「綺麗な紅葉だな」
「はい、そうですね」
屋敷の木々が見事な朱に染め上げている。
上を見上げると一面の朱。
もう秋も深まってきた季節。
ふと横を向くと俺に付き添うように朱。
翡翠の髪。
今日は、二人きりで紅葉を見に来ている。
紅葉の朱を綺麗だと思いながら、翡翠も綺麗だと思う。
そんな事を考えながら翡翠と歩いていた。
そんな時、翡翠からの一言で我に返った。
「志貴さま。この辺りを覚えていらっしゃいますか?」
「えっ?この辺りかい?」
周囲を見渡してみる。
いつも通りの庭だ。
違う点といえばやはりこの朱だけだろう。
「そうですか。残念です」
もう一度辺りを見渡し、考えてみるが、
「ごめん。思い出せないや。何か大事な事だったかな?」
「…………。ここは私達が遊んだ場所です。幼い頃、秘密基地と言っていました」
秘密基地。
その一言で俺は全てを思い出した。
まだ自分達………俺と秋葉、シキ、翡翠………の四人で遊びまわっていた頃の事を。
この小さな穴を見つけて、俺達だけの秘密基地と呼んだ事を。
「ああ、そうか。懐かしいね」
「はい。とても懐かしい気持ちがします」
その頃の事が蘇ってくる。
俺の後ろをおとなしくついてきた秋葉。
一緒に駆けずり回ったシキ。
そして、翡翠のヒマワリのような笑顔。
そんな4人が雲ひとつない青天井の下ではしゃいでいた頃。
そんな思い出が色褪せることなく原色で溢れ出してくる。
「あの頃は楽しかったな」
「はい。4人で楽しかったですね」
あの頃の4人は今では俺達2人。
秋葉はシキの手で………。
シキは俺の手で…………。
今、残っているのは俺達2人だけ。
「志貴さま?」
「ん?なんだい、翡翠」
「泣かれているのですか?」
「えっ!」
自分の目に手を当てるとそこには涙。
いつの間にか泣いていたみたいだ。
「なんでもないよ。大丈夫だ」
「そうですか」
心配そうな顔で返事をしてくる翡翠。
「志貴さま。合言葉を覚えていますか?」
合言葉……………俺達だけの合言葉。
「もちろんだよ。忘れるわけがない」
「はい。私もよく覚えています」
忘れるわけがなかった。俺達の心からの願いを。
「それは…………」
二人の声が重なる。
「いつまでも4人一緒に」
その言葉で俺は堪えきれずに翡翠に抱きつき、泣いた…………。
あとがき
今回はえらく短いSSになってしまいました(汗
思うが侭に書いたからかなぁ。
でも、秘密基地というのは子供の頃に私も持っていました。
今、思えばただの廃車置場なんですけどね。
懐かしいです。
次、書くことがあればもっと長いSSに挑戦してみたいN2でした。