「―――――――――」
目が、覚めた、
そこは見慣れた、シキの部屋、だった
無意識に上半身を起こし、眼鏡をかけ、そのまま、
ぼうっと、壁の一点を見つめた
「ゆ、め?」
意識を取り戻してから部屋を見回し、自分が『遠野 志貴』であることを確認すると、そんな言葉が口の中から搾り出された
「ええ、と」
夢、だ
今まで自分は、夢なんて見たこと、なかった
もし見るとしても、大抵が他者の記憶の産物だったりするからだ
あの、とんでもなくごちゃごちゃした夢でさえ、自分は、あのごちゃごちゃした夢を見ていた少女の登場人物の一人でしかなかった
つまり、俺は自分の夢なんてみたことがない
そんな自分が、夢、だ
しかもその夢は
「あれは、俺の――――――――」
そしてふと時計を見ると
「は?」
この眼鏡のレンズの度がおかしいのか、さもなくば時計が狂っているのか、その時計は今まで俺が(日常の中で)夕刻過ぎにしか見たことのない針の位置を示していた
だが、この眼鏡は視力補正のものではないし、時計は昨日新しいものに変えてもらったはずだ
と、いうことは
「秋葉より、早く起きた」
そういうことになる、いや、今はそんなことどうでもいい
「なんだろ、なんか」
体が、重い
寝不足から来る疲れみたいなものじゃない、その証拠に、寝起きとは思えないほどに目が完全に覚めてしまっている
まるで、そう、
大切なものが重りとなって、自分の体に、
まとわりついて、いる、ような―――――――――
「あの、夢」
そこで、恐らくはその事象の原因である、夢――――――――過去への追憶、失った記憶――――――――を思い返そうとした
「曖昧で、でもはっきり覚えている」
口に出して苦笑した
なんだ、それは
矛盾してる、でも、事実、こうして、忘れてはいけないことなのに何処かそれを拒否し、忘れ去ろうとしている
それは果たして、
過去への恐れか、
今への怖れか、
未来に対する、おそれ、なのか
とりあえず、夢のことは置いておいて、何処か不思議だった昨日のことを、窓越しに明るくなっていく空に視線を向け、彼女の遠慮がちなノックの音が聞こえてくるまで、体の上で丸くなっている自分の使い魔の体に両手をそっと添え、頭の中で再現してみた
貴は、魔と出会い
刄は、鬼と邂逅す 再会、ふたり
(どうしよう)
昼休みが近づくにつれ、志貴の思考はその言葉で埋め尽くされていた
(有彦は自分も俺と同じ現状だ、みたいなことを言っていた、
高田君は、さすがにこれ以上金を借りると、高田君はいいとしても、自分の人間的な部分が許さない、
というかそれ以前に、これ以上借金を増やすのはほんとに洒落にならない)
ああ、と授業中にもかかわらず、志貴は頭を抱え、そう嘆いた
(秋葉め、八年間の恨みを今になって返そうというのか、なんて大人気ない、お兄ちゃんは悲しいよ)
うう、と教師が「遠野、うるさい」と言っているにもかかわらず、志貴は机に突っ伏し、そううめいた
(あれは不可抗力だって何度も言っているのに、秋葉の鬼め、悪魔め、すかぽんたんめ、・・・・・・・・・ナイムネめ)
くそう、と終了のベルが鳴り響き、委員長が号令をかけているにもかかわらず、志貴は天を仰ぎ、小さく訴えるように呟いた
「きり、つっしゅん!!」
そのときちょうど号令をかけようとした誰かさんは、可愛らしいくしゃみをした後、なぜか自分の兄に対して怒りが湧いてきたが、そのことはまあ、置いておこう
「はああ」
昼休み、生徒達が各々弁当を取り出したり、食堂に向かうのも気にせず(むしろ視界に入れないようにして)志貴は盛大なため息をついた
「遠野、お前ね」
「なにもいうな」
「じゃあいわん」
呆れた顔をしながら、ぐったりとして動かない志貴のそばにやってきた『乾 有彦』はそんな志貴の様子を見て、こちらもため息をついた
「ありひこぉー」
「いやだ」
「金貸して、っておい、何で俺の考えてること判った?」
有彦は空いていた志貴の前の席に座ると
「遠野、お前の最近の思考は読み安すぎる、つーかな、いつもそれしか考えてないじゃねえか」
「―――――――有彦、ということはお前は俺の思考が読めるのか?」
「あ?」
志貴はぐったりした体を有彦の方向にゆっくりと向けて
「読めるのか?」
と問い詰めた
「だから読むまでもなく読みやすいんだよ、つーかそれがどうした?」
志貴は片手を有彦の肩に置き
「プライバシーの侵害だ」
「あ?」
「金払え、慰謝料出せ」
もう片方の手を有彦の顔の前に差し出した
そこで有彦は一瞬呆気にとられたが、差し出された掌に手を添え、そっと下ろさせると
「遠野」
ごん、という音が聞こえそうなほどの威力で志貴の頭をグーで殴りつけて
「金返せ」
という一言とともに席から立ち上がった
「はあ、やっぱだめか」
「ったく、そんな台詞は金返してから言いやがれ、昼飯代だけでいくら貸したと思ってる」
「いや、悪いのは秋葉だ、今までおこずかい(五百円だけど)を貰ってたのにあのことがあって以来、おこずかいを貰えなくなってしまった、あんなことぐらいでだ」
「それだよ、お前一体秋葉ちゃんに何したんだ?」
「――――――――――ん、ああ、まあ、それは」
そこで志貴は視線をそらし、曖昧に言葉を濁した
「何したかは知らんが早めに謝っておけよ、そして早く金を返せ、ただでさえ今月は苦しいんだ」
「ああ、秋葉を敵にまわす怖さをこの一週間思い知ったよ、帰ったらまず土下座かな」
「そうしろそうしろ」
乾、と呼ぶ声が聞こえた
「ん?」
有彦が声の上がった方向に目を向けると、担任の国藤が廊下から有彦を呼んでいた
「なんスか?」
と有彦が国藤のところに行き、廊下で一言二言話すと、そのまま二人で何処か行ってしまった
「あいつ、またなんかしたのかな」
と席を立ちながら呟き、
「はあ、ここにいても仕方ないな」
とふらふらとおぼつかない足取りで教室を出て行った
「うう、いいにおいだなあ」
食堂が近づくにつれ、志貴はだんだんと惨めな気持ちになっていった
匂いだけで腹を満たそうという甘い考えは、食堂から少し離れた自動販売機のところで見事に打ち砕かれた
「はあ」
と自販機に背をもたれかけ、志貴はずるずると腰を下ろした
「こうなったら、琥珀さんに・・・・・・・・」
いやいや、と志貴は首を左右に振った
「あの弁当は持ってきたその日にクラス中から学派呼ばわりされたんだ、また持っていったら今度はあの程度じゃすまないかも」
ちなみに『学派』というのは志貴のクラスにのみ使われる言葉で、こう呼ばれたものは翌日殴る蹴るの暴行を受けるというよくわからないものである
志貴は琥珀に作ってもらった弁当を持参し、その昼休み、弁当を開けて固まっている隙にクラスの人間に見つかってしまい見事に学派の称号を与えられた
その翌日のことも、弁当の中身も、まあいわずもがな
かさり、と音がして、志貴は地面につけている右手に変な感触が伝わったのを感じた
なんだこりゃ、という顔をして右手でそれを掴み顔の前まで持ってくる、この所要時間、0.7秒
その長方形の紙に書かれた一目でワープロ字体とわかる『定食』と書かれた文字が目に飛び込んできて志貴が石像と化した、この時、生身に戻るまでの経過時間、約12.6秒
先ほどまでの覇気の無さはどこへやら、陸上部が感嘆の息を漏らすほどのいいスタート、格闘関係のクラブが恐怖を感じるほどのギラついた眼光、爆煙を上げながら食堂に駆け込むその姿はまさに肉食獣のそれだった、この速度、約時速70キロ
ちなみにそれを至近距離で見てしまった柔道部所属の吉良義信(志貴のクラスメート)は後に
「あれは・・・・・・なんていうか見てはいけないものを見てしまったという気持ちでしたよ、いろんな意味で」
とちょっぴり怖がっていましたとさ
六時間目終了のベルが鳴り響くと、志貴は眠らせていた意識と体を背伸びをしてほぐしながら覚醒させると
「人間ってやっぱり、一日に三食は必要なんだなあ」
と、しみじみと一人、呟いた
昼休み終了から今まで寝たことと満腹なことが相成って、見たほうが幸せになれそうなほど志貴は満ち足りた顔をしてHRを過ごした
靴箱のあたりまで来たところで、志貴はふと、
(そういえば有彦と先輩どうしたんだろ、有彦は結局途中で帰ったみたいだし、先輩にいたっては今日姿を見せなかったな、珍しいこともあるもんだ)
この時、志貴の思考に上がっていた二人は自分が大変な事件の中にいることを自覚していたが、その二人のことを考えていた志貴も、これから自宅に戻るそれまでの間に、それを、漠然とではあったが自覚し始めていた
その男に会ったがために―――――――
いや、或いは―――――――
志貴が、今の志貴になる直前から
それは、始まっていたのかもしれなかった
志貴が自宅に帰るときに寄り道をしないかぎり通る事のない大通りから坂道のある方向へ曲がれば、自宅へと至る道だが、そのまま真っ直ぐ駅の方へ行くと公園がある
いつもならそのまま、志貴の帰りを待っている遠野の屋敷に帰るところだが、なぜか、そうすることが当たり前のように、志貴は公園へ至る道をただロボットのように進んでいった
公園には、夕刻過ぎのためか家族連れやアベックらしき人たちが皆笑いあい、平和そのものの風景がそこにあった。
「――――――あ」
その男は別になんてこと無かったんだと思う。
ただベンチに座り、自らの足元に群がってくる鳩たちをじっと見ていた、見ていただけのはずだ
「あ――――――」
でもいつだったか、夢の中で殺し合った殺人者としての自分が、感じている
まるであの怖いくらい綺麗で、わがままで、今の日常には欠かせない存在となっている最強(凶)の姫君に出会ったときのようにどうしようもなく、たぎっている
「う―――――――――あ・・・・あ、う、あ」
周りの人間を煩わしいと思いながらもその男に接近していくと、強い風が吹いたあと、公園は自分とあの男、二人の殺人貴(鬼)だけになっていた
そしてそのとき、そこに渦巻いていた感情は
憎悪(悔恨)と
『死』という名の殺意
そしてそれは果たして、自分のみが巻き起こした感情だった
それすら確認できてしまうほど、そこは二人だけの空間になってしまっている――――――
足元に視線を落としていたはずの男は何時の間にかこちらに『左右色違い』の瞳を向けていた
――――――――――ああ、その瞳、よく、覚えている、覚えているんだ
あの時、自分は子供で、肉親が死んだこともよく判らなかった
だから、あの時、あの人たちが死んでしまったあの時、
そこから今まで『オレ』は
守れなかった(悔恨)と
あの時沸くことができなかった憎悪
そして、殺意
その瞳を見るたび、自分は幾度となくそれを思い出して、たぎってしまうだろう
「座ら、ないのかい?」
一度立ち止まり、呼吸を整えた
何せさっきから、自分の呼吸音と動悸がうるさすぎる
そのほかにも何か変な音が聞こえた気がするが、ただの雑音だろう
ポケットには七ツ夜、大事な形見、眼鏡をはずす
間合いに入った、ツギハギだらけの世界、ナイフ、握る、刃を出すと同時に出しうる最小の動作、最速のスピードで相手の――――――――
「やめたまえ」
止められた、手を掴まれてる、いつのまに、その掴まれた個所から腕全体に向かって、石化のような現象が触覚だけで伝わってくる、
ヤ、バ、イ―――――――
ニゲロ、コロセ、ニゲロ――――――――
「無駄だよ、恐らく君を突き動かしているのは自分に対する悔恨と私に対する憎悪だけだ
―――――――――殺人衝動では、ないのだろう?
だとしたら、君のしていることは無意味以外の何物でもない」
石化が消えて男が手を離した、軽く腕を振って確認する、動く、もう一度――――――
「『七夜』志貴君、君との語らいはまた今度だ、すまないが今は少しばかり眠れる者と化してくれ」
なんだ、なにをした、沈む、オレが、
意識の、彼方に、
意識の、奥底に、
イシキ、の―――――――
「っは、はあ、は、はあ・・・・・・・・・!」
なにが、どうなってる、わからない
熱い、硝るように、体と心の臓がまるでキャンプファイヤーでも始めたかのように、どうしようもなく、アツい
そして、ああ、そして――――――――
目の前に立つ、この、男
『これ』はかつて
「飲むかい?」
缶、コーヒー
いつか、殺人鬼と飲んだものと同じ銘柄
あのあといくら探しても見つからなかった銘柄なのに
どうしてこいつが
それを手渡された刹那
「――――――――――」
まるで、波の引き際のように、あっさりと煩いほど高鳴っていた動悸は静かにリズムを刻むだけになった
その缶コーヒーを見てみる、やはりそれは、いつかの語らいの時飲んでいた缶コーヒーだった
「かけたまえ」
男は自らの座席の隣を手で、ぽんぽん、と叩くと自分に座るよう促した
目の前の男に警戒しつつ、ベンチに腰を下ろす
そのとき止まっていたと思われた時間が再び時を刻み始め、公園は元の賑わいを取り戻した
パキッ、と音がした方を向くと男はコーヒーのプルタブを起こし、缶を少し傾け、コーヒーを煽っているところだった
自分はというと、正直な話、あまりこのコーヒーは飲む気になれなかった
馬鹿げているかもしれないが自分はあのコーヒーの味を覚えている、そしてそれをこんな具合に味を汚すことはあまりしたくない行為だった
「ん、どうした、飲まないのかい?」
「ええ、すいませんが、ちょっと・・・・・・」
コーヒーを男に返す、残念そうな顔をすると思っていたが、予想に反して、男は何処か嬉しそうだった
「ふむ、どうやらこのコーヒーに思い出でもあるようだ、かまわないよ、思い出を汚されるのは人間にとって苦痛だからね、
むしろこちらが謝るべきかな、知らなかったとはいえ、君の思い出を汚すところだった」
しかし、と男は口元だけの笑いを浮かべ
「君は結構頑固そうだな、そういうところは父親にそっくりだ
――――――――――と、これはもう一人の君に言うべきかな、本質的には君と彼―――もう一人の君―――は同じとはいえ、やはり何処か違うのだからね」
「――――――――あの」
ん? と男は空と町並みの境界に向けていた視線をこちらに向けた
そして失礼と判っていながらまじまじと男の全身を眺めてみた
――――――――なんていうか、その男の格好は一言で言えば
青と赤、だ
靴からズボン、ベルト、前をあけた青の長袖のシャツから覗く赤のTシャツ、腕や耳につけたアクセサリーにいたるまで、青と赤でまとめられていた
唯一、髪と肌だけが、黒と肌色であった
そして注意して見てみると、長袖のシャツには
右の袖のところに青で『海』
左の袖には赤で『刄』と記されている
(地名? 何処かのお土産か? にしては、なんか・・・・・・)
「そんなに珍しがるほどのものかな」
と、しまった、さすがに失礼すぎた
「すいません、あの、あなたは―――――」
「おっと、そうか、すまない、こちらの自己紹介がまだだったな、
――――――では二度目の自己紹介といこうか」
男はベンチから立ち上がり、俺から少し離れ、こちらに向き直ると空を仰いだ後、俺を見据え、両手を広げた
「はじめまして、性は浅神、名は海刄」
笑っている、『浅神 海刄』は
「或る奇跡により生まれ、或る出会いによって育まれ、或る者のために、生きていて、生きていく」
見つめている、『アオ と アカ』は
「其処には、悲しみがあるだろう、怒りがあるだろう、苦しみが、あるだろう、
――――――――それでも歩んで目茶苦茶に『ハカイ』する自分を、
どうか滑稽に笑っておくれ、
どうか蔑み罵っておくれ、
どうか、ああ、どうか、
憎悪し殺意を持っておくれ」
言葉を紡いでいる、『赤と青』は
「そうして最後に土くれに還り、礎となり、糧となり、それでも僕は破壊を止めず、いつしか僕には二つ名が、
―――――――彼ら彼女らは、こともあろうに、『魔』と、僕の名前と、『ハカイ』をかけてこう呼ぶのだ」
「「――――――――『破壊刄』、或いは『破戒魔』、と」」
その男、『破壊刄』『破戒魔』と『殺人鬼』は声をそろえてそう語り、
二人して、ははは、とわらった
「おやおや、もうこんな時間だ」
暮れゆく町を眺めながら、シンプルな腕時計(青)を見た海刄は今気付いたかのように声を上げた
「もう、行くんですか」
そう言った志貴の顔は何処か寂しげだった
「ああ、怖いやつがもうすぐここに来る
多分だけどそいつは僕が嫌いだろう」
「はあ」
さて、と戒刄は立ち上がり、繁華街の方に向かおうとしたが歩き出した足を止め、こちらを振り返らず、
「志貴君、そう遠くない未来、君は失われた記憶を取り戻し、その結果、『どちらか』に至る
――――――そのとき、君は―――――――」
――――――だろう
強い風の音にかき消されたため、最後の言葉だけは志貴の耳に届くことは、なかった
その風がやんだ時、すでに戒刄の姿は掻き消えていた
「は――――――あ」
大きく息を吐き出して、先の邂逅に何処か違和感を感じた志貴に聞きなれた響きが聞こえてきた
「あれ、志貴、こんなとこで何してんの?」
ん? と志貴が声のした方を向くと
「アルクェイド?」
白い肌と赤い目、十人中十人が振り返るような美貌を持つ女性がいまだにベンチに座り込んでいる志貴に歩み寄ってきた
「珍しいね、志貴が休日でもないのに、ここにいるなんて
志貴、学校帰りはあんまり寄らないでしょ」
「ん、うん、まあ、そうなんだけど、さ」
志貴はとりあえず立ち上がり、そばに来たアルクェイドに
「アルクェイドこそどうしたんだよ、いくら日が沈んできたからって普通ならまだ寝てる時間じゃないか、
それもこんなところに来るなんて、そっちの方が珍しくないか」
「うん、そうなんだけど、なんとなく目が覚めちゃって、なんとなくここに来たの
ねね、そんなことよりさ、志貴、学校とっくに終わってるんでしょ、どっか遊びにいこうよ」
「あー、いや、今日はちょっと、秋葉にな」
「妹?」
アルクェイドは始め、ほへ? という顔をしたが途端に、むー、と顔をしかめ
「もう、志貴はわたしよりも妹の方が大事なわけ? ただでさえ、休日と、学校に行く時と帰るときぐらいしか会うことができないじゃない、それだってわたしが今日みたいに起きてるだなんて珍しい時しか会えないんだから」
「ごめん、アルクェイド、今日はちょっと秋葉に大事な用事があるんだ(昼飯のことだけど)、それに明日は土曜だし学校終わった後でいいんなら付き合ってやるから」
しばらくアルクェイドは、うーん、と考え込んでいたが
「じゃあ、明日は学校終わった後でずっと付き合ってもらうからね」
と、満面の笑みを浮かべた
「ああ、それと悪いけどあんまり金使うのはパスな、とにかく金がないんだ」
「ん、わかった、それはいいけど志貴―――――」
「んあ?」
アルクェイドは志貴の『アルクェイドに向けて差し出している』片手に乗っている紙切れを摘み上げ、
「くれるの? なにこれ?」
その紙切れをしげしげと眺めた、その間、志貴は軽いパニックを起こしていた
(なんだ、あれ、あんなもの俺は知らないぞ)
紙切れを持っていたことも、その紙切れをアルクェイドに読ませるよう差し出していたことも、志貴の理解を超えていた
「――――――――ま、さか」
見る見るうちにアルクェイドの表情が変わり、その紙切れから顔を上げ志貴の顔を見た後、紙切れを握りつぶし、
「あいつ―――――!!」
と『破壊刄』が消えていった方向に向けて駆けていった
志貴はそれをただ、ぽかん、と眺めた後、
ドクン――――――
と心臓が跳ね上がり、それを始めとして全身がガタガタと震え、異常なまでに体が熱くなり、全身、全細胞がここにいてはまずいことを告げているかのようだった
体を引きずりながら公園を出る直前、公園を振り返ると
硝るような赤と
昏い青とが
空に混じりあい、
ああ、夜が来るのだなと思った