「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・」
「腕を上げたわね、シエル」
「そちらも相変わらずの常識外れぶりですね」
まるで暴風が通り過ぎたような惨状の室内に、息を切らした二つの人影と、端の方で溜息をつきながらボケ〜っと立っている人影がいる。
ボケ〜っと立っていた方の人影は部屋の修理費はどうするんだろうと言う所帯じみた考え事をしつつ、込み上げて来る虚しさと戦っていた。
「全く、二人とも、仲が良いんだか、悪いんだか・・・」
殺人貴 〜後編〜
「で、この町に居るはずの死徒の調査はどうなってるの?」
何事も無かったかのように対策会議は進められていた。
「私が調べた所、27祖以外であることは間違いないでしょう・・・ただ、少々気になるのが、全世界でほぼ同時に同クラスの死徒が活動を開始したと言う事ですね。」
「へぇ、それってどう言うこと?それぞれの死徒同士のつながりでもあるの?」
全世界同時と聞き、興味津々のアルクェイド。
「特にそう言った情報は入っていませんね・・・ただ、時期が悪く、『教会』『協会』共に死徒の鎮圧のために手が足りないのが現状です。でなければあなたと会おうなどと考えはしませんでしたが・・・まあ、行方不明だった遠野君にあえたのは行幸でしたけど・・・」
「ふんだ、私だってあんたなんかと会いたくなんてないわよ〜だ」
「まあまあ、連絡しなかったのは悪かったけど、あの時は誰にも知られずに死ぬつもりだったからね・・・心配かけたくなかったんだ。」
「遠野君、水臭いですよ・・・私に一言、言ってくれたら死徒なんかでなく人として延命して上げたのに・・・」
「ごめんね、先輩・・・」
悲しそうに微笑む志貴。
「まあ良いです・・・無事でしたから・・・」
「ぶーぶー、そこ、いい雰囲気すぎー・・・志貴は私のなんだからね、手を出したら殺すわよシエル」
「わかってますよ・・・遠野君があなたを選んだからここに居る事くらい・・・わかってるんです。」
志貴は、気まずそうな笑みを浮かべて、見え無い双眸で二人を見つめている。
「ふぅ、まあ、少しの間でも遠野君と会えてよかったです、私は仕事があるのでこれで・・・」
「ご苦労様、先輩・・・じゃあね」
「じゃあね、シエル・・・二度と来るんじゃないわよ」
「心配しなくても今度会う時は敵です・・・遠野君、さようなら」
寂しい微笑を浮かべて部屋から立ち去るシエル。
志貴は辛そうに見送った。
「志貴・・・後悔してる?」
「全然・・・アルクェイドと一緒に居たかったのは俺の本心だし、そうすることで色々な物を捨てないといけないのはわかってたから・・・だから・・・今の俺は七夜志貴なんだ・・・家族を捨てて・・・友達も捨てて・・・アルクェイドと歩く為の・・・俺の覚悟」
「そっか・・・志貴・・・大好きだよ」
志貴をそっと抱き締めるアルクェイド。
その手にそっと触れ、志貴は落ち着いた微笑を浮かべた。
夜になって路地を歩く二つの影。
言うまでも無く、アルクェイドと志貴である。
「志貴〜、死者の匂いがぷんぷんするよ」
「ああ、わかってる。予想以上だな、まあ、片っ端から片付けて行こう。」
目星を付けた死者を目立たない所まで、付けて行く。
路地の奥へと進んでいくと、沢山の死者が獲物に群がっていた。
不快そうにそれを見るアルクェイド。
志貴は石を一個拾うと、死者の方へと投げた。
カツン
志貴達に気がついた死者たちは食事の手を休めると、振り向いてゆっくりと二人の方へと向かってきた。
「やるわよ、志貴」
「ああ、わかってる」
志貴は巻いていた包帯を解いていく。
重く閉じられた目蓋は開かれ、ぞっとするような蒼い相貌がそこにはあった。
「・・・半分任せた」
それだけ言って、ゆっくりとした足取りで死者の群れへと歩いていく志貴。
志貴の目は生きている死者の体中に浮かぶ死を正確に見つめていた。
「お前たちは・・・もう、俺の『死界』に入っている・・・ゆっくりと眠れ」
そう呟き、何時の間にか手に持ったナイフを構える。
静かに佇む志貴に向かい群がる死者。
しかし、死者たちが志貴に触れることはなかった。
一瞬の間に跳躍し、壁に蜘蛛のようにへばりつく志貴、そのまま壁を蹴り、一体の死者とすれ違う。
そして再び物陰へと消える。
一瞬遅れてバラバラになる死者。
後は誰にも知覚されることなく、ただ死者達がバラバラになっていく。
まるで、芸術・・・
一枚の絵画のように完成された無駄の無い暗殺芸術・・・
たとえ、その場に誰かが居合わせたとしても、ただ勝手にバラバラになっていくモノ達が映るだけだろう。
七夜の血と、最強の真祖の死徒としての力、そして、死ぬような鍛錬の数々。
それら全てが彼を暗殺芸術品として完成させていた。
「俺は『殺人貴』・・・アルクェイドを守り・・・そして、死徒を狩る死徒・・・」
一分もかからず解体を終える。
使った刃物を仕舞い、アルクェイドの方を見る。
そちらの方もすぐ終った様で、死者たちは彼女の爪によって引き裂かれ、ただの物体と化している。
「今夜はこれくらいかな?」
先程の身を切るような雰囲気は鳴りを潜め、普段の雰囲気にお互い戻っていた。
「そーだね、志貴・・・この界隈にはもう死者の気配は無いよ。」
とことこと嬉しそうに寄って来るアルクェイドを見て、志貴は何故か安堵を覚えた。
彼女には死が無い、夜、月の下にいる限り、志貴の力を持ってしても、全く見え無い。
その事が、志貴には嬉しい事だった、彼にとってこの世は不安定な泥のような物だから・・・
その泥の中、唯一無二な確固たる足場がこのアルクェイド・ブリュンスタッドなのだろうと、七夜志貴は思う。
紅く染まった路地裏に何者にも汚されない白がある。
七夜志貴はそれと共にある。
「・・・アルクェイド」
「なあに?・・・志貴」
思わず呟いた言葉に返事が来て少し焦る自分。
そんな変わらない部分が自分にもあったと嬉しく思い、志貴はアルクェイドの手を取って、
「散歩をしよう・・・何かそんな気分なんだ」
アルクェイドは嬉しそうに肯くと、志貴をそのまま引っ張って路地裏から出て行く。
今日は良い日だ・・・何の根拠も無くそう言う考えが浮かんでくる。
二人でいられると言う幸せを噛み締めながら・・・
二人は寄り添って夜の町へと消えて行った。
終
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こんばんは、または、こんにちは。
殺人貴の後編です。
この殺人貴と言う話は、アルクェイドハッピーエンドと月蝕の数年後の話です。
その数年に何があったのかって言う話とかそのうち書きたいなとか思ってます。
書いたとしても、きっと、今回のように読み切りと言うような形式にするつもりです。
何処から読んでも十分楽しめて、全部読んだらもっと楽しめるような作品が理想です。
でも、実力が伴っていないのが悩みの種ですが。
文章や表現などのアドバイスは常時、受け付けています。
感想苦情もです。
いずれにせよ、メールを頂けるとやる気が出ますのでよろしければメールください。
では、できるだけ近いうちにまた・・・
夜想丹宮