幸せが…


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1: N2 (2001/10/12 21:00:00)[ccd79310 at nyc.odn.ne.jp]

 とある休日の午後。俺は一人、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
 季節は移ろい、窓から見える木々が秋の訪れを誇示するかの様に紅く染まっていた。
 そんな風景を見つめながら、物思いにふける。
 多少、オヤジくさいかもしれないが、それは平和を感じる幸せな時間だと思う。
 外界から隔離されたこの屋敷だからこそ味わえる時間なのかもしれないが。
 そんな平和な時間を一本の電話が切り裂いた。
 まあ、誰か出るだろうと待っていたが、誰も近くにいないらしい。
「あまり待たせても悪いしな。でるか」
 居間へ小走りで向かい、今時懐かしい黒電話の受話器に手をかける。
「はい、遠野ですが」
 返ってきた声は普段聞きなれた、俺の大事な人の声だった。
「志貴さんですか!?琥珀です!今、駅前にいるのですが、助けて下さい!
お願いです。早く・・・・・・」
 そこでブツッと音が途切れる。後にはツーツーという無機質な音のみ。
「もしもし!琥珀さん!」
 もちろん切れた電話から返事が返ってくるはずもない。
 俺は受話器を放り出すと、可能な限りのスピードで駅前に向かった。


「あはー」
 俺の横には満面の笑みの少女。
 そして、一緒に歩いてる俺の両手には袋一杯の食材。
 今、俺の顔はかなり憮然としているのかもしれない。
「まさかこんなマンガみたいな手に志貴さんがひっかかるとは思いませんでしたー」
 余程、嬉しかったのか楽しそうに話す琥珀さん。
「まったく。荷物持ちが欲しいなら、そう言ってもらえればよかったのに」
「いえ、最初はそのつもりだったんですよ。ですが、志貴さんの声を聞いたらですね、
なんていうんですかねー、ちょっとした悪戯心がですね、つい」
 まるで悪びれずニコニコと打ち明けてくれる。
 なんていうか、それはとても嬉しそうに見えた。
「あはっ、志貴さん、怒ってます?」
「別に怒ってませんよ。ただ、やられたって思ってるだけです」
 まったく琥珀さんにはやられてばかりだ。俺は、この人には一生かなわないのかもとすら
 思えてくる。
「ふふっ、ごめんなさい。でも、嬉しかったんですよー。志貴さんが必死に走ってきて
くれましたからね」
 そう言う琥珀さんは本当に嬉しそうだ。昔みせた偽りの笑みではなく心からの笑顔でいる。
 そう俺には見えた。
「それにですね、志貴さんと一緒にこの町を歩きたいって考えもあったんですよー。
そう思ったら一秒でも早く会いたくなっちゃたんです」
 そういって屈託のない笑顔で俺を見つめる。
「やっぱり琥珀さんにはかなわないですよ。そんな風に言われたらなにもいえませんから」
 そう言いながら琥珀さんから目をそらしてしまう。
 俺にはその笑顔が眩しすぎて。
「でも、こんな悪戯なら大歓迎ですよ。琥珀さんとこうして二人でいられるならね」
「はい、わたしもです。やっぱり二人でいたいですからねー」
 二人きりでいられる時間…………。
 それはあの屋敷内ではなかなか取れるものではない。琥珀さんは週末しか帰ってこない上に、
 帰ってきてもなにかしら仕事をしているので時間が取れないのだ。
 それに秋葉と翡翠の存在もある。そうなると二人きりというのはなかなか難しい。
 だから今みたいな時間はとても貴重な時間なのだ。
「幸せだね、琥珀さん」
 なんとなく思った事を声に出してみる。
 俺のその言葉に一瞬固ってしまう。だが、すぐに立ち直ると、
「はい、そうですね。私も幸せです」
 そう答えてくれた。
 その言葉がとても嬉しい。
「だって、私が望んでいた事が叶っているのですから」
「望んでいた事ですか?」
 その笑顔が柔らかいものに変わる。とても優しい笑顔に。
「はい、そうですよ。志貴さんと一緒に歩くってことです」
「琥珀さん………」
「あはっ、こんな些細な事でこんなに幸せになれるなんて……」
 私って単純ですねー、と笑顔でおどけてみせてくれる。
 でも、俺はそれを些細な事とは思えない。
 だって、俺も同じだから。
 だから、こう言う。
「そうは思いませんよ。俺だって小さい頃、窓際の少女を連れ出したいという想いが
叶っているんです。そして、二人一緒にいれる。だから、俺も幸せなんです」
 俺の横を歩いていた赤い髪の少女は足を止め、その顔を、その瞳を俺に向けてくれる。
 その顔からは笑顔は消えていた。その言葉の続きを期待する顔。
 ただ黙って見つめているだけ。
 俺は琥珀さんのその瞳を見つめ、続ける。
「それに琥珀さんはもっともっと幸せになってもいいと思うんです。今までが辛かったんですから。
もっととびっきりの幸せをつかんでもいいと思うんです」
 そして、俺は俺の一番の想いを伝える。
「だから、俺は琥珀さんと一緒に二人で幸せになりたいんだ」
「えっ………………」
 琥珀さんは顔を真っ赤に染め、固まりきってしまった。相変わらずこの人は与えられる事に慣れて
 いないみたいだ。
「俺では嫌ですか?」
 自分で言っている事の恥ずかしさに耐え切れなくなった俺の問いに、琥珀さんはこう答えてくれた。
「そんな事はありません!」
「えっ…………」
 今度は俺が驚く。琥珀さんの声があまりにも大きかったから。
「あっ……………あ、あははー」
 自分の声に気づき、照れ笑いを浮かべている。だが、すぐに立ち直ると向日葵のような笑顔で俺に
 言ってくれた。
「あはっ、わたしも志貴さんと幸せになりたいです」
 と。
 だから、俺達はお互いに寄り添うように肩を並べ、歩き始めた。
 屋敷への道を。
 未来への道を。
 ふたりで………。



あとがき
今回は自分なりに書き方を変えてみようと考えて書いたSSです。
でも、見事に失敗したみたいです(汗
おかげでかなり中途半端なSSになってしまいました。
なら、載せるなというツッコミは勘弁してください(笑
次は、納得できるSSを書きたいなぁ。


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