意味


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1: N2 (2001/11/02 20:49:00)[ccd79310 at nyc.odn.ne.jp]

 夜には闇が訪れる。
 闇が全てを覆いつくし、人は夜空を除いて色彩を失う。
 古の昔はそれが当然であった。
 しかし、今の世界は夜でも色彩に溢れている。
 人間の作りし、かりそめの光によって。
 それはこの夜という世界に様々な色彩を与えた。
 秋の訪れを誇示するかの様な紅葉の赤であり、秋風を受けゆらめく波のような芝の緑。
 我々を常に支え続けている大地の茶等………。
 そして、俺の横には美しいまでの金髪と白い肌の姫君。
 彼女がいるだけで、このなんでもない光景がかけがえのないものに見えてくる。
 ただアルクェイドと話しているだけのこの時間が。


「ねえ、志貴。今日は楽しかったね」
 横で本当に嬉しそうに笑う彼女。だが、俺は、
「まあね。おまえが途中でシエル先輩と暴れなければな」
 今日のデートの途中で偶然にシエル先輩に会ってしまった。あとはいつものごとく
 アルクェイドが挑発して先輩がそれに応えるいつもの展開。
 あれには疲れた………。
「うっ………、そんなこともあったねー」
 笑顔が困ったような笑いへと変化する。
 こいつの表情の豊かさは相変わらずだなと思ってしまう。
「まあ、いいけどさ。今日が楽しかったのは俺も同じだから」
 その言葉に再び笑顔。へへーとかニコニコしている。
「なんだよ?」
「ううん、志貴も同じで楽しかったんだなって分かったら嬉しくて」
「うん、まあね………。でも、もう先輩とは喧嘩するなよ。先輩も迷惑そうだし、大変なんだからな」
 形の良い眉がぴくっと動く。何か気に食わない時の表情だ。
「へえー、志貴ってシエルの味方をするんだ?」
「別にそういう訳ではないよ。ただ、二人ともいつもやっているだろう?そろそろ
無駄な事だと分かってくれないかな?って、思うんだ」
 またその表情が変化する。今度は、しおらしい表情へと。
「別に無駄だっていいじゃない? 無駄だけど楽しい事がいっぱいあるって言ったの
は志貴だよ」
「まあ、それはそうだけど………」
 昔、俺は意味のない事だが楽しい事がたくさんあるって事を教えてやりたいと心から思った。
 そして、その通りにいろいろと連れまわしてそれを教えてやれたと思う。
「でもね…………」
 アルクェイドは言葉を続ける。
「わたしね、無駄な事で楽しい事って今でも分からないんだ。結局、それってどういう事なの?」
「え!?」
 その言葉に驚かされる。
 俺は、アルクェイドに教えてやれていなかったのかと………。
「あっ、ううん。別に楽しくなかった訳じゃないよ。志貴とどこかに行くのは楽しいに
決まってるじゃない」
「じゃあどういうことなんだ?」
 俺にはアルクェイドが何を言おうとしているのが分からない。でも、その顔から冗談を言っている
 ようには思えない。
「あのね、志貴は無駄な事や意味のない事だけれどって言ったよね? でも、わたしには今までの
全てが意味があるように感じられたの」
 アルクェイドの表情が優しい微笑みになる。まるで、今までの思い出を一つ一つかみしめるように。
 俺は、ただ黙って聞いていた。
「わたしはね、志貴と一緒にいるだけで幸せな気持ちになれる。志貴の事を考えているだけでも
幸せになれるよ。だから、ただ志貴と並んで立っているだけでも、わたしにとっては幸せという
意味があるの。例え、一人で歩いていても志貴は何しているかな〜とか考えているの。それも幸せ
って意味があるんだ。だから、やっぱり意味のない事って分かんないよ」
「……………」
 絶句した。いや、させられた。
 いつもの事だが、こいつの無邪気なまでの正直さにはやられてしまう。
 でも、こいつの言う事はもっともかもしれない。
 だって、俺だって同じだから。
 こいつといると幸せだから。
 こいつのことを考えると幸せだから。
 意外と似たもの同士なのかもしれない、俺たちって。
 とか、そんな事をつらつらと考えていると、
「志貴? ねえ、志貴〜」
「えっ!」
 アルクェイドの問いかけに考えが遮断される。
 そのアルクェイドはなにやら不満そうな顔をしているが………。
「む〜、突然黙り込んで、どうしたのよ〜」
「ああ、ごめん。その、俺も思ってたんだ。同じだなって」
「志貴、それって……」
 驚き後満面の笑顔。
 そんな表情がぴったりくるような表情の変わり方を見せてくれる。
「ん、まあ、そうだよ。おまえの思ってるとおりの事だよ」
「へへー、ありがとう。志貴」
 嬉しそうに話し、それとね、とアルクェイドはさらに続ける。
「それだったらこれからも私が志貴の意味であるようにがんばるよ。だから、志貴もこれからも
 私を意味であるように感じて欲しいな」
 モジモジしながら上目遣いの表情のアルクェイド。
 だが、それとは関係なく俺の考えは決まっている。だって、そんなのはもちろんな話だから。
 俺達がこれからもお互いの意味であり続けるように心から願う。
 その為に精一杯、今を生きていこうと思う。
 自分自身の為に。
 アルクェイドの為に。
 だから、俺はアルクェイドに答えた。
「もちろんだよ」
 と。


あとがき
今回のSSは自分の考えもちょっといれてみました。
この世の中に意味のない物(事)は存在しないということです。
ただ、うまく表現出来なかったのが我ながら情けないですが(汗
次は秋葉のSSを書きたいなぁ……。


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