叶夢 第一話 志貴、災禍の中に


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1: xeza (2001/10/09 21:09:00)[xeza at infoseek.jp]

月姫
ANOTHER STORY is

叶夢
第一話 志貴、災禍の中に

「兄さん。どうしたんですか?」

 秋葉の不思議そうな声が耳に入って俺は、
「え、ああ、誰かに呼ばれた・・・様な気がして」

 自分でも間延びしたと思える声に、秋葉は
非常に嫌そうな顔をして、

「兄さん。また、厄介事ですか?」

「解らない。でも、確かに呼ばれたような気
がするんだよなあ」

秋葉に答えながら、秋葉の歩調にあわせて
歩き始める

「兄さん。それはまた碌でもないようなこと
ではないのですか?」
 げんなりして聞く秋葉に力無く答える。

「かもしれない」

「兄さんはそういうもの・・・・」

 と、何かを言いかけて、秋葉が言葉を止め
る・・・・・・張り付いた笑顔が目は殺気立
ってる。なんか非常に、いや〜な予感がする。
 心なしか、秋葉の髪が完全に赤くしている
のは気のせい・・・気のせい。そう気のせい。

「おっはよ〜志貴」

 底抜けに脳天気な声が背後からしてきた。
この声は言うまでもなくアルクェイドだけ
ど・・・・なんで、こいつは、俺の命を危
険に晒すんだろう。

「あら、おはようございます。アルクェイドさん」

 一応笑顔に見える秋葉だが頭上にぴきぴき
と、怒りマークを無数にたてている。

「お、おはよう・・・アルクェイド。どうし
たんだ?こんな日中に」

 俺の質問に、顔を赤らめて、

「ん、とね。志貴の顔が見たくなったから」

 なんか・・・・背中からちくちくじゃなく
てざくざくと刺さる何かを感じる。
 秋葉の檻髪じゃないといいだけど・・・・寒気がする。

「じゃ、じゃあ、そろそろ学校に行かないと
遅刻するから、俺たちは行くよ」

 もし、先輩が来ると・・・この状況がさら
に悪化しそうな気がするから、俺たちはさっ
さと、学校に向かった。
 俺たちが行った後に、爆発音がしたみたい
だけど・・・・多分ガス爆発だ・・・・と思
う。
 昼休みに廊下で先輩にあったけど、なんか
煤けてた。

「遠野君。ちょっといいですか」

「なんですか?先輩」

 有無を言わさず、シエル先輩に手を引かれ
て屋上に連れられて、

「たぶん・・・関係ないかもしれませんが、
ちょっと厄介なことがありまして・・・・」

「先輩。ごめん。おれ用事があるから」

 そう言って逃げ出そうとした俺の肩をむん
ずと音がするくらい強く掴まれた。
 俺が振り向くと、先輩は俯いて、ふふふふ
ふふふふふふふふふふと笑っていた。
 背中がぎしぎしいって痛むよ。ピンチだ。
ここは魔界だ。このままだと確実に殺され
る・・・・

「残念ですが・・・・死にたくなければ、私
の話を聞いてください」

「それって脅迫じゃあ」

「少し前にですが・・・・」

「俺の意志は尊重されないんですか?」

 先輩はケロッと、

「はい、いくら遠野君でも、今回だけはそう
言うわけにはいきません」

先輩・・・・・毎回、そう言うことをいっ
てるような気がするのは気のせいか?とつ
っこみたいけど命が惜しいのであえてつっ
こまないで置く。

「それでですね。異界から現れた化け物をあ
なたに倒して貰いたいんです」

「はあっ!?」

 先輩の予想外な言葉にすっとんきょな声を上げてしまう。

「異界からの来訪者には私たちではふれることすらできないんです」

 俺の反応を無視して、どんどん話を進め始めた。

「先輩。一体何を言うかと思えば・・・・何

でもありのこの世界でも幾ら難でも突拍子もないですよ」
 呆れた俺の反応を無視して先輩が諭すように、

「冗談じゃないですよ。言うに及ばず、遠野君を巻き込むのは不本意ですけど、冗談抜きで世界の危機なんですよ」

 いきなり世界の危機なんて言われても困るんだけど・・・・

「いきなりそんなマクロな事、言われても・・・・・」

 汗をたらたら流しながら言うと、

「ええ、解ってます。でも、その化け物は協会と私たちですら、傷一つ負わせることができなかったほどです、
あのブルーですら完全に滅ぼすことはできなかったんです」

「えっ?先生でも?」

 俺の脳裏に秋葉とのやりとりが思い出される。
 本気で碌でもないことになってきてるよ。なんで?俺なんか悪い事したんでしょうか?

「ええ、ブルーでも、倒すことはおろか傷一つ付けられなかったそうです。ただ、相手が幽体離脱しちゃってどっかいっちゃったらしいです。それで、遠野君には直死の魔眼で、異界の・・・・・」

 先輩の話は、俺の耳には入ってこなかった。
先生でも、倒せなかった化け物を一体どうしろと?
 そんなことを考えてると、

「遠野君。聞いてます?」

「あ、はい。何ですか?」

 先輩は呆れたように、

「仕方ないですね。この町で、あの化け物が姿を消したらしいので、多分、遠野君の周りに現れると思うので、その時、退治しちゃってください」

 ・・・・・・・・・えっ?

「え゛っ?先輩。マジですか?」

「マジです。遠野君の直死の魔眼の力を持ってすれば、瞬殺できるでしょう」

「でしょうって」

 ふと、秋葉の顔が思い浮かぶ。
殺される・・・秋葉に殺される。
殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。

「ええと・・・遠野君。大丈夫ですか?」

 先輩が心配そうに俺の顔を覗く。

「多分・・・・」

「秋葉さんには隠すようにしておきますよ。では授業が始まりそうですから、これで失礼しますね」

 それだけ言うと、先輩はそそくさと姿を消した。
 先輩がいなくなった後、突然、

『君すまないが・・・・・』

 頭の中に響くように声が聞こえてきた。

「へっ?…まさか、もう既に災禍の中ってやつですかぁー!?」


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