晶同人物語2


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1: クリア (2001/10/11 17:53:00)[sug00 at hotmail.com]


晶同人物語

第二話 同人ゴロ


閉鎖された部屋の中。

一人の男と二人の女性が居た。

だが男の体は震えている。

怯えと恐怖。今男を支配している感情がそれだ。

男の名は久賀峰。コミケにて晶と口論をしていた男だ。

「申し・・・も、申し訳ありません遠野さん。あ、あの、その・・・」

「久賀峰。あなた今回の本を刷るときなんて言ったか覚えてる?」

冷ややかな声。熱の籠もっていないそれを耳にし、久賀峰は更に畏怖した。

「は、はい・・・その・・・4000部程度だったら楽勝で完売してみせると・・・」

「そうですね。そう言いました、確かに」

少女の隣に立っている、これもまた少女に目配せをする。

「琥珀、報告しなさい。結果はどうなったというの?」

「あはー。わかりましたー」

どこからか取りだした書類を開き、その内容を口に出す。

「開場直後、久賀峰様のサークル『体操ブルマ』は好調な売り上げでした」

淡々と、だがどこか楽しげに琥珀は続ける。

「行列・人の集まりの度合いも通常通りでしたー。午前中だけで2000部以上はいってたんじゃないですか?」

次のページを開く。と、更に琥珀の笑みが深くなった。

「ですけど、久賀峰様があいさつ廻りを終わらせてサークルに帰ってから状況が変わったようですねー?」

琥珀の報告を聞き、面白そうに微笑みを浮かべる少女。

「へえ・・・なにが起きたんですか?久賀峰、琥珀。詳しく説明してください」



コミケの翌日、瀬尾 晶は所属している浅上女学院中等部の漫研に呼び出された。

理由はだいたいわかっていた。

アキラを久賀峰のサークルに紹介し、前回の事件で面目を丸潰れにされた先輩、明美らが呼びつけたのである。

「なにを考えているの、アキラッ!!」

ドンッ!と机を叩いて明美は怒鳴る。

対してアキラは静かに椅子に座っていた。

その勢いのまま、先輩の明美は続ける。

「あなた、自分がなにをしたかわかっているの!?久賀峰さん、すっごく怒っていたんだよ!!」

「お前のせいでもうあたしたちの部の同人誌の委託販売も引き受けてもらいそうにない!」

後ろにいたもう一人の少女がそう続けた。

再び明美が前にでて怒鳴る。

「アキラ、あなたはどれだけ私たちの漫研に迷惑かけたと思っているの!?バカッ!!」

そこで、アキラが顔を上げた。

「私は・・・なにも間違っていませんッ!」

椅子から立ち上がり、言い切る。

「なん、ですって・・・?」

「・・・売れているサークルだから、大手サークルだったらなにやってもいいんですか!?」

唾を呑みこむ。

「あの久賀峰って人は・・・手伝っている私たちですら見下してました。それだけじゃなくセクハラまで・・・」

顔を屈辱で赤くする。

「そして、意味無くその高慢さから私を口汚く罵った。だから私も言い返しただけです」

アキラの言葉が終わるやいなや、明美は手近にあった同人誌を彼女に投げつけた。

「なに・・・?ちょっとばかり絵が達者だから調子に乗ってるのっ!?あなたなんか久賀峰さんから見たら・・・」

同人誌に血が垂れる。頬を切ったようだ。

「なんだって言うんですか。あの久賀峰って人がどんなに凄い先生だか知りませんが、人のプライドを踏みつけていいワケがないでしょ!!」

明美は拳を握る。

「この私はどうするの!?私は久賀峰さんの所のメインライターなのよ。こんな事になって次から呼ばれなくなったら、あなたどうしてくれるの!?」

「そうですっ!漫研の部誌の委託も断られますよ!?部費だけどどうやってやりくりをしていけばいいの!」

「どう責任取ってくれるのっ!?」


ガチャッ。


唐突に、ドアが開いた。

そこには先日のコミケで見た青年が立っていた。

「志貴・・・さん!?」

アキラが驚きを隠さずに男の名を呼んだ。

ひとつ鼻で笑い、志貴は口を開く。

「実家のお母さんからここだと聞いてね、しばらくドアの前で待ってたんだけど・・・話が公開審問じみて単なる魔女裁判になってきたんでね。『悪い悪魔』が『小狐』をかっさらいに来たってところ」

微笑みを浮かべる。

それだけでアキラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「いこう、アキラちゃん。君には教えなきゃいけないことがたくさんあるからね」

手を差し出す。

と、そこに明美が割り込んできた。

「なんですかあなた!誰!?」

「俺かい?」

振り向いて眼鏡を外す。

あの蒼い眼に、その場にいた女性は釘付けになった。

「俺はただの『同人ゴロ』さ」

あきらはぞくりと背筋に冷たいものが奔るのを感じた。

「志貴・・・とか言いましたね・・・」

「ああ」

明美が喉を鳴らす。

「久賀峰さんから聞いたことがある・・・まさか、元サークル『トオノノチ』の・・・あの遠野志貴か!?」

「さあ・・・なんのことかわからないな。アキラちゃんはもらっていくよ、お嬢さんたち」

女性限定即死判定の微笑みを浮かべる。

それに骨抜きにされる寸前、明美は我に返り踏みとどまった。

「あ、待って!行くんじゃありません、アキラ!」

慌てて引き留める。

「そ、その人は間違いない。遠野志貴!その人と一緒に行くと、奴のようになってしまうのよ!!」

志貴が笑う。

「その人はね、遠野志貴といって・・・金になるならどんなに汚い裏の同人家業でもやる鼻つまみ者なのよッ!!」

「えッ・・・?」

驚くアキラ。だが、志貴はおかしそうに口元を歪ませた。

「言ったろう?『同人ゴロ』だって・・・それに俺は遠野じゃない。七夜だ」

だがそんなことをお構いなしに明美は連ねる。

「売れるためならどんな絵柄にでも描き変え・・・その時の流行に合わせて本の趣旨を変える下衆な同人作家!」

「下衆ときたか!ヒドイ言われようだなァ」

だが楽しそうに続きを聞く志貴に、アキラは不思議そうに視線を送る。

「あなたのような商業主義にまみれた下衆共のおかげでコミケや同人会が次々と商業主義になっていくのです!青年向けしかかけない恥知らず!!」

いよいよおかしくなってきたのか、ついには志貴は声を挙げて笑った。

「ハハハハッ・・・なにを言い出すと思えば・・・くはっはは!商業主義ときたか!」

一頻り笑い終わり、志貴は顔を引き締めた。

「じゃあ聞こう。その創作者たちの巣であるコミケ。商業主義でやっていない奴が一人だっているのかい?」

「!!」

「君たちだってさっき部費だライター費だと言ってたじゃないか。エロじゃなきゃそんなにいいのかい?」

蒼い瞳が更に深みを増す。

「学漫は商業主義には果てしなくなりづらい!少年創作、少女創作、文章本学術本等々・・・なぜか?客の数が少ないからさ。そんな売れない少女創作学漫本を外周サークルに委託して小銭を稼ごうとする考え方が下衆じゃないのかい?」

「なっ・・・なんですって!?」

「なぜ客の数が少ない?その答えは客があまり求めてないから。アニパロ系ゲーム系ファンタジー系ヤオイ系にエロ系会場は恐ろしいほどの人混み、それは凄い数の客。商業主義になりうるほどのね。なぜ?客に求められているからさ。
 人に求められているマンガをその数だけ供給する。この世界のたったひとつの『理』。なにが悪い?
 俺に言わせればね、お前たちの方がよっぽど下衆だよ。
 お互いに身内だけにしかさばけない本を作りあって傷を舐めあい誉めあう。自称クリエイターの自慰にしか過ぎない。
 口を開けば大手批判!他人のそねみ!ねたみ!全てを知っているような顔で同じ話を繰り返す!!お前たちの『おままごと』と崇高な少年創作家たちの孤高な精神を一緒にするんじゃない!!
 俺は汚い同人屋だけどな!そんな下衆な真似だけはしない!!このアキラちゃんをお前たちみたいなのにする訳にはいかない!!
 ・・・さあ、どうする?同人誌の酸いも甘いも教えてあげよう。その義務が俺にはある。それとも周りの頭の固い奴らと調子合わせて生きていくかい?」

右手を差し出す。

「そんなこと、決まっているじゃないですか」

にこっと笑い、志貴の手を取った。

固く握りしめ、一度だけ明美たちにこう言った。

「私は、同人ゴロになります!」

当の明美はアキラを指さし、

「後悔するよ、アキラ!あなたがそんなバカとは知らなかったわ!さっさと消えて頂戴!」

と吐き捨てて視線を逸らした。

「ま、そういうことだ」

アキラの肩を叩き、ドアを開く。

最後に一つ、アキラは礼をして部室を去った。



街の片隅に佇む女性。

赤紫色のショートカットをなびかせて女は誰かの帰郷を待っていた。

「おーい」

と、その声に女は顔を上げる。

「志貴様、すみましたか?」

「ああ」

女はアキラを確認し、無理矢理に手を握った。

「あなたが瀬尾 アキラ様ですね。初めまして」

「え・・・と、どちら様ですか?」

救いを求めるように志貴の方を向く。

「俺たちの仲間さ」

再び紫髪の女性の方を向く。

「翡翠といいます。どうかお見知り置きを」





続く


あとがき

作者曰く

「ヒスイかシエル、最後まで迷った・・・」

だそうで。

ばーい 二巻が出るまで出番の無いシエル先輩(撲殺)


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