月下から 七夜 前編


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1: NO.99 (2001/10/13 02:30:00)[tarchan at mail2.netwave.or.jp]

 みーん、みんみんみん、みーん
 みーん、みんみんみん、みーん
 みーん、みんみんみん、みーん

木漏れ日のまぶしい、清々しい暑さの夏の朝
まるで、時を忘れたかのような怪しい雰囲気を持つ屋敷
その縁側に座り込んだ
赤子を抱いた女性が、慈愛に満ちたまなざしで
我が子の安らかな寝顔を見つめている

「し、き」

女性は愛しげに我が子の名を呼び
丸みを帯びたその額と頬に
慈愛に満ちたまなざしのまま
そっと、顔をよせた


母親はそのまま流れ行く時に身を任せていたが、森の方角から聞こえてくる打撃音や爆発音、何か柔らかい物をすり潰したり切れてしまったような生々しい音が聞こえ始めると、とたんに眉を寄せ、悲しげに我が子『七夜 志貴』をその音から遮断するように、ぎゅっ、と抱きしめた

(ああ、また今日もだ)

まだ十にとどくかとどかないかぐらいの子供達が、あの罠まみれの七夜の森で訓練をしている間聞こえてくる音、その音に志貴の母親にして、七夜当主『七夜 黄理』の妻『七夜 朝美』は、いまだに

「いまだに、なれんのか」

朝美が背中を向けている座敷から、不意に、そんな声がもれた
だがその座敷は夏の正午近い日差しにもかかわらず、闇に覆われて、まるでその闇自体が朝美に声をかけたかのようだった

「ええ
 ――――――ううん、なれるなんて、無理」
「そう、か
兄貴達にはもっと深いところでやってくれと言っておいたが
それでも『聞こえて』しまう、か」
「前々から感じてたけど、やっぱり森全体、それも葉が擦れる音すら聞こえてしまう、もう耳栓ぐらいじゃ遮断できないみたい」

彼女は悲痛な顔で、そう闇に向けて言葉を発した



七夜再臨 序章以前



暗殺退魔組織『七夜』
魔術とは異なる『超能力』を持ち合わせる四つの退魔組織(七夜、両儀、浅神、巫淨)の中での最頂天といわれる組織であり、その当主『七夜 黄理』が自分の生き甲斐ともいえる暗殺から足を洗ってしまったのは、結論から言ってしまうと彼の息子『七夜 志貴』が生まれてしまったからである
もちろん、七夜の中の大半は『あの』鬼神の後継ぎが生まれたことにより七夜の安泰を信じて疑わなかった
しかし、彼の外面、つまり『ただの』暗殺者としてしか見ていなかった者達はその期待を完全に裏切られてしまったことになる(もっとも彼は裏切ったことに心が揺らぎすらしなかったが)
だが誰よりも裏切られたのはほかでもない黄理自身であろう
彼は後継ぎのことなど欠片も考えていなかったし、そんな厄介なものは兄弟の子供達に任せておけばいいと感じていたため、何も感じることなど無いだろうと考えていたからだ

まあ、黄理自身、今の生活に少しばかり(彼自身気付かぬほどの)不満こそあれ、不思議と退屈はしなかったようである



七夜追憶 数十年前



彼こと『七夜 黄理』の妻『七夜 朝美』は実は黄理の十ほど年の離れた血の繋がった叔母である(七夜は混血を嫌うため、生まれる子はほとんどが近親により生まれてくる、もちろん黄理も例外ではなかった)
朝美は、黄理の祖父(つまり先々代の七夜当主)の末子だった
この時すでに七夜には後継ぎにふさわしい器が成人しており、生まれてくる朝美はさほど期待をされていなかった
それでも生まれてくる新たな七夜一族にそれなりの祝いを施そうとしていた

しかし

「お腹の子、出てきたくないみたい」

当時そう言い続けた朝美の母はもともと体が丈夫なほうではなかったため日に日に衰弱していった
しかも、普通十月で生まれてくるはずの赤子は母の胎内で一年弱という長期間生き続けたため、母は朝美を生むと同時に静かに息を引き取った
そして生まれたと同時に母を失った朝美は母譲りの病弱にもかかわらず、拙いながらも歩くことが出来始めたころ、森を抜け出し罠だらけの七夜の森に迷い込んだ
朝美の兄や親達は必死に探しながらも朝美の死を覚悟していたが、なんと朝美は行方不明から三日後、玄関口でまるで豪雨のような涙を流しながら大声を上げて泣いていた
とにもかくにも、朝美の生還を皆で喜び合ったが、そこに

「朝美、お前どうやって今まで生き抜けた?」

と、当時当主である朝美の兄は限りなく冷たい声(彼は朝美の、つまり自身の肉親が死んでも涙一粒こぼさなかった)でそう問うた
だが泣いてばかりで要領を得ないため、後日話を聞こうとした日の朝、朝美は

 自分の力が判明した、と一同の前で告白した

それまでの朝美の能力はすべてが謎で、あるのかどうかさえあやふやだったが、朝美は、あの森の中の生活で判ってしまったと、そう言葉を続けた

朝美の話をすべて聞いた後一族の人間は当主を除いて全員が動揺した
なぜならそれは能力と呼ぶかどうか判断しかねたし、そんな前例はなかったからだ

朝美の能力は言うなればありふれた、それこそ、他者の心を読んだり、手を触れずに物体を動かしたりするものではなかった
何故なら朝美の能力(?)は異常なまでに発達した『聴覚』と『嗅覚』だったからだ



ある晩、朝美は森に抜け出す寸前、今まで聴いたことの無い『音』を拾った

まるで刃と刃をぶつけたような、

まるで狭い部屋で思い切り暴れてしまった時の壁や床を掌で叩いた音を小さくした音のような、

兄や父達が訓練をした時に聞こえてくる生々しい音のような、

そのすべてが生理的嫌悪感を奮い立たせる音のはずなのにとても安らぎ、母の胎内にいた時のように体を丸めて聞き入っていた
しかしその内、もっと聞きたいという欲求に憑かれ、好奇心に逆らえずふらふらと屋敷を抜け出し(大人に見つかれば連れ戻されるのはわかっていたため、みつからないように)音のする方へ歩いていった
音のするほうは罠だらけの森で幼い子供が足を踏み入れれば恐らく原形すら留めなかっただろう
だがここで幸運だったのは朝美という少女は一族が好んで使う暗殺道具、要するに金属製の匂いのするもの、草木の匂いに不釣り合いな糸やワイヤー独特の(人には、それこそ七夜自体にさえ感じることのできない)匂いを嫌悪していたことである
だからその匂いを嗅ぎたくないがために、比較的匂いの薄いところを通っていった
だが夜が明けるにつれ音は小さくなり、日が昇りきる前には完全に聞こえなくなっていた
仕方が無いので一度立ち止まり、考えないようにしていた空腹をどうするか考えた
一通り周りを見渡すと、ふと足元にいつも家での料理の中に出てくるきのこを見つけた
匂いを嗅ぎ、いつも食べているきのこと同じ種類だということを確認すると、母の形見の一つである掌大のジッポライターを取り出した
表面をあぶり軽く消毒した後、一口で入りきる大きさのきのこを小さくちぎりながらゆっくりと食べた
ナスも欲しい、と不意に朝美は思った
(?どうして、ナス?
ゲームのシナリオ担当さんでもないのに)
そんなおかしな考えを打ち消し、朝美はいったん休憩をとることにした

とりあえず、そのきのこが生えていた直径が朝美の背丈ほどもある大樹を背に腰を下ろすと、

ざあ、と音がした

「?」

それはその大樹の葉が風に揺られたことによる、海の波のようななんということの無い音だったため、別に気に留めることも無い音だった、

ない、筈、だった

「――――――――――――――」

その音、その森のさざ波ともいえるその音を、聞いたことはあっても見たことの無い朝美は頭上―――空を見上げて

「―――――――――――――あ」

と声を上げたきり、今まで眺めたことも無い、

どこまでも遠く

限りなく澄み切った青い空を

その姿勢のまま、まるで人形のように、まるで彫刻のように飽くことなく

ただ痴呆になってしまったかのように見上げ続けていた


その青が、だんだんと、青から紫、そして赤く染まっていくころ

「―――――――――は、あ」

大きく息を吐き出し、ようやく人形になっていた少女―――――朝美は人間らしい活動を再開した

「――――――――あ」

あの、不思議な音が、聞こえている
あの、不思議と安らぐ、
あの、不思議と心温まる、
あの、不思議な音が、何時の間にか、また鳴り響いていた

(――――――――近い)

その通り、実際彼女のいる場所からその音の中心は、あと数刻で辿り着く距離だった
そしてその大樹から立ち上がり

「ありが、と」

と、素敵な客席を提供してくれた大樹に顔を寄せ、そう呟いた
身を離し、はやる気持ちを抑えれず、音のする方向に小さな体は駆けていった


そこに辿り着いたのは、森は闇に包まれ、木々のカーテンのせいで黒一色の時だった

そこで朝美は本日(生涯)二度目の人形化を果たしていた

罠だらけの七夜の森の中で比較的罠の少ない地帯にある、少し開けた小さい広場



そこは、サーカスだった



秋の虫達の音楽団、動物達の曲芸、硝子のような銀色の月のスポットライト

腰が抜けたかのようにその場に座り込み、たった一人の観客は、そのサーカスを胎児のように体を丸めて

じっと、見入っていた

そこでなぜか、わけもなく涙があふれ出てきたが、それでも彼女は

じっと、見入っていた



そして

―――――――――――ああ

その最中

ああ、なんて―――――――

彼女は

なんて、ちっぽけで、生きたがりな、自分

そんなことを、漠然と、ゆらりゆれるように、思って、いた



涙が止まるころ、音楽は終曲に入り、曲芸はカーテンコールに、スポットライトは徐々にその明かりを薄いものにしていった
やがてそれさえも終えて、朝日が昇り始め、曲芸師たちは何処かに去っていき、あたりが静寂に包まれると、

サーカスは終わったのだと、彼女は、知った


その後彼女は一度も立ち止まることなく、帰路につき、丸一日かけて帰ってきた屋敷の玄関で帰ってきたことを実感すると、産声を上げた赤子のように泣きじゃくった

そして彼女は帰館し、今にいたる



 「面汚しめ」

彼女のその小さな冒険談を聞くと、朝美の兄はいつもと変わらぬ声色で、そう、言い放った

そして、それに対し

「はい、そう思います」

兄に非常に似ている声色でそう返したのは、ほかでもない朝美自身であった


その後静寂が一族を支配したが、

「みなさん」

五つにとどいたばかりの、それも体の脆さでは一族の中で最弱であり、病弱のため、つい最近歩き始めることができた少女とは思えないほどの『なにか』が満ちた声で、朝美という少女は沈黙を破った

「この度は、まことに、申し訳ありませんでした」

と、手をつき、一族に向けて深々と頭を下げた

それを見て一族は、彼女を

『これ』は我等とは別の『もの』だ

と心の中で感じていた

このときばかりは、兄である七夜当主でさえも動揺の二文字をその鉄面皮に浮かび上がらせた

もしこの時、一人でも当主のその表情を見ていたら、感情を他者に悟られることを何よりも嫌う彼は、この場にいる全員を皆殺しにしようとしただろう

だがその表情を見てはいないが、『聞いて』いたのは

この場で

七夜朝美というただ一人の少女だけだった



その後、あからさまに一族から避けられるようになった彼女は、一族が今まで培ってきた、人を殺す訓練ではなく、今まで一族が成しえようとしなかった人を生かす訓練を、
決して気持ちを乱すことなく、
自分の能力を最大限活かす鍛え方を、
たった一人黙々とこなしていった
そして、その境地まで辿り着くと、この時すでに、その身体能力が衰えない程度にするだけで、彼女の体と精神は限界が見え初めていた

その境地に辿り着く道程は過酷を極め、兄が二人目となる子を生んだことすら、彼女はその生まれてきた存在に感謝と感動をしただけで、その赤子が今の彼女の年になるころには七夜稀代の殺人鬼と呼ばれ始めるほどの天武の才を現し始めていたということなど、理解したのはこれからずいぶんあとだった


そして、彼女は辿り着いた

このとき、朝美は二十

黄理 十の年のことである――――――――



七夜生誕 一年前



驚くことに黄理と朝美が初めて対面したのは、志貴の生まれる一年前だった

その当時、暗殺技術を叩き込まれてから今まで、黄理は殺すことに余念がなかった

その当時、あの死の森で『生』を感じてから今まで、朝美は生かすことに余念がなかった

そんな正反対の二人が出会ったのは本当にただの、しかし恐ろしいまでの偶然だった



「ここで間違いないな、浅神」

黄理は目の前にそびえ立つ町外れの古びた廃ビルを見上げ、傍らに立つ男に確認させた

「黄理君、その質問はえらくナンセンスだ、数年来の友を信用しようという意志がまったく、欠片にも感じられない」
「知るか、で、どうなんだ」

そこで浅神と呼ばれた男は、その口元だけの笑いを顔に浮かばせ、子供が内緒話を仲のいい友達にだけしか話さない身振り(顔を相手の耳の近くに寄せ、口の周りに両手で輪を作りこそこそと)で

「間違いない、ビルの中には十五、六人の混ざり者がいる、君が前に片付けた斉木グループのあぶれものだ、しかも彼らは今、恐らく食事中だろう」

そこでその男はわざと一拍置き、目を閉じてから耳を済ませるかのような仕草で

「聞こえてこないかい、指を一本一本食いちぎる音、骨ごと肉を咀嚼する音、やわらかい臓物を引きずり出しそれを手掴みで―――――――って、あれ、黄理君?」

途中から自分の世界に入りこんだ男を放って、黄理はとっくに始末しておいた見張りを一瞥することもなく、闇に支配された巨大な巣窟へとその身を溶け込ませた

「やれやれ、殺人鬼は友よりも『エモノ』の方が大事なのかねえ、なあ、肉塊君、そう思わないか」

黄理が始末した見張りの屍骸を見下ろし、男はその屍骸に話し掛けた

黄理により殺されたものはほとんどが原形を留めていない

いかにうまく殺すか、

それだけを求めていた黄理にとって、

綺麗な殺し方、それこそ相手に傷一つつけず殺すという方法は、イコールそれではなかった

この斉木の一人である見張りも例に漏れず、のどに穴をあけられ、血と肉をそこいらにぶちまけられてしまっていた
ここが人里離れた場所でなければ、このぶちまけられたミートソースを見て卒倒した人間が何人いたことか
こんなものを見て平気でいられるのは、それこそこんなものを見慣れた者、つまり裏に近い連中か、まともではない精神の持ち主だろう
言うまでもなく、黄理という人物は前者で
この男『浅神 戒刄(かいば)』は

「―――――――返事がない、ただの屍のようだ」

後者に当たる、人物だった

「ふうむ、―――――――ってああ!!
待ってくれよ、黄理君!!!」

やがて闇の中から何か鈍い音が聞こえ始めると、戒刄も急いでそのビルに向けて駆けて行き、先の黄理と同じく、闇に溶けていった


数刻とかけず、闇に支配された巣窟は

黄理の手により、赤一色に支配された墓標と成り果てた


「あ、黄理君、ちょっと待って」

七夜からの迎えでこの場を去ろうとした黄理を、戒刄は呼び止めた

「ちょっとだけ、時間、いい?」
「なんだ」
「う、ん―――――――できれば、二人だけの方が」
「――――――――おい」

黄理は迎えの者にあごで、去れ、としゃくりながら

「一時間後だ」

とだけ伝え、どうすればいいか判らない顔をしている部下達に人払いをさせた

 「―――――――――――」
 「―――――――――――」
 
 二人きりになり、あたりを静寂が包み、しばらく二人も無言だっ


 あ、と戒刄は思い出したかのように小さく声を上げ、ぽんと手を叩き、手に下げていた袋を顔の位置まで上げて

 「そういえば、差し入れがあったんだよ、仕事前に気合を入れてもらおうと思って持ってきたのに・・・・・・・
黄理君受け取ってもらえないんだもんなあ」

と、さして残念とも感じない口調でそう言った

黄理にとって差し入れなぞは、彼の性格からして仕事に何ら影響をおよぼさないため、持って来る人間の自己満足でもない限り、まったく意味のないものだった
そしてこの差し入れが戒刄自身の自己満足かといえばそうではなく、『なんとなく、やりたかったから、やってみた』がモットーの彼の性格から来る行動だったので、この差し入れの存在価値はこの二人にとって完全な無価値と化していた

「でも黄理君、上を見てごらんよ、今夜は、月が、綺麗だよ」

戒刄はその『左右色違いの』瞳を、銀色に輝く月に向けて、眩しげに目を細めた
そして黄理に視線を戻し

「差し入れはこの月見のおかずに変更、異存はないね? 黄理君」
「月見に『それ』か、普通は酒だと思うがな」
「酒、か、悪くないけど、今日はこっちの気分なんだ」

そして袋の中から、その一つを掴み、黄理に投げ渡した

「はい、缶コーヒー」


「ねえ、黄理君」

そろそろ迎えが戻ってくるころになって、今まで口を閉ざしていた戒刄は(黄理も同様だったが)不意に、鬼神に、そう問い掛けた

「こう考えたことはない? たとえば黄理君が七夜の当主、いや、七夜そのものじゃなく・・・・・・・そうだな、表の人間みたく、ただ日々を淡々とこなしていく、そんな人生もあったんじゃないか、って
それこそ、こんな死と隣り合わせなんかじゃなく、守るべきものが隣にいて、そうしてくだらないことで笑いあう、そんな生き方してみたいって考えたこと、ない?」
「―――――――――――は」
「? 黄理君?」
「は、はは、は、はははははは、あははははは!」

突然笑い出した黄理を戒刄は横目で見たあと、月を見上げ、

「月の美しさにでも、あてられたかな」
「馬鹿か」

そこで黄理はぴたりと笑いを止め、立ち上がり、いまだ月に見入っている戒刄を見下ろし

「まず、日々を淡々と言うが、俺にとって今の生活がまさにそれだ、
ただ殺しを極め、
それを発揮し、
また極める
これを表現するのに、淡々と言う言葉は、ものの見事に当てはまる、だから、死が隣り合わせなどというのは、淡々と、という言葉に相成れない、もともとすべての人間が、死と隣り合わせに生きているようなもんだ、俺だけに限ったことじゃない、それはテメエにもいえるだろ
くだらないことで笑うんなら、いっつもしてるぜ、相手を俺が望むカタチに限りなく近いカタチで殺した時とかに、な」

七夜の人間が見た事もないほど饒舌になった彼を、戒刄は、ちらり、と見上げただけでまた月へと視線を戻した

「だからな」

そして、彼に背を向け、再び姿を見せた七夜の迎えの者に歩み寄っていきながら

「そんなこと考えたことねえよ、

 ――――――今、そんな生き方、してんだからな」

その後、一人きりになった戒刄は

「黄理君は、意地悪だな」

と、ポツリと呟き

「でもね、
 ―――――――そう遠くない未来、その考えに疑問を持つ時が来るよ、

きっと、ね」

銀色に、輝く月を
 
いつまでも

飽くことなく

見上げて、いた――――――――――


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