月ノ、夢 ―最後ノ、夢―

月ノ、夢


―最後ノ、夢―

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どこかで、子供が泣いている。
えーんえーんと、声を上げて。
なんで、泣いているのだろう。
わからない。
けれど、この泣き声を聞いていると胸が締め付けられるようで。
涙が、ぽろぽろと零れ落ちてくる。
――ああ、そうか。
  泣いているのは、自分なんだ――


目覚めると、時刻はまだ夜だった。
こちこち、こちこちと音を立てて時計が時を刻んでいる。
カーテンの隙間からは、月の光。
とても綺麗な、光。
あんまり綺麗なので、ベッドから身を起こす。
布団から抜け出した足が一瞬冷気に晒されるが、毛足の長い絨毯の床は包み込むように素足をつつんでくれて。だから、暖かい。
そのまま、窓際に歩み寄るとカーテンを開け放つ。
流れ込んでくる、わずかな冷気はカーテンと窓の間に溜まっていたものだ。
「……うん。 やっぱり綺麗だ。」
見上げた空には、まぁるいお月様。
とても。とても綺麗なお月様。
満足して、うなずく。
「うん。 なんていうか、良いな。」
ひどく、満足する。

ふいに、手を伸ばす。
月に、手が届きそうだったから。
けれど、伸ばした手は窓硝子によってはじかれる。
「うん。 そんなもの、だよな」
なんとなく得心が行ったようにうなずく。
天空にある月は、とても近くに思えるけれど決して届く事はない。
それは、自分の人生と同じ。

「……おやすみ」
そう言い残して、ベッドに戻る。
カーテンは、そのまま。
部屋に満ちる月の光が気持ち良い。
――ああ。
  今夜は、よく眠れそうだな――

そして自分は夢を見る。
月の光の中で、ともに笑いあう夢を。
その、夢は。
ひどく、楽しく。
ひどく、悲しかった。




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