうとしたが失敗したようだ。
翡翠がますます俺を心配そうに見つめてくる。
「志貴様・・・お願いですからこれ以上無理をなさらないで下さい」
と一言だけ言うと、俺と目を合わせようとせず、着替えの制服だけ置くと、
一言も発さず、一礼して部屋を出て行ってしまった。
後書き
いきなりですが注意です。
これはあくまでも、一話を更に細かく区切ったものです。
（判っている方は判っていると思いますが一応念の為）
何しろ、一話で2万超えてしまうのと、通話料の節約の為・・・
かなり現実的な話をしてしまいました。
予想では一話を7つから8つに区切っていきます。
全話の簡潔にはかなりの時間が掛かると思いますが長い目で見守ってくだされば幸いです。